-----------------------Side 滅鬼隊(詩乃)--------------------------
どうも、詩乃よ。滅鬼隊員の名前としては、あやめだけどね。
もうその名前で呼ばれる事もないでしょう。あやめと言う名前を知っているのは、以前からの記憶を保っている浅黄や紫くらいだもの。
そう考えると、ちょっと感慨深く…もないわね。私にとってあやめの名は、霊山でいいように使われていた、陰鬱な記憶を呼び覚ます物でしかないから。
ま、どうでもいいわね。私は詩乃。自分から名乗り始めた名前だけど、霊山では呼ぶ人は居なかった。だけどここには居る。それだけで、私がここに留まる理由になる。
それはそれとして、最近、隊の中で注目が集まっている道具がある。
以前からちらほらと話題に上がっていたのだけど、あまり突っ込んだ事を聞くのも…という、今更極まりない遠慮で放置されていた事だ。
それを使っているのは、神夜と明日奈。
物が物だけに、目にする機会は限られているし、目にしたとしても一般的に流通している物ではないから、奇異の目を向ける事の方が多かった。
あの人は大好物みたいだけど。
その道具とは…。
「「私達の下着?」」
「ええ。注目が集まっているの、知らない?」
この二人が付けている、『ぶらじゃー』だ。
最初に私が目にしたのは……まぁ、言うまでもないけど、一緒に裸になる時だ。何だろうとは思ったけど、その後に無茶苦茶にされてしまった事で、そのまま放置。任務に出る前に禊をする際に目にした事もあったが、改めて聞くにも気を逃してしまい、よく分からないがお洒落の類だろうと思っていた。
あれを付けていると、夜毎の楽しみが激しくなるという話もあり、気にはなっていたんだけど…それとは全然違う方向から話が湧いて出た。
里のモノノフ…特に那木からだ。
最近の那木は、里よりもこちらに居る事が多い。元々、私達の(或いはあの頭領の)監視役として遣わされてきたのだけど、今は身も心もこっち側の生活に染まりかけているようだ。と言うか、食われたのが見え見えだ。
その那木が、何度か里に戻って同僚達と話した時に、色々と情報を垂れ流しにしてしまったらしい。勿論、患者の情報や、漏らしてはいけない事までは話していない。それこそ、こちらの生活でどんな事があった、嬉しかった、便利だった、珍しい物があった等の世間話程度だ。尤も、それが切っ掛けになって、私達の部屋の道具を一部でも手に入れたい、みたいな話が持ち上がったらしいけど…。
一般の里人達には、そう言った生活を便利にする物が注目されたのだけど、女性モノノフの場合はぶらじゃーの効能に注目した。
即ち、揺れる乳の支え・抑え。
死活問題よね、モノノフとしても女としても。
前線で戦う女性モノノフは、大抵は晒しで胸を抑えている。…抑える程無い、という例外も居る。胸があまり大きくなるのは、戦う者としてはあまり歓迎できる事ではない。重りが増えるようなものだから。
女性としては……微妙な所ね。大きければいいという物でもないけど、無いと気になる。大きすぎると奇異の目を、時には欲望の籠った目で見られる事も珍しくない。気にした所で、大きくも小さくも出来ないのが悩ましいところだわ。ただ、型崩れさせたくないのは共通ね。いつまでも綺麗な姿でいたいものよ。
晒しは戦う時には必須だけど、無理に抑えつけている物でもあるから、形が悪くなる原因にもなる。那木もそれは例外じゃないわ。
……今までは、半ば伴侶を得る事を諦めていたようだけど、食べられちゃって色気が出てきたんでしょうね。最近、美容の為の運動をしているのと見かけたわ。
そこで那木が注目したのが、神夜。改めて考えると、凄い大きさしてるもの。うちの中でも、対抗馬はきららくらいじゃないかしら。
で、その神夜はあの通り、晒しも巻いてない、目の毒極まりない恰好で、斬冠刀を振り回して大暴れしている。だって言うのに、胸は震えるくらいで、動きが阻害される様子は殆ど見えない。
更に言うなら、巨・美・敏と三拍子揃った天然物だ。…そんな物を振り乱されて、里の若者達の性癖が拗れないかちょっと心配。
ともかく、どうして動きが阻害されないのか? 直接聞いたのか、それとも彼女が身に付けている奇異な物の効果だと直感したのかは知らないが、ぶらじゃーに胸を支える効果があると那木は理解した。
そしてそれを里のモノノフにも話してしまった。
「うーん、確かに最近、里に行くと妙な視線を感じるなーとは思ってたんだけど」
「しかも異性よりも同性からの視線でしたね。こんな格好をしているから、注目されるのには慣れているんですが、どうも視線の質が違うような気がしていたんです」
「睨みつけられるとか、妬まれるとかじゃなくて、純粋に胸の辺りに視線が集中してたわね。神夜はいつもの事でしょうけど」
「いえいえ、いつもであれば胸だけでなく足や太腿にも」
…見られているのを自覚してるのよね、この人…。まぁ、彼女の家系の役割を考えれば、それも不思議ではないけど。
自分の胸元に目をやって、困ったような顔をしている。
「これが欲しい、って言うのはモノノフとしてよーっく分かるんだけど…数が無いのよ。シノノメの里でも、偶然手に入った物しかなかったし。練さんが摸倣しようとはしてたけど…難しいわね」
「練…って言うと、シノノメの里の鍛冶師だったわね。…たたらさんと比べてどうなの?」
「練さんには申し訳ないですけど、たたらさんの圧勝です。元々、ちゃんとした訓練を受けた訳ではないので。たたらさんに現物を渡せば、複製してくれるかもしれませんが…」
「ああ、洗濯したとしても、自分が使った褌を他人に渡すようなことはちょっとね…」
乙女心的に抵抗がある。…あの人だったら? おかずにするなり履くなりしゃぶるなり、お好きにどうぞ。
ついでに言えば、たたらさんも作るのに抵抗があるんじゃないだろうか。
「でも、実際便利な道具は共有すべきではあるのよね。士気向上や戦力増加に繋がるのであれば、猶更。…シノノメの里から、お土産として新品を持ってきてくれれば…」
「お土産をそのまま試作品として渡すのもどうかと思うけど。こっちから、買ってきてほしいと連絡する方法があれば…」
「里のお抱え飛脚でも間に合わないわね。概念だけ伝えれば、何とか作ってくれないかしら」
「…ところで、『ぶら』を欲しがっている筆頭は那木なの?」
そう思われるのも納得の大きさよね。弓を引くのに邪魔になってないのが感心するくらい。
でも、筆頭は彼女じゃない。
「一番興味を持ってるのは桜花ね。二番目が初穂」
「…桜花さんはまだしも、初穂さん…いえ何でもありません」
必要なのか、とは口に出さない。万一聞かれたら、戦争になりそうだし…。
でも実際、必要なのは確からしい。初穂は鎖鎌使いで空中を飛び回るから、重心を安定させる方法は是が非でも欲しいらしい。
桜花はと言うと、こちらも同じような理由。普段は晒しをきつく巻いているので分からないが、意外と大きい。その大きいのを、一見して分からないくらいに強く締め付けて抑えているのだから、当然呼吸だって苦しくなる。
「…ちなみに、『ぶら』を使い始める前の神夜はどうやって戦ってたの? どう見ても、晒しで抑えられる大きさじゃないわよね。しかも、鎖鎌使い程じゃないけど空中を飛び回るような戦い方をするし」
「私の場合は斬冠刀が重心になりますから、おかしな動きさえしなければ、体勢が崩れる事はないですね。この刀の重さからすれば、私のお乳の重さなんて誤差ですし」
「それだけじゃないでしょー? これの重さを上手く使って、勢いを付けたり殺したりもしてるじゃない。戦ってる時は、他の女の子への当てつけかと思うくらいに揺れてたもの」
「言わないでくださいよー。当時は大変だったんですよ。こんなに膨らむとは思ってもみなかったんです。おかげで、体の動きを一から再構築する羽目になりましたし…」
「そして出来上がったのが、お乳の動きで体を制御するおっぱい剣術と」
「絡んできますねぇ明日奈さん。そんなにこれが羨ましいんですか?」
胸を張る神夜の胸元には、小さく充血した後がある。…吸い付いた跡ね、あれは。
「べっつにー? 大きいとそれはそれで大変って言うのは、神夜を見てたらよく分かったしね。手に余るくらいの大きさなら色んな使い道があるけど、掌で包めるくらいのが丁度いい、みたいなところもあるし」
…なんだか微妙な雰囲気になってきたわ。本気で揉めてる訳じゃなさそうだけど。
まあ、ご執心の相手が相手だものね。大きかろうと小さかろうと、骨の髄までしゃぶりつくされて、それを悦んでしまうんだから。本当に、たちの悪い男に掴まったものだ。…今までよりもずっといい環境だけども。
「話を戻すけど、これに限らず、里の人達から『これ、うちにも欲しい』って言われてるのが幾つかあったでしょう? 先日、浅黄達も言っていた事よね。設備的なものを渡すのは難しいから、まずこれにしたらどうかと思うんだけど」
「分類的には私達の私物だから、渡したら隊の運営に角が立つ…って事もないのよね。問題は…」
「私達の抵抗、と言う事ですね。流石に気恥ずかしいというか気まずい事この上ないです」
「伽の時に、好き勝手に使われたり汚されたりしているのを見ていると猶更ね…」
ついでに言えば、明かに雄を挑発する目的で作られている物もある。わざわざそれを選んで渡す理由もないが、あんなのを日頃から付けていると思われるのはちょっと…。
「色々と問題をすっ飛ばすけど、要するに重要なのは胸の抑え、支えって事よね。うーん…現物はある訳だし、私達で分析して似たような物を作り出せないかしら」
「それこそたたらさんにどうにかしてもらった方がいいと思うけど…確かに、その辺が落とし所かな」
「なんなら、那木さんにも解析を手伝ってもらいましょう。私達より学がある方ですし、大きさ的にも割と近いです」
「そうね。元々あの人から情報が流れたみたいだし、責任とってもらいましょう。着せ替え祭りが捗るわね」
…二人の目を見ればわかる。確実に、玩具にするつもりだ。下手をすると、彼が帰ってくるまでの性欲発散の為の玩具になるかもしれない。
ま、いいか。下手に止めると私が標的になる気がするし。それはそれで、まぁ、悪くはないんだけど、弄ばれるのって気持ちよくても体力的、精神的にきついから。
「だけど、無償で提供するのもちょっと癪よね。私達は里の世話になってるけど、その見返りとして戦力になってる。立場で言えば対等…とまではいかなくても、一方的に要求されるような立場でもない筈よ」
「まぁまぁ、これは里としての要求ではなく、個人個人が興味を示しているだけなのですし、そう固い事を言わなくてもいいのでは?」
「そうなんだけど、最近は里の人達から『あれが欲しい』『これが欲しい』『うちにもつけてくれ』って声が大きくなってきてるのよ。私だって、こんな生活知っちゃったら元には戻れそうにないけど」
「夜は暖かく昼は涼しく、甘露の如き水に豪華な湯船。床は雲を褥にするがごとし…霊山君だってこんな生活してないわよ」
「だから、猶更無償で提供していいのかって思うのよ」
「だから猶更いいんじゃないの。中途半端に欲を掻いたり、けち臭い事を言うのが一番損をするやり口よ。貸しを作るなら目いっぱいが当たり前。対価が価値に見合ってなくても構わない…むしろそっちの方が都合がいいわ。この里の連中なら、借りを踏み倒すような事はまず無いわ。使えば使うほどその便利さに取り込まれ、無くす事なんか考えもできなくなっていく。そうなれば占めたものよ。快適な生活環境は、仕事の効率にも直結している。里にとって、私達は…少なくとも頭領は、必要不可欠の存在になる。もしも敵対する事にでもなったら、その供給を止めてしまえば士気はがた落ち。どうするのか決めるのはあの人だけど、少なくとも提供して私達に損はないわ」
「「うわぁ…」」
引かれた。…そんなに酷い打算だったかしら。こんなの、霊山の暗部に関わる人なら、10歳程度の子供だって考えられるわよ。…10歳で暗殺者してた霊山の人間なんて、私以外にお目にかかった事ないけどね。