さて、俺の準備は万全だ。やろうと思えば、大勢で囲む必要すらなく、あの鬼…博士が言う所のビャクエンを、出現した瞬間にダルマになるまで切り刻む事だって出来るぜ。
最初にドカンとやったら、後は皆に任せるつもりだけどな。動けなくなった敵にトドメを刺すだけとは言え、それをやっているだけでもモノノフとしての自覚は出てくるからね。
時子、そっちの準備は?
「はぁ……はぁ……こ、腰が抜けて…足に力が…でも…準備は、いつでも…。いえ、私の準備など、構わず好きなように……時子の体は、若様のおもちゃですぅ…」
恍惚とした表情で、木に寄りかかって何とか立っている。口元に引っ掛かった後れ毛がエロい。
でもそーいう話してるんじゃないんだよなぁ。
「…一々女を抱かないと、全力を出せないのかお前は」
全力はいつでも出せるけど、万全かどうかは話が別でしょ。出来る準備は全てやって、予想よりも更に悪い事態に出来る限り備えて、最善に辿り着こうとすると同時に最悪を回避しようとするのが全力って事だもの。
これも鬼の手の使い方の一つには間違いない。多分博士をして予想外のやり方だと思うけど、房中術その他で高めた力を、鬼の手に蓄積させる事もできるんだ。更に房中術の一環として、鬼の手を色々な形に変えて自在に操る事ができる。梁型から触手、スライムまで幅広い。
冗談抜きで、破壊力は段違いに上がるぞ。具現化する鬼の手から、なんかこう生々しい臭いがするようになるけど。
「有効な使い方であるなら些細な問題だな。外から持ってきた力を保管するのも、元より想定していた使い方の一つだ。だが一々まぐわらなければ力を高められないというのも面倒だ。改良の余地があるか…」
いや、俺の場合はこれが一番効果が高くて、つきあってくれる相手も居るからやってるだけで、普通は地脈から力が溢れる場所を見つけてそれを取り込めるくらいだと思うぞ。
そもそも、多分このやり方は鬼の手の核となるカラクリ石を体内に取り込んでいるからこそできるやり方だ。ただ交わるだけじゃ意味が無い。
「ふん。まぁいい。それよりも重要なのは性能だ。貴様が私の傑作を使いこなしているか、見せてみろ」
はいはい。…ほら時子、事後の余韻に浸らせてやりたいのは山々だけど、今は準備だ。
…こらそっちの準備じゃない。自慰をするなくぱぁするな。そーいうのは終わった後に、皆にお披露目しながらだ。
あと災禍、グウェンの目隠しご苦労。
夜。グウェンを中心にして、うちの子達が諸々の武器を構えている。別にグウェンに刃を向けているのではない。向けるのは、これから呼び出されるビャクエンだ。
最初は不安に思っていたグウェンも、これだけの数が自分の味方をしてくれると知り、これならば!と意気込んでいる。
…桁外れのデカブツが相手だと、数の力ってあんまり効力が無いんだけどな…。有象無象じゃ、大質量が動くだけで吹っ飛ばされてしまうから。
こっちの準備は問題なし。色惚けていた時子も何とか通常モードに戻り、後はグウェンの準備が整うのを待つばかりだ。
「…大人数でやる必要、あったんですか? 全力を出すんでしょう。あなた一人で充分でしょうに」
だからって、戦える機会を独り占めにしたら拗ねるでしょ、神夜は。
あと、こういうのは皆でやると大きな利点がある。これはとある名将と呼ばれた人物が行っていた育成方法なんだが、勝ちがほぼ確定した試合…戦いには、所謂二軍三軍として分類される、戦わせるにはまだ早いか?と思う人材も積極的に登板させたそうだ。
「興味深いですね。何故そのような事を? 勝ち戦に奢った兵ほど脆いものはありません。油断していると、たった一撃の反撃から一気に首魁まで持っていかれるのが戦と言うものですよ」
前線に出て戦わせたり、重要な役目を与えてそれを全うさせる事で、『自分達はこの組織の一員だ』『自分達がやった事は確かに勝利の手助けとなったのだ』という実感を持たせたんだ。
「随分と手ぬるいお話ですねぇ。仮にも皆モノノフなのです。鬼と戦って死ぬ危険は、誰しも理解していると思いますが。それを軽んじて軽率な行動をするのでは、見捨てられて死んでも文句は言えません。たった一人の軽率な行動で鬼を呼び込み、滅んだ村里が幾つあった事か」
真面目に戦わなきゃ死ぬと頭で分かっていても、俺が命令したとしても、他人事ではないのだと自分自身が感じなければ意味は無い。
ことにこの子達は、なまじ実力がある分負けたら死ぬという事について現実味を持ってない節がある。普通の人達なら、こんな世界で生活する中で、鬼の脅威と危険を嫌と言う程叩き込まれるんだろうけどな…。
それと、『あの子の為に皆で力を尽くした』という感覚を持たせ、グウェンを受け入れやすくするのも狙いだな。
その為には快勝させてやらんとな。逆に重症人が出たら、「あいつのせいで」なんて思いになりかねない。
「なるほど、得心いたしました。どの道、彼女の境遇を聞いては放っておけません。聞けば、現れては消える鬼に追われて天蓋孤独の身に、そして異国の大陸を踏破してようやく日ノ本へ…。何という苦労をされてきたのでしょう…。……ちなみに、異国語で会話を試みた明日奈さんがへこんでいましたが、何かご存知ですか?」
異国語と一口に言っても、種類が山ほどあるからな。言語が全然違ったか、或いは発音が駄目駄目だったんだろう。単語くらいは教えてきたけど、外国語での会話はそりゃ難しいからなぁ…。
…さて、駄弁ってる間にグウェンの覚悟も決まったようだし、一丁行きますか。
円陣を組んだ滅鬼隊の中心で、グウェンが何やら剣に語り掛けている。別に召喚に必要と言う事ではなく、単なる感傷の類なんだろう。小声だけど聞こえている…が、流石に言語は分からんな。GE世界でレアから教わった言葉の中にはない言語だ。
一頻り語り終えると、グウェンは空に向かって剣を掲げる。光が立ち上って……その中に黒い穴が産まれた。
そこから瘴気と共に、前ループでも見た鬼が這い出して来る。
自分を取り囲んでいるモノノフ達を苛立たし気に一瞥するが、その視線はすぐにグウェンに固定される。やはり、召喚主が標的となるよう調整されているのか。それとも何度も襲って喰い損ねているから、顔を覚えているだけか。
全身が穴から這い出ると、口元に炎を宿しながら大きく叫んだ。
耳をつんざく咆哮で、皆の体が竦む……討鬼伝にはバインドボイスの設定は無かった筈だけどな。
派手な登場で印象付け、さぁここから大暴れするぞっ……てところに悪いんだが。
鬼葬!
で、乱舞!
刃状にした鬼の手を振り抜いて、初撃で尻尾を切り落とし!
続いて両後ろ足を殴り飛ばして膝を折り!
倒れた体を支えようとした両腕に巻き付いて関節技! 圧し折るッ!
切り離した鬼の手の部位を丸めて頭に向かって投擲、角を折ると同時に光玉で目潰し!
パニックを起こして逃げようと羽ばたいた瞬間、棍棒型に変えた手で背中を強打!
同時にアッパーカットで衝撃を逃がさないようカチアゲ、牙を圧壊!
倒れた所に、翼に鬼の手を巻き付けて、締め付けながら……その内側を刃に変えるッ! 切り刻まれる翼! …なんかアニソンの歌詞みたいだな。
構わず追撃、翼を根本から力ずくで引き千切り!
分断しておいた尻尾と、霊力で再生されてきた尻尾、更に羽を一纏めにして…握り潰すッ!
初撃で厄介な部分を全て破壊し、鬼特有の再生すら許さず、あとは狩るだけの状態まで追い込む、正に必殺技。名付けて………名付けて………………ええと、とにかく鬼の手の乱舞だ。
よし、全員総攻撃! 打ち合わせ通りに動けよ!
…達磨になったビャクエンをうちの子達が袋叩きにし始める。…なんか悪い事した気分になってくるが、鬼なんだから致し方なし。グウェンも唖然とするどころか、因縁の相手に思いっきりお返しできるとあって、嬉々としてネイリングを振りかざしている。
後は任せておいても大丈夫そうだな。
さて、思いっきりやれと言うから、やってみたぞ。やろうと思えば首を握り潰して一撃必殺もできそうだったけど、今回は出来る事をなるべく見せると言う事で、最大出力よりも手札手数を詰め込んでみた。
「私の傑作を使っているのだ。これくらいは当然だ。…と言いたい所だが、思っていた以上に使いこなしているのは確かだな。褒めてやろう。滅多に無い事だぞ」
そーね、感謝の言葉を述べるのすら稀だからね。嫌われるぞ本気で。
と言うか、俺の場合博士が作った鬼の手を使ってるんじゃないんだけどな。取り込んだカラクリ石を使って、博士が考えているような運用をしているだけだ。それにしたって、使い方自体博士の考えだった訳だから、博士が作ったものと言えなくもない…か?
とはいえ、これで博士が満足するとは思っていない。ここまでやっても鬼の手の機能は一部しか使ってない。戦闘に大きな効力を発揮するが、鬼の手の本来の目的は…。
「忘れていないようだな。そうだ、鬼を討伐する為の機能は副次的な物にすぎん。異界の浄化が鬼の手の本領だ」
実演しようにも、条件が整ってないんだよなぁ。異界浄化の術は、異界を生み出す元…つまり瘴気を吐き出す穴や、何らかの機関の働きを逆転させる事で成すものだ。
当然、それを見つけ出さなきゃ浄化できない。
仮に多少出来たとしても、その瘴気の元を潰さないと、結局また異界に沈んでいくからな…。
「そんな事は分かっている。ウタカタ近辺の異界は、他の地に比べて濃いものが多い。恐らく、瘴気の元になるものが複数あるのだろう。最悪、その元になる物同士が影響を与え合っている可能性もある。纏めて短期間のうちに浄化せねば、また新たな瘴気の元が別の場所に産まれかねん」
また厄介な…。しかし、それでも一つ一つつ潰していく事に意味はあるか。浄化した異界が元通りに広まるまで時間はあるし、瘴気の元が新しく生まれるとしたら、まだ浄化してない場所だろう。
浄化すれば浄化する程、瘴気の元が現れる場所は減っていく。……つまり、最終的には瘴気の元が密集して、物凄い濃さの異界が産まれる可能性があるけども…。
「まとめて浄化すればいいだけの話だ。そこまで鬼の手の真価を発揮できれば、異界も鬼もどうとでもなる。…見るべきものは見た。私は研究に戻る」
おう。甘い物以外にもちゃんと飯食って寝ろよ。
…さて、俺も今日はそろそろ休むかな。ビャクエンの方もカタがついたみたいだ。首元深くにネイリングを振り抜いて、返り血を浴びながらもグウェンは空に向かって剣を掲げる。英雄譚のワンシーンのようだ。実際には、抵抗できないように痛めつけてからの袋叩きと言う、リンチもいいところな訳だが……グウェンの因縁を鑑みれば、それくらいは許されるだろう。