※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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店長が転勤してしまう…。
異動になってから、まだ1年経ってないぞ!
人事部、どうなっているのだね人事部!
コロナウィルス影響下で、退職者が何人も出て穴だらけなのは分かるが、本当に大丈夫か人事部!

あと、仕事の愚痴になるかもしれませんが、難癖をつけてくる客にはさっさと警察を呼べ、と学びました。
畜生、もうちょっと初動が早ければ、迷惑な客を出禁にできたのに!


第569話

黄昏月拾溌日目

 

 

 犯したいから攫ってこいと言われたようなもんなのに、律儀に指示に従ううちの子達は将来大丈夫だろうか…。

 いや犯す云々を差し引いても、新種の鬼出現の首謀者なのは決まったようなもんだから、探し出さなきゃいかんのだが。

 

 俺も、今日からは探索に加わる事が出来る。と言っても、各種事務作業後の余った時間で、だけどな。

 虚海が拠点にしそうなところをざっと巡ってみたが、痕跡は無い。うーん、あいつの事だからこの辺だろうな、と思ったんだが。

 ここらでないとすると…触鬼の触媒を隠していた、あの洞窟だろうか? あそこはちょいと遠いなぁ…。いや遠いからって行かない理由にはならないんだけど。

 

 

 …ん、いや待てよ…そうか、遠い。遠いんだ。あの虚海の隠れ家に行くには、曲がりくねった洞窟を抜けるか、雪原を一つ越えていかなければならない。

 人間だって気軽に踏破できる距離じゃないし、増して転移を使えるとは言え餓鬼が歩きで移動できる筈もなく。

 

 …大体からして、あいつはどこでアラガミの細胞を手に入れたんだ? 他所で、と言う事は有り得ない。この世界にある細胞は、メガラケルてんてーの体のみ…。

 そうか、あの時滅却した体以外にも、破片がどっか残ってたか。と言う事は、奴が潜んでいたのは里の中…少なくとも結界近辺だな。

 鬼に結界が効かないのは、それが理由かもしれない。結界内に取り残されていたアラガミ細胞が、その圧力を跳ね返す為の構成を学んでしまったんだろう。

 

 で、それを拾った虚海が、何の気なしに…考え無しにとも言う…触鬼の細胞と掛け合わせてしまったところ、あの鬼が産まれてきたと。

 …んー、でもその鬼が結界の中にわざわざ現れたってのがよく分からんな。

 確かに餓鬼は鬼達の斥候みたいな役割を果たす事はあるが、夜の山の中で一匹だけフラフラしてるってのも…。

 折角作り出した特殊な鬼を、捨て石にするみたいに放り出すってのも分からない。触鬼の触媒を使っているというだけでも、虚海にとっては貴重な戦力になる筈。

 

 そもそも、触鬼で混乱を引き起こそうとするなら、人里の近くに出現させる事自体、効率が悪すぎる。何処か離れた異界に何匹か放逐し、増殖させてから人里に誘導した方が、よっぽどの脅威になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 …ちょっと待てよ、虚海だぞ。あの虚海だぞ。悪党ぶったポンコツだぞ?

 なんか今までとはちょっと違った方向で、スゲェ嫌な予感してきた。

 

 

 

 …時子、ちょっと地図持ってきてくれ、地図。いや異界じゃなくて、里の近辺だ。

 えーっと、先日の大戦があったのがこの辺で…滅多切りにしたメガラケルてんてーの破片が飛び散ったのが……高度からして、これくらいと仮定しようか。

 で、この中でメガラケルてんてーの破片、残滓を発見したとしたら……………。

 

 

 …ポンコツ自暴自棄虚海ちゃん VS 欠片とは言え狡猾で殺意が沸くほど面倒臭いメガラケルてんてー+制御とか安定って言葉とは無縁のアラガミ細胞…。

 これは賭けが成立しないレベルの戦力差ですわ…。

 やっぱり、そういう事なのかね…猶更放っておけんわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に上って、山を見つめて目を凝らす。

 炎天下なんでウンザリする日差しだが、高所故に風があるのが有難い。

 

 足元…床下の自室から、秘書執事の声が聞こえてくる。

 

 

「む? 時子、若様はどうなされたのだ。また自ずから異界の調査か?」

 

「いえ、止めるつもりだったのだけど…何故か、里の内側に注目しているみたい。今は上で里を眺めてるわ」

 

「…里の中に何かがあると…? 若様の慧眼は、一体どこまで見通しているのか…」

 

 

 …慧眼って言われてもな。正直、その場その場の場当たりでしか考えられてないぞ。

 ついでに言えば、その中でも悪い予感ばっかりが的中する。あんまり褒められた事じゃねーよな…。

 でもその悪い予感が的中するのが、『考えもしなかった最悪の事態を間一髪で防いでいる』ように見えるらしい。物は言いようである。

 

 それはともかく、里の中に目を付けたのは、正直言って消去法だ。異界に虚海らしき痕跡が無く、触鬼の気配もない。

 となると、彼女は活動を控えて潜伏している…少なくとも、していたと思われる。

 

 確かにいい隠れ場所だろうな。里のモノノフは強者揃いとは言っても、一般人まで強かな訳じゃない。あいつの術の腕なら、人払いで誰も近付かない隠れ家を作るなり、2~3人の認識を誤魔化して居座るなりは難しくないだろう。

 どっかの家に居座れば、下手に外出こそできないが、衣食住は確保できるし、うまくやれば里の内情まで筒抜けだ。

 

 …いや、あいつの場合、隠れ家の方がありそうだな。人を操って利用する事に躊躇いない程度にはスレてしまってるが、他者との関わりを積極的に持ちそうにない。術をかけて操っても、誰かと話している内にボロが出る。そんなリスクを犯すくらいなら、山中に穴でも掘って立て籠りそうだ。

 あくまで類推だから、誰かの家に居座ってる事も考えて、様子見様子見…。

 

 

 …こうして見ると、長閑な里にしか見えないな。家に畑に河に山。普通の…オオマガトキ前の世界ではともかく、この世界の立地としては理想的だ。自給自足ができて、四方を囲む山が天然の要塞となり、結構な人が暮らしてもまだ余る土地が広がっている。

 各場所では、日々の暮らしに必要な作業を行っているのが見えた。洗濯、狩り、料理、鍛冶、農耕、釣り、そして鍛錬。武器を携えたモノノフの集団が、異界に向けて出発するのも見えた。あ、うちの子達も同行してるな。

 …ちょいと土地が余ってるね。空いた空間に、里人が使える遊戯施設でも作るか? 『あの涼しい環境が欲しい!』って声も上がってるそうだし…川の水を利用したプールなら、その後のメンテもそれ程難しくないだろうし。

 

 いかんいかん、考えが逸れた。

 里の中の隠れ家…まず真っ先に思い浮かぶのは空き家だが、流石に住んでいれば誰かが気付く。結界の効かない鬼に警戒して、モノノフ達が里の中まで巡回してるんだから猶更だ。

 術で誤魔化す…にしても、樒さんと橘花の探知を逃れるのは、いくら虚海でも難しいだろう。速鳥だって、術は分からなくても違和感はそうそう見逃すまい。

 となると、純粋に人目につかない場所で、出入りも難しくない…。

 

 …よし、大体の目星はついた。行ってみるかな。

 

 

 

 

 

 

 目を付けていた場所の内、4つ目の場所を訪れた。こうしてみると、里の中でも人目につかない場所と言うのは案外多い。常に人目が無い訳じゃないが、隠れ潜もうと思えば割とどうとでも出来るものだ。

 そういう場所こそ警戒するのが、速鳥のような忍者なのだが…。

 

 訪れた先で、その速鳥が何やら周囲を見回していた。

 よう、速鳥。何か探してるのか?

 

 

「む、貴殿か…。いや、以前からこの辺りでよく天狐や鳥を見かけていたのだが、最近様子がおかしい。何かあったかと確認にきたのだが…」

 

 

 警戒じゃなくて、天狐観察の時間かい。休日みたいだし、好きにすればいいけど…。

 …? いやちょっと待て、今までのループで、この辺に動物が集まる事なんてあったか? 確かにどこに居てもおかしくはないが…。

 

 速鳥、その天狐とかが居たのは…えーと、かなり前からか? 具体的には、俺達が里に来る前。

 

 

「いや、ごく最近でござるな。長く見積もっても、一月程度」

 

 

 …ひょっとして、この近くに速鳥が来たら、天狐が駆け寄ってきてたりした?

 

 

「……うむ…」

 

 

 それを目当てにここに来たのか…。でも天狐に限らず、動物がここに居て、速鳥の注意を惹いてたって事は…。

 速鳥、ちょっとこっち来てくれ。多分、この辺だと思うんだが…。

 

 

 速鳥を伴い、目を付けた場所へ。

 珍しくもない、民家の一軒家。裏側は藪になっており、普段人が立ち入る事は無い。

 

 

「…これは…!」

 

 

 速鳥が目を剥いた。そりゃそうだろう、藪の中に人が入れるような穴が、ぽっかり空いているのだから。

 大当たり、だ。動物たちがここで動き回っていたのは、近付いた奴や気付きそうな奴の気を逸らす為だろうな。

 

 

「天狐が、我々を謀って、この穴を隠していたと?」

 

 

 天狐自体に、そんな意識があったかは分からんけどな。

 こいつを隠していたのが俺の知ってる奴だとしたら、天狐に言う事を聞かせるくらい朝飯前だ。動物の言葉が分かるんだからな。

 ほれ、速鳥も知ってるだろう。謎の情報提供者だ。

 

 

「むむ…確かに、鳥を操って我らに文を届けていた。鳥に言う事を聞かせられるなら、天狐にも…。……何と羨ましい…」

 

 

 出来る奴は意外といるぞ。俺も特定の動物なら、挑発して大泣きさせるか我を忘れるくらいに怒らせるくらいの事はできる。

 他には……ああ、ホロウも出来たっけな、そう言えば。忘失した状態でも分かるのかは疑問だけど。

 

 

「興味深い話だが、それは後でゆっくりと聞かせていただきたい。今はこの穴が優先」

 

 

 そうだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか。前者ならモノノフとして切り、後者ならハンターとして捌いて食おう。

 …と恰好をつけてみたものの、中はそう深い穴ではなかった。 すぐに突き当りがあって、上を向けば民家の床下が見える。

 

 

「新しい穴ではない…。そしてこの配置…。恐らくは、先代か更に前の代で作られた抜け道か、隠し倉庫であろう」

 

 

 隠し倉庫? 抜け穴にしろ、何だってそんな物が…。あぁ、ゲームストーリーで使ってた家にも、なんか仕掛けがあって

 

 

「この里とて、人同士の戦果と無縁でいられた訳ではない。鬼の事も知らぬ野盗が里を見つけて襲い掛かって来た事もあれば、大掛かりな戦に巻き込まれた事もある。そんな時の為の抜け道は、今でも里に幾つか残っている」

 

 

 成程ね…。そういや、マホロバの里にも抜け道があったな。しかも神垣の巫女の部屋に直行する抜け道が。

 

 

「何故そのような物を知っているのか、興味が尽きぬが…否、聞くまい。どうせ厄介事の種にしからなぬ…」

 

 

 偶然見つけただけなんだけどな。とは言え、里の守りの要への直通路を知ってるとあれば、場合によっては問答無用で消されかねんか。うん、余計な事は言わないようにするよ。

 …で、結局この穴は、そういう危険な事態に備えての穴か。見た所、完全に忘れ去られて手付かず状態だったようだが…。

 

 

「静かにしていれば、まず気付かれる事はあるまい。誰しも、己の足元に空間が広がっていて、しかもそこに人がいるなど考えもせぬ」

 

 

 考えてたら、むしろ精神的におかしくなってるよな。医者にかかるか、とにかく寝ろと意識を奪うくらいに。

 …生活の痕らしきものはある。

 茣蓙とか灯りとか、あと飯を食ったらしい痕。少なくとも快適な環境ではないな。だが暮らせない訳ではない。

 虚海の術を上手く使えば、引き籠っても生活に支障は出ないだろう。

 

 …とは言え、ここに潜んで一体何をしていたのか…。

 

 

「ここに居た御人が情報提供者であるならば、何故隠れるのか…。仮にも先日の戦で力を貸してくださった。疑わぬ訳ではないが、大和のお頭であれば無下にはすまいに」

 

 

 人間不信なのさ。

 …ん? これ、天狐の抜け毛だ。ここに出入りしてたのか。

 

 

「むぅ、餌で釣って手懐けたのか…それとも、言葉だけでそうまで仲を深められるものか…」

 

 

 一匹じゃない。少なくとも2~3匹が出入りしてる。

 ……うん? いやでも1匹の毛を除いて、ちょっと古いな。

 

 

「壁際に、爪の痕、寝転がった痕…。退屈を持て余してたようだ」

 

 

 穴の中をあちこち歩き回ってる。何かを調べてるとか、掘り出そうとしている…って動きじゃないな。

 単純に、やる事が無いから何となく…って感じだ。

 

 

「…天狐は気儘な性質。退屈しているというなら、一か所に留まる獣ではない。なのに留まっていたという事は、退屈を耐えるような明確な目的がある筈」

 

 

 どう考えても、ここに居た奴に用事があった…だよな。餌付けされて飯を食いに来たのか、友達に会いに来ただけなのかは分からんが。

 どちらにせよ、この天狐はあいつには会えなかったみたいだな。でも、何度も通ってる。

 

 

「行方不明の友が戻る事を信じて、何度も足を運ぶか…。くっ、なんと健気な…」

 

 

 感動して泣いてる天狐好きは置いといて、この分だと天狐は近くに居そうだ。足の向くまま、異界の中すら平然と歩き回るのが天狐という生き物だが、だからと言って特別足が速いという訳ではない。

 頻繁に出入りしているのだから、そう遠くにいる訳ではないだろう。

 とは言え、どうやって探したものか…普通に追うのが手っ取り早いが、ちと面倒だな。

 

 

「む? 探す必要なら不要でござる。この毛の色と艶からして、ホロウ殿に懐いている天狐であろう。彼女の元へ向かえば、自然と見つかる筈」

 

 

 

 

 

 

 

 速鳥の言う通り、飯を食うホロウの足元に蹲る天狐を見つけた。ホロウからもらったらしい団子を食っているが、どうにも元気が無さそうに見える。

 毛の色や艶、長さから見て、確かにあそこにいた天狐のようだ。

 

 

「む…どうしました、二人とも。天吉に何か用ですか」

 

 

 丁度飯を食い終わったホロウ。またオケラ常態かな。

 あー、ちょいと天吉に聞きたい事があるんだが…ホロウ、お前天狐の言葉って分かるか? 以前は分かったんだけど。

 

 

「ええ、しっかり翻訳できますが。天吉は今、落ち込んでいます。あまり無理はさせないでください」

 

 

 ホロウの言葉を理解しているらしく、「キュイィ…?」と弱弱しくも無駄に愛嬌のある動作で、俺達を見て首を傾げる天狐、もとい天吉。

 この時点で速鳥が使い物にならなくなってしまったが、まぁいいか。

 

 それじゃ天吉、少し教えてほしいんだけど。

 

 

『 ドウシ タノ』←天狐語を翻訳すると、こんな感じに聞こえます。ヒアリングは苦手なんだよ…。

 

 

 人を探してるんだ。体の半分が鬼のメス。名前は虚海。きっと、天吉と一緒に居たと思うんだけど。

 

 

『シッテル  トモダチ  ツレテ  イカレタ サガシテ オネガイ』

 

 

 潤んだ目(天狐が涙するなんて初めて見たぞ)で俺を見つめながら訴える天吉。

 速鳥でなくても一発で尊死しそうな愛くるしさだが、発言の方が問題だ。

 

 連れていかれた? 誰が、誰に連れていかれた? 何だかんだで、逃げ隠れするのは得意な奴だ。

 天吉が肯定したし、あそこに虚海が居たのは確実。あいつを連れて行く…つまり誘拐するって、相当難易度が高いぞ。

 

 

「私も天吉に頼まれ、異界を周って探していましたが、手掛かりとなる物は発見できていません。誘拐犯の目星をつけるべきでしょう」

 

 

 誘拐犯ねぇ…。里の中で、誰か不審な動きをしたり、居なくなった人を探せって事か?

 ……いや、あの床下の空間には、虚海以外の人間が出入りした形跡は無かった。一番新しい足跡も、自分の足で出て行ったものだし……外に出た時に攫われたのか?

 

 

「……ゲフッ 天吉殿は…その誘拐犯を、見ておられぬのか…」

 

 

 覆面の下の血をどうにかしろよ、速鳥。血に溺れて溺死するぞ。

 でも確かにそうだな。

 天吉、虚海を連れ去ったのはどんな奴だった?

 

 

『トモダチ』

 

 

 …? ごめん、言ってる事がよく分からなかった。

 天吉の他の友達が、虚海を連れ去った、って事?

 

 

『チガウヨ』

 

 

 …虚海が、虚海を連れ去った?

 

 

『ソウダヨ』

 

 

 …ホロウ、どういう事だかわかるか?

 自分で自分を連れ去るって、別に誘拐でも何でもないじゃないか。

 これ以上詳しい事は、俺の天狐語力じゃ聞き出せそうにない。

 

 

「少し待ってください。天吉、キュウゥキューンコンコンカーッ」

 

 

 無表情で天狐と語らっている。速鳥が人生の師を見つけたような顔をしていた。

 

 

「…お待たせしました。虚海とやらは、失踪する直前におかしくなっていたようです。何かに取り憑かれたように譫言を繰り返し、操られているような有様だったそうです」

 

「おかしくなってしまった本人の足で、何処かに行ってしまった。だから友が友を連れ去った、という事か」

 

 

 そのようだな。しかし、あいつを操る…ねぇ。鬼…じゃまず無理だな。結界の中に術を届かせる鬼は居るが、虚海が今更そんな術中に嵌るとは思えん。

 完全に不意を突かれた上に、未知の『何か』に遭遇したとしたら…。

 

 …………ああ、大体わかった。

 

 

 

 あの阿呆、アラガミ細胞に取り込まれやがったな。

 

 

 取り込まれるというか、取り込むというか…感染、と言った方が正確かもしれない。

 鬼の体の方か、人の体の方かは分からないが、触れた時に何らかの切っ掛けで細胞が活発化し、取り付いたんだろう。

 

 例の結界が効かない鬼を作り出した時か? いや、実験中に取り込まれ、操られた結果あの鬼を作り出したって線もありそうだ。

 

 

 …しかし、この世界でアラガミ細胞が動くとして、その目的は? 終末捕食を起こそうとする世界ではない…となると、食欲か。

 俺も制御できるようになるまでは、散々空腹に苦しめられたからな。

 

 隠れ家から出て行ったのは、飯を求めてか、そのままだと天狐すら食ってしまいそうだったからか。どっちであっても、アラガミ細胞による行動と、自発的な行動の2通りの理由が考えられる。

 何にせよ、こりゃ人里近くには残っていそうにない。意識を乗っ取られて下手に暴れでもしたら、その場で討伐対象とされてしまう。

 

 

 …まだ虚海の意識が残って、それなりの判断ができているのだとしたら……よし、行き先の見当がついた。

 

 

「真か。一体どこへ…」

 

 

 …消し飛ばされた、古の領域。あそこなら人も居ないし、鬼すら畏れてか近付かない。

 おかしくなってしまったとしても、周囲に被害は無いだろう。

 

 

「………! あそこか…。よもや、異物に精神を蝕まれながらも、他者の被害を考えて…」

 

 

 いや、多分打算の問題だ。意識を乗っ取られていては、いざ戦いとなっても策謀を巡らす事もできないし、逃げ出す判断すらできるか怪しい。

 周囲に何もないなら、意識が無くなっても危害を加えられる可能性は低い。

 まぁ、結果的に周囲の心配をしていると言えなくもないがね。

 

 

「何れにせよ、確かにあの場所は我々も避けてきた。…どの道、一度は調査する必要があるか」

 

 

 …そーいやあそこ、毒みたいな緑の燐光があったんだっけ。

 早い所行かなきゃ、アラガミ細胞がまた余計な物を取り込むかもしれんな。その前に、虚海が倒れる方が早そうだけど。

 

 速鳥、悪いが大和のお頭への報告を頼む。

 俺は古の領域に直行する。

 

 

「一人で行く気でござるか。単騎特攻を戒めていたのは、他ならぬ貴殿であろうに」

 

 

 他の事ならそうするが、こればっかりは準備をしようが人を増やそうが意味が無い。

 あそこの緑の燐光が消えない限り、人が立ち入る事は出来ん。

 俺はあの燐光に耐性がある。敵の出現が考えにくい以上、今回は一人で向かうのが最善策だ。

 

 

「その燐光と言うのは、どのような毒でしょうか。私も毒には耐性がありますが」

 

 

「あれは尋常の毒ではない。恐らく、鬼や人が使う毒とは根本的に違う何かでござる。近寄るべきではない。…と言うより、貴殿は何故耐性があるのだ」

 

 

 あそこを消し飛ばした鬼は、俺の知り合い(という設定)だって言ったろ。クサレイヅチを追いかけている間に、何度か同行した事もあって…まぁ、その時に色々あったんだよ。

 ホロウなら案外耐えられるかもしれないが、正直試してほしいとは思わんな。

 

 …とは言え、虚海を確保できたとしたら、運搬役は必要か。うちの子達と一緒に、古の領域の外で待機してほしい。

 

 

「了解しました。天吉の友人の為です。一肌脱ぎましょう」

 

 

 

 

 

 

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