堕陽月伍拾壱日目
凛子が初任務を受けに行くのを見送って、今日と今後の予定を考える。ゲームストーリー的に言えば、そろそろ中盤を超えた頃か。
この後は確か、指揮官であるゴウエンマ、塔を隠す結界を張るクナトサエとヤトノヌシ。キャラエピソードで言えば、速鳥と桜花だな。それが終わったらトコヨノオウを倒して、ストーリー完結。…続編が出てなければ、だけどな。
そこまで行けば、クサレイヅチが姿を現すだろうか。あいつが出てくるタイミングが、今一つ確信できない。
俺が死んだ時には出現してるんだろうが、その割には奴が居なければ死にそうにない状況で、唐突に姿を現す事もあった。
…実のところ、誘き出す方法に心当たりが無くもない。あいつは因果を喰らいに来ているのだから、とにかく大きく、大量の因果を集めれば、それを目当てに出てくる…んじゃないかな、とは思う。
問題はどうやって出てくるかだよな…。MH世界の時みたいに、ラヴィエンテ染みた超ド級災厄を引き連れてきたらと思うと…。
狩り取るだけなら、多分何とかなると思う。周囲の状況や、引き連れてくるオプションで大きく難易度は変動するだろうけども。
ただ、奴を仕留めると言う事は、因果を奪われなくなるという事で。…それはつまり、死によるリセットが効かなくなるという事ではないだろうか。
それでも叩き斬って千歳を取り戻すのは確定事項だが、それまでに誰か死んだらと思うと…。
今まで何だかんだと身内や近しい人間が死んだ記憶は無いんだよな。それも多分、死人が出たような因果は吸い取られて残っていないってだけなんだろうけど。
奴を目の前にした時、取り返しのつかない過ちを犯した後だったら? それを帳消しにできる手段が目の前にあって、それを無くす事を引き換えに千歳を取り戻す事が出来るとしたら。
…刃が鈍らずにいられるだろうか。
……考えても仕方ないか。元々、死んでリセットなんてものがあるのがおかしいんだ。
取り返しのつかない過ちも、毎度毎度無かった事にしていたらキリがない。どこで何を取りこぼすか分からないのが人生だが、それを防ごうとするのが努力する人生ってもの。
失敗が起きるより先に、あれを叩き斬ってしまえばいいだけの事。奴への怒りが喉元過ぎて、その後何かの失敗があった時、「あいつを生かしておけば」と後悔するくらいでちょうどいい。やり直しの効く人生なんぞ、終わりのない迷路でしかないのだ。
さて、そんな葛藤は置いといて、安の領域浄化作戦が今日の予定だ。
瘴気の元の場所は分かったし、それを守っていたと思われるダイマエンも倒した。その後に強力な鬼が移動した痕跡もないので、大した障害は残ってないだろう。
と言う訳で、初穂。お前、瘴気の穴潰しをやってみるか?
「…そうね。色々と工夫して、上手くやれそうな気がしてきたし、これ以上は実践しないと上達できそうにないわ」
俺としても、初穂のやり方を見てみたい。自分のやり方と違っているかもしれないし、同じやり方でも客観的に見れば新しい発見もありそうだ。
後は、護衛として誰を連れて行くかだが…うちの子達から2人出してもいいかな? 1人はあんまり戦わせたくないんだけど。
「こっちも人手不足は相変わらずだから、そっちから出すのはいいんだけど…戦わせたくないってどういう事?」
アサギを連れて行きたいんだ。連れてはいくけど敵と会っても戦わせず、見物だけさせたい。
最近は体を休めていたおかげで、大分回復してきたが、やっぱりうちの子達への不信感みたいなものが残っててなぁ…。
うちの子達が、暴走せずにちゃんと指示に従うところを確かめないと安心できないらしい。
「…どんな環境で戦ってたのよ…」
そういう事が信じられなくなっちゃう環境だ。聞いてやるな。大和のお頭でも涙を禁じ得ないんだぞ。
正直な話、うちの子達が前の職場の連中と同じだと思われるのは癪どころじゃないからな。向こう見ずな所はあるけど、ちゃんと考えて行動できるように頑張ってるんだぞ、みんな。…深く考えるのが苦手なだけで。
「よくわかんないけど、連れて行くならちゃんと面倒みなさいよ。率直に言わせてもらうけど、戦えない人を戦いの場所に連れてくる意味、分かってるのよね?」
当然だ。責任はとる。
さて、残りの一人は……いかにも冷静な奴を連れて行っても、アサギの不安払拭には弱いな。むしろ、直情的な奴がどれくらい冷静に動けるかを見せた方がいい。
となると…。
…やっぱ、手頃なのは雪風か。単純思考で押せ押せタイプ、好戦的で負けず嫌いな面が強い。そして意外と忠犬と言うか、認めた相手の指示なら素直に従う。問題は、認めてない相手に反発している時だが…まぁ、ここの集団に居る間は大丈夫だろう。
若干人選に不安は残るが、あんまり時間が無いからな。これがまだ手を出してない子達だと、任務前に18禁タイム作らなきゃならん。体感時間操作で時間を捻出するのは簡単だけど、ヤッた後に連れて行ったら流石にバレるだろ。初穂から「任務前に何やってんのよ」って視線が飛んでくるの確定である。それに、やるならやるで精根尽き果てるまで悦ばせてあげたいしね。
じゃあ、二人を呼んでくるわ。そっちも準備整えとけよ~。
雪風とアサギを探すが。
「雪風? 里の友達と遊びに行くって言ってたわよ」
あっさりと詩乃からそう言われてしまった。
おっふ、そう来たか。里との仲が良好なのに越した事はないし、急に決めた事だから仕方ないわな。
うーん、それじゃ誰にしようか。いかにも猪突猛進っぽくて、実際頭を使うのはあんまり得意じゃなくて、そんでもって割と忠実な奴…。
…ああ、あいつが居たか。舞華は?
「舞華? あの子はまだ任務を受ける為の試験にも合格してないし、人がいる所は好きじゃないみたいだから…」
となると…近場の森の中かな。あいつ、放火魔なところがあるから、周りに燃える物が沢山ある状況が好きだし。
先にアサギを探しておくか。
すまんな、詩乃。
「別にいいけど、無事に帰って来なさいよ。油断と慢心はどんな強者も殺す毒なんだから」、
おう。戦えない奴を連れて行こうとする時点で慢心してると言われれば反論できんが、世間知らずのお姫様を護衛している気で行くよ。
…実際にはうちの子達のお守りに近いけども。
アサギは至極あっさりと見つかった。体が回復してきたと言っても、あまり活発に動くタイプではない。
最近は何もない時間を楽しむ事も覚えたらしく、景色のいい場所でボーッとする事も多いようだった。それでも、ふと心に不安が過ると気になって気になって仕方なくなるようだが。
予想通り、今日は屋上で里の景色を眺めていた。…景色を楽しんでいるというより、定年退社した後に何をしたらいいのか分からなくなったおっちゃんみたいに見えるが…。
話しかけ、うちの子達の働きぶりを確かめてみるかと聞くと、一も二もなく頷いた。やっぱり不安だったらしい。
「…ところで、きららの事なんだけど」
うん? あの跳ねっかえりの嬢ちゃんがどうかしたか? 男と接触してないからか、今のところ問題があるって話は聞いてないが。
「どうも、鬼と戦いたいようなの。あの子は元々戦闘特化の子だったし、それが自分の役割だと思ってるのかもしれないわね。…それでも男と組むのは嫌だから、ここの子達と一緒にやれないか声をかけてるみたい」
…一人で突っ込もうとしたり、任務に関係なく異界に突入したりはしてないんだな?
「前だったらしてたわね。状況を多少は理解してるのか、見ず知らずの土地でいきなり無茶をする程馬鹿じゃなかったのか…」
前にアサギが喚き散らした、封印前の話を反面教師にしてんじゃね? 自分がそこまでお馬鹿さんだなんて信じたくない、って表情だったぞ。
しかし、あの子が任務ねぇ…。出るの自体は構わんが、あの態度で里の男に接するのなら問題だな。折角良好な関係なのに、不和を招きかねん。
…そもそも、あの子はどういう子なんだ? どうして男嫌いなのか、何か知ってはいないか?
「…博士が言っていたそうだけど…あの子は確かに、滅鬼隊の源流の一人よ。私も聞いた話でしかないけど、『舟』の中で倒れていたのを発見されたらしいわ。少なくとも、私や他の子達のような、作られた隊員じゃないわね」
ふむ…。『舟』の中に居たって事は、異世界から転移してきたって事だな。作られた隊員じゃない…元からああだった?
彼女がホロウみたいな出身だとすれば、異世界で鬼を倒す為に作られ、恐らくは集団で送りだされたのだろう。
「目を覚ました時には、相当揉めたそうよ。男性不信と言うより、人間不信と言った方が正確だった程に。治療すら拒んだらしいわ。…お構いなしに療養させたそうだけどね。それも、気遣ってではなく、ほぼ研究の為でしょう」
そこらへんは、当事者を知らんから何とも。
しかしそういう状況なら…ある程度の予想はつくな。
鬼を倒す為に送り出された戦団だが、戦いを乗り越える度に徐々に数を減らしていき、用意していた資材や備蓄も減っていく。
舟での移動を繰り返しているのであれば、恐らく外に出て気晴らしするのも難しかっただろう。
閉所に閉じ込められる事は、それだけで心理的な負担になる。
そして、戦いによる負担、閉所に閉じ込められる負担、未来が見えず徐々に追い詰められていった人間は…。
「内輪揉め、或いは生贄…ね。ありそうな話だわ。そこから立ち直ったと思えば、まだいい方…なのかしら」
さあね。どっちにしろ、今のままじゃ本人よりも周囲が困るのは確かだな。
しかし、本人が男嫌いの原因を自覚してないってのは厄介だな…。どこに地雷があるか分からんし、根拠のない感情は理屈じゃどうにもならん。
「…口説けば? 私達みたいに。あなたなら多少の男嫌いくらい、何とかなるんじゃない?」
それやっても、俺に対する態度しか改めないから意味ないだろ…。
ふむ、どっちにしろ、本人の事を知らなきゃどうにもならんな。余計な刺激を与えまいと避けてきたが、虎穴に踏み入らざるを得ないか。
…あー、久々だなーこの感じ。やっぱ人間関係の問題は苦手だ。