話を進めるアイデアも気力も沸いてこない。
本格的にスランプっぽいです。
気分転換したいし、暫く更新が滞るかもしれません
黄昏月弐拾日目
虚海が眠っている間に、隠されている触鬼の触媒を確保する事にした。
北の地に通じる、結界石の洞窟を抜けた先。雪原に面した場所に、虚海の隠れ家がある。いつぞやのループでは、ここでデスワープしたっけな。虚海が触媒を発動させようとしたら、俺が持ってた触媒まで発動してしまって、それに取り込まれた。おかげで、何でも取り込み一部に出来るという、某ピンクの悪魔みたいな能力が手に入ったが。
バタフライ効果で、隠し場所が別の場所に移されている事も考えたが…事態は予想以上に深刻だったようだ。
「で、若様。ここに何があるってんです? 誰かが暮らしていたようですが」
護衛として連れてきた権佐が、渡したホットドリンクを片手に周囲を見回している。
洞窟を抜けなきゃならんからな。土遁で壁を無視して進める奴を連れてきたんだが、あっさりと到着してしまって拍子抜けである。
ここで暮らしてたのは、この前連れ帰って来た虚海だよ。あの姿だからな…人目を忍んで隠れるのも分かるだろう。
「焚火の痕、妙に霊力が強い場所、それに食い物…。しかし、ここ暫くは使われていないようだ」
最近は里の近くに居たみたいだからな。一人になりたい時か、邪魔されずに研究したい時くらいしか使ってなかったんだろう。
ま、長く居たい場所でもないだろうからね。寒いし、天然の結界石に遮られてるとは言え鬼はすぐ傍にいるし、隙間風が五月蠅いから昼寝にも向かないし。ああ、酷暑の季節であれば、涼みにくるのもいいかもしれんがね。
「長く真っ暗で入り組んだ洞窟を抜けて、季節も何もない異界の中で避暑ですか。何とも優雅なことで。で、若様…この穴は、何ですかね」
…何だろうね。
洞窟の一角、妙に霊力が強い場所…から1メートルほど離れた場所に、穴があった。地面から掘り起こされたものではなく、土中から何かが這い出てきたようだ。
その穴は緩く傾斜していて、穴の奥は…霊力が強い場所、つまりは触鬼の触媒の隠し場所の辺りに続いているような。
注意して探ってみれば、前ループの時に比べて、感じられる霊力が弱い気がする。…どっちにしろ、確保する為には掘り起こさなけりゃならんか。
権佐、穴を掘るの手伝ってくれ。ああ、タマフリ使って土を透過とかはするな。下手に刺激すると、妙な形で発動するかもしれんからな。
「はいよ。ちっ、地面が凍ってやがる。ちょいと乱暴に行きますかね」
…まぁ、物理的な衝撃じゃ、起動はしない筈。最悪、俺が逆に侵蝕して止めるか。
…掘り起こしてみたら、そもそも触媒が無かった。と言うか、触媒があったと思しき場所から、横穴が続いていた。
って事は…触鬼、勝手に動き出してやがるな。虚海が自分でやったとは思えん。触鬼をばら蒔く事自体に抵抗はないだろうが、こんな場所で放り出しても意味が無い。増殖するまで放置するにしたって、もっと適した場所がある。
んで、触媒が勝手に動き出すのも考え辛いから………ああ、成程。
里で入手したアラガミ細胞は、ここで保管しようとしたんだな。そして大部分はここに、一部は虚海の体に滞留して、前者は触媒を取り込んで動き出し、後者は虚海を乗っ取ったと。
…勝手に動き出して出て行ったって事は、もう増殖と進化を始めてるな。虚海を乗っ取った細胞とは別系統になってるから、AMIDAは再現してないと思いたいが…。
権佐、予定変更だ。この辺の鬼を何匹か狩る。全部とは言わないが、結界の効かない例の鬼とか、変異した未知の鬼が居る可能性がある。
「ほう…? 護衛は退屈な任だと思ってましたが、中々に面白くなりそうですな。骸佐や鹿之助に自慢できるってもんです」
骸佐はともかく、鹿之助は羨ましいとは思いそうにないけどね。
とりあえず、この穴から這い出した鬼の後を追うぞ。ったく虚海め、相変わらず妙なところで抜けてやがる。明確な悪意を持った企みよりも、本人も意図しないところで発生した騒ぎの方が被害が大きいとか、どんだけポンコツなんだか…。
洞窟から出るなり、ミズチメみたいな奴に襲われた。凍り付いた蛇っつーか…。初めて見た鬼だが、以前に図鑑で見た事がある。
確か、名前は凍波…イテナミ。タマハミ状態になると、ひっくり返って顔が蛇になる。名前の通り寒い地方にしか出現しない鬼だ。
サクサク倒してしまっても良かったんだが、久々に手応えがある相手だと権佐が喜んでいたので、半ばそっちに任せきりだった。
うーん、腕を上げてるな、権佐の奴…。普段はのんびりした姿ばかり見かけているが、早朝の習練は怠っていないらしい。
権佐がイテナミと戯れている間に、俺は周辺を散策する。
何匹か小型の鬼を狩ったが、その中で『当たり』は2匹。外見も行動パターンも、他の鬼と全く変わらないので、狩ってみるまで区別がつかないのが厄介だ。
見分けがつけば、すぐに狩らずに暫く観察できるんだけどな…。
恐らくだが、狩った2体は大本になった鬼じゃない。狩ってから、剥ぎ取りの要領で解体してみたが、触鬼としての成分と、アラガミ細胞が非常に少ない。
増殖してできた鬼だな、これは。分裂する時に、僅かな成分と細胞しか与えられなかったんだろう。それでも、触鬼としての力で何でも吸収していき、触鬼の成分とアラガミ細胞を増やしていく。最終的には、小型鬼から中型鬼、そして大型鬼へと変貌していく…。
その速度がどれくらいの物かは分からないが、あまり楽観視はできそうにない。
触鬼の分裂は、恐らく身を削っての分裂だ。分かりやすく言えば、HPを半分にして自分をもう一体増やす、スライムなんかがやりそうな増殖方法。増殖元となる個体にとっても、結構な負担となる筈だ。本来であれば、その強力な力を以て、その辺にあるものをすぐに取り込んで回復するんだろう。
だが、今は充分な力も無く、回復もそうそう出来ず、出来たとしても小型鬼程度になるのが精々。
そんな吹けば飛ぶような状態で、どうしてわざわざ戦力にならない小型の鬼を増やすのか。
考えられるのは2通り。
囮か、種の存続を優先したか、だ。
触鬼の成分とアラガミ細胞を最も多く持った個体が居て、そいつがより強大になるまで、デコイとして小型鬼を放ったか。
或いは、その個体が自分が弱くなる事を良しとしてでも、自分の同族を増やし、全滅の可能性を遠ざけたか。
どっちにしろ、小型のこの鬼があちこちに沸いて出るのは間違いなさそうだ。
どうすっかな……いっそ古の領域みたいに、まるごと吹っ飛ばすか? いや、流石にそれは不味い。可能不可能は置いといて、ここら辺は見捨てられた地…つまりシラヌイの里に近い。歴とか、凛音が居る里だな。あっちにどんな影響が出るか分からない。
…消し飛ばすんじゃなくて、異界浄化が現実的かな。
あー、でも異界浄化しても、例の鬼にはあんまり関係ないんだよな…。他の鬼と同様に、四方八方に逃げ出されると探すのも大変だ。
となると、やっぱり増殖・強化される前に、この場で倒しておく事が望ましいか。
クソ、強い結界を張る道具でもあればな…。それを透過する奴が目標だって判別できるんだが。例の鬼には、結界が効かないもんな。そもそも産まれた場所だって、天然の結界石の洞窟内部だし。
無い物ねだりしてても仕方ないか。取り敢えず、この辺の奴らを片っ端から狩り尽くそう。
「若にしては思い切った考えですな。だが大賛成です。何も考えずに槍を振るえばいい」
お前と違って、考えにゃならん事が色々あるんだよ。でもまぁ、今回はそういう事だな。
はっきり言って、有効な方法が見つからない為の苦肉の策だけども。
さて、小型中型大型問わず、目についた奴を片っ端から狩りますか。
半日後。
遊び疲れているのに、まだ遊び足りないと言わんばかりの権佐を引き摺って帰路につく。なんつーか、散歩中に抵抗する犬を引っ張るような気分でした。
結構な数を狩ったし、「こいつが大本かな?」と思う奴も居たが…正直、根絶やしに出来たかと言われると…。
一匹でも残っていれば、そこから鼠算式に増殖するだろうしなぁ…。定期的に狩りにくれば、増殖を防ぐ事ができるだろうか?
ああ、大本っぽい奴の事だが…はっきり言えば、奇形児だった。
鬼の姿形なんて大体が理不尽なもんだが、それに輪をかけて意味不明な形状をしていた。色々な鬼の色々な部位が、出鱈目に繋ぎ合わせられたような…。
……どうも違和感があるな。アレが最初の一匹だったとして、どうしてあんなにグチャグチャな姿になったのか。アラガミ細胞が片っ端から学習した、触鬼の細胞と喰らい合って正常を保てなくなった、色々と理由に心当たりはあるが…。
…駄目だ、これ以上考えても結論は出ない。ただ分かっているのは、まず間違いなく今後も奴らが増殖するって事だけだ。
触媒の確保は出来ず、鬼が増える事を座視するしかない…。任務失敗、かな。
里に戻ってきて、大和のお頭に事の次第を報告する。話を聞いて、大和のお頭は小さく唸った。
「…思った以上に、事が早急に進んでいるな。北の地か…。あそこまで遠征するのは、正直地理的に厳しいものがある」
俺達は、半ば反則技で突っ切ったからな。小人数だからできた事だし。
だからと言って、座視していれば最悪の事態が訪れる。強力な鬼が、大挙して押し寄せてくる訳だ。
「…場所を考えると、ウタカタよりもシラヌイの里が危険かもしれんな。遣いを出しておこう」
助けを求めてきたらどうする?
「助力はするつもりだが…その時は、お前達に向かってもらう事になるかもしれん。考え辛いがな。シラヌイの里は独立不帰。霊山とも対立関係にある里だ。名目上、我々は霊山側だからな。お互いの為にも、あまり軽率な事はできん」
助力が軽率、か。人を率いるってのは面倒なもんだ。…ま、凛音のお頭もあの性格だしな…。柔軟性はあるんだけど。
で、実際の所、どうする? 相手は勝手に増殖して、数で押してくる鬼の群れだ。後手に回れば回る程、手に負えなくなるぞ。
「分かっている。…最も望ましいのは、眠っている虚海が目を覚まし、触鬼の停止方法を教えてくれる事だが…」
いやー、無理なんじゃないかなぁ。あいつ、後の事なんか考えてないぜ。
仮に考えてたとしても、増殖している鬼達は変質している可能性が高い。虚海にだって止められない。
つまりは、狩るしかない訳だ。
「…現在、博士、茅場、秋水に例の鬼…この際だから正式に名付けるか。『荒鬼』を誘き寄せる餌を作らせている。元は秋水が完成させかけていた術式でな。鬼を呼び寄せる効果を持つ」
また厄ネタっぽい物作ってるなぁ…。上手く使えば、鬼を一匹ずつ釣り出す事もできるから、便利なのは否定できないけど。
完成したらそいつで釣って根切、か。
「うむ。上手く行けば、触鬼が取り込んだ時点で致命的な毒になる薬も開発できるかもしれん、と言っていたな。それが確かなら、勝手に全滅してくれる事もあるか」
それは期待薄じゃないかなー。どんな毒だって、希釈されれば効果は薄くなるもんだし、飲み続ければ耐性が出来る。
ましてアラガミ細胞だもんなぁ…。最終的には、向こうがその毒を武器にしてくるまで見える見える…。
まぁ、あの博士が『上手く行けば』なんて言ってる時点で、相当な夢物語扱いだと思うが。
「いや、言ったのはグウェンと真鶴だ。あの二人、最近では助手として色々覚えてきているようでな。術の開発なども手慰みに行っているとか」
ほぉ。門前の小僧何とやら、だな。元々、真鶴は異界浄化の術を覚える為に訪れたんだから、その一環として学ぶのは理解できるが。
…そう言えば、その異界浄化、そろそろ続けても構わんかな?
「うむ。これまで続けてきた調査で、瘴気の元になっている穴がどのあたりにあるのか、大体見当がついた。資料を纏めてあるから、瘴気の濃い場所に潜り込む時の参考にしてくれ」
ありがとう。そんじゃ、俺は暫く異界浄化に集注しますかね。
悪いが、暫く触鬼…じゃなかった、荒鬼の対処はそっちでやってくれ。必要であれば、うちの子達にも協力させる。
…ただでさえ、里の中の警備も必要だってのにな…。
「言っておくが、無理に人手を増やそうと考えるな。まだ眠りについたままの滅鬼隊も居るが、一人受け入れるだけでも相当な波乱が起こると思え。ただでさえ、今の食糧事情もかなりの綱渡りになっているのだ」
うん? まだ余裕があるんじゃなかったのか?
うちでも家庭菜園作って、そこそこの効果は出始めたし…。
「今まではな。だが、鬼との闘いが激しく成れば、それに応じた褒章を出さねばならんし、何よりも喰わねば体が保たん。士気を維持するには、相応の支出が必要だ」
なるほど。今までは余裕だったとしても、これからの事を考えると厳しい…か。
ハクは強い鬼を狩れば、それに応じて入ってくるが、飯は育つまでどうやったって収穫できんからな。
異界浄化した場所も、鬼を全て追い払い、土地まで清浄になっているか確認しなければ農作もできん。もどかしいもんだ。一次産業の重要さが身に染みる…。
あーもう、色々面倒だなぁ。クサレイヅチと女の尻を追いかけるばかりの生活が懐かしいぜ。…だからって、うちの子達を放り出す気にはなれないんだけどさ。