※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第571話

 

 

 

 

黄昏月拾玖日目

 

 

 

 いやぁ~、ヤバかったヤバかった。本気で強いでやんの。絶対アレはレイドボスの類だよ。

 戦ってるうちに、ガンガン進化していきやがって…ジャンプは最初からやってたけど、途中からホバリング、クイックブ…もとい短距離ダッシュ、空中ダッシュ、浮遊と、機体を動かしている間にあっという間に学習・応用していきやがった。もうちょっと時間かけてたら、多分超々長距離の音速越え移動とかも使い始めたね。流石はアラガミ細胞と言うべきか。

 殴っても殴ってもダメージの蓄積が見えないと思ったら、いつの間にやら周囲の緑の燐光を取り込んでエネルギーに変換、自己修復なんて芸当まで身に付けていた。

 戦い方もどんどん狡猾になるし、秒単位で武装が洗練されていくし。

 

 逆に、こっちは赤い燐光の毒素除去が間に合わなくなっていき、動きが鈍りかけた所に一発受ければ即死確定の踏みつけが………いや、一発までなら耐えられたな、多分。ラオシャンロンに踏まれても死なないからね。でも多分、連続ストンピングとかするつもり満々だった。一回受けたら、抜け出すのはちょいと厳しそうだ。

 

 

 

 

 あと何がヤバかったって、熱くなりすぎて虚海の事忘れるところだったんだよネ! 最後の時なんか、危うく胸部装甲ごと鬼杭千切・乱舞でブチ抜くところだったZE! 咄嗟に神機と刀の二刀流で、抉るように装甲を切り払い、虚海の服に噛み付いて強引に引きずり出した。

 まぁ、いい予行練習になったけどね。丁度、クサレイヅチに取り込まれた千歳があんな感じだった。今回と同じ要領でやれば、千歳を傷つける事なく救出できるだろう。

 

 …まぁ、その行動切り替えの一瞬の隙を狙われて、ただでさえボロボロだった体に、トドメが入っちゃったんだけども。いやデスワープはしてないよ。

 俺もあいつを見習って、緑の粒子を生命力に還元する術を身に付けたから。虚海を連れて戻る時には、装備は滅茶苦茶だけど、俺自身は軽い重症で済んだってくらいまで回復していた。…軽い重症? ライフが1でも残っていれば、俺達は元気いっぱいに走り回れる。ライフが0になっても、リンクエイドなり猫車なりの後はまた全快する。要するにそういう事だ。

 

 

 もう少し、奴との闘いについて語りたいところだが……いや、やっぱり辞めよう。言葉にするのも無粋だし、何となく特別な闘いだったように感じる。無暗に人に漏らすものじゃない。

 と言うか、正直それどころじゃないからね。

 

 帰ってくるなり医務室に引っ張り込まれ、物凄い勢いで色んな人から説教を受けています。しょーがないでしょ、実際時間をかけたって突入できる人数が増える訳じゃないし、虚海の身がどんどん危険になっていくだけだったんだから…。

 反論したら更に怒られた。

 

 いや、反論して怒られるのも無理はないか。俺を助ける為に、相当な無理をしようとしていたみたいだからな。

 俺が古の領域から出てきた時には、救援部隊が待機していた。うちの子達だけじゃない、里のモノノフもだ。

 桜花、息吹、速鳥、那木……そして橘花。

 

 …そう、橘花。橘花だ。尻穴狂いの神垣の巫女だ。どうしてここに居るのか素で分からなかったが、話を聞いて仰天した。

 

 

 

 なんと、俺の救援の為に、里を一時無防備にする事を決めたらしい。ここに居ない面々は、揃って里の防衛についている。

 

 古の領域は強力な毒で満ち、とても生身では入って行けない。だったら、毒を弾く結界を使えばいいじゃない。

 と言う事で、結界の専門家である神垣の巫女を引っ張って来たのだそうだ。…正確に言うと、橘花が現場に押しかけて来たらしいけどな。毒を弾く結界には相当な力を籠めなければならず、遠距離で結界を張るのではとても足りない。だったら出来るだけ近くで術を使えばいい。

 …理屈は単純だし分かるが、これが大変な決断であった事は言うまでもないだろう。

 

 神垣の巫女を、異界に連れてくる。この時点で正気を疑われてもおかしくない。

 鬼に奇襲でも受けたら、戦う術のない巫女を守りながらの戦いになる。もしもそれで橘花がどうにかされてしまったら…。

 いや、それ以前に、モノノフと違って瘴気への耐性も低いのだ。戦わなくても、活動限界までに戻れず死んでしまう可能性は非常に高い。

 

 さらに言えば、里を守っている結界だ。術者の橘花が離れてしまえば、当然結界は消える。

 …俺を助けに来る為に、里を無防備状態にするとか、誰が予想できるよ…。

 

 

「貴様を助ける為だけではないがな」

 

 

 あ、大和のお頭。

 

 

「確かに結果的に見ればそうなるか。聞けば、例の鬼を生み出した下手人がそこにいると言うではないか。放置しておく事は、とても出来ん。更に、貴様は自分一人の為…と考えているかもしれんが、その一人はこの里の半分近い戦力を纏めるのに欠かせない一人だ。貴様が居なくなれば、比喩でも誇張でもなく彼女達は破滅する。路頭に迷うくらいならまだいい方で、狂い死にさえする可能性があるのだろう? お前は自分一人を助ける為と思ったかもしれんが、実際は彼女達を、そしてその戦力によって助けられている里の皆を助ける為でもある。ついでに言うなら、お前の扱いはシノノメの里との関係にも大きく影響を及ぼすだろうからな。全く、軽率な言動とは裏腹に、無駄に重要人物になりおって」

 

 

 否定はできんが、随分話を大きく持ってきたな…。

 それにしたって、里を無防備にするとは思わなかった。

 

 

「まぁ、異界浄化の影響もあり、最近の里近辺には鬼が少ないからな。襲撃を受ける可能性は低いし、仮に受けたとしても、短期間ならば撃退できるだけの戦力はある。そう分の悪い賭けという訳でもなかったさ」

 

 

 それにしたって大博打だったと思うが…いや、助けにきてくれようとした上に、俺がそれを無駄にしちゃった訳だから、もうこれ以上何も言えんな。

 話は変わるが、虚海はどうした? 事の張本人……と思われるとはいえ、あれも俺の知人ではある。先日の戦での情報提供者でもあるから、あまり無体には扱わないでほしいんだが…。

 

 

「無体も何も、未だに目を覚まさんから寝かせておくしか出来る事が無い。監視はつけているがな。…ただ、検査したところによると、体のそこかしこが変質しているらしい」

 

 

 変質…鬼の体の事なら、あいつは以前からそうだったんだが…。

 

 

「それとはまた別に、だ。茅場が狂喜乱舞して服を剥こうとした、と言えば分かるか?」

 

 

 はい牢屋行。…アラガミ細胞に気付きやがったか。しかし、虚海を剥こうとしたって事は……虚海にアラガミ細胞が? またややこしい事に…。

 古の領域で戦った姿からして、多分アラガミ細胞だけじゃないだろう。学習してあそこまでの技術力を実現できたとしても、どう考えても素材が足りない。

 虚海が持っていた触鬼の触媒も無くなってたし…どう考えても、取り込んであの機械巨人の素材にしてる。で、虚海はその機械巨人に取り込まれていた訳で…。

 

 下手すると、俺と同じようにアラガミ細胞・触鬼の触媒を取り込んで、ミックスした何かになっている可能性がある。

 …暴走してないのが奇跡だな…。

 

 

「検査は博士に任せたが、結果は似たようなものだったな。目の色を変えたぞ」

 

 

 …余計な事をしないように、釘を刺しておくか。鬼にせよアラガミにせよ、いくら博士が天才だとしてもそうそう手に負えるようなもんじゃない。

 と言うか、思えば天才の類ほど、アラガミ細胞を上手く扱って、その後に暴走させてたような気がする。…アラガミ細胞自体が、自分達を扱おうとする天才の思考回路を学習してたんじゃないかと思えてきた。

 

 

 どっちにしろ、虚海に関しては目が覚めるまで待つしかないか。

 

 

 

 

 …あ。

 

 

 ごめん大和のお頭、ちょっと通達しておいてほしい事があるんだけど。里だけじゃなくて、うちの連中にも。

 

 

「構わんが、何だ?」

 

 

 また新種の鬼が現れる可能性がある。今度は古の領域近く…或いは、里からそこに至るまでの経路で。

 こう……蚤…いや、状況を考えると蜘蛛? 外見はササガニの新種みたいなものになりそうだ。

 

 

 

「ふむ…。戦力は? また、そやつが現れると思う根拠は何だ? 名はあるのか?」

 

 

 鬼じゃないんだが、俺の知ってる伝承だと『AMIDA』って呼ばれていた。

 主な移動方法は飛び跳ねる、そして近寄ってきて自爆。物によっては酸を吐く。下手をすると飛ぶ。

 それと、状況にもよると思うが、阿保みたいに頑丈でしぶとい。

 

 尤も、最大の脅威は武装じゃなくて、精神汚染能力だけどな。

 見た目は気持ち悪いの一言なんだが、どういう訳だか暫く接している人間が可愛い可愛い言い出して、女の子扱いしたり男の娘扱いし始めたり、脳味噌を擽るような可愛らしい声の幻聴を聞き始め、異様な輝きを放つ目で猫かわいがりし始める。

 

 

「   うん?   」

 

 

 こいつが現れると思う根拠は、虚海を回収する時に戦った……鬼と呼んでいいのか分からんが、とりあえずあの鬼だ。

 あれもとある地域の伝承にある存在なんだが………少なくとも、虚海も、虚海を乗っ取った奴も、この伝承を知ってる筈がないんだ。

 でも、それを再現していた。

 

 

「……なんか色々引っ掛かるが、それで?」

 

 

 機会鎧巨人を再現したんだったら、AMIDAを再現しない筈がない(断言)

 と言うか、鬼が再現しなかったら、自分で開発しそうな奴らが近くに2人もいるんだよぉぉぉ!!!

 

 

「理由になっとらんわ! …いや、しかしあみだ…あみだ、か。…考慮に入れておこう」

 

 

 おろ? 自分でも正直、根拠にならないと思ってたんだが…。

 

 

「何だかんだで、貴様の嫌な予感は大体的中してきたからな。…それに、目を覚まさない虚海だが………魘されていてな。…譫言で、網がどうの虫がどうの、自爆がどうのと…」

 

 

 

 …………取り込まれている間に、精神汚染されたか…?

 早い所、起こしてやらんと。……追加でのっぺらでも送り込むか? …駄目だ、化学反応を起こしてえらい事になる未来しか見えない。虚海は廃人まっしぐらだ。

 どうしたものかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 叱責やら治療やらが一通り終わり、自由に動けるようになったので、虚海の様子を見に行く。

 護衛…と言うかもう完全に監視役になっているアスカがぴったりと付いて来るが、流石にこれは仕方ないよな。心配かけちまってるし…。

 

 医務室ではなく、特別な結界が張られた小屋で、虚海は眠っていた。この結界は橘花と樒さんの共同作成で、外に出る事も、入って行く事も、術を貫通させる事もまずできない仕掛けとなっている。更にはその小屋の四方を、モノノフが固めている。

 …早い話が、牢獄だな。

 目を覚まさないままだし、体に相当な負担がかかっているしで、罪人用の牢獄に入れていると目を覚ます前に衰弱死しかねない、という判断だそうだ。

 

 事実、虚海は魘され、譫言を呟くものの、目を覚ます兆候は全く見られない。汗が滲み、苦悶の表情で、布団の上で体を捩る。…ひどく、弱っているのが見て取れた。

 世話役の医師見習いが一人だけ傍についており、時折水を飲ませたり、汗を拭いたりしている。だが、彼女も虚海が何をしたのか聞かされているらしく、決して友好的とは言えない態度だった。

 それでも邪険にされないのは、寄り添っている天狐…天吉のおかげだろうか? 虚海を友達と称していただけあって、よく懐いている。

 魘される虚海の顔を覗き込んでは悲し気な声を出したり、起きろと言いたげに肉球で頬をペチペチ叩いたり。

 

 

 …そしてそんな天吉を、付き添って来たらしいホロウが眺めている。

 

 

「…ああ、あなたですか。下手人の確保……いえ、救出でしょうか。お疲れ様でした」

 

 

 実際、結構疲れたね…。勝つには勝ったが、体が鈍ってんな。鍛え直さないと。

 …ところで、どうしてここに? 虚海に…何か気になる事でも?

 

 

「……いえ。天吉が気にしていたので、一緒に来ただけです」

 

 

 …そうか。その…何か気にかかったりはしないのか? お前はこいつとも、過去で関係があった筈なんだが…。

 随分人相が変わっているから気付かなくても無理はないと思うが、こいつはお前を…。

 

 

「いいえ。顔を見ても、特に引っ掛かるものはありません」

 

 

 …そう、か。…虚海にとっちゃ、本気できついだろうな…。

 元の世界に帰る希望、ホロウが見つかったと思ったら、自分の事を覚えていない上に、元の時代に帰る方法もないと来た。どうして世界は、ホロウにここまで厳しいのやら。

 

 

(…ねえ、ちょっと、若)

 

 

 ん? どうした、アスカ。

 

 

(さっきから思ってたんだけど、なんかこいつ、態度悪くない? つっけんどんと言うか、突き放すような言い方ばっかりしてるんだけど)

 

 

 …言われてみれば、確かに。思えば、再会(ホロウにしてみれば初対面だろうけど)した時から、妙に当たりが強いというか俺に構わず行動するというか。

 別に、うちの子達みたいにとにかく俺を行動の中心にするべきだ、なんて事は言えないが……考えすぎか? まるで、俺と共に行動するのを拒否しようとしているような…いやでも協力要請してきたり、こっちからの要請には応じてくれたしなぁ。

 

 なんかこう、壁を感じるのは確かなんだ。

 前ループで一緒に行動していた時は、とにかくマイペースではあったけど、慇懃無礼ではなかったし、和を乱さない程度には、人に合わせて行動していた。

 

 

(私も何度か里でこいつを見たんだけど、他の人とは普通……まぁ、普通だったわ。意見も言うし、求められれば大抵の事は応じる。…鉄面皮だけど)

 

 

 それは元からだ。前触れもなく、突飛な行動に走るのもな。単純に、警戒されてるのかな…。今の俺って、普通の女性から見れば近付きたくもない女狂いだし。でも、先日二人で話した時には、そんな感じは………ああでも、クサレイヅチの話も聞くだけ聞いて興味ないって顔だったし、そういう意味では拒絶されてたのか?

 ううむ…仮に俺が、背後で陰口叩かれていて、ホロウから便所虫を見るのと同じ視線を向けられているのだとしても、虚海の事にまで嘘を吐くとは思えん。失った記憶の、数少ない手掛かりなのだ。俺の言葉を拒絶する為だけにそれを否定するなんて、とても考えられん。…と言うか、そこまで徹底して拒絶されているとは思いたくない。真面目に。

 

 んー…単純に、失った記憶はそう簡単には思い出せないという事か…或いは、クサレイヅチが前のループでホロウの因果を奪っていきやがったのか。

 これまでの旅路の因果を奪われてしまったのなら、クサレイヅチ討伐に執着を見せない事も、虚海に対して何の反応も示さない事も説明はつく。

 俺に対して、妙に壁を感じる理由にはならないけど…。

 

 

(何にせよ、退散した方がよさそうね。邪見にされて逃げるようで気に入らないけど…理由はどうあれ、ホロウは虚海の様子を見に来て、天吉という理由があるとはいえ留まっている。口では否定しているけど、無意識に感じる物でもあったんじゃない?)

 

 

 む…そういう見方もある、か。

 そうだとしたら、俺が居る事で余計にホロウの拒否感を煽りかねない。虚海を起こす事も出来そうにないし、一旦退散するか。

 ……『来るな…自爆……跳ねるな、飛ぶなぁ…』と魘されている虚海には悪いが。

 

 …つーか、虚海が目を覚ました時、ホロウを見たらどう反応するだろうか。前ループでも顔を合わせてたが、あの時はホロウの記憶があったからな…。狂乱しなければいいんだが。

 

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