……うっへぁ…。想像以上の爆発が起きた。こりゃ火薬の量が多すぎたかな…。比喩抜きで地形が変わったんじゃないか?
里まで響く強烈すぎる震動。音と認識するのも難しいくらいの轟音だった。対爆発態勢をとって尚、強烈な衝撃で呻いている子達が居る。幸い、鼓膜が破裂したとか、目が飛び出たとかの致命的な損傷を負った子は居ないようだが…。
一方、塔はと言うと、後ろ向きにぶっ倒れているようだ。上手い事爆発を喰らってくれたらしい。全身から煙が立ち上り、脛毛もとい両足には幾つも傷がついている。塔本体にも、微細な罅が幾つも入っていた。
うーん、イイ感じ。
爆発って本来は効率のいい攻撃方法じゃないんだが、元になったのが大樽爆弾を作るのに使われる火薬だからな。物理法則を超越してダメージが入ってくれたようだ。
半ば、威嚇の為だけに爆発させたようなもんだったが…嬉しい誤算だ。
全員、次の準備に入れ! 動けない子が居たら、タマフリで癒してやるんだ!
手近な子にタマフリを使いながら聞こえているのか今一つ不安だが声を張り上げる。
塔は倒れはしたが、力尽きた訳ではない。また立ち上がって逃げるだろうが、また鬼に追い返されて迫ってくるのは目に見えている。その時までに、次の一発を放てるようにしておかなければならない。
何人か動き始めた子達が居るのを確認して、近場の木に登って塔の背後を双眼鏡で見る。
…塔を追い立てる鬼の群れも、流石にさっきの爆発に驚いたようだった。爆風の余波を浴びたのか、ひっくり返っているミフチやクナトサエが見える…あ、桜花が鬼千切で首を刈り取った。
混乱している鬼の群れの中で、主力陣がここぞとばかりに大型鬼を斬り伏せていく。…が、それでもまだ数が多いな…。
塔も起き上がり、背を向けて逃げようとしている。狙い通り、こちらを脅威と見做したようだが、背後の鬼達をどうにかしない限りまた戻ってくるだろう。
そしてその背後の鬼達は、今でこそ足を止めて桜花達と戦っているが、また無視して塔を追い立て始めるだろう。或いは、幾らかの鬼だけ足止めとして残すか。
考えてみりゃ、塔は突っ込んでくるのはヤバいし、その力でオオマガトキが引き起こされるかもしれないとは言え、能動的に動く敵じゃない。極論、放置していても危険は薄い。
…真に優先して排除すべきは、塔そのものではなく背後の鬼達だったか…。だから大和のお頭も、主力陣を防衛ではなく鬼達の排除に向かわせたんだろうな。その辺の戦略眼は流石である。俺もまだまだ修行が足りん…。
ともあれ、俺達が今集注すべきなのは塔の撃退である事には変わりない。
…鬼達をどうにかするのは…。
「派手な事をやった割には、あまり意味が無かったようだな。全く、これだから凡才は」
『でも景気はいいよね! 僕も近くで見たかったなー!』
振り返ってれば、いつもの仏頂面の博士と、カラクリの体でぴょんこぴょんこ跳ねている木綿季が居た。
……博士、木綿季? どうしてここに。
「どうもこうも、貴様らが手古摺っているから手を貸しに来てやったんだ。里が壊滅されては、私も面倒なのでな。流石に改造に時間が足りず、茅場がぶっ倒れた」
『倒れたって言うか、時間短縮の為に危険なやり方をしたら、改造は上手く行ったけど感電して気絶しちゃったんだよ』
何やってんねん、茅場…。と言うか、らしくないな、あいつがそんなやり方をするなんて。
いや、単にそれが最も効率がいいからやっただけか?
「それと、来ているのは私達だけではないぞ。ほれ、あっちだ」
指さす方向…里からの通り道に目をやると、そこには見慣れた二人が見慣れない恰好をして歩いてきていた。…訂正、一人は走ろうとしていたが、どうやら体力が尽きたらしい。
橘花と、大和のお頭だ。
ただし、橘花は普段の神垣の巫女衣装ではなく、動きやすさを重視したらしい下女のような恰好。…素材がいいから、それでも絵になるなぁ。今度はああいう恰好で…いやそれは置いといて。
大和のお頭も、いつもの黒い服ではなく、甲冑を着込んでいる。ありゃ確か、モノノフ特装暁…しかもかなり使い込まれている。
二人とも、その恰好は?
「我々も参戦するからな。流石にいつもの恰好ではいかんだろう。昔作った装具で、残っていたのがこれだけだったのでな。と言っても、今の俺は橘花の護衛役くらいしか務まらんが」
参戦ときた。
「はい、私達も戦います! いつもの恰好では、ここに来るのにも時間がかかってしまいますから、この格好で。 …できる事はそう多くないので、博士頼みなんですけど…」
「わざわざ敵の前に出る必要はない。…が、念には念を入れる姿勢は好ましい。お前に求めるのは神垣の巫女としての霊力のみだ。後は私と茅場が改造したこいつがやる」
『僕がやるって言っても、この体が勝手に動くだけだから、僕のやる事なんてないんだけどね。それはそれで詰まらないなぁ』
つまり、博士のびっくりどっきりメカで何かするつもりな訳か。それでどうにかなるなら、最初から使いたかったもんだが。
「やかましい。予め準備していたものではなく、必要になるであろう機能を予測して即興で作り上げたものだ。破壊力だけを高めて放つような代物ではないぞ」
まぁ、何でも構わん。…む、また塔が近づいてきているな。
二発目の爆発を使う。皆、準備に入れ。
それで、必要な機能って?
「簡単に言えば、結界の増幅だ。遠い場所に張る結界のな。塔を追い立てる鬼達が、斬り込んだ連中を相手にしないのだろう」
大当たり。いつから予測してたんだ?
「ふん、策を聞いた時からだ。そして遠い場所で、同じような事をする鬼達を見た事がある。その時も鬼が足を止めない事が最も厄介な事だったからな。対策を練っておくのは当然だろう」
前例あり、って事か。鬼がこんな風に、組織立って行動するのは珍しい事だと思うが…いや、それは今はいいか。
それで結界。塔と追い立てる鬼達の間に結界を張り、鬼達は主力陣が討滅。塔は…どうするかな。
「脅威を感じ無くなれば動かなくなるのだろう。最終的に討伐する事に変わりはないが、近付いて来ないのであればこちらも手を休めればいい。何なら、鬼を狩る連中の加勢に行ってもいいだろう」
…成程。大和のお頭、何か問題は?
「無い。俺の策が裏目に出るところだったが、いい所に策を持ってきてくれた」
「そう思うのなら、研究費と甘いものを寄越せ。おい巫女、さっさと始めるぞ。結界を張るには相応の力が要るが、覚悟はいいな」
「はい! 姉さまも、皆さまも命を欠けて戦っています。私だけ安全な場所に居られる道理はありません。…それに、力を使い過ぎたとしても、回復させてくれる方が居ますから」
うちの連中と同じような事言いよってからに…。…回復はさせるけど、、故意に力を使い過ぎたらオアズケすっからな。
おっと、もう一点確認。橘花が木綿季の体を使って遠方に結界を張る、これは分かった。そっちに力を割く事で、里全体の結界に影響はあるか?
「こいつの力の総量次第だな。ある程度の増幅機能も備えているが、その殆どは遠方に力を投射する為に充てられる。複数の結界を張るだけの力を絞り出せなければ、当然どちらかが薄くなる」
「大丈夫です! 橘花は負けません!」
「…やる気だけでどうにかなる問題ではないが、気迫の問題でもあるのだよな…」
何だか張り切りまくっている橘花と、諫めるべきかと悩む大和のお頭。
橘花としては楽しんでいる訳ではないだろうが、ある意味では望んだシチュエーションでもある。
かつては、「自分もモノノフのように自らの力で立って、路を切り拓いていきたい」と望んでいた。そっくりそのまま望んだ状況ではないが、自分も命を賭けてこの場所に立っているという事に、ある種の昂揚を覚えているようだった。
……今の橘花はなー、他のループで俺と関わってアレコレあった事から学んでいるし、妙な方向に振り切れて、変に度胸がついてるからなぁ…。
内心で、寿命を削る事を怯え嘆きながらやるよりはいいんだが。
取り敢えず言える事は、これを知ったら後から桜花がエラい事になりそうだって事だ。
『あれこれ言っても仕方ないじゃん。ここまで来たんだから、さっさとやってさっさと終わらせようよ。こうやって話してる間にも、鬼達は里に迫ってきてる…うわ、塔が近いね!』
おおっと、二発目の爆発行くぞ!
橘花、俺と大和のお頭の後ろに。自分用の小規模結界を張っておけ。
博士は……まぁ、平気だろ。
「人類の至宝たる私の頭脳を何だと思っている。おい橘花、私もお前の結界に入れろ」
「はい、では術を使います。…さっきの音は、離れていても体に響く凄い音でしたからね」
「地形を変える気か、お前は…。毎度毎度他に手がない状況だから何も言わんが、本来ならこんな策がそうそう許されると思うなよ」
大丈夫、ここの地形なら爆破し慣れてるから、後に響かない程度に出来る。
「そうは思えん爆発だったし、ここを何度も爆破した事があるように聞こえるが」
気にしない気にしない。静流、深月、準備はいいな? もう一発どーん!
…ふぅ、いい音だぜぇ…! 派手に行かなくちゃな、派手に。
…大和のお頭の目が怖いけど気にしない。これは塔を追い返す為に必要な事なのだ。
とは言え、行けてももう一発、それも威力も半減以下になるだろう。今のうちに手を打たなければならない。
「お任せください! 木綿季さん、お願いします」
「僕自信は何もしないんだけどなぁ…」
カラクリの3頭身体しかないから、大戦に参戦できないとぼやく木綿季を他所に、橘花は術を発動させる。
霊力がカラクリの体に入り込んでいき、内部でよく分からない動きと共に増幅されるのが分かった。
「よし、それでいい。木綿季、あちらに腹を向けろ」
「こう? …おわっ!?」
腹部からシャキーン!と音をさせながら、砲塔のような物が飛び出した。ギュオオオオオッと何かが高まる効果音と共に、キュリキュリキュリキュリ回転音、グゴゴゴゴゴゴ腹の虫、ズドドドドドクックドゥードゥルドゥー…。
…とにかくなんかよく分からん効果音を挙げながら、木綿季の砲塔から霊力が投射された。砲弾のように飛んでいき、着弾した場所に壁のような結界が出来上がる。
…成程、仕組み自体は鬼の手を遠距離仕様に特化させたようなもんか。行う動作を限定させる事で自動化してる…代わりに汎用性を無くしてるな。近距離での使用も出来そうにない。
それを差し引いても、力の増幅率と有効範囲が圧倒的…。この辺に新機軸の技術が盛り込まれてると見た。
「生憎根本から大外れだ。これは鬼と手とは全く関連性のない技術しか使ってない。私がそれしか作れないとでも思っているのか」
「な、なんか体の中で、体が自分の知らない動きをしてるっておかしな気分…」
…おい、木綿季がいきなり自爆したりは…。
「せんわ。つくづく私の頭脳を舐めているな。…まぁ今はいい。ほれ橘花、力を送り続けろ。木綿季は体を動かして結界の場所を調整し続けろ。腹踊りのように動かしてな」
「この頭身で腹踊りは無理があるなぁ…」
ぼやきながらも、器用に体を上下させたり左右に回したりしながら、結界の位置を調整していく。
設置された結界は相当に強靭なようで、進もうとしている鬼達を小揺るぎもせずに阻んでいた。炎やら岩やらが投げかけられるも、全て跳ね返していた。
鬼達は、突然現れた障壁を破ろうとする者、迂回しようとする者、自分達の背後に喰らい付いているモノノフ達を迎撃しようとする者が混在し、揉めているようだ。
「…ふむ、塔を追い立てるという点において統率は取れていたが、それ以外に関しては統一されていない…。やはり指揮官となる鬼は、あそこには居ないようだな」
「指揮官が近くに居ない状態で、あそこまで纏まって行動できていた…。鬼の気質としては珍しいな。強者が近くに居れば従うが、離れれば好きなように動くのが鬼の基本的な行動原理だというのに」
「大方、最初に命令して、後は勢いで走らせていたのだろう。血と狂乱に酔わせ、目の前の獲物だけしか見えない状態にしていたのだろうが……。確かに、鬼のやり口としては異例だな」
「…人が仕組んだ事だと思うか?」
「人かどうかは知らん。…が、それが出来るだけの知恵を持っている奴が居るのは確かだな。狙いはオオマガトキか…それとも…」
何やら博士が考え込んでいる。話をしていた大和のお頭にも反応しない。
…オオマガトキ以外に、目的なんかあるのかね。…いや、鬼だって別に人の世を滅ぼして得があるとは思えないし、オオマガトキの先に何かがあるのかもしれない。
まーその辺の事は置いといて。
おお、鬼達が次々に討伐されている。
流石に、まともに戦いになると主力陣は強いな。うちの子達がやるより討伐早いんじゃないか? うちの子達は火力が飛びぬけてはいるけど、状況判断とかが甘いからなぁ…。
塔はとりあえずの危険が感じられなくなった為か、橘花と木綿季で張った結界から少し離れた所で腰を下ろしている。やっぱりあれの行動原理は、近くに危険があったら反射的に逃げ出すってだけで、状況判断力は無いみたいだ。じゃなければ、自分を追い立てていた鬼の群れが近いというのに呑気に休むなどしないだろう。
この間に、俺らも態勢を整えるか。まだ鬼が全滅した訳じゃないし、もう一騒動ある気がしてならない。
塔を追い立てる作戦を考えたのがどんな奴かは分からないが、ここまでお膳立てできる奴なら、次善の策を用意してないとは考えにくい。
何が起きてもいいよう、気を引き締めないと。