うちの子達に激を飛ばし、各種補充・回復を急がせる。
…疲れ切っていた子達には、静流と同じ方法で強引に回復させたりもした。それでも消費した砲弾その他の量が非常に多いので、もう一度砲撃するとしてもさっきの8割程度が限界か…。
「若! 変な手紙が来た!」
鹿之助? 変な手紙って…伝令とかじゃないのか。
「いや、何ていうか……鳥が持ってきたというか…俺の頭の上に落としていったというか…」
鳥ぃ? ……ああ、そういう事ね。送り主に心当たりがある。見せてみな・
動物が運んできたって事は、虚海なんだろう。どうして鹿之助宛てなのかは分からないが。
しかもこんな怪しい渡し方…いや、確かに速鳥から前例を聞いているけどね。とにかく、問題は中身だ。どれどれ…。
……………。
…大和のお頭、やばい。見事に嵌められた。
「どうした? その手紙は?」
速鳥へ情報提供してた奴からの手紙。このままだとどうやってもオオマガトキが起きる。
「何!?」
総員に伝達しろ!
次に塔が戻ってきたら、再度威嚇を始める。だが塔自身には絶対に当てるな! 威嚇に留めろ!
「はぁ!? 何言ってんだよ若! 当てずに追い返すなんて無茶だろ!」
事情が変わったんだよ。このままぶち壊すのはまずい! いいから全員に伝えろ!
塔の力が弱まってる、逃げる為だけに貯えられた力を使ったんだと思い込んでたが…違った。
塔は貯め込んだ力を熟成させていたんだ。オオマガトキは単に大量の鬼の力があれば起こせるものじゃない。雑多に籠められた力を一つにまとめて、特定の性質を持たせる必要がある…と、ここに書いてある。
「事実かどうかの確認が出来んが…説得力はあるな。餓鬼の力がいくら集まったとしても、オオマガトキを開けるかと言えば怪しいものだ。霊力とて、別人の力をただ重ねるだけでは何の効力も期待できん」
鬼千切・極だって、集めた力を練り合わせてから高め、放つしな。
逃げ回っていた塔の中では、貯め込まれていた力が徐々に馴染んでいっていたんだ。
逃走にも力を使っているから、全体の量としては目減りしている。完全なオオマガトキを起こす事はできないが、ここら一体を瘴気の海に沈めるくらいの事は出来るそうだ。
発動条件は、塔から力が解放される事。
「つまり…破壊すれば…」
その場でドカン、って事かな。直接破壊以外でも、内部の圧力を貯め込むだけの元凶さがなくなれば、耐えかねて噴出する可能性もあるそうだ。
これが鬼達の本命って事か…。
塔が里に突っ込んで大損害を出せばよし、もしも撃退されれば塔にそれだけ損害が出来ている。つまり破壊、ないし力の噴出がしやすくなる。例え追い返されて塔が他所に逃げたとしても、今度は鬼達だけの力でぶっ壊せる程に脆くなっている…。
「対策は書かれていないのか? 噴出する力を、ごく少量ずつにするなどはどうだ?」
「無理だな。最初から噴出の為の機構がついているならともかく、あれでは少しでも漏れればその周囲から崩壊していくだけだ。…さっきの爆破が利いたらしいな。もうあちこち罅が入っているぞ」
博士は通常通りの平静な…聞きようによっては他人事のような口調だが、僅かに眉間に皺が寄っている。
鬼の手でどうにかならんかな。
「貴様の想像が追い付けばな。あの塔全てを包み込み、力を外に漏らさず、また貯めこまれている力を消し去ってしまう。出来るか?」
…いやすまん、流石にそこまで精巧な想像は無理だ。どっかで綻びが出て、そこから漏れる。破壊するだけならともかく、そんな器用な事が出来る程、俺も熟達できてはいない。
破壊は論外、別の場所で逃がせば鬼がやるだけ。…詰んでない?
「たわけ、詰んでいるなら盤面を破壊するまでの事だ。天才に諦観は無い」
「では、どうなさいます? 私と木綿季さんも結界を張り続ける力は残っていますが、追い立てる鬼達の数が多く、討滅には時間がかかるようです」
「我々だけでは思いつかんなら、この手紙の送り主に知恵を借りるのはどうだ」
『でもどこにいるのかな。鳥を使って渡してきたなんて、接触するつもりも、自分の居場所を教えるつもりもないんじゃない?』
「その気があるなら、最初から対策なり何なり書いているだろうしな。とは言え、確かに現状では手札が足りんな。頭数は揃っているが…」
博士がうちの子達にチラリと目をやる。…そして無言で目を伏せ、首を振った。
ああうん、一部を除いてうちの子達は頭脳労働に弱いからね…。その脳筋っぷりは普段の生活にも表れていて、比較的近い場所で暮らしていて接触する機会が多かった博士もよく知っている。博士は博士で、茅場同様に研究に熱中し過ぎて倒れていたりするなど、真鶴に結構な苦労をかけているのだが。
うちの子達を頭脳労働の頭数に数えるのは、俺も賛成できない。
…頭数…。
頭数、か。
「…どうした。何か浮かんだか?」
ああ。以前から案として考えてはいたんだが、正直言って上手く行くか微妙な所だ。
ムスヒの君と同じ事をする。発動させたオオマガトキを、抑え込むんだ。
「ムスヒの君と…? ムスヒの君ってあれだよね、モノノフの始祖になった人。多くのミタマを従えて…なんだっけ」
「ざっくり言えば、オオマガトキを打ち破った、だな」
「お前ら…自分達の始祖の伝承くらい、しっかり覚えておけ…。だが、伝承にもムスヒの君がどうやってオオマガトキを打ち破ったかは伝わっていない。何か知っているのか?」
ああ。鬼が時空を乱す力を持っているのは、当然知っているよな。オオマガトキってのは、要するに時間軸が滅茶苦茶に乱れた結果作り出される、異界に通じる穴だ。
この時間軸が乱れるってのが肝でな。
実際に何がどういう風になってるのかは俺にも分からんが、これを正しい順番で並べ替えてやる事で、生み出された異界への穴を埋める事が出来る。
「…曖昧な概念を用いて説明しているのは気に食わんが、乱れているのなら正せばいい。道理ではあるな」
博士も納得したところで、次の話だ。
ムスヒの君は、一人で多くのミタマを宿せる希少な体質だった。オオマガトキに挑んだ時も、それらを宿していた。そしてミタマ達が正しい順番で繋がる事で、時間軸の乱れを正した…らしい。
必要なのは、こう言っちゃなんだがそんじょそこらのミタマじゃない。時代に大きな影響を与えるような、偉人・英雄・英傑のミタマである事が条件だ。
「…時代を代表する大人物が、時間軸の乱れの近くで正しい順に並び、結びを成す。ただ並ぶだけでなく霊的に繋がるのであれば、乱れた空間にある程度の影響を及ぼしたとしても不思議はない」
「しかし、その多数のミタマはどうするのです? 里にも、あなたの所にも、複数のミタマを宿せる人物など…」
単純だよ。
一人で無理なら、皆でやればいい。
一人に一つのミタマしかないなら、100人1000人で手を取り合って、100と1000のミタマを繋げればいい。
一人に宿ったミタマの力が微弱だったとしても、束ねて大きな力にすれば、オオマガトキを防ぐ事ができるかもしれない。
つーか、本当の「結びつき」ってそういうもんだろ。
「…お前の話が事実なら、ミタマとミタマを正しい順番で結び付けなければならないのだろう?その順番はどうする。誰が誰のミタマを宿しているかなど、俺も把握してないぞ。基本的に秘める事だ。一人一人聞いて回って、正しい並び順とやらを導き出す時間は無いぞ」
「そもそも本当に結びつけると思うのか? 3人居れば派閥が出来る、それが人間の習性だ」
別に全員が全員と結ばれなくてもいい。ただ普段から比較的仲のいい相手を2人見繕って繋がって行けばいい。誰とどうつながるかは、俺達じゃなくてミタマ自身の判断に委ねる。ミタマだって、自我や記憶、判断能力を持ってるんだ。隣にいるミタマが、自分よりも前の時代に居たのか後に居たのかくらい分かるだろ。
普段からミタマにあれこれやってもらってるんだし、今くらいはミタマの指示に従って行動してもいいじゃないか。
「…有り、だな。それぞれが繋がる相手を探し、班を作って大きくしていく。大きくなった班同志で、その中の一人と一人が繋がる事ができれば、二つの班が統合される」
「それで正しい順に並び変えられるとは…いや、ミタマが結びつく事自体がオオマガトキに影響を与えるのであれば、無理に全員が繋がらなくてもいいのか。一発勝負、それが正しい理論であるという保証もないが…他にすぐ打てる手もない、か」
博士と大和のお頭は、苦々しく塔と鬼達を見た。
追い立てる役の鬼達は、モノノフ主力部隊に狩られて大分数を減らしている。もう残っているのは烏合の衆と言っていいだろう。それでも里に近付かれるのは死活問題なので、一匹残らず狩り尽くさないと安心できないが。
塔はと言うと、自分の状況を理解しているのかいないのか、橘花と木綿季が張った結界近くでボケッと座り込んでいる。
「…いや、違う。あれは座り込んでいるのではなく、動けなくなっているのだ。足の動きをよく見てみろ」
脛毛だらけの足なんぞ見てもなぁ…。イテッ、冗談だよ殴るなよ博士。
で、足? …痙攣してるな。成程、立つに立てなくなっているのか。
さっきからドンバンドンバンやってたから、傷でも受けたか? …いや、不自然なくらいに傷が無い。少なくとも、さっきの爆発はまともに浴びた筈なのに。
「大方、脛毛が鎧代わりになったんだろう。塔本体には傷が入っているというのにな」
脛毛にそんな効力が…。悪路を平然と走り抜けて傷一つ無かったのは、脛毛と異様に分厚い足裏のお陰と言う事か。
そんな心底どーでもいい事はともかくとして、傷を受けた訳でもないのに走れない…捻挫したという訳でもなさそうだ。
純粋に、体を持ち上げる力が無くなっているようだ。
「走る力が無くなったというより、走る必要が無くなったから、そちらに力が回されなくなったのだろう。塔自身に自覚があるかは知らんがな。いずれにせよ、塔が走れなくなった以上、鬼が接近する前にどうにかしなければならん」
「そうだな、結界を超えて鬼が塔に近付けば、ここぞとばかりに破壊してオオマガトキモドキを起こすだろう。…ここで陣取る必要は無くなった! 総員、塔の元まで急行するぞ! 残った鬼達を討伐してから塔に対処する!」
大和のお頭の号令に、里のモノノフ達が一斉に動き始める。うちの子達にも同行するよう伝え、俺も一足先に…と思ったが。
橘花、お前も来るんだよな。
「ええ、勿論です。鬼達を足止めする結界を張り続けなければいけません。 ここで私と木綿季さんだけ取り残されても困ります」
ま、そうだな。よし、木綿季、俺の頭の上に乗れ。橘花は俺が背負っていく。
揺れないように走るから、そのまま結界は張り続けてくれ。
「お任せ! 速度出して行こう!」
「あなたに背負われるのも久しぶり…いえ、私自身は初めてでしたね。繋がったまま山野を駆けた事もありましたが。あれもまた中々に刺激的でした」
それはまた今度、カタがついたらな。…大和のお頭に妙な事聞かれるから、そーいう事は言わないように。
さて、向こうに着いたら…。
「一応言っておくが、そのまま参戦するような事はするなよ。お前のところの連中を取りまとめてもらわねばならん。先程の策を使うのであれば猶更だ」
…むぅ、ちゃっちゃと鬼を片付けた方がいいと思うんだが?
「その間、橘花を守る者が居なくなる。口惜しいが、万一鬼に接近されたり塔が暴れ出したりしたら、俺や里のモノノフでは力不足だ。お前の所の連中も、護りは苦手だろう。間違いなく最強戦力のお前を、橘花から離したくない」
…分かった。大和のお頭の判断に従うよ。
確かに、俺達が塔を囲い込んでも、大人しくしていると考えるのは楽観が過ぎるしな。
それじゃ行くぞ。…博士は?
「もう行った。対象を観察するなら、近くで見るに越した事はない。と言って」
相変わらずだなぁ…。よし、行くぞ!