※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第507話

堕陽月肆拾漆日目

 

 

 

 幸い、富獄の兄貴がいきなり突撃するような事はなかった。

 対になっている石が光るという話も、「与太話だろ」の一言だ。…実際に光ったところって、見た事ないんだろうか? ホオズキの里の巫女、『ちびすけ』に渡された時に光ったりしなかったんだろうか。

 考えてみりゃ、そういう石の話を他所で聞いた事もないしなぁ。ホオズキの里に伝わる秘密の石だったりするんだろうか。

 

 何にせよ、まずやる事は。

 うちの子達に、もしも富獄の兄貴が一人で異界に出ようとしていたら、隊員総出で止めるよう通達した。

 「えっ、あの人に喧嘩うるの?」みたいな反応もされたが、別に殴りかかれとは言ってない。とにかく話しかけるとか道を工事中にして迂回させるとか、何でもいいから足止めして俺を呼べ。……機転を利かせるくらい育っていてくれる事を願う。

 

 

 

 

 それはそれとして、那木が溜息を吐いていた。2度目の異界浄化で皆の顔が明るい中、一人だけそんな顔をされると気になるじゃないか。

 どうした、色惚けに囲まれて春が来ない事を嘆き始めた訳じゃなかろう。もしそうだったら全力で口説くが。

 

 …一応言っておくが、上記の事は口にしてないからね。

 で、那木に聞いてみたのだが。

 

 

「ええ…異界が浄化された事は喜ばしいのですが、あの方が全く目覚める気配が無いのが気にかかりまして。体には不調はないのですが…」

 

 

 あー…あの子が入っていた装置の影響かもしれんなぁ。かなり長期間封じられていたみたいだし、引っ張り出す方法もちょっと強引だったから、何か不具合でも出たのかもしれない。

 やっぱり、眠ったままだと問題ありか。

 

 

「それはそうです。日頃から全く動かない訳ですから、体は徐々に弱っていきます。栄養も足りているとは言えませんし、このままではそれこそ衰弱死してしまうやも…。………私に…出来る事は…」

 

 

 那木は悲壮な表情で、自分の腕を見下ろした。みるみる内に顔が青ざめ、両腕が震え始める。

 その両手をそっと包んで。

 

 

 纏めて柏手を打った。パァン、と乾いた音が響き渡る。

 

 

「っ…な、なにをなさいます! おどろきまみた!」

 

 

 まみた?

 

 

「…失礼、かみまみた」

 

 

 まだ噛んどる。

 無理するな。手当くらいならともかく、手術ができない事は知ってるよ。

 大体、手術しようにも何処が悪いか分からんじゃないか。とりあえず腹掻っ捌けばどうにかなるって話でもあるまい。

 

 

「それは…そうでした。つい、自分の無力さに考えが走ってしまい…。わ、私の手術の事はともかくとして、やはり目覚めさせる為に手を尽くすべきだと思います」

 

 

 うん…それは俺も同感。

 このままだと、アサギが何かやらかしそうな気がするしね。先日、まだ寝ている子の様子を見に来たアサギ。顔に触れて、心配そうにしている…と思いきや、震える手で喉に手をかけようとしたのは流石にヤバかった。

 起きている時の彼女達に散々苦労させられて、身も心もすり減ったようだから…『今ここで永眠してくれれば』と、つい心に過ってしまったんだろう。

 早い所どうにかせねば、アサギの自制心が擦り切れてしまいかねない。

 

 しかし、そうはいっても何かいい方法あったかなぁ。

 またのっぺらミタマ共を送り込んで、悪夢を見せて叩き起こすか? しかし人格崩壊しそうな気がする。

 いつぞややった時は、引き上げさせたにも関わらず、眠る度に悪夢として登場していたようだし。

 

 元気ドリンコは…あれは眠気覚ましになるけど、流石に眠った人間が即起きる訳じゃないな。

 何かないかなぁ…。

 

 

 

 

 暇潰し用の玩具探しや、今までのループの事を思い返そうと ふくろ の中を漁っていると…………ん?

 

 

 

 

 

 あれ? これってひょっとして…。

 

 

 

 

 

 

 なんでこんな物がここにあるの? そりゃ確かに作られてしまったけど、これを貰った覚えはないぞ。

 あのまま持っていた筈…ひょっとして押し付けられた?

 

 

 

 いや、よくよく考えれば、俺は記憶にないループも何度も経験しているみたいだ。改めて ふくろ の中を見てみると、作った覚えがないどころか見覚えのない素材まで入ってる。、その中でこれを手に入れていたのかもしれない。

 あいつの事だから、興味が向けば何でも作りそうだし。

 しかしこれ効果あるかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試してみよう。

 

 

 

 

 では行くぞ!

 

 

 

 紅月がマホロバの里に持っていった筈の、清麻呂作・むわぁじっくモーニングスター・おはようマイ・マザー一番星君グレ~ト~~~~!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が寝ている部屋に持ち込んだところ、那木に矢を向けられました。あ、なんか久しぶり。

 

 

 

「…その刺々しい、どこをどう見ても物騒な道具で、何をなさるおつもりですか」

 

 

 これでド突けば起きる。かもしれない。

 これは俺がいつの間にか手に入れていた特殊な武……もとい呪具で、こいつで殴ればどんな深い眠りからも一発で目覚める代物だ。

 使い方は単純、勢いよく振り回して脳天に一発叩き込むだけ。

 ちなみに狸寝入りだったり、殴る寸前に目を覚ましていたら…死あるのみ。

 

 

「どこをどう聞いても許容できる部分が全くありませんが………実績は? せめて、実際に使用した事はあるのでしょうね?」

 

 

 何にだって初めてはあるものだ。いや多分試しに使ったんだろうなと思う奴はいるんだが、その後の報告を聞く前に死に別れてしまってな。

 なーに大丈夫だって。ミタマは『癒』でいくから。刀で殴っても矢で射ても傷つかないどころか毒も凍結も炎上も治る。眠りだって当然治る。戦いでいつもやってる事じゃないか。

 万一の事があっても、この子は滅鬼隊の元になった子だぞ。思いっきり殴ってもたん瘤くらいしかできないってうおおおぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!!

 

 

「なりません! なりません! 医師として以前の問題です! 何を考えているのですかあなたは!」

 

 

 ちょっ、乱射はやめれ! 病人の部屋で暴れるな!

 

 

「そのような物騒な器物を持ち込むあなた様が言えた事ですか! その危険な物体を渡しなさい!  持たせていると、また隙を見て忍び込んで使おうとするでしょう!?」

 

 

 ちっ、分かっていらっしゃる。仕方ないなぁ。何だかんだで結構な貴重品なんだぞ、これ。

 自分でも何処で手に入れたか分からないから、今後手に入るかも分からないし。

 

 大人しく取っ手を差し出せば、まだ警戒している那木は矢を弓に番えたまま、ジリジリと摺り足で近寄ってくる。…今更だけど、那木に矢を向けられると初期ループの死を思い出すな。その後のループで那木を存分に好き勝手して、トラウマは解消されてるけども。

 ほれ、割と重いから気を付けろよ。

 

 

「……どう考えても、これで殴られると永眠する重さですわね。刺々しくて持ちにくい、あっ!?」

 

 

 あっ。

 

 

 おはようマイ・マザー一番星君グレ~ト~~の鎖が何かに引っ掛かり、バランスを崩す那木。投げ出される鉄球部分。落下先の、眠っている女。

 激突音。こけた那木もその上から頭突き。収納していなかった矢と弓が更にドサドサドサ。なんだこのピタゴラスイッチ。アルゴリズム体操でも踊ればいいのか。

 

 しかし、結構凄い音がしたな…。この子もかなりの石頭と見た。

 

 

 

「う……う……ん…」

 

「!?」

 

「…あれ……わたし…」

 

 

 那木、血ぃ出てる血ぃ出てる。この子も出てる。

 と言うかマジで目が覚めた。

 

 

「まさか、本当にこれで目が覚めたのですか…?」

 

 

 この呪具の効果か、それともミタマ『癒』の効果か。那木は普段から『癒』にしてるからな。

 何にせよ、結果的には殴った事で目が覚めたようだ。

 

 

「い、いえそれよりも今は止血を! あっ、無理に動かないでください、頭を強く打っているのです!」

 

「? ? ?」

 

 

 目が覚めた子は、頭を押さえて顔を顰めながらも大人しく那木の治療を受けている。

 那木、とりあえず包帯持ってくるけど、他に必要な物は? 薬草とか必要?

 

 

「いえ、それよりも先に白湯と、昼餉には粥をお願いします。林檎などがあれば、摩り下ろして持ってきてくださいませ」

 

 

 了解。こっそりモーニングスターを回収して、部屋を出る。

 とりあえずアサギに声をかけておくか。あの子がどんな子にせよ、過去の事を知っていて、面識があるアサギが居た方が話が早く進むだろ。

 那木に頼まれた事は通りすがりの子に任せ、アサギの元に向かう。…一応、寝ていた子が起きたが、まだ病み上がりなので大挙して見物に行かないように、と通達は出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサギに宛がわれた部屋に向かってみると留守だった。おかしいな、那木からはまだ安静にしてないといけないと聞いているんだが。

 隣の部屋の不知火に聞いた所、朝早くに起き出してウタカタに向かったらしい。

 何だろ。まさか任務を受けるつもりか? 流石にそこまで無茶はしないと思いたいが、とにかく休むのに慣れてないようだったし…ちょっと探しに行ってみるか。

 

 

 鬼疾風で駆け抜けること暫し。新手の鬼の襲撃と間違えられそうになりつつも、情報収集。

 『見慣れない女』という曖昧極まりない条件でも、至極あっさりと居場所を特定できた。この里のほぼ全員が顔見知りだもんなぁ。浅黄も里の方に来る事は殆ど無いし。今では見慣れない女を見たら、うちの子だと思え…とまで言われているらしい。実際その通りだ。

 アサギが向かったのは受付所。…まさかマジで任務受ける気か? 流石に木綿ちゃんや大和のお頭が止めてくれると思いたい。

 

 やや焦りつつも向かったところ。

 

 

「アサギさん…ですか? それなら、あちらの書庫にいらっしゃいますが」

 

 

 …書庫? と言うか、あそこって任務の記録とか報告書とか、鬼に関する資料を補完しておく場所じゃなかったっけ? 主に秋水の縄張りだ。

 

 

「はい、そうです。…任務、ですか? いえ、書庫の利用許可をとって、すぐに入って行かれましたよ。何だかお疲れのようでしたが」

 

 

 そりゃ、本当はまだ寝てなきゃいけない筈だしな。

 様子を見に来たんだけど、俺も書庫に入っていい? と言うか、そもそも見せていいの?」

 

 

「見せてはいけない資料は、あそこにはありませんから。実のところ、お父さんが保管しているから、どこにあるのか私も知らないんですよ」

 

 

 まぁ…受付嬢の仕事は、精神的に過酷だものな。知ってはいけない事や、知るだけで衝撃を受けてしまう事もある。

 大和のお頭が、そこまで娘にやらせる筈もない。…本音を言うと、受付嬢さえやらせたくないのかもしれない。死者が出た時、いの一番に報せを受け取る立場なんだしな…。

 

 ともかく、アサギが無茶をしていないようで何よりだ。いや、今ここにいる事自体無茶と言えば無茶なんだが。

 秋水、邪魔するぞ。

 

 

「どうぞ。アサギさんでしたら、貴方達からの報告書を主に読み耽っています。静かにしてくれて結構です。…なんか泣いていますが」

 

 

 …泣いてるのか。…いい意味での涙である事を願おう。

 書庫に入ると、独特の匂いが出迎えた。霊山の書庫もそうだったけど、紙の匂いって独特だよなぁ。ついでに言うと埃も多い。

 床を見れば、積もった埃に足跡が見える。それを追いかければ、アサギはあっさりと見つかった。

 書類の束を手に、片手で口元を抑えているようだ。

 

 アサギ、と声をかけると、振り返る。…目元に涙の痕が見えた。

 

 

「…頭領さん、何か用事?」

 

 

 ああ。伝えておく事があるんだが…それよりも、もう起き上がって大丈夫なのか? 医者の許可は?

 

 

「出たわよ。じっとしていると心労が異様に溜まるようだから、激しい運動をしない事を条件に動き回ってもいいって」

 

 

 ……どんだけ社畜根性が身に付いてるのかなぁ、この人…。

 で、真っ先にやってきたのが、この書庫? 何の為に。

 

 

「世話になるとは言ったけど、もう一人の浅木から聞いた事が全て事実とは、流石に思えなかったもの。どう言われていたのか知らないでしょうけど、褒め殺しなんてものじゃなかったわよ」

 

 

 過大評価されてるなぁ、俺。せめて、その評価を落さないように頑張っていくとしますかね。やらかしは無くならないだろうけど。

 で、結局何を見てたんだ? 何か分かった事や、疑問に思った事は?

 

 

「そうね…。少なくとも言われた事が嘘ではない事はよく分かったわ。あの子達に、よくこれだけ書類を書かせたものね。随分と苦心したようだけど」

 

 

 まぁ、な。やっぱり書類仕事が面倒だとか嫌だとか、そんな事しなくても鬼を倒せばいいんだろうって考えてる子は多かった。

 面倒なのは報告様式を工夫して簡略化させればいい。何が何匹出たか、自分で一から書かせるんじゃなくて、鬼の一覧表を作ってそこに数字を書き込む。その他の収穫の報告も似たような形式にした。自分で文字を書く必要を極限まで減らして、意識しなくても全員がほぼ同じ形式で報告できるようにした。報告書と言うのは、画一的な方が読み取る側も楽なのだ。

 嫌な理由の大半は、『面倒』『意味が無い』だから、それによって得られる利点を体感させた。俺の言う事なら大抵素直に聞いてくれるから、教育は楽だったな。それでも何とか使い物になる、って程度でしかないが。

 直接戦闘が苦手な子にはこっち方面を重視させて、補助を任せた。それを軽く見るようなら、書類地獄に叩き込む。

 

 鬼を倒せばいいだけって言う子には、今までそうやって鬼を斬っただけで、何が変わったかと問いかけた。

 無意味とは言わないが、10や20の鬼を斬ったところで、危険の排除にしかならないのだ。それによって得られた成果を持ち帰り、活用し、ようやく鬼を倒した事に意味が産まれる。

 と言うかぶっちゃけ、ちゃんと報告しないと、報酬に差がつくようにしてるんだよ。

 報告書が無ければ報酬から差っ引くんじゃなくて、報告書を出したら報酬があがるって伝えてある。元々全額渡すつもりで予算を確保してるんで、報告書が無い場合は差っ引かれてるも同然なんだけど。

 

 

「正直な話、これを見てもまだ信じられないくらいだわ。あの子達がこれ程の情報量を持ち帰るなんて。しかも、功を逸った抜け駆けも無い」

 

 

 

 そこはちょっと厳しく躾けています。

 任務の失敗を責めはしない。生きて帰れば上々。

 判断の失敗を怒りはしない。常に正解を引くのは不可能だし、結果的に正解だったかどうかは未来の更に未来になるまで分からん。

 実力と相性を鑑みて、任務に連れていけないと判断するのも何も言わん。

 結果的に失敗してしまうのは、どうしようもない事だ。

 

 だが、準備を怠り、報酬に目が眩み、身内を軽んじ、役割を弁えず、個人の評価のみを求め、己が自分の力の身で立っていると思う者は、確実に災厄を呼び込み、全隊員を危険に晒す。

 もしもそのような行為を行ったと判断した場合。

 

 

 それまでにどれだけ功を挙げていようと、絶縁の上で追放と処す。

 

 

「それは…」

 

 

 何かを口にしようとしたアサギは、不意に眉をしかめた。

 軽い処置だ、とでも言いかけたのだろうか? 確かに、あの子達の実力なら、今なら他所の里に行っても充分通用する。自分で居場所を作る事だって出来るだろう。

 

 だが、問題はそこではない。暗示の効果が未だに消えていない彼女達にとって、俺との縁切りは処刑宣告に等しい。

 どれだけ強くても、どれだけ他所で上手くやれるとしても、主に会えない状況が徐々に精神的な負担となっていき、最後には狂い死にしてしまう。

 

 彼女達にとって、絶縁・追放は、最後まで苦しんで死ねと宣告されるに等しいのだ。

 一方的な処刑の権利を握っているのは健全な状態とは言えないが、全体を死に至らしめる悪因を放置しておく訳にはいかない。

 

 

「よくそれで受け入れられているものだわ。その内、狂死覚悟の上で反乱されるんじゃない?」

 

 

 そこまで発展するかは分からないが、内輪もめの兆候ならもう出てるよ。具体的には、任務報酬の内訳でね。

 言い訳に思われるかもしれにないが、あの子達が人間として育ってきている以上、こればっかりは避けられん。

 …正直、一人一人に部屋割りしたのは時期尚早だったかな、と思う事もある。

 

 

「…そういう揉め事の種こそ、早めに知って摘み取りたいのだけども。どんな問題が起きているの?」

 

 

 一人一人に部屋が出来た事によって、段々と物欲も増してきたみたいでな。あれが欲しい、これを飾りたいい、夜食を常備しておきたい、晩酌したいとか。

 その為には当然ハクが必要になる。任務を受けられる子は積極的に受けるようになったし、ちょっとでも報酬を増やしたいと、苦手な書類仕事にも手を付けるようになった。 

 大体良い事尽くめだったんだが…鹿之助だけ報酬が多い、と言い始める奴が出てなぁ。

 

 

「鹿之助? …ああ、あの男の子ね。書類の記録によると、頻繁に探索任務に出ているわね。反面、大型鬼との戦闘には物凄く消極的。男性陣で連れ出して何度か戦った事はあるようだけど、目立った戦果は上がらなかったようね。報酬までは目を通してなかったけど…多いの?」

 

 

 うん、他の子達と比べて多いのは間違いない。それも理由がある…と言うか、うちの生命線の一つだぞ、鹿之助は。

 敵の居場所から、埋まった素材の場所まで見本があれば大抵探知できる。今度、瘴気の元を探知できないか試してみようと思ってた。

 

 敵の居場所を知る事が出来るというのも大きいが、それ以上に重要なのは、ハクの塊なんかも探知できるって事なんだよ。分かるか?

 日常的に探索に出てるが、その度に大量の換金素材を持ち帰ってくるんだ。

 アサギだったらこの重要性が分かるだろ? 資金…と言うか資ハクは人の世界で生きる以上、物凄く重要だぞ。ミタマの強化にも使えるしな。

 うちの子達の飯を作るだけでもハクが要る。全員分の飯代を、最初は俺の個人的な貯金から、或いは霊山の知り合いから援助してもらって遣り繰りしてた。

 

 それだけだったらまだ足りてるんだが、任務を受けた子達に充分な報酬を用意しようと思うと、どうしたって足りない。

 任務の報酬はウタカタも出してくれてるんだが、その一部を運営資金とすれば、当然報酬は減る。それじゃあ申し訳ないから、別の手段…鹿之助が確保してきたハクを報酬に当てている訳だ。

 つまり、皆の給料の大半は、鹿之助が拾ってくる換金素材から出ている訳だな。

 

 

「面倒な事してるわね。…ちなみに、あなたの報酬と言うか給与は? 運営資金とやらがそのままあなたの財布?」

 

 

 そんな事したら横領じゃないか。いや、確かに一時的に資金から払い出しする必要がある場合もあるが。

 俺の給与額はその時次第だな。一定期間内の任務報酬から、皆に対する給与と報酬、その他諸々の経費を引いて、残った額の一部を運営資金として貯めこみ、更にその残りをボーナス…あー、皆に特別報酬として渡す分を引いて…残った額が俺の給料。

 

 ま、俺個人は殆どハクを使わないんだけどね。武器防具はこの辺の鬼の素材でわざわざ作る必要もないし、施設の類は自作できるし、何か必要な素材があればその辺駆けまわって集めるなり、うちの子達に任務ついでに探してもらうし。

 何かの時に使えるから、ちまちま貯め込んでる。

 

 

「私も組織運営に詳しい方じゃないけど、…健全なのかそうでないのか、判断に困る運営ね…。まぁ、あの連中みたいに、得られた利益を殆ど中抜きしたり、後先考えず資金を食いつぶす訳じゃないのなら問題ないわ」

 

 

 お前もお前で組織に求める基準が低いな。と言うか、その連中と一緒にされるのは色んな意味で心外だぞ。

 人を好き勝手に改造する外道がどうの、じゃなくて、利いただけでも分かる低能阿呆っぷりと同列扱いされたくないというか。

 

 

「…そうね、人生で最大級の侮辱だったわ。ごめんなさい。…そんなのの下で働いてたのよね、私…………………気が滅入るから、この話はここまでにしましょう。ところで、この鹿之助と言う子…度々捜索任務について、護衛も付くのよね。私も同行させてもらっていいかしら」

 

 

 却下だ。

 

 

「…何故?」

 

 

 自分の体調を鑑みて言え。大方、うちの子達が大人しく、弱い鹿之助の護衛役を真面目にやってるか確かめるつもりなんだろうが、まともに動けないお前を行かせるはずないだろう。

 今ここに来ているのさえ、じっとしていると返って心労が溜まるからという、那木の苦渋の判断の結果なんだ。

 ここまでの道程でさえ、息が切れただろう。まだ顔が赤くなってるままだ。

 護衛される側を増やせば、当然負担も増える。しかも鹿之助と違って、敵や素材の探知という役割をこなせる訳でもない。せめて、無理なく運動が出来るようになってからにするんだな。

 

 ついでに言えば、鹿之助はうちの重要人物だ。心身ともに不安定な状態のお前を、異界の任務に同行させられる筈がない。

 

 

 

「……そうね、御尤も。ここは思っていた以上に労働環境がいい場所のようだし、お世話にならせてもらうわ。ところで、私に何か用があったの?」

 

 

 居心地じゃなくて労働条件というところに涙。

 用事はあったけど、一言報せに来ただけだ。

 

 眠ってた角がある子、目を覚ましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「    ぐふっ  」

 

 

 

 血を吐いた。診療所に担ぎ込んだ。

 迷い一つなく『心労』の診断を下された。

 

 

 

 

 

 アサギは里の診療所に任せ、屯所に戻る。

 目を覚ました子の様子を直接見に行こうとしたら、那木に止められた。

 いやもう殴らないよ? 目が覚めてるし。起きてる人をあれで殴ったら死ぬから。

 

 

「寝ていても死にます。…いえ、そこも問題でしたが、あの子には暫く男性を合わせない方がよいかもしれません。言動の端々から、男性に対する敵意が見え隠れしています。あなたと顔を合わせたのは、彼女が起きた直後のみですが…『自分の頭が痛いのは、さっき出て行った男が何かしたからではないか』と言われました」

 

 

 男性に対する敵意。男嫌いなのか…。あと俺のせいと言われて否定しきれんのが辛い。

 理由は分かるか? 過去の記憶は?

 

 

「封じられる前の事は、全く覚えていないようです。男性を嫌う理由も、自分では分かっていないと思われます。あなた達が彼女を解放した事を伝えましたが、『感謝はするけどきっと何か裏がある』とまで…」

 

 

 何だか知らんが、随分拗らせているようだな。アサギ同様、前に何かあったんだろうか? それとも、洗脳染みた行為で妙な性癖が植え付けられたか。

 …でも彼女、滅鬼隊の元になった人物の一人…だと思われるんだよな。暗示の類はかかってなさそうだ。

 

 

「詳細は分かりませんが、記憶もない状態で、心身ともに安定しているとは言えません。その状態で、嫌いな人物を近付ければ、やはり負担の元となります。医師として、それは認められません」

 

 

 …分かった。俺も、今すぐどうしても会わなければいけない理由は無い。うちの男連中にも、この部屋に近付かないよう通達しておこう。あっちから会いに来た場合については、その限りではない。

 だが、彼女は他の封じられている子達にどう対応するべきかの試金石でもある。経過観察ついでていいので、彼女がどういう人物か、どのような考えに基づいて行動しているのか、出来る限り纏めてほしい。

 そういった目で患者を診る事に抵抗があるかもしれないが、これはウタカタにとっても必要な事だ。

 彼女の価値観や行動原理が現代のモノノフとかけ離れたものであった場合、迂闊に里で自由にさせてしまうと、どんな諍いが起こるか分からない。

 

 

「…分かりました。患者が今後も健やかに過ごせるよう取り計らうのも、医師の務めにございます。………あと……その、お話は全く変わるのでございますけども」

 

 

 うん?

 

 

「私、治療や手術の類が全く行えなかったのですが」

 

 

 うん、今朝に自分でも言ってたね。

 

 

「…気が付けば出来るようになっておりました。あの凶器で怪我をされたあの方を大慌てて治療していると、ふと気が付けば」

 

 

 えぇ…。そりゃ包帯巻いたりするのも、治療っちゃ治療だが。

 

 

「簡単な手当てでも、以前であれば手が震えておりました。ですが、慌てはしたものの、手は淀みなく動き…。これは…つまり、まず殴りつけてから治療すれば、私はまた施術する事もできるという事でしょうか?」

 

 

 いや殴っちゃダメだろ。相手は怪我人や病人なんだし。

 …まぁ、克服の兆しが見えたって事にしとこうよ。殴り医師とか、藪医者ってもんじゃねーし。

 

 

 ところでもう一度話は変わるが、結局寝ていた子の名前は分かったのか?

 

 

「はい。どうやら『きらら』という名のようです。本人もいささか自信がなかったようですが」

 

 

 変わった名前と言えば変わった名前だが、その程度なら珍しくも無いな。

 ちなみに、あの角は?

 

 

「…聞いておりません。どうにも、触れてほしくないようで…気付いてない振りをしました」

 

 

 そうか…意識が無い間に看病されていて、本当に気付かれてないと思ってるなら、かなり頭がお花畑だが…。

 ま、何にせよ暫く安静って事だな。病人の看病を任せっきりにして申し訳ないが、よろしく頼む。

 

 あぁ、あとな、里の診療所でアサギが世話になってる。あの子…きららさんが起きたと聞いたら血反吐吐いてぶっ倒れた。こっちも暫く安静にさせとこう。

 

 

「アサギ様ー!?」

 

 

 折角手術とかも出来るようになったんだ。アサギの事も頼むわ。心労に手術が必要なのかは知らないけども。

 

 

 

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