-----------------------Side 滅鬼隊(鹿之助)--------------------------
よっ、俺、鹿之助。
ウタカタの里に滞在している、傭兵部隊……みたいなものの一員だ。本当なら、『滅鬼隊』って名前があるんだけど、どーも若様がその名前が好きじゃないらしくて、あんまり使われないんだよな。
まぁ、その滅鬼隊って、霊山で都市伝説扱いされている隠密部隊の事だったり、その実なんだか酷い扱いをされていた、色々な意味で後ろ暗い組織の名前らしいから、別の名前にしてもいいんじゃないかなって思ってるけど。
諸手を挙げて賛成しそうだよな、浅木さんとかアサギさんとか。
隊の名前は置いといて、若様がウタカタを離れてから1日。若様と触れ合えない女性陣は、徐々に精神的に不安定になっていくと言われているけど、流石にたったこれだけの時間で発症する程じゃないようだ。
那木さんとかに言わせると、『自分は大丈夫だ』って言い張り始める辺りから危険らしいけど…。
本当におかしくなっちまったら、どうにかして止めるしかないよなぁ。万一、ウタカタとの間で責任問題にでもなったら……うぅ、考えるだけで恐ろしいよ。
もしもその『万が一』が起きてしまった時、重要になってくるのは普段の言動だ。
これは神夜さんに言い含められた事なんだけど、多少の問題があっても普段から信頼を得ていれば、一度や二度はどうにかなる。許してくれる。逆に、小さな問題がでも日頃から疎まれていれば、致命的な汚点に仕立て上げられる。
『若様を見てれば分かるでしょう』って言葉が、物凄い説得力だった。
まぁ、その後に明日奈さんが『戦狂いのあんたも似たようなもんでしょ』とも言ってたけど。
そういう訳で、俺達…俺、骸佐、権佐の男三人衆は、主にウタカタのモノノフ達との交流を深めるよう命じられた。
別に、特別な事をしろって訳じゃない。俺は前から、資材やハク、それに敵の探知能力を目当てに頻繁に任務に誘われる。骸佐や権佐は、主に討伐系の任務に。それになるべく応じて……言葉を飾らなければ、『貸しを作れ』って事かな。
今朝も探索に同行した。成果は……資材とかより、大型鬼を見つける方が多かった。成果という意味ではがっかりだけど、その分危険を減らすという意味では貢献できたし、手前味噌ながらよくやった方だと思う。
ただ、探索に向かったのが、オオマガトキもどきが起きそうだった、あの塔周辺なんだよな。里にも近いし、場所が場所だから、あんなに大型鬼が居るって言うのはちょっと問題じゃないかな…。
報告には挙げておいたし、ウタカタのお頭にもあっちのモノノフから連絡されてる筈。何事も起きない事を祈っている。いや本当に。
少し遅い昼飯を食おうと思って、お気に入りの蕎麦屋に入ったら、見知った顔が集まっていた。
「あれ、骸佐、権佐、それに二人も」
「ん? ああ、鹿之助か。飯食うなら座れよ。奢らないけど」
「むしろ奢ってちょーだい。今日も探索行って、設けたんじゃない?」
「奢らないよ…。今日はハクより鬼が沢山見つかって、逃げてきたようなもんだから」
「討伐しちまえばよかったじゃないか」
「ま、鹿之助は直接戦闘が苦手だからな。実力よりも、萎縮する癖が問題だ」
「うぐ…」
権佐の容赦ない、的確な言葉が突き刺さる。分かってるよ、自分が必要以上に臆病だって事は。
「無意味に勇敢になられるよりはいいんじゃないか? 宝探しの最中に、鬼に向かって突撃されちゃ敵わんぜ」
「そーね。あんたと一緒で、逃げる隠れるに徹してればいいんじゃないの」
他人事丸出しの口調で慰めて…多分慰めてくれてるのは、いつもの双子モノノフだ。
思いっきり欲得ずくと言うか、行動原理が酒・ハク・怠けるな駄目人間なんだけど、付き合ってみると悪い連中じゃない。いい奴とも言い辛いけど。
「にしても、これだけ揃うと流石にちょっと狭いな。すみません、座敷とか使っていいですか?」
「構いませんよ。ご注文、そちらに運びますね」
ぞろぞろと連れだって座敷に入る。あまり使われている部屋ではないようだ。
「そういえば、4人とも知り合いだったのか?」
「いや、ついさっきまで満席だったんで、相席になっただけだな。鹿之助とよく一緒に居るってくらいの認識はあったが」
「そうね。あたし達も、あんたらの隊の事はあんまり知らないもの。女ばっかりの中で、数少ない男だから印象に残ってたけど」
「あー、じゃあ自己紹介くらいしとくか。俺は和真。こいつは亜玖阿だ」
「…失礼ながら、珍しい名前だな。確か……異国の言葉で、水…という意味だった気が」
「ああ、曽婆さんが外つ国人だった…らしいんだけど、とっくに死んじまってるから何も分からなくってな」
「まぁ、日ノ本人離れした美貌だって自覚はあるわよ~」
…その美貌も、真昼間から酒を飲みまくっているようでは台無しだな。
しかも、既に5本目のようだ。酒瓶が転がっている。
「別にいいじゃない。私はもう、今日はやる事ないのよ。文句言われる筋合いはないわ」
「やる事あっても、飲む時は飲むけどな、この馬鹿は…」
呆れたように言う和真。だけど、俺は忘れていない。。以前に彼と一緒に受けた任務で、口元から酒精が漂っていた事を。
「おっと、俺は権佐。鹿之助が世話になってるな」
「骸佐だ。話は聞いてるぜ。ハクの力で戦う、って発想は結構面白い」
「…い、いや、頭領さんもそうだったけど、そんなに真剣に評価されても困るんだけどな。そんなに真剣に考えてた訳じゃないし」
「そうね。大体あんた、本当にそんなハクがあったとしても、戦うどころかお酒に次ぎ込むか、霊山まで行って遊女屋あたりで散財するだけじゃない」
「てめーは妙な詐欺に騙されて、一文の得にもならない塵芥を仕入れてきそうだけどな」
「どうどう。…ハクと言えば、この前の戦いでの報酬はどうなったんだ? 結構な実入りだったろ。…まさか、それも全部酒に…」
マジかよって顔をした骸佐に、和真はパタパタと手を横に振る。
「いや、流石に俺もそこまで散財しねえよ。多少は武装を強化したし、将来的に楽して暮らせるだけのハクは貯め込んでおきたいしな。ただ、報酬が大きくても、やっぱ支出がなぁ…」
溜息を吐く和真。隣の亜玖阿も、少し苦々しい表情をしている。基本的に能天気な彼女が、こんな顔をするのも珍しい。
しかし、支出?
「支出って……そんなに金を使うような事、あるのか? そりゃ武器強化とかにハクは必要だけど、そんなに頻繁にできるもんじゃないし」
「だよな。ミタマに捧げて強化したとか?」
「…博打でも打ったか?」
それぞれの考えを口にするが、2人から向けられたのは呆れたような、そしてそれ以上に妬ましいと言わんばかりの視線だった。
「何言ってんのよ。生活費よ、生活費! 食費は勿論、いざと言う時の薬の備え、破れた服や布団の買い替え、道具の手入れ! 炭一つとっても有料なんだから! 里の中で生きるって事は、一秒ごとにハクが! お酒の為に使えるハクが減っていくのと同じなのよ!」
「だな。主力部隊とは言わないまでも、中堅どころくらいになって任務を引き受けて行けば、もうちょっと懐も温かくなるんだけど、俺らじゃ危ないってもんじゃないからな」
力説する亜玖阿だが、正直今一つピンと来ない。
考えてみれば、俺達に限らず、隊の中でそう言った金銭の問題を意識しているのは極一部だ。
食事はほぼ上げ膳据え膳状態。担当になっている時は料理も片付けもしているとは言え、仕入れまでやっている訳じゃない。仕入れをするにしても、『限度はこれだけ』と数字を伝えられるだけで、その数字の根拠になっているのが何か、それを超えたらどうなるのか、それを稼ぐのにどれだけの労力が必要なのか意識した事もない。
消耗品も、皆で使う物であれば若が作るなり購入するなりしてくれる。
家賃や税を取られる事もない。…いや、税に関しては任務の給与から天引きされているので、意識してないだけか。
金がかかるような趣味もない。…と言うよりは、趣味を見つけられている奴が非常に少ない。
とにかく、ハクを使用する機会が非常に少ないのだ。強いて言うなら、こうして里に飲み食いしにきている時くらいか。それにしたって、ハクが無ければ隊に戻って飯を食えばいいだけ。
ハクが大事である事は、散々言い聞かされている。だが、それが無くなる事についての危機感は非常に薄い。支出の必要が非常に少ない為、任務を受けていれば勝手に溜まっていく…くらいの認識しかないのだ。
改めて自分達の状況を考えると、、親の庇護下でお小遣いを貰っている子供同然だ。尤も、そのお小遣いは任務と言う名の『お手伝い』をして稼いだものなので、自力で稼いでいると言えなくもないが。
「あ゛ー……折角、結構な報酬が入ったのになぁ…。鎧の修繕とかやったら、自由に使える金が殆ど無くなっちまってさぁ…。あんたらのとこの頭領が羨ましいぜ。この前の戦いだって、あんなでかいのをほぼ一人で押し返してよ。あんだけ強けりゃ稼ぎ放題だろうに」
「そりゃ若はな…。あの人は俺らとは別次元だからな…。俺達みたいに弄られたって訳でもないのに、何なのかねえあの強さは」
権佐がしみじみと呟く。滅鬼隊の事情についてはあまり説明されていないので、弄られた云々は口外すると不味いかもしれない。
まぁ、和真なら大丈夫だろう。何となくヤバい裏事情を聞かされそうだから、聞かなかった事にしたな。彼は保身に定評のある男なのだ。亜玖阿は酔いが回ったのか、ひっくり返って腹を出して寝ていた。
「お前らから見てもそれくらいなのか…。今だから言うけど、最初に来た時は里の皆から気味悪がられてたんだぜ。今まで何度援軍を要請しても断ってた霊山から、いきなり一個小隊が送られてきて、しかも美形で強い奴らばっかり。何かあると思うのも当たり前だろ」
「最初は分からなかったけど、今は『ああ、あれってそういう事だったんだ』って思い当たる節はあるな…」
「そんな事問題にならないくらいに助けられてるから、あっさり疑念も消え去ったけどな。でもあの頭領さんだけはな…。なんだ、その、そっちの人達は大体お手付きって思われてる。女衆からの軽蔑が…」
「そこは男からも軽蔑していいと思うんだが」
「いや、正直あそこまで行くと軽蔑どころか尊敬するわ、心の底から。そこでひっくり返って寝てる奴を見てれば、現実の女ってのは死ぬほど面倒くさいってよく分かる。それを何十人と侍らせて大した軋轢も生じさせないとか、尊敬以外にどうすりゃいいんだよ」
「妬めば?」
「妬めねえよ…。女だらけの中に自分だけ男とか、肩身が狭いってもんじゃない」
「それは本当にその通りだよ。だから俺達も、男3人で固まって行動してる事が多い。…若を連れて行こうとすると、女連中の目が厳しくなるんだ」
「あー、だから女の連中に比べて、お前らをこっちで見かける機会が多いのか。…だったら、この後探索に行かないか? そっちの頭が弱いのは、酔いが回って暫く起きないだろうから、この4人で」
「俺、午前中にも行ったばっかりなんだけど…」
「儲けも無かったし、すぐに逃げたから疲れてもいないだろ。戦闘は骸佐と権佐に任せればいいじゃないか。それに鹿之助の索敵が加われば、普段は危険だから入り込めない異界で荒稼ぎも…」
「別に俺達は構わんが、お前も少しは戦えよ。手を貸すくらいならともかく、いいように扱われて力の安売りをするようじゃ、他の連中にも迷惑がかかる」
「…やっぱり、あんまり深入りしない方向で…」
掌を返した和真に呆れたのか、骸佐が俺に目を向ける。「こいつ大丈夫か?」って事かな。
言いたい事は分かるし、危険からは全力で逃げまくる奴だけど………………え、ええと…それを打ち消す程の長所が………わ、悪知恵はある。…つまり利用されてるって事で…と、とにかくこれでも、せこいだけで悪い奴じゃないから!
自分でも今一つ、大丈夫だと太鼓判を押す事ができなかったんで、丁度やってきた蕎麦を誤魔化すように掻き込んだ。