arcadia消えるの?
保存…多すぎィ!
しかもActionが終わってしまってる…。
畜生、保存してたデータはウィルスにやられてそのままだよ!
-----------------------Side ウタカタ(桜花)--------------------------
おはよう。私はウタカタの桜花だ。
唐突に何だが、最近のウタカタの里は明るい雰囲気が漂っている。良い事だ。
以前からも、決して暗い里ではなかったが、そこはやはり最前線。毎日の鬼の襲撃や、決して少なくは無い重症人、時に出る死者の為、どうしても先行き不安な面はあった。
今もそれは解決している訳ではないが、以前よりも『どうにか出来るぞ!』という、前向きな空気が感じられるのだ。
現に、新参のモノノフ達は今までよりも鍛錬に精を出しているし、道行く里人達も心なしか健康的になっているように見える。
それに、橘花もよく笑うようになった。以前のような、どこか心を押し隠したような笑いではなく、心の底から活力が溢れ出る、満面の笑み。私がずっと見たかった笑顔がそこにある。…時々、得体の知れない『何か』を感じるような気がしなくもないが……私の妹に限って、そんな事は無い!
…とは言え、良い事ばかり起こるほど、世の中は甘くない。
明るく良い雰囲気と言ったばかりで前言を翻すのは何だが、どうにも浮かれた雰囲気も感じる。緊張感が無くなっているというか、今までの臥薪嘗胆の念が消えかけていると言うか…。そして橘花が、あの隊の者達と…特にあん畜生と矢鱈と仲良くなっているような…。
これを息吹に話してみたところ、
「そりゃなぁ。先日の大戦じゃ、大きな被害も無く大勝。そのおかげで大量のハクが手に入って、里の殆どの連中がお大尽状態だ。おまけに大量の戦力が参戦した事によって、無理をせざるを得なかった哨戒や偵察、救護なんかの問題も解消されてる。更にはその頼りになる戦力は、見目麗しい美女と美少女と美男子揃いだ。これで湿気た顔をする奴は、相当な悲観論者だぜ」
との返答が返って来た。
なるほど、確かに。ここ最近は、朗報ばかり届いていたからな…。
ついでに言えば、若手モノノフの多くが張り切っているのは、彼女達にいい所を見せたいが為と言う訳か。やれやれ…邪念を持ったまま修行しても、効果は薄いだろうに。
で、橘花の件は。
「……お、俺よりも姉のお前の方が詳しいだろ。まぁ、何だ、強いて意見を捻りだすのであれば、あいつらが結界の端近くで鬼達を追い返してくれるおかげで、橘花の結界に殆ど負担がかからなくなった訳だからな。俺達とは別の感謝を持ってもおかしくないし、それが切っ掛けで仲良くなる事だってあるだろ」
……まぁ、それもそうか…。しかし、あの時の息吹は明後日の方向を見て何をしていたんだ? 色恋の問題がどうのと呟いていた…いや、いない! いなかった! 橘花があいつに懸想するなんぞ、時が巻き戻ったとしても有り得ん! 有り得んのだッ!
…見苦しい姿を見せた。
実際の所、私も奴には…向こうの頭領殿に感謝してはいるのだ。以前に私がやらかした時にも、笑って済ませてくれたものだ。
彼の武力は、特殊な力を持つという彼女達の中でも、一つ二つ程度ではなく抜きんでている。先日の大戦でもそれは明らかだ。
ウタカタの里の防衛に貢献してくれたのは間違いない。
橘花が明るくなったのも、少なからず…認めたくはないが…彼が関係あるのだろう。
…が、橘花を奴に触れさせるなど言語道断! 私の個人的な感情を抜きにしても、周りに女を侍らせて爛れた関係を築き上げている男なんぞに、妹を任せられるものかよ。
問題があるのは、それだけではない。最近、里の者達が彼女達の生活を羨んでいる。
私も一度、よく話すようになった凛子殿の部屋に招かれたのだが……最初は面食らった。何が何だか分からない物が部屋を埋め尽くしているのだから。
暑くも冷たくもない清潔な壁と床、瞬時に燃え上がり消える炎、部屋を煌々と照らす灯り、仕掛け一つで後始末してくれる厠、そしてそこから飛び出して尻穴を清め……つい声が……いや何でもない。
今はまだ明確な問題にはなってないが、暮らしの格差はいつの世も不満を産むものだ。特に、あれは彼女達自身が作り上げた物ではなく、頭領殿が勢いで何となく作り上げてしまったものだそうだから…。高いハクを使って自前で購入したというなら諦めもつくだろうに。
実際の所、私だってあの部屋に住みたい。堕落してしまいそうな予感もするが、それを差し引いてもあの部屋は魅力的だ。
むしろ、私よりも橘花を住まわせてやりたい。あの兵舎も、実はいくらか部屋が余っていると聞いた。頼み込めば、意外といけるのではないだろうか?
…だが、そうなると当然、頭領殿の傍にいる事になる訳で…いやそれよりも、橘花が結界の外側に近い場所で暮らす事になる訳で……しかし快適さは………うむむ、悩ましい…。
…ふぅ、このような事で悩めるのも、ある意味贅沢なのだがなぁ…。今までであれば、襲撃襲撃襲撃、異界で鬼の討伐調査討伐奇襲される、行方不明者の捜索に救助に弔いにと、余裕も何もあったものではなかった。
改めて、現状の有難さを認識する。
とは言え、いつまでも彼女達に頼りっぱなしでは居られん。橘花を守るのは私だ、という意地もある。もしも何らかの理由で、彼女達がウタカタを去る事になったら…。その時に備えなければならない。
最近はそんな事を考えながら、日々鍛錬し、異界が浄化された後の地区を調べて安全確保をしていたのだが……まさか、いきなりこんな問題が豪速球で投げつけられてくるとは、思いもしなかった。
今日の朝、大和のお頭に呼び出された。私だけではない。那木、息吹、富獄、初穂、速鳥。自分で言うのもなんだが、以前からウタカタを守り抜いてきた精鋭のみだ。
…この時点で嫌な予感はしたのだが…。
「…結界の中に、餓鬼…ですか?」
「うむ…。俄かに信じがたい話だが」
お頭から聞かされたのは、昨晩に骸佐殿達が目撃したという鬼の事。
ただの餓鬼なら珍しくもないし、討伐すればいいだけだが、結界の中に居るとはどういう事か。
「橘花を疑う訳じゃないが…結界に綻びがあった、或いは抜け道のような物があるって事は?」
「そうだとしても、結界内部の圧力に餓鬼が耐えられるとは思えん。徐々に浄化され、鬼としての形を保てなくなるのが関の山だ」
確かに。だからこそ、結界は結界たり得る。里と異界を区切る巨大な壁であるだけでなく、内部に侵入した異物の力を削ぎ落とす罠でもある。
それ程に高性能だからこそ、術者たる神垣の巫女の命を削っていく。
その内側に、鬼が居た。普通なら問答無用で消滅するくらいに弱い鬼が、平然と。…これは一体…。
真だとするなら、人の安息の地が無くなるに等しい。
「しかも転移によって逃げた。結界の内外を行き来する物ではないが、その難易度は推して知るべしだ。どう考えても、ただの餓鬼ではない」
「…その餓鬼はどうなったので?」
「逃げた先に居た人間を襲っていたが、その場で返り討ちだ」
「怪我人は?」
「…怪我人も負傷者も居らん。ただ、無事とは言い辛い…」
「………」
「落ち込むな、息吹。その餓鬼によってどうにかされた訳ではなく………いや、ややこしくなるから、襲われた者についての説明は後に回す。現在、たたらや秋水が残された素材を調べているが、まだ詳細は明らかになっていない。…だが、現時点で一つの懸念が浮かんでいる。みな、頭の中に可能性としては浮かんでいるかもしれんが…」
「…ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って大和。それ洒落にならない。私が考えてる事、間違い…よね」
初穂が何を考えているのか、口にしてもらわなければ分からないが…確かに、私も幾つかの可能性が思い浮かんでいる。
その中でも、最悪と言っていい可能性は…。
「…神垣の巫女の結界に耐える鬼……ではなく…」
「根本的に効かない鬼、ってか。いつかは現れる、って与太話を聞いた事はあったが…」
富獄が腕を組み、眉根を寄せている。私も正直、似たような反応をしたい。
鬼とは異形の生物だが、それなりに共通点はある。例えば大なり小なり角があること、死んだら体を構成している物質が飛び散って有害な毒…つまりは異界となる事、人の魂を喰らう事。
少なくとも、これらの例から外れた鬼は、今のところ一度たりとも確認されていない。
そして結界は……詳しい理屈は省くが、前述のような共通点を利用して鬼を拒むものだ。鬼である筈ならば、必ず効く筈なのだ。人が水に押し込められ続ければ、いずれ息が保たなくなって溺死するように、結界の中の鬼も長くは生きていられない。
だが、その例外が本当に実在したとなると…。
「…とにかく、里の警備を厳重にする必要があるな。今までは結界の淵周辺を中心としていたが、これからはいつ何処に現れてもおかしくない」
「そうだな。下手をすると、寝ている間に部屋の中に転移してくる事すら有り得る。風呂とか厠とかでも」
「冗談じゃないわよ…。と言っても、どうすればいいのかも分からないわね。本当に、根本的に効果が無いんだとしたら、橘花が身を削って結界を強化したとしても意味が無いし」
結界の強化など論外だ。これ以上、橘花に負担をかけさせはせん。
…が、それを言ってる場合でもないのだな。どこに現れてもおかしくないという事は、今この瞬間に橘花の背後に現れる可能性があるという事。
いくら私が橘花を守ろうと努めても、文字通り四六時中付きっ切りでいる訳にもいかない。鬼の討伐にも行かなければならん。何より、私の集中力も体力も保たない。意地でどうにかなる範疇ではない。
「…逆に思うのですが、それは本当に鬼なのでしょうか??」
「仕留めた遺体を見たが、確かに餓鬼だったぞ。那木、何か気になる事でも?」
「大した根拠がある訳ではありませんが…いかに鬼とは言え、そこまで唐突に体質が変わるものでしょうか。炎を纏う鬼でさえ、炎の武器で多少なりとも痛手を与えられます。だというのに、全鬼に共通して効果があった結界が、突然完全に効かなくなる…。幾ら何でも唐突過ぎます」
「ふむ…。確かに、毒を盛られ続ければ、人は多少なりとも免疫を得るもの。しかし全く効果が無くなるとは考え辛い…。しかし那木殿、鬼でなければ何でござるか?」
「そこまでは…」
説得力のある考えだったが、それ以上は那木にも分からないらしい。
だが、この時私は天啓を得た。あまり嬉しくない天啓だが。
「…心当たりが一つある」
「何だ、桜花? 鬼でないなら何だ。妖怪か、神か、それとも南蛮人か?」
「グウェンに土下座してこい貴様…。私も何と言えばいいのか分からんが、先日の大戦でオオマガトキの穴から出てきた、巨大な女の体。あれなのではないか? あの後色々と忙しくて、詳しい事を聞くのをすっかり忘れていたが、鬼とは違うものだとあいつが言っていただろう」
「「「「「…………」」」」」
それぞれ、黙って考え込む。
自分で言うのも何だが、それなりに説得力はあると思うし、真実に近いんじゃないかと思う。
あの女は、鬼として考えても明らかに異質だった。はっきりと人の面影を残し、人名(多分)を叫ぶ。思えば、細切れにされた後の死骸も、徹底的に切り刻み燃やし尽くすまで、塵となって散じる事は無かった。鬼祓ではなく、奴の指示によって塵まで徹底的に焼却したものだ。
…これは即ち、結界が効かなかった事を意味しているのではないか?
「…奴が帰ってきたら、聞き出さねばならん事が増えたな。時期的に、そろそろウタカタに到着する筈だ」
「つーか大和のお頭、あの鬼については結局有耶無耶になったままだったのか?」
「聞いてはいるが、どうにも要領を得なくてな…。鬼とはまた違った異界で生きていた、ある種の天災のようなものだというのは分かったのだが。結局、異端の鬼という認識で落ち着いた」
…まぁ、説明は下手そうな奴だしな…。那木とは別の方向で。
…ん? 足音…。
「お待たせしました。分かった事があるので、報告にきました」
「随分早いな、秋水。調べ始めて、まだ数刻と経っておらんだろう。たたらは一緒ではないのか?」
「たたらさんは、あの鬼の素材を使った武具を考案中です。僕は…調査結果と言いますか、調べるまでもなく異常な事が発見されたので、差し当たりそれを報告にきました。一番最初に知りたがる事でしょうしね」
…秋水にしては、言葉に棘というか嫌味が感じられない。
どちらかと言うと、衝撃を受けて消沈したようにさえ見える。
…嫌な予感が高まってくるな…。
「さて、では調べた結果ですが…構造自体は、通常の餓鬼と変わらないようです。体格、内臓、爪や牙の生え方など、どこをどう見ても一般的な餓鬼ですね。ですが…」
もったいぶるな。早く言え。心臓と胃に悪いだろうが。
「ですが、明かに結界の効力がありません。何せ、討伐されてから今まで、ずっと結界の中で安置されていたというのに、体の分解が一切始まらないのですから。いえ、例え異界の中であっても、死んだ鬼は体が塵と化していきます。これを考えると、そもそも鬼であるかどうかさえ怪しい」
「…だが、鬼と行動原理は変わりない。少なくとも、人を襲おうとしたのだろう」
「ええ、そうですね。…結界が効かない以外にも、もう一つ注目すべき点がありました。むしろこちらの方が厄介かもしれませんね。何せ……刃が体に通らないのですから」
刃が…? つまり、攻撃を無効化する、と言う事か?
「少なくとも、僕とたたらさんが体を切り分けようとした刃では、全く歯が立ちませんでした。奇妙な感触でしたね…。骨はともかく、皮は柔らかく、手で押せば形が変わるほどです。ですが、いざ切り裂こうとすると突き刺そうが刃を引こうが、全く通じないのです。近場に居たモノノフに手伝ってもらい、霊力を籠めた刃でようやく解体できました」
「…刃が通じないだけなら、まだやり様はあるが…流石に大型鬼になると、ちと厳しいな。後で寄って、どんなもんか見てみるか」
うむ…。秋水が解体できなかったと言っても、刃を扱う専門家ではないからな。素人では切れないが、それなりの腕があれば斬れる、という例も多い。
そうでなくても、刃が通じない理由は確認しておきたい。
そもそも、霊力を纏わせての攻撃なら、モノノフなら皆できる事だ。それしか通じないとなると、消耗が跳ね上がるが…。
「…何にせよ、従来の鬼の常識が通じない相手が出てきたか。混乱を招く可能性もあるが、里内の警備を厳重にする為にはこの事を公開せざるを得ん。里人から詰め寄られる事は無いと思うが…」
…そう願いたい。今までにも何度も見た。身内を失い、助けに行ったモノノフに『どうして間に合わなかったんだ』『役立たず』『お前が死ねば良かったのに』と、怒りや悲しみをぶつける姿。…我々はモノノフ。人々を守る盾、鬼を斬る鬼。だから、人を守れなかったのであれば、その咎を受けるべき…なのかもしれない。例えそれが、やりきれない思いを抱えきれない故の八つ当たりだったとしても。
行為の是非はともかくとして、人は追い詰められれば何にでも牙を向ける。例え相手が、自分の命綱であったとしても。里の平穏を守れないモノノフを、或いは鬼を防げない神垣の巫女を、不安の矛先にする事は確かに考えられる。
そうさせない事が、我々の役割なのだがな。橘花を守る為とは言え、同じ里の人に刃など向けたくない。…今となっては、この里も私にとって守るべき場所なのだから。
ともかく、今はその結界が効かない鬼の遺体を見てみるか。