黄昏月拾伍日目
直葉と、『烙印』の効果で呼び出したシノノメの女達を交えて乱交した翌朝。俺はそのままウタカタに向かって旅立った。
残念な事に、兼一君や桐人君とは会えなかったんだけどな。泊りがけの任務で、明後日くらいまで帰ってこないそうだ。
まぁ、お陰で直葉の家の中、一目も憚らずにヤりっぱなしでいられたんだけど。寝室は勿論、風呂に台所に厠に玄関にと、家に精液と愛液の匂いが染みつくんじゃないかと思うくらいヤりまくった。いつもの事で、これまたいつも通りに消臭玉先生が大活躍したけども。
消臭玉先生にはいつもお世話になってるな。なんなら回復薬よりもお世話になってる気がしてきた。
それにしても、兄の居ない間に、セフレを連れ込んでヤりまくる妹(年齢詐欺ボディ)…。……エロゲやな。でもその兄の方が、女性恐怖症なんだよな…。しかも俺が直葉とくっつくのを超歓迎しているし。なんちゅーか……催眠NTRモノだけど、催眠をかける前から兄妹揃って完落ちしてるよーな状況だ。
いやまぁ別に文句は無いんだけども。
新聞社姉妹にも会えず終いだったし、正直ちょっと不完全燃焼だ。…別に、何かシようと思っていた訳じゃない。いや本当に。
今はうちの子達だけで手いっぱいだからなー。これ以上誰かに手ぇ出すつもりないのよ。……据え膳は食うけど。
さて、こうしてトボトボ歩いていても仕方ないし、切り替えて行こう。
うちの子達は元気にしているだろうか。暗示が発動して、不安定になっていないか。何よりも、慢心突撃大惨事(見てられない意味で)になったりしてないだろうか。以前の扱いが扱いだっただけに、正直言って不安が拭えない。
妙な事を仕出かさないよう、訓示ならぬ『お約束』を設けてきたが…言葉だけで言動や考え方が改められるなら、苦労は無いわな。
不安なのはそれだけじゃない。相馬さんにも語ったが、確実にもう一騒動あるのが目に見えている。しかもこの前のメガラケルてんてー並み、或いはそれ以上の騒動が。
メタ的な考え方になるが、先日に戦…つまりはオオマガトキが開かれるまでは、ゲーム的に考えれば討鬼伝無印のストーリーだ。ここまでは知ってる。今まででも、ここまでは辿り着いたし、切り抜けた事もある。
だが、このループに入る前の事を思い出すに(それも、俺自身の記憶ではない可能性が高いが)、討鬼伝の続編だか追加版だかが発売される、という話だった。単なる追加パッチくらいならともかく、別途で分けて発売したくらいだ。ストーリーにも必ず続きがあるだろう。と言うか、無かったら詐欺扱いでいいと思う。
何だかんだで、大まかな流れはゲームストーリーに沿って展開されるのは、これまでのループでの実績が示している。…それ以外の部分は、変わりすぎな程変わっていたりもしたが。
思えば、そのストーリーの関係者だと思われる人間にも多々心当たりがある。
虚海なんぞ、その筆頭だろう。性格的にはともかく、外見的には如何にも暗躍しているキャラだしな。
あいつ一人でも十分すぎるほどキャラが立っているが、それに加えて幼いころの虚海…千歳まで関わって来た。何かありますって言ってるようなもんだろう。その後のループで千歳と出会えなかった事を考えると、千歳の出現は完全にイレギュラーだったっぽい……いや、クサレイヅチに捕らわれてるから関わってこれないだけかもしれん。
…いかん、殺気が漏れ出して、半径3メートルの草木が勝手に枯れてしまった。新手の鬼の仕業にされないかな……適当に耕して誤魔化しておこう。
虚海の他には……そういや、九葉のおっさんも虚海の関係者だったな。なんか策謀を仕掛けてたっぽいが…。そう考えると、九葉のおっさんも追加版の登場人物か? 何だかんだで、何度も関わってるしな。
その繋がりで、保護されていたグウェンも…これはちょっと微妙かも。
九葉のおっさんを中心にして考えると、その部下である相馬さんと百鬼隊、他は……霊山の息がかかってる新聞社社長の文美さんも? 娘の二人は、チョイ役として関わってそうな気がする。
あとは…そうだな、一番ありそうな奴を忘れてた。
仮に、虚海が討鬼伝追加版ストーリーの関係者だったと仮定した場合…それに関するボス鬼は、間違いなくクサレイヅチだろう。何せ、かつての戦いで虚海が時間移動する原因となり、更に体が変質した事になった切っ掛けだ。
そうなると、俺と同様にクサレイヅチを追いかけている、ホロウが関係者候補に躍り出てくる。虚海とも関係者だしな。
あいつは時空を回遊するクサレイヅチを追えるくらいだし、ループによる影響を受けてない可能性も考えられる。時間の巻き戻しから逃れているかもしれん。だから、前に討鬼伝世界でデスワープした直後…MH世界でも、GE世界でデスワープして討鬼伝世界にやってきた今回も、何処かにホロウが居ないかと探していたんだが…完全に空振り。
もう会う事は難しいか? と思っていたが……ここらが本当に諦めるかどうかの分岐点だな。
もしもホロウが討鬼伝追加版の登場人物だとすれば、そのストーリーが始まるであろうこの時期に現れる可能性が最も高い。
…逆を言えば、これで会えなきゃお手上げだけどね。
仮に会えたとしても、ループの影響から逃れているかどうかはまだ分からない。ホロウに関しては、完全に出たとこ勝負で行くしかないな。会えたら幸運、くらいで考えておいた方がいいかもしれない。
これらを踏まえて考えるに、今からするべき事は?
…クサレイヅチへの対策は勿論のこと、虚海、並びにホロウの捜索か。
特に虚海は放っておくとヤバい。今までちょくちょく名前が出ても、直接会っていなかったから放置してたが…考えるまでもなく愚策だった。
ホロウは絶望し、元の時代に帰る事を切望している。帰れたところで、静かに暮らす事ができるかなど考えてもいないだろう。ただただ帰る、その意思だけが遺されている。
その為に、ホロウを呼ぼうとした。ホロウはクサレイヅチを追い続け、そして時代の変わり目に現れるという『翠瞳の乙女』として、僅かに書物に残されていた。
時代の変わり目を作り出す為に、虚海は混乱を巻き起こそうとしていた。
…触鬼という外法を使って。あれの触媒だけでも、回収しておくべきだったか。
いや、虚海が持ち歩いている触媒があるか。全て一度に捕らえて一切現れないようにしてしまわないと、触鬼は周囲の物体を取り込んで幾らでも増える。だから九葉のおっさんも、すぐには虚海を捕縛しなかったんだ。
そうだな、ホロウよりも先に虚海を確保しなけりゃならんな。多分、触鬼との闘いが討鬼伝追加版の主な展開なんだろう。クサレイヅチはその後か、前か。
虚海を捕らえれば、ストーリーの半分以上を端折ってしまう事になるかもしれんが…まぁいいだろう。俺としては、クサレイヅチをぶっ潰すのが優先だ。
…いや、それも重要だが…まず何よりもするべき事は、うちの子達の様子見だ。暫く会えなくて欲求不ま…もとい、暗示の効果が発動しているかもしれん。何だかんだで、そっちの解除には殆ど手を付けられていなかったからな。
うん、これは皆の精神安定の為なんだ。ウタカタから旅立って以来、多くて4人程度しか一晩に抱いてなかったから、2桁くらいで大乱交したいなんて、そんな事は8割くらいしか考えていない。
…霊山からウタカタに向かう道をひた走り、珍しい事に特にトラブルもなく進む。一応、途中で小高い丘に登ってウタカタ近辺を観察したが、特におかしなところは無い。
騒乱の気配もないし、おかしな煙も立ち上ってない。…いつもの、出掛けて戻ってきたら大惨事のジンクスも外れたようで何よりだ。
最悪、鬼とどうこうじゃなくて、うちの子達と里の間に何か軋轢が出来てる事まで考えてたからな…。
いい子でよくお留守番できました。えらいねぇ~。白い液体を奢ってあげよう。抜かずの9発でいいかな?
男連中にも、ちゃんと褒章をやらんとな。飯、酒、武具、後は……こっそり艶本でも渡すか? でも持ってないんだよなぁ。だって実物の方が良かったから。いやエロゲは別腹なんだけど、ここエロゲ無いし。
フロンティアで作ってた猟団に居たような、タカリ根性の強い連中なら、褒章も割と簡単なんだけどな。矜持持ってる奴は、良くも悪くも厄介なもんだ。
……こんな事言ってちゃ、頭領失格だな。しっかりあいつらを理解して、活かせる環境を整えるのが俺の役目だ。
さて、程なくしてウタカタに到着。俺の帰還を嗅ぎつけたのか、うちの子達が道で待ち構えていた。
出迎えご苦労…と言いたいところだが、目付きがそーいう感じじゃないな。出迎えではあるんだけど、どっちかとゆーと好物の餌を持ってきてくれる飼い主を見つけた犬、とゆーか。…やっぱこれ、精神的に不安定になってるよ。濃厚すぎる接触で、スキンシップ不足を早急に解消する必要がある。
…会いたかったのは分かったから、猫だんごみたいに俺の全身に纏わりつくのは止めなさい。歩きにくい。
それ以外にも、早急に判断が必要な案件がある、と秘書執事チームから伝達。『返って来たそうそうに、我々の力不足で申し訳ない…』と項垂れられたが、判断がつかない案件を無理に進めるよりは余程良い。
これから大和のお頭に、シノノメであった事の報告に行くんだが…先に済ませておいた方がいい案件はあるか?
「あります。詳しい事は、状況を調べている大和殿から伝えられますが、お耳を」
お、耳舐めかな?
………………ナヌ…? そんな鬼が出た…マジか…。
縋りつくうちの子達(特に不安定になっていた子は、指だけでこっそり落ち着かせて)を振りほどき、大和のお頭の元へ。
…遠くから見た時は分からなかったが、いつもの里の様子とは少し違う。軽装とは言え、武装したモノノフ達が里の中を歩き回っているのだ。普段であれば、お役目に出る時以外は武器防具は着けていないのに。里人を不安にさせない為か、極力荒っぽい気配は抑えようとしているようだが…。
俺が戻って来たという知らせは既に受けていたらしく、大和のお頭にいつも通りの堂々たる仁王立ちで出迎えられた。いつもその恰好で、腰痛くならないの?
「よく戻った。遣いの任、ご苦労だった」
どうも。遣いったって、やってた事は顔見知りと話し込んでたくらいなんだけどな。
多少は鬼の討伐に手を貸したけど。
「構わん。必要な事は書に認めておいたし、橘花と向こうの神垣の巫女経由で談合も終わっている。お前の役割は、書状と謝礼を届けに行く事だけだった」
…それはそれで構わんのだけど…普通、そういう商談をするのなら、相応の権限を持った人間を付けるべきじゃないか?
あっちからも、細かい事はいい、って態度だったから気にしてなかったが。
「ああ。シノノメの里の頭領は、両津の奴だろう。死んではいないと思っていたが、予想通りだったな。一時期姿を晦ましていたそうだが…。あいつが相手なのであれば、生半可な人間では話がややこしくなるだけだ。何でもいいから、本人と頭領で直接やりとりする必要がある。まぁ、今回は巫女同志の念話による話し合いとなったが。全く、つくづく変わらんな、あいつは…。談合の間、大から小まで先を見越した小細工だらけだったぞ。あれほどの先読みと狡知、戦に使えればどれ程頼もしい事か」
なるほど、納得。仮に俺に相応の権限があったとしても、あの人相手じゃ譲歩すら引き出せるか怪しいもんだ。まぁ、何だかんだで利用できる相手をポイ捨てはしないだろうから、悪い結果にはならないと思うけど。
過去の事でも思い返しているのか、大和のお頭は含み笑いを漏らしている。
…親しいんで?
「取り立てて、という訳でもないがな。霊山での修行中、何度か関わった事があった。九葉を振り回せるのは、当時からあいつくらいだったものだ。見物だったぞ、鉄面皮の九葉に構わず引き摺ってきて、あれやこれやと知恵を出させている場面は。…さて、そちらの報告はともかくとしてだ」
…おう。
「お前のところの者達から既に聞いているようだが、知っての通り結界の効果が無い鬼が出た。更に、霊力付でなければ刃も通らず、鬼祓すら効果が薄い。今のところ、一体しか確認されていないが、突然変異だとしてもこのような鬼が現れるとは思えん。裏に何かある…早急に正体を突き止めねばならん」
実物を見る事はできるか?
「うむ、ついてこい」
大和のお頭に連れられ、里の外れへ…って、ひょっとして博士のところか?
何かあったとしても、人の居住区から外れた所だから、被害は軽くなるだろう。研究者としても、博士と茅場以上の人間はこの里には居ないだろうし…適材適所っちゃその通りか。
「ああ、その通りだ。秋水も頭はきれるが、研究者という訳ではないからな。術や薬を弄り回す事はあるが、奴は結果を求める研究だ。この場合、結果よりも原因を究明する為の研究だから、不適切だな」
なるほど。
しかし、結界が効かない鬼…一体誰が見つけたんだ?
「む? 聞いてないのか? お前の所の男衆だ。尤も、その時は驚きのあまり取り逃がして、仕留めたのは別の者だが」
結界のド真ん中で突然鬼に遭遇すれば、驚きもするか。それでも即動けないのは減点だが。
「いや、一人は驚く前に動きはした。単純に、鬼の転移に間に合わなかっただけだ。……お前は、特異な鬼について思う所は無いのか?」
うん? いや実物を見てみない事には何とも…。でも少なくとも外見は餓鬼だったんだろ?
鬼が何らかの進化を遂げるとして、その性質だけが突然変わるというのは考え辛い。ミタマを取り込んだ鬼だって、餓鬼・黄泉みたいに多少は色が変わるだろう。
体質が変化したっつーなら、体も変わりそうなもんだが…。
「気にしているのはそこではなく……いや、直接見てから考えた方がいいか。博士、茅場、居るか? 入るぞ」
「おお、お頭! いらっしゃいだ。お茶の用意をするから、少し待ってくれ」
「すまんな、グウェン。博士達は、まだ研究中か?」
「ああ。よく分からないが、二人ともひどく険しい顔をして調査中だ。ああなると、何度呼んでも出てこない」
…真鶴も言ってたが、飯を抜く事すら日常茶飯事なんだってな。
変人二人の世話を押し付けて申し訳なく思えてきた。
「大丈夫だ! 博士も茅場も真鶴も、いい人だからな。何より、安全だしご飯は毎日食べられるし暖かい寝床で眠れる。これで文句をつける理由はないさ」
そのレベルで満足してもらって、それはそれで困るのだが…。忘れてた、グウェンはビャクエンに追われながら、大陸を横断して日本まで渡って来てたんだった。この子のバイタリティは並じゃない。
彼女にとって、博士達の世話はビャクエンを警戒しながら旅を続けるよりは楽なんだろう。
にしても、ここって博士、茅場、グウェン、真鶴で暮らしてるんだよな。女の園に男が一人って状況なのに、茅場じゃ色気のある話を連想できんな。性欲があるのか、本気で疑う男だし。
…ん? 異世界大好きの茅場が、鬼を研究する? 確かに鬼も異界、別世界からの訪問者だが…それで顔付が厳しいってのは何でだ。
結界が効かない鬼というのは人類にとっては大事だが、あの二人がそれで顔色を変えるかと言われると…。
…なぁグウェン、俺も研究現場に入っちゃあかんかな?
「叩き出されはしないと思うぞ。ほら、お茶だ。邪魔をするな、くらいは言われるかもしれないが」
それくらいなら、博士基準なら挨拶みたいなもんだわ。大和のお頭、俺の茶菓子食っていいよ。ちょっと見てくる。
なーんか嫌な予感するわぁ…。
研究室の扉をそっと開くと、予想とは違ってかなり片付いていた。多分、毎晩グウェンがちまちま掃除してんだろうな。
そして博士と茅場はと言うと、餓鬼の死骸を弄り回しているようだ。グウェンが言っていたように、表情は険しい。そして、その隣で木綿季が退屈そうに突っ立っている。どうやら、カラクリ人形の機能を起動して、何やら記録しているようだ。
さて、肝心の餓鬼はと言うと……うん、見た目は普通に餓鬼だな。そこら辺の異界を歩き回ってる餓鬼だ。黄泉ですらない。
しかし遺体が塵にならずに留まっているので、明かに普通でないとも分かる。
ちょいと御免よっと。研究に熱中しているようだが、俺にも見せてー。
「あ! 帰って来たんだ!」
「む? 貴様、ようやく帰ってきおったか。必要な時に限って不在にしおって、使えん奴だ」
いつどこで誰に必要とされるかなんざ、未来予知でも出来なきゃ分からんだろ。流石に文句が無茶だぞ。
と言うか、俺を必要としてるって? 博士からそんな言葉が出るとは珍しい。
しかし、研究に関しちゃ俺は素人もいいところだぞ。
「そんな事は分かっている。だが、既に知っている事を喋るくらいはできるだろう」
…?
「説明するのも面倒だ。こいつを調べてみろ。…茅場、木綿季、少し退け」
茅場は相変わらずだな…。と言うか、こいつがここまで熱中するって事は、この餓鬼も異世界関連か?
何やら考察を纏めているらしい、自分の世界に入りっぱなしの茅場を他所に、餓鬼を見てみる。
…やはり、外見上はどこをどう見ても単なる餓鬼にしか見えない。
だが、その体に触れた瞬間、自分の顔が引きつるのが分かった。
この感覚は…。
「気付いたようだな。そう、確かにこいつは鬼だ…半分以下がな」
外見は餓鬼、内臓などの構造も、恐らくほぼ餓鬼と変わりない。だが…体を構成する物質が全く違う。
普通の鬼が砂粒で体を作り上げているとするなら、こいつの体は鉄の粒で構成されているようなものだ。
しかもこいつは…。
アラガミ細胞の感触だ。
「そう。貴様が持っている、あの神機…と言ったか。あれの性質とよく似通っている」
似通ってるってもんじゃねーよ。こいつ、アラガミじゃねーか!
…あれ、いや、半分…って言ったよな、博士? じゃあ、残り半分は…。
「そっちは鬼だが…単なる鬼じゃないな。こいつの体は、大別して3種類の物質で構成されている事が分かった。一つ目、貴様が言う…荒神、だったか。その物質。二つ目、通常の鬼と同様の塵。そして三つ目、触れた物を取り込もうとする何か。この一つ目と三つ目がどういう訳だか互いを喰らい合っている状態だな」
…ん? ちょっと言ってる事がよくわかんないんだけど。
二つ目は、いいよ。こいつも鬼みたいだからな。一部とは言え、他の鬼と共通しているってのはわかる。
一つ目も……良くは無いが、とりあえず置いておこう。鬼かと思ったら、実はアラガミだった。根本的に鬼とは違う生物だからな。結界が効かないのも頷ける。理に適った話だ…。スゲーわかる…。
三つ目は……ああうん、これどう考えても触鬼っすわ。触れた物を何でも取り込み、増殖する鬼。虚海が生み出した、恐らくは討鬼伝追加版の主な敵。…清麿よりも先に、あのポンコツを捕まえておくべきだった…。何がどう関わっているのかは分からんけど、これ絶対に虚海のやらかしだろ。しかも本人も意図してなかった。あいつはそういう星の下に産まれとるからな…。
だがアラガミ細胞と触鬼の細胞が食い合ってるってのはどういう事だああ~っ!?
同じ餓鬼の体だろっつーのよーっ! 舐めやがってこの鬼はぁ~超訳が分からんぜぇー!
「やかましい」
「あっ、何か出た」
あいてっ! 何すんだ木綿季。いきなり鉄球なんてぶつけてきて、危ないじゃないか。
「僕じゃないよ。博士が何か起動させただけだよ」
「ふむ…銃を仕込んでみるつもりだったのだが、この程度の威力ではな。小型化する事は出来るが、まだ威力が間に合っていないか」
人に向けて鉄砲撃つんじゃありません。と言うより、撃たせるんじゃありません。
…それは置いといて、実際何だ、この鬼は…。
「お前も理解したようだが、この鬼の体の中で、二つの物質が互いを取り込みあっている。互いを取り込む速度が均衡し合っている為、どちらか一方に塗り潰されるという事は無いようだ」
アラガミと触鬼の混ざり物…荒鬼とでも呼ぶべきか。ある意味、俺と同じ状態だな…。
しかし、この二つが関わっているとなると、経緯は大体予測できるな。
おそらく、この前のメガラケルてんてー(仮)の破片か何かを、虚海が入手したんだろう。で、物は試しと触鬼の触媒を使ってみた。何故餓鬼の姿になったのかは………恐らく、アラガミ細胞が学習した中で、一番簡単に真似できたか、情報が多かったんだろう。
結界が効かない理由も、まぁ予測は出来た。こいつの体を構成している触鬼の細胞と、アラガミの細胞は、その量こそ均衡を保っているが、分布、配置は常に流動しているようだ。自分でやっているのか、勝手にそうなるのかは分からないが、アラガミ細胞で体皮を作る事で、結界の圧力を無効化できるんだろう。…アラガミ細胞にも、霊力自体は通じた筈だから…自分でも鬼の霊力を使えるようになって、それを学習したのだろう。
…厄介な物作り出しやがって…。
「…ふん、貴様にしては上等な推察か。他に分かる事は?」
どれだけ増えても不思議はない、って事くらいかな。
こいつの中で蠢いている2種類の細胞は、どっちも他者を取り込んで自分を増殖させる性質を持つ。しかも際限なく、恐るべき速度でだ。
…で、最悪な事に、こいつを作ったであろう術者は、黒幕で悪党っぽく振る舞ってるけど、はっきり言って頭脳が間抜けだ。元々、アラガミ細胞はとても手に負えるようなもんじゃない。絶対にどこかで暴走する。
最悪なのは、こうしてこの鬼が死んでも、細胞自体は生きて喰らい合っているって事だ。今は互いを取り込みあう事が手一杯のようだから、この状態を保っているが…どっちか一方が機能停止したら、残った一方がそれを取り込んで…。
「その後は、体外の物を取り込んで増殖していく、か。止める方法は?」
……正直、心当たりはない。
いや、アラガミ細胞の方は、この世界ではあり方が違うというか、終末捕食なんぞ起こしても全く意味が無い状況だから、稼働しているの自体が不思議……ああいや、全アラガミ細胞が終末捕食の為に動いている訳じゃないか。一度、大勢から総スカン喰らってデスワープしたくらいだし。
単純に、この細胞も生きているだけって思った方がいいな。
…こいつに通じるかは分からないが、アラガミ細胞は異界の中で機能不全を起こした例がある。そこから何とかできる…かもしれん。
「ふむ…半分が鬼だから、異界の中に放り込むだけでは無理だろうな。効果が出るとしたら、アラガミ細胞とやらと、触鬼とやらの細胞を切り離す必要がありそうだ」
「その方法を模索するのは、我々の役目だな。…ふふふ、このアラガミ細胞とやら…明らかに異世界の代物。実に興味深い…!」
…おい茅場、研究するのはこの際止められないが、それを利用して何かやろうなんて思わない方がいいぞ。
毎回毎回、最初はそこそこ上手く行っているように見えても、それ以上のしっぺ返しが返ってくる。
「…今は納得しておこう。私としても、十全に理解できていない物を利用する愚を犯そうとは思わない。研究が先だ」
そう願う…。
木綿季、頼むからこいつらの監視をしっかりとしておいてくれ。真鶴やグウェンと協力してな。
「どう考えても荷が重いよ…。僕の体の、さっきの銃だって知らない間に取りつけられてたのに」
…自爆機能が取り付けられてないか、確認しときなさい。