堕陽月肆拾禄日目
一晩房中術で補給しまくった。自室に呼んだ子達と遊ぶのは勿論、風呂でも堪能したしトイレにもなってもらったし夜這いもかけた。
おかげで朝は殆どの子達が起き出してこれなかったけど、誰にも怒られない。
…こういう状況に居るから、大和のお頭に怒られるようなお馬鹿頭領のままなんだよな…。でもここを放棄する気はないし。
もしもこのタイミングで鬼の襲撃が来たら? 目さえ覚ませば、オカルト版真言立川流でブーストされたタマフリの嵐が火を噴くぞ。
あとスタンダップホーム号も。
出発前、病人二人の様子を見に行った。アサギはまだ安静にしている必要がある……と言うより、働いてない状況に慣れる必要がある。寝ている状況だと逆に胃と心が休まらないとかで、那木も少し早めに安静状態を解こうと思っているらしい。…医者が体が弱っている病人に向かって『運動した方がマシ』と判断するなんて、どんだけストレス溜まってるんだ…。社畜根性が身に付き過ぎだろ。あ、考えたらまた涙出てきた。
もう一人の子は、まだ眠ったままだ。…考えてみれば名前も知らない。アサギだったら知ってるかもしれないな。戻ったら聞いてみよう。
幾人かに見送りを受け、その内の一人…まだ手を出してない子に「無事に帰ってきたら、私と…」とお誘いも受けた。行きがけの駄賃として一揉みさせてもらった。
とにもかくにも出発。朝は鬼も眠い時間帯なのか、動きが鈍い奴が多い。昨晩から張り込んだ斥候部隊のおかげで、邪魔するような鬼は居なかった。
途中、富獄の兄貴を観察してみたが、いつも通り…いや、少し眠そうだ。
ついでに、例の石を意識している様子もなく、周囲を警戒はしていても、空を飛ぶ鬼…仇のダイマエンを探す様子も無い。
「あん? …ああ、また妙な夢を見ただけだ。ここ数日、こればっかりでな。お告げだ夢占いだを当てにしている訳じゃねえが、これだけ続くと確かに何かあるんじゃないかと思えてくるな」
「なになに、何の話? 何かあったの?」
「なんでもねぇよ。お前は異界浄化を覚える事だけ考えてろ」
適当にあしらわれて不満そうな初穂だが、何かを察したのかそれ以上言いつのろうとはしなかった。
桜花はそれを見て何か考えているようだが、今は任務に集中する腹積もりらしい。…ん? どうした、桜花。
(今回の任務が終わったら、富獄について話がある)
…わかった。後で時間を取る。
桜花は既に何かを察しているようだ。俺のようなゲームストーリーや前ループ等のカンニングと違い、元々ウタカタの里モノノフ部隊の中核となっていた彼女だ。俺が知らない何かを知っていたり、察したりする事も多いのだろう。
それだけ告げると桜花は考え事を辞め、周囲を見回しながら歩き続けた。
途中、何度か斥候部隊から報告を受け、特にトラブルもなく瘴気の元へ。普段であれば踏み込めないような瘴気溜りに入り込む時、3人が顔を顰めたがそれだけだ。
ここから先は斥候も入り込めなかった場所なので、鬼を退けながら進まなければならない。道案内できるのも、初穂のみだ。
鬼の指揮官が何か仕掛けるとしたら、普通に考えればこの先である。瘴気無効の装備の事を察知していないとすれば、侵入者をここで足止めするだけで全滅させられる。
「初穂、この先はどれくらいかかる?」
「距離は大した事ないんだけど、とにかく歩きづらいわ。それでも長くて半刻ってところよ。何事もなければね」
「…この瘴気の中に半刻か。装具で無効化されるとはいえ、ぞっとせんな」
「まぁ、な。普段であれば30数える間もなく動けなくなりそうだ」
俺でも長くは保たないな…アラガミ化すればともかく。空気に粘度すら感じられるような瘴気の濃さ。それだけ瘴気の元が近く、長い間溜り場になっていたって事か。
「その中を、私と速鳥は延々歩き回ってたのよ。…こっちよ。道を見失いやすいから気を付けて」
「そりゃ案内役のお前の事だろ」
初穂に案内され、曲がりくねった道を…獣道と言うか鬼道?…を歩く。植物が乱雑に生えており、視界は良くない。
その中でも、幾つかの鬼の痕跡を発見できた。
…小物ばっかりだな。
「どうしたの?」
初穂、ここを通った時、どれくらい鬼に襲われた?
「…この辺じゃ無いわ。もうちょっと先にある、少し開けた場所があるんだけど、そういう所でしか襲われてない」
大型だけ?
「ええ。小さな鬼は、道中では全然でなかったわ」
と言う事は、やっぱり待ち伏せされてるっぽいな。さっきから小型鬼が移動した痕跡があちこちにある。
しかも、全て奥に向かってるようだ。大型は……痕跡が無い。居るとしたら、かなり高く飛べる奴らだな。
「…空を飛ぶ鬼、か」
富獄の兄貴の顔付が少し変わる。すぐ上を見て、もっと顔を顰めた。
「ここで上空から襲い掛かられると厄介だな。避難できる場所がない。…最悪なのは火を使われる事か」
「いや、この辺の木は水気が強い。あまり燃えない…それだと煙が多く出るか」
どっちにしろ、ここはさっさと抜けるべきだな。進んだ先で戦闘になるのは間違いない。
……やろうと思えば、別行動できるぜ。こういう茂みの中での行動は大得意だ。鬼の手を使って立体起動すれば、待ち伏せしている鬼達の死角に回れるかもしれない。
「……いや、やめておけ。今回の任務では、お前を無事に異界に送り届ける事が最優先なんだ。我々以上の実力者である事は手合わせせずとも分かっているが、君を独りで行動させては本末転倒だ。待ち伏せの対処は…………お前、確か………よし、3人とも聞いてくれ」
……了解、隊長の指示に従う。
意外だなぁ、策を練る事が出来るとは。
「お前は私を…と言うかモノノフを何だと思っているんだ。戦いに長く身を置けば、策や事前準備の重要さは嫌でも分かる。分からなければ生き延びられん」
うちの子達を思うと耳が痛いと思うべきか、だったら単騎特攻ばっかりするなと言うか。
うちの子達は教育の成果が出たのか、段々マシになってきたから…今までは重要性を理解しても、それを奪われていただけだと思いたい。
「? 誰かやったのか? 私も一時ミズチメ相手にしようかと思ったが、結局やらなかったし。……貴様、手を出してないだろうな」
………いや、ウタカタに来る前、明日奈や神夜と出会ったシノノメの里に来るよりも更に前の事だよ。
あと橘花に迫るような事はやってないよ。やったとしても本人が拒めばすぐ手を引く。
言っちゃなんだけど、うちの子達で手いっぱいだぞ本当に。
「…………何か引っかかるものはあるが…。確かに、あの人数を相手にするのなら、橘花に手を出す余裕はないか」
常識的に考えれば体は保たないよね。実際、うちの子達全員にはまだ手と言うかちんぽが回ってないからなぁ。積極的じゃない子にはあまりちょっかい出そうとしてないのもあるが。
ちなみにこの会話の間、初穂は富獄の兄貴に頭ガックンガックンされて全然聞こえていなかったようだ。
何すんだと怒る初穂をあしらう兄貴。フォローありがとうございます。別に聞かれたって全然問題ないんだけども。
「っと、こんな事してる場合じゃなかったわ。そろそろ広場に着くわよ。策の準備はいいの?」
「おう。いつでもこい」
「掛け声はこちらでかける。いち、にの、さんで投げろ。さ『ん』と同時だ。その後の段階は頭に叩き込んだな?」
あいよ。んじゃ、行きますか。
間もなく到着した広場は、予想よりも狭かった。周囲を見回して、鬼が出現しそうな場所の見当をつける。打ち合わせしていた通り、目標となる位置を手信号で伝えた。
広場の真ん中に差し掛かると同時に、けたたましい声が響く。鬼の襲撃の合図か。
アメノカガトリが1体と、この近辺では見かけた事のない蝙蝠のような鬼…アマツミツツカが1体。
それに加え、周囲の草陰からぞろぞろと湧き出てくる小鬼達。
問題ない、想定内だ。全員が背中を預け、4方向に向き合う。
「いくぞ! いち、にの、さ『ん』!」
ほい、閃光玉。丁度俺達の頭上で爆発するように。
全ての鬼が俺達を包囲していた状態なので、ほぼ全体に効果が行き渡った。小型鬼は、前に居た鬼や草木が遮蔽物となって何とか目が見えている者も居るようだが、動けない者が壁になって、どのみちまともに動ける状態ではない。
続いて、桜花が懐から取り出した袋を柄で一度叩く。硬いものが割れる音がした。それを落下したアマツミツツカに投げつけてやると、小型鬼がわらわらと群がり始めた。アメノカガトリも、目が回復していないのか突っ込んでいって大事故になる。
「思ったより効果が高いわね。私達の役割がなくなっちゃった」
「いいから気を高めろ。小鬼共がああまで密集してるって事は、大型に威力を届かせるには貫通力が要るって事だぞ」
「わかってるわよ。桜花、こっちは準備できてるわ。いいわね!?」
「ああ、思いっきり行くぞ! 直伝!」
4人が集まり、高まった霊力が共鳴する。力が桜花の剣に集中し、空に向かって掲げた太刀から光が伸びる。
極太の光柱が、まっすぐに振り下ろされた。
「鬼千切・極!」
他人が放つのを見るのは初めてだなー、なんて呑気な感想を持ちつつ、光の柱にチェスト関ヶ原されていく鬼達を見守る。
小型鬼が弾け飛び、大型鬼の部位が乱れ飛ぶ。密集しているところにぶちこんだから、すっごい効果高いなぁ。
最後に一際強く光り輝き、弾け飛んだ後には、死屍累々の光景が広がっていた。アメノカガトリもアマツミツツカもボロボロで藻掻いているが、どう見ても瀕死だ。小鬼の群れが盾になっていなければ、確実に一撃死していた事だろう。
「よしトドメだ攻めろ攻めろ!」
富獄の兄貴の声に合わせて、2匹の鬼を纏めてタコ殴り。戦闘は極めてあっさりと終了した。
太刀を鞘に納め、周囲に敵が残っていない事を確認して、桜花は息を吐いた。
「ふむ、上手く行ったな。使うのは2度目だが、大したものだ」
鬼の骸の傍に、小さな布切れが落ちている。桜花はそれを拾い上げてジロジロ見ていたが、風に吹かれて布切れは飛んで行ってしまった。ポイ捨てはよくないぞ、異界の中でも。
と言うか、その袋は何なんだ? 作戦を聞いた時には、鬼を呼び寄せる力がると聞いたが、すごい効き目だったな。
結構長くモノノフやってたつもりだけど、そんな道具見た事ないんだが。
「まぁ、モノノフは道具を使う事が少ないからな。下手な道具を持って行っても、異界の瘴気で壊れてしまったという話もよく聞くし。…この袋に入っていた石は、秋水が作った非常に怪し気な石だ。術なのか、素材自体が特別なのかは知らないが、鬼を誘き寄せる力を持つ」
「秋水が? ふーん、あいつそんな事できたんだ。…大丈夫なの?」
「試した時には鬼が次から次へと押し寄せてきて、死にかけたと言っていたな。上手く使えば、大型鬼を一体ずつ結界近くに誘い込む事ができる。瘴気の無い場所だから、優位に戦えるだろうな」
「なるほど、余計な横槍が入らないのはいいな」
それにしても即効性ありすぎだろ。本当だったら、俺と初穂で鬼を纏める予定だったのに、一目散に団子状態になりやがって。
桜花が提案した作戦は、基本は単純なものだった。
まず閃光玉で目晦ましして動きを止め、桜花が持ち込んでいた石で鬼を誘導する。大型鬼は俺と初穂の鬼の手で、掴んで強引に一か所に纏める。そしてまとめて鬼千切・極で蹴散らす。
大型鬼がもっと居たらとか、閃光玉や石が効かなかったら、という場合も想定していたが、基本はこれだ。効かなかったどころか、効きすぎて俺達の出番が無くなったけど。
「…それにしても…やはり君の力は頭一つ二つ飛びぬけているようだな。私達はかなり本気で力を練り上げたというのに、君はまだまだ余裕のようだ」
ん? ああ、鬼千切・極の話か。共鳴させる必要があるから、俺だけバカみたいに力を練り上げても逆効果なんだよな…。
と言うか、俺は桜花がこの術知ってるのが意外なんだが。これ、結構前に失伝した技の筈だぞ。
「橘花から教わったのだ。その橘花は、以前に倒れて君の過去を見た時に知ったそうだ。君も使えるんだろう?」
出来る事は出来るが、あんまり使わないんだよなぁ。俺って一人で暴れてる時の方が多いし、複数人でやってると大抵力が昂る前に戦いが終わる。
廻の方がまだ使い勝手がいいくらいだ。
「廻?」
明日奈や神夜が居たシノノメの里で開発された、鬼千切の発展版だ。
極は全員で高めた力を一人に集中させて一気に解き放つが、廻は4人がそれぞれ連続攻撃で相手を足止めしつつ、全員の力を共鳴・分配して同時に打ち放つ。
極が力ずくで敵を叩き斬る正面突破の術なら、廻は全方位からの包囲攻撃。
術の過程は違うが、全体的な威力や効能は大して変わらないな。
「…他にも色々と手札があるようだが、広める気はないのか?」
広めるのは別に構わんけど、考え無しに放出するのも良くないらしい。
覚える事が多くなれば、その分一つの技術の習熟は浅くなる。調子にのって突っ込む奴も居るから、段階的に出していきたいんだよ。
少なくとも、うちの子達がその辺の分別をつけるまでは放出できん。
ただでさえ、油断と慢心しやすい傾向にあるんだ。ウタカタのモノノフ達には悪いが、下手な事教えられんのだ。
「……まぁ、な。最近じゃまともになってきているが、最初の頃は酷かったからな…」
根拠のない自信。噛み合ってないと自覚のない戦い方。純粋な力不足。思いついた事を考え無しに実行する。
遠い目をする富獄の兄貴。俺も空を見上げた。瘴気の為に空が暗い。
「納得はできんが…君が優先すべきは、確かに君についてきている者達か。君達の数が減るのは、ウタカタにとっても痛手だし」
「そういう事は、瘴気を浄化してから話しましょうよ。この瘴気溜まりに長くいるってだけで気分が滅入るわ。大体、ちんたらしてたらそれこそ増援が来るじゃない」
そりゃそうだな。初穂に一本取られたわ。
とにかく進もう進もう。初穂、ここと同じ場所はあと幾つある?
「ここと同じ規模がひとつ、もう少し小さな場所が一つ。…そこでも襲われるかしら? 一度に襲ってきた方が厄介だと思うんだけど」
「でかぶつが狭い所に何匹も集まったところで、身動きがとれなくなるだけだ。戦力の逐次投入は愚策だが、入り切れない戦力を無駄に送り込むよりはいい。何にせよ、待ち伏せされていた以上、今後も何事も無く終わると思うな」
今回の任務だけじゃなく、今後の異界浄化もな。
ここでわざわざ待ってたって事は、異界浄化に瘴気の元が必要な事も、そこに至るまでに人間がどういう道を通らなきゃいけないかも予測されてるって事だ。
相手の行動から瘴気元の位置を逆算する事もできるかもしれんが…誘導される可能性も高い。
…まぁ、その辺は帰ってから考えるか。今は初穂の言う通り、さっさと任務を終えるとしよう。
そうして進むと、初穂の言う通り似たような場所が2つあった。
殲滅手順は最初と同じ。ただ、秋水が作った石はもう無かったので、俺と初穂の鬼の手でどうにかした。
同じ手段が通用したという事は、最初の戦いの様子を見ていた鬼は居なかったようだ。偵察とかしていないという事は、鬼の指揮官は待ち伏せだけ指示して、その後の観察などは行っていないらしい。
鬼千切・極を連発した3人は、それなりに疲労しているようだ。富獄の兄貴は、霊力的な消耗はともかく、暴れ足りないようだったが。
「ふぅ…これで襲われそうな場所は最後よ。意外とあっけなく終わったわね。作戦が良かったのかしら?」
「確かに、思った以上にうまく嵌ったな。だが油断は禁物…なのだが、これ以上何か仕掛けられる場所があるだろうか…」
んー……もしも俺が鬼の指揮官なら…相手と状況にもよるけど、最後の罠は敵の狙っているものその物に仕掛けるな。
強敵達を打倒して、疲弊しながらもやっと辿り着いた先。例えばそうだな、宝箱なんかだとしよう。
今までの苦労と犠牲が報われる、この宝物の力があれば里は救われる。感極まりながら箱を開けると…どーん! 或いは毒でも散布されるか。
「腹立たしいほど有効な手ではあるな。とは言え、いくら鬼どもでも、瘴気の元…つまり鬼どもの住む世界に通じる穴をどうこうできるのか? 出来るんだったら、とっくにあちこちが穴だらけになってそうなもんだが」
さぁ。あくまで一例だし。それごと握り潰せる、と言い切れるとよかったんだけどな。
そもそもこの策を本当に使うとするなら、鬼達の居場所を作る一要素を犠牲にする前提だ。
ウタカタの里で例えれば、鬼を一時的に近づけなくする為に、里を守る結界石の柱を丸ごと爆弾にするようなもんだ。どう考えても採算が合わない。
「…仮にそこまでやるとするなら、里が完全に包囲され、助けが来たが全て戦死し、里の皆も残っていないという完全に全滅状態だな。つまり死なば諸共」
「考えたくも無い事考えさせるなじゃないわよ縁起でもない! とにかく! 今はさっさと異界を浄化する! どんな鬼が来たって、異界浄化が成功すればすっごい有利になるんだから!」
せやな。さっさと……いや、もう一匹居るようだぞ。あの痕跡は…ダイバタチだな。さっきのアマツミツツカもそうだが、この辺に居るとは珍しい。
霊山よりも更に西で見かける鬼なんだけどな。
まぁいいか。さっさと片付けるに限る。
さて、ダイバタチをすっ飛ばして異界浄化だが。…ん? ダイバタチ? 突進しまくってくるから、初穂が散々スッ転がしてたよ。鬼返しもすっかり得意になっちゃって。思った以上に使いこなしてるな。
一応周囲を調べてみたものの、特に怪しい痕跡は無し。罠の気配もないし、嫌な予感もしない。本当に、さっきの戦力逐次投入が鬼達の手札だったのか。せめて最後のダイバタチが異界浄化の瞬間まで潜み、術の行使で動けなくなった俺を狙う…くらいの事をやってくれたら手応えが出てきたのに。
引っ掛かるものはあったが、取り敢えず浄化だ浄化。
今度の異界浄化の術は、周囲の変化がよく分かる場所だった事もあり、壮観だった。見ていた3人からも歓声が上がるほど。
…まぁ、よくよく見てみれば瘴気が消えただけで、捩じくれ曲がった妙な植物とか、どっからか流れて来た場違いな建築物とか、そう言うのは全く動いてないんだけどな。
それでも空気の清浄さ…粘度すら感じる瘴気が無くなったのは肌で感じられるし、何より土地の流動が無くなるのが大きい。苦労して作った地図が、流動のおかげで使い物にならなくなるからなぁ…。
他にも、残っている鬼達を追い払ってしまえば、清浄になった土地で農業やら何やらできるようになるだろう。
うん、自分でやった事を褒めたたえる訳じゃないんだが、やっぱり異界浄化の効果は大きいわ。
「…何と言うか、胸がすく思いぜ。あれだけ苦しめられた異界が、こうも一瞬で消えていく…。初穂、どうだ、できそうか?」
「一応、術式も教わってはいるんだけど………厳しい。何かこう、補助になりそうなものとか…或いは、もっと別の方法とか…」
「(……姉がどうのこうので煽ってやれば、何とかなりそうだと橘花が言っていたが…)とにかく、任務は完了だ。瘴気が消えたとは言え、周囲の鬼が突然全滅した訳ではない。むしろ、混乱している間に我々をみつけたら即座に襲い掛かってくるだろう。里の方に向かわれても厄介だし、適当に注意を惹いてから帰るぞ」
へいへい。手応えがない分は、数で埋めるとしますかね。
適当に暴れて帰る時に、富獄の兄貴の懐が光った。…例の石だ。このタイミングでかよ。