※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第504話

 

 

 

堕陽月肆拾肆日目

 

 

 朝になると、普段より7割増しで甘えてきた浅黄に布団をかけ、寝床の後始末を時子に任せて大和のお頭の元に向かう。浅黄似の…寝ていた方の浅黄が先代なので、うちの浅黄が似ている、というのが正しい?…とにかくあの子が目を覚ましたので、その報告に向かう為だ。

 結局、あの子は暫くここに留まる事になった。その先の事はまだ考えていないが、うちの浅黄から聞いた話が本当であれば、是非ともここに居たいとの事。…本当であれば、と言ってるから、まだ疑ってんだろうなぁ…。それも仕方ないよなぁ。

 

 

「ほう、目を覚ましたか。後で俺も様子を見に行くか」

 

 

 いやー、やめた方がいいわ。あんまり上役と関わらせない方がいい、今は。

 

 

「? よく分からんが…やはり心も体も弱っているから、重圧になるような事をするな、と言う事か?」

 

 

 うん、大体その理解でいい。本人も苛立ちを振りまきまくってるから、暫くそっとしておいてやってほしい。 

 そんな訳で、あんまり話も聞けてないんだ。過去の記憶はしっかり残っているようだけど、何故あそこで封じられていたのか、封じられる前の状況はどうだったのか、他に封じられている子達はどんな子達なのか。全く不明だ。

 下手に聞き出そうとすると、錯乱しそうでなぁ…。そうでなくても、お前には関係ないだろう、みたいな態度で噛み付いて来るんだよ。

 

 

「むぅ…まぁいいだろう。滅鬼隊への仕打ちは様々な意味で問題だし看過もできんが、どうしたってそれは過去の事だ。当事者は、恐らく殆ど死に絶えているだろう。…外法の類で、人の寿命を超越でもしていれば話は別だが。非情なようだが、今優先すべきは鬼達への対処と、異界の浄化だ」

 

 

 そう言ってくれると助かるよ。あの子達を起こせば戦力は補充されるかもしれない。でもその背後を掘り起こしたところで、鬼との闘いには役に立たない。

 他の子達を目覚めさせるかは、もう少し様子を見て決めようと思う。…浅黄似のあの子が、あんな風になっちまった一因かもしれんしな…。

 

 

「ふむ? …しかし、聞けば随分な問題児のようだな。お前の所の連中が、よく許しているものだ。暴発しないように気を付けておけよ。仮にも身内…いや、それ以前に病人に対して私刑を行うようであれば、俺としても黙ってはおれん」

 

 

 あー…………まぁ、確かに、俺への態度に怒り狂って、先走りそうな奴は居るけども。天音とか特に。

 多分、大丈夫だと思う。

 

 

 …あんな声を聞かされちゃあな…。後から浅黄に何を言ったのか聞いたけど、本当に涙が止まらなかった…。

 

 

 

「…?」

 

 

 

 皆で集まって、飯食ってる時にな…。音を極力漏らさない構造になってるのに、それを貫いて絶叫が聞こえたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘だッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って。

 

 

「………………………」

 

 

 大和のお頭は、そっと目頭を隠した。

 もうあれだよ、あの子ブラック企業に勤め続けて肉体的にも精神的にも完全に過労死した状態だったんだ。那木が絶対安静と断言するのも納得だ。

 刺々しいのも疑わしいのも、統合失調の類…と言うよりは、今までの環境が酷すぎて、自分にとって良い働きをする全ての物が信じられなくなっているんだ。

 

 

 ちなみに、浅黄が彼女と話した内容だが。

 最初、ここ…つまりウタカタの里と、ここの部隊は非常に居心地が良いところで、貴方もきっと休める筈。暫く静養してはどうか、と伝えたのだが、首を横に振られた。

 

 浅黄(寝)曰く。

 自分達を集めて使おうとしている連中なんて皆同じで、利用して使い潰す事しか考えていない。約定は破るし、支援なんて考えもしないし、負担も周囲への影響も考えずに、自分の欲望を満たそうとするだけ。

 同僚達は、やたらと自己評価が高く、自分ならどうにかなると思い込んで突っ込んでいっては失敗し、失敗したらお前が指揮をとっていなかった為だと抜かす。そうでなくても、後始末は自分に丸投げだ。

 どいつもこいつも内心で私(浅黄)を軽んじて、都合の悪いことを擦り付けるのしか考えてない。

 そんな連中に囲まれたところで、気が休まる筈がない。

 

 浅黄(起)曰く。

 気持ちは物凄くよく分かるし、自分も貴方程ではないが、似たような状況にあった。

 心も体も疲弊し、疑心暗鬼になって貴方のような考えに陥りかけた事もある。

 その自分が保証する。

 ここは安らげる場所だ。

 どの道暫くは動かない方がいいし、その間だけでもここの人達の事を観察してみてはどうか。

 

 浅黄(寝)曰く、

 まっっっっっったく信用できない。 

 むしろ信じようとすると胃が拒む。吐きそう。

 体が弱っているのを推してでも動かないと、今でも誰かが何かやらかして、その後始末が降りかかってきそうで、頭がおかしくなる。

 絶対安静なんて言っていられない、今動かなければ私は

 

 

 

 

 浅黄(起)、前方首固めで動けなくする。上手な締め技は、優しい。

 曰く、

 今の私達の頭領は、以前の連中とは比べるのが失礼なくらいに有能でまともで優しくて器量も大きい。卑猥だけど。

 体が治って、世間の状況も把握した上でなら、一人で飛び出すのも止めはしないと言っていた。

 彼が信じられなくても、同じ『浅黄』である私の事なら、多少は信じられるだろう。

 私が信じてついて行く事を決めた、彼を少しだけ見ていてほしい。

 

 

 

 浅黄(寝)曰く、

 やはり信じられないが、首を絞められたおかげで完全に動けなくなってしまった。

 やらなきゃいけないと焦りばかりが溜まるが、もうどうしようもない。

 胃が壊れるのを覚悟で休むしかない。(自覚が無いだけで、胃に限らず色々壊れている。特に精神的に)

 せめてあなたが信じるという上司の事を教えて。

 

 

 

 こんな感じらしい。褒め殺しされてるようでむず痒い事この上なかったが、よくよく考えてみると要求する上司像の最低限度が低すぎるだけである。

 何だかんだで結局、浅黄(寝)はうちに留まる事になった。

 あれこれ理由をつけているが、今のところ一番重要な理由は……封印されている子達を放置しておくと、後から自分に災難が降りかかってきそうだから。いっそ、封印されている間に根切にしてしまえば…なんて血走った目で言い出したもんだから、気絶させておきました。

 

 浅黄(寝)の発言がどれくらい事実なのかは分からないが、封印されている子達は相当な問題児揃いらしい。うちの子達も問題児ではあるけど、俺が言う事は素直に聞く分、まだ御しやすい。

 最悪、パージする事も視野に入れなければならないかもしれない…。

 

 

 ところで、瘴気の元に関しては見つかったのか?

 

 

「先日の探索で、当たりはついたそうだ。明らかに、一際濃い瘴気の流れが流れ出ている場所がある。近い内に、再度動いてもらうぞ。初穂はまだ、鬼の手を使いこなせていないからな」

 

 

 はいよ。じゃあ、話は全く変わるんだが…以前に話をしていた、交流としての練武戦。あれの為の舞台を整えたいんだが。

 ただの舞台じゃつまらんだろう。普段はちょっと変わった訓練に使えるような、そんな場所を作りたい。

 許可を貰えないかな。

 

 

「ふむ…雅の領域を浄化できたら、鬼達の縄張り争いが一段落するまで、手を出さない方が良さそうだしな。その時に練武戦をやるのは賛成だ。…だがまず図面を寄越せ。たららと共に見分する。お前の事だから、何か危険な仕掛けを施すやもしれん」

 

 

 やだなぁ、危険な仕掛けがあるから変わった訓練に使えるんじゃないか。

 とは言え、流石に致命に繋がるような仕掛けは施すつもりはないよ。……作ってる間にどっか狂って、勝手に出来上がるかもしれないけど。

 それをたたらさんが見分してくれると言うなら大歓迎だ。バグ取りを自主的にやってくれるなら、こんな有難い事は無い。

 

 

「ところで、封じられていた方の浅黄は、結局何と呼ぶ事にしたのだ?」

 

 

 クローン浅黄って事で、黒黄にしようかな…。本人は、呼び名なんて何でもいいて言ってるんだけど、ありゃ自分の名前に拘りすら持てなくなってる状態だからな。

 今まで『浅黄』として生きてきたんだし、それを否定する訳にもいかんのだよなぁ。

 『アサギ』として呼び分けする事にした。発音変えればどっちを呼んでるかは分かるし、一緒に生活してたって別に問題は起きんだろ、常識的に考えて。

 

 

「まぁ、うちの里にも悟助が3人、華太郎が2人、さやが2人居るからな。さやは字が違うが」

 

 

 そういやそうだったな。

 小太郎も3人居たっけか。小なのに矢鱈と腹がでかい小太郎と、小なのに背高のっぽの小太郎と、小って割にはちんこがデカい小太郎。ちなみにちんこがでかいのを知っているのは、茂みで立ちションしているところにバッタリ会ってしまったからだ。

 

 

 

「…ついでに聞いておくが、お前はどうやって彼女達を統率できたのだ? 最初は経験不足故の慢心や猪突猛進が目立っていたが、それも徐々に改善されていると聞く。特別なタマフリを使えるからと言って、それを頼みにする様子も、使えない普通のモノノフを見下す様子もない。正直な話、最初に伝え聞いた時には軋轢が生じる事も覚悟していたのだが」

 

 

 滅鬼隊と言えば、霊山に古くから伝わる極秘精鋭部隊…って事になってるらしいからな。選民意識が高いと思われるのも無理はない。

 

 どうやって統率できるようになったかと言えば…暗示の効果もあるんだろうけど、一番大きいのは教育だろう。殆どの子が、過去の記憶が全くない、忘失した状態だったからな。

 生活どころか暇潰しの方法すら知らない、判断基準が何もない状態。そこに慕う相手からの一言を受ければ、その比重はとてつもく大きくなるだろう。要するに、子供が親の言いつけを守るのと同じ事だ。…ちょっと厳しめの事を伝えているのもあるから、無意味に反抗しようとは思わないだろうし。

 真っ新の状態だから出来た事。…段々自我が育ってきて、その内反抗期とかにも突入するんだろうなぁ。

 

 特殊なタマフリに関しても、色々あったが……あいつらの昔の運営主連中の事を教えたら、すっごい納得してた。

 

 

「昔の…と言うと、彼女達を封じた連中か。技術力はともかく、随分と悪辣で………それ以上に阿呆の集まりだったと聞いているが」

 

 

 その阿呆な連中が研究して、使えるようにしたタマフリだぞ。…信頼して扱えると思うか?

 

 

「……猿が鍛冶師の真似をして見た目だけは立派な刀を作れたとして、信頼して使えるかという問題だな」

 

 

 うん、そういう事。

 自分達を生み出した連中の間抜けさ加減を聞いて、流石に皆落ち込んでたっけな…。もう見ず知らず、会う事もない相手だから関係ないと割り切ればいいんだけど、そんな連中に生み出された俺達は、とてつもない抜け作揃いなんじゃないか?って。

 最初は『自分のタマフリはこんな事できる、すごいんだぞー』みたいな話もあったけど、これを聞かせてからは『当てにしてると妙なしっぺ返しが来そう』みたいな感じになった。

 勿論、使い方さえ誤らなければ強力な武器になる事は変わりないから、試行錯誤は続けさせてるけども。

 

 この話をしたのは確か、うちの連中を纏めて相手取って大騒ぎした少し後だったな。

 使えるタマフリと戦術があまりにも噛み合ってないんで、意識改革を考えて話したんだったか。おかげで、凛花は煙化能力を格闘に使うのは控えて、別の使用方法を模索するようになったんだ。

 

 

 

 

 さて、そんじゃアサギの様子を見に戻るよ。あの調子だと、何かの拍子にうちの子達と激突しないとも限らない。

 長い目で見てやろうと、皆で誓いはしたけど、喧嘩売られたら即買うだろうしな。

 

 

 

 

 





---------特別付録☆二人の浅黄、会話記録------------

 自分達の纏め役について聞かれた浅黄。
 語るのは正直気が進まない。恥になるとか、恥ずかしいとかではなくて。


「…どう考えても嫌味か自慢にしか聞こえないと思うけど、それでも聞きたいの?」

「今の状況を正確に把握しないといけないのよ私は。じゃないと何が起きるか分からないから、胃痛で寝られなくなるのよ」

「………あんまり渋っても、さっき言った事が嘘だと思われかねないし…。いいけど、聞くって言いだしたのは自分だからね?」

「いいから早く言いなさい。一言で言えば、あの男をどう評価する?」

「………簡潔に言えば…」


 浅黄はアサギの顔を見て、少しだけ言葉を選んだ。告げるのは間違いなく本心で。彼女をここに留めておく、安静にさせておくのに一番効果的な表現は。



「一言で言えば、理想の上司ね」

「…どんな風に?」






「まず無茶振りされない」


「その一言だけで殺意が溢れるほど妬ましいッ………! ゴフッ」


 ちょっと口と目から血を吐いたが、予想の範疇だった浅黄は構わず話を続ける。
 薄情なようだが、自分も過去の事を思い出して、ちょっと憂鬱になっていたのだ。

 『やれ』と言われれば拒否する事のできない立場。
 私利私欲に塗れた、曖昧極まりない命令。
 なまじ力に自信を持つゆえに暴走する、短気で猪の方がまだ賢い部下達。
 それを諫めるどころか、「自分達が作り上げた傑作だから、お前達は無敵だ」などと吹聴する自称天才ども。
 勿論、自分達が色々な後始末を押し付けている自覚もない。
 記憶が消えるから失敗したという自覚も無い。
 ただでさえ経験不足の上、度々記憶を消されて学習する機会すら奪われる。
 支援するどころか、失敗して無様な姿を曝させる為に送り出す上司達。
 任されるのは表沙汰にできない穢れ仕事と、自分と同じ立場の道具を増やす為の人攫い。
 成功しても失敗しても、待っているのは上役達の気分とさじ加減一つで理不尽な罰則を設けられる。
 逃げれば暗示による発狂死が待つ。
 摩耗しきって、強制された感情だと知りながら情に縋り、最後には全員を巻き込んで封印された。

 今にして思う。いっそ死んでいればよかったのだ。
 『自分が死んだら、隊員達は』なんて考える必要なかった。自分が死んでも、次の『浅黄』が作り上げられるだけ。何も変わらないが、少なくとも自分は楽になれる。



 浅黄の口からもちょっと赤い液体が流れたが、頭を振って悪い記憶を振り払う。
 そうだ、未来に目を向けよう。今の頭領は、封印前に比べれば文句の付けようがない。未来は明るく開けている。散々悲惨に使い潰されてきたのだから、これからは幸せになってもいい筈だ。
 とりあえず、今夜の閨では甘えさせてほしい。アサギを説得した褒美として願えば、心の底から蕩けるような一時の後、甘い眠りにつくような気絶まで追い込んでくれるだろう。


 現実逃避も兼ねて、今までの頭領がやって来た事を話していく。
 霊山での目覚め、オオマガトキによって変わり果てた世界の事を聞かされ、無気力だった自分を保護。
 権力者と話をつけ、封じられていた皆を解放し、そしてウタカタへ。
 ウタカタへやってきても、大小色々やらかしながらも現地勢力と協力体制を築き上げ………。








 黙って聞いていたアサギは、一つ溜息を吐くと、感情が全て擦り切れ切った元人間のような口調で声を出した。


「つまり……あなたはこう言いたい訳ね。
 縁も所縁も無かったあなた達を全員連れて霊山から脱出した上、この里で何もない状態からあっという間に生活環境を作り上げる。
 現場の戦いに理解があり、当人の実力は計り知れず。
 捨て駒にされないのは勿論のこと、無茶振りされないどころか任務を任せる時には詳細な情報分析と人選を必ず行い、任務の成功失敗を問わず終了後には労いを忘れず、休養を義務付け、多額の報酬を準備。
 金策を初め、組織運用の為に様々な施策を行い、兵站の補給を徹底する。
 多数の問題を作りながらも近隣の里とは友好的な関係を維持。
 多くの鬼に襲撃された時には、予め作り上げていた防衛線を活用し、隊員総出で撃退、重傷者を出さなかった実績がある。
 最近では自分一人だけで作業を回していると、何かあった時に全員が動けなくなるので、各種育成にも力を注いでいる。
 元よりの暗示と実績が相まって非常に人望が強く、ここに居る子達は大抵の事は素直に聞く。
 非常に身内に甘いが必要最低限の一線は譲らず、それを超えればどんな多大な功績をあげようと厳罰に処すと公言。


 部下達は過去の記憶が無く、経験不足、知識不足である事をかなり強く自覚している。
 更に、大勢で頭領と戦って一矢報いる事もできずに蹴散らされた為、過剰な自信を抱けるような環境ではない。
 任務を受けるようになる前には必ず教育を受けさせられ、事前準備の重要さ、詳細な情報によって得られる優位と利点、それを知らない場合の危険さを叩き込まれる。
 どのように報告を挙げるのか、書類も整えて一定水準の情報を纏められるよう統一。
 それらを読み解く訓練もさせ、それを齎す探知や援護役の重要性を説く。
 このため、判断を誤っての苦戦はあるものの、無意味な抜け駆けで突撃していく者は居ない。

 
 植え付けられた性癖を忌避したり嘲笑ったりする事もなく、むしろ互いが楽しむ為の方法と捕らえている。
 優しく初めて蕩けさせてから激しくするのも、最初からわざと粗略に扱って嬲るのも可能で、相手の気分に合わせてくれる。
 女癖は悪いけど、あなた達全員を相手にしてもまだ余裕がある。
 …方法は感心したものではないけど、これはつまり部隊全体の安定させるくらいの余力を残していると言えるわ。。
 しかも、無理をしてではなく嬉々として。
 部下達も程度や立ち位置の違いはあれ、頭領に求められれば拒む気にならないくらいには頭領を慕う。

 男の隊員も強い恩義を感じていて、女所帯で居心地が悪く独立を考える事はあるようだけど、それも別動隊として動くという意味が強い。
 頭領自身も、本当に本人達がそれを願うのであれば、準備をして送り出し、時に援助をする事も構わない。




 なるほど。聞けば聞く程理想的じゃない。…理想的すぎて、信じられないくらいにはね」


「…やっぱりそう思う? 私も本心と事実を出来る限り正確に語ったつもりなんだけど、話してる間に『こんな都合のいい話無いわ』って思い始めたもの。でも事実なのよね…。考えてみれば、どれだけ奇跡的な力関係の上に成り立っているのか…」


 アサギは淡々と語り、それを受けた浅黄も遠い目をする。自分がどれだけ奇跡的な環境に居るのか、改めて理解した。…実は都合のいい夢だったりしないだろうか? 現実の自分は封印されたまま、この世の終わりまで…いや、オオマガトキが再発した後も、あの施設の中でゆるゆると朽ち果てて行こうとしているのではないだろうか? もしそうだったら、現実なんてどうでもいいからこの夢の中に浸らせてほしい。その為なら、百日夢だって喜んでかかるぞ。
 
 スゥー、ハァーっとチャドーめいた深呼吸をするアサギは、相変わらずの無表情だ。
 だが、その無表情の裏で激しい感情が渦を巻いているのが、浅黄には手に取るように分かった。


「…少なくとも、あなたが本当にそう思っているのは理解したわ。普通に考えれば、どうやったって成立しないような環境だけど、そこは百歩譲って良しとしましょう。頭領の人徳にせよ特異な状況による結果にせよ、潤滑油役や副長役が上手くやっているのなら、そういう上手く回る組織もあるかもしれない。…でもね、私は一つだけ信じられないの。それが何よりも致命的よ。あなたも『浅黄』なら分かるでしょう」

「…言ってみなさい。この建物は、大抵の音を外に漏らさないようにできている。思いっきり叫んで構わないわ」




 目を閉じ、アサギは思いっきり息を吸い込んで、必要以上に大きな声で…それを止める気にはなれなかった…雄叫びをあげる。顔から色々な液体が噴き出て見れたものではないが、責めてはならない。これはブラック企業の為に魂の一欠片まで磨り潰された哀れな人間が、ようやく吐き出す事が出来る積もりに積もった鬱憤なのだ。






「嘘だッ!まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!




 アサギは込み上げてくる涙とか感情とか色んなものを閉じ込めて、冷徹に言葉を続けた。それが自分の為であり、頭領の望みでもあり、そして彼女が最も求めている言葉だからだ。


「そのまともな上役と同僚が居る組織に、今なら加われるわよ」

「不束者ですが何でもいたしますので末永くよろしくお願いしますッ!」


 浅黄は窓から夕陽を眺めて目を細めた。涙が一滴、堪えられそうになかったからだ。
 しかし既に目の幅と同じ太さの涙が流れていた。

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