さて、そういう訳で、やってきました古の領域。相変わらず何も残ってない。時折、緑の燐光が振ってくるが、その頻度は以前より低くなっているように思える。
上手くやれば、燐光に触れずに奥まで歩いて行く事も出来るかもしれない。ただ、目に見えなくても毒素は残っている筈だ。歩いているだけでも、毒に蝕まれていくのは避けられまい。
ここに虚海が居るのか、だが……ビンゴらしい。ここに来るまでに、虚海の物らしき痕跡が幾つかあった。
「ここが古の領域、だった場所…。鬼に消し飛ばされたとは聞いていましたけど…なんだか怖い…」
「同感です。虚海とやらは、よくここに平然と入っていけたものです。…それに、奇妙な音が聞こえます」
「ええ、何かが噴き出すような音が、かすかに…」
運搬役として連れてきた まり とホロウが、口々に評する。
ホロウでさえ、入って行くのを躊躇うか…。ここを消し飛ばした時の俺、一体どれだけガチギレしていたんだか。それとも、単純に残された毒を恐れてか。
二人が聞こえている音は、俺も聞こえる。領域の奥の方から聞こえるようだが、自然に起きるような音ではない。…なんつーか………貯め込んだ空気を、猛烈に吐き出しているような? モンスターや鬼のブレスとも少し違う印象だ。
「あの…若様、その虚海と言う人の足跡ですけど、おかしいですよね。途中で元気そうになったり、ふらふらと左右に揺れながら歩いたり…」
ああ、ころころと状態が変わったな。にも関わらず、まっすぐこの場所を目指していたように見える。
アラガミの意識か、虚海の意識かは微妙なところだが、ここに拘る理由でもあったのか?
…何にせよ、見つければ分かる事か。
それじゃ、手筈通りにここらで待機し、退路の確保を頼む。中に入った俺は、一定時間ごとに狼煙を打ち上げる。もしもそれが絶えるようであれば、緊急事態と判断して救援を求めろ。速鳥がその辺の手配をかけてくれている。
「承知しました。武運を祈ります」
「気を付けて…」
まり の心配そうな声に軽く手を振り、古の領域へ進む。
どっちに行っても何も無いのは分かっているから、音が響いて来る方向に向かう事にした。
…意外と砂埃が激しく、見通しが悪い。
俺に緑の燐光は効かない筈だが、やはり気分がいいモノではない。一部の人にとっては、脳髄が逆流するほどヒャッハーな気分になれると評判なよーだが、少なくとも俺はその範疇に入らないようだ。
………虚海はどうだったんだろうか?
いや、体が半分鬼だっつっても、この毒に耐性があるとは思えない。仮に鬼の方にあったとしても、人間の体にゃ毒だろう。
アラガミ細胞にとっては? ……学習する恐れはあるが、やはり最初は基本的に毒。
とても有難がるとは思えない。
…でもなー、なーんかさっきから嫌な予感してるんだよな。今でも充分話がややこしいけど、更に面倒くさくなる予感が。
大体、ここに望んで歩いてきたのだとしたら、十中八九狙いはこの燐光だ。誰も居ない環境、と言うのも狙いだったのかもしれないが…食欲の化身であるアラガミ細胞が、喰らう物の無い場所に来たがるとも思えない。
…噴き出すような音と、砂埃が激しくなってきた。砂嵐と言ってもいい程になりつつある。
思えばこの砂も奇妙だ。今までこんな砂煙は立ってなかったし、風だってそこまで強くなかった。だというのに、前方…つまり音が響く方向から吹き付けてくる。
…断続的な振動まで響いてきた。
目の前には、一際濃ゆい砂嵐が壁のように吹き荒れていた。
久しぶりだな、ここまであからさまなのも…。
どう考えてもボス部屋手前の演出です、本当にありがとうございました。
ついでに言えば、ちょっと信じがたいが、この音と砂嵐の原因も見当がついた。
…えー、マジ? よりにもよって、そっちの方面に行っちゃう?
と言うより、何でそこに辿り着いてるの? 確かにこの燐光に関係してはいるだろうけど、そっちの情報なんて全く無かった筈よ?
…色々と世界観がぶっ壊れる覚悟を決めて、砂嵐に腕を突っ込む。気分的には、砂嵐と言うよりは白い霧に侵入していく感じだった。
世界の壁を破って侵入したような感触を突っ切り、砂嵐の中に入ると。
そこには全長5メートルくらいの、全身機械鎧の巨人が蹲っていました。
緑の燐光を、ごく僅かに纏っています。
背中の噴出口らしい部分から、猛烈な勢いでジェットが噴き出し、砂を舞い上げています。わー、砂嵐の原因はこれだったんだねー。
浮き上がっては落下し、地響きを立てる。どうやら空を飛ぼうとしては失敗しているらしい。鬼なんだから、物理法則無視して飛ぶくらいの事はできそうなのにネ。
右腕には見覚えのある杭。俺の鬼杭千切によく似ているネ! このループで使った覚え無いのに。ていうかとっつき…。
鎧の隙間、本来であれば関節や接続部があると思われる個所には、これまた別の意味で見覚えのゼリー体がはみ出している。…あれ、GE世界のヴィーナスと同じ物じゃね?
そして、本来コックピットがあると思われる部分は剥き出しで、そこには四肢を埋め込まれ、脱力して俯く虚海が。ああ、やっぱりパーツとして利用されてるのね。
俺が砂嵐の中に入って来た事に気付いたのか、巨人は背中からのジェット噴出を止め、顔を上げた。
鋭い曲線で構成された顔の真ん中で、単眼が不気味に光を放つと、埋め込まれていた虚海を覆うように鎧が閉じていく。
着地の衝撃で膝をついていたが、ゆっくりと立ち上がり、俺に向き直る。全身に力が漲り、戦闘態勢に入った事が分かった。
燐光を身に纏う………うん? 緑ではなく、赤? …俺の知らないエネルギーの可能性がある。耐性は当てにしない方が良さそうだ。
俺が神機を構えるよりも先に、巨人が動き出す。轟音と衝撃波を伴い、巨体の印象を裏切る猛烈な加速度で飛び上がり、片腕に装着された銃らしき部分から実弾が降り注ぐ。更に踏みつぶそうと圧し掛かって来た。
足元を潜り抜けるようにして擦れ違い、抜き放った神機(銃形態)で反撃するが、フィールドのような物に弾かれる。
砂塵が巻き上げられているが、お構いなしに膝裏のヴィーナスっぽい部分を狙って突撃・刺突。だが方向転換すらせずに、背中のジェット噴出で迎撃された。
複雑に吹き荒れる砂嵐が、巨人の姿を覆い隠す。どういうカラクリなのか、あの巨体を全く探知できない。空に浮かぶにしても、地面を歩くにしても、あの巨体なら確実に震動がある筈なのに、それが無い。
考えるより先に、体が勝手に反応した。正面に対して全力で防御態勢。砂の幕で隠されたすぐそこから、強い光が放たれる。
考えられる限りの強化を施した神機とバフ越しでさえ、全身に響く重い衝撃と、明らかに体を犯す異物感が貫いてきた。連続で放たれた砲撃が、盾だけでなく周囲にも着弾し、裏側から爆発を届かせる。地面が砂だけでよかった、石や岩があれば破片で傷を負っていただろう。ダメージ無し、状態異常はあるが詳細不明なので漢方薬(この世界ではこっちの方が手に入れやすい)で対処。
…成程ね、隠れたんじゃなくて、探知できなくさせてたのか。動かなければ、あの巨体と言えども震動は無い。認識できなかったのは、ステルスフィールドか隠のタマフリみたいなものだろう。ついでに言えば、正面から不意打ちをしかけられるという意識は少ないので、奇襲の成功率もかなり高い。
こいつは、単なる鬼とは違う。アラガミとも、モンスターとも違う。
明確に自分の能力を把握し、戦術戦略を練り、現在進行形で進化する、最も厄介な存在だ。
久しぶりに本気でヤバい。だというのに、俺の心が湧きたっている自覚がある。
このところ、手応えの無い敵ばかりだった。(メガラケルてんてーは割と面倒だったが)それどころか、自ら狩場に立つ機会すら少なくなる始末。
退屈してたんだ。
強い敵と戦いたくなる。
身体は闘争を求める。
アーマードコアっぽいのが目の前にいる。
アーマードコアシリーズの収入は増えないかもしれないが、俺大歓喜。
フロムとコラボしたい(身の程知らずこの上なし)
…いや、一回コラボと言うかクロスしてたな、夢の中で。
ま、いいや。とにかく…やろうか。まり やホロウには悪いが、連絡している余裕も暇もない。戦いの音が響くだろうから、それで生存を知らせるしかないだろう。いや、そんな事考えてる暇すら無さそうだ。
久しぶりに、頭領としての立場も、三つの世界の関係も、女の事も、イヅチカナタの事も忘れ、目の前の獲物を狩る事だけに没頭した。
…何で俺は、鬼が跳梁跋扈する討鬼伝の世界で、世界観無視したハードボイルド機動兵器と闘ってるんだろうか?