うーん、こういう事してるから気が乗らなくなっていくんだな…。
書きたいシーンを書いてれば、こんな事はあまりないんだけど。
「…………若様に……孕まされたの」
「…………」
「…………」
無駄に真実味がある嘘を吐くんじゃありませんッ!
幾ら俺でも、触れずに5分足らずで臨月にできるかい!
二人も『やっぱあんたか』みたいに見てくるなー!
ええから腹に隠してる物見せなさい!
手を伸ばすと、タマちゃんはササッと逃げた。撫でられるのを拒否する猫のように逃げた。更に手を伸ばすと、バックステップで避けた。
…え、何でこんなに嫌がられてるの? いや、普通の人なら俺の所業を見れば、触れただけでも孕ますような全身精液男扱いして全身全霊で拒絶するかもしれんが、うちの子よ? タマちゃんとのスキンシップは少ない方だけど、それでも拒まれた事ないよ? 頭撫でたら、自分から頭を押し付けてくるくらいには慕われてたよ?
俺の手が微妙に届かない距離を維持し、じりじりと見つめ合う俺達。
その間に漂う緊張感をどう見たのか、六穂も木綿季も俺に向かい合ってタマちゃんの前に出る。…これ、面白がってやがるな、二人とも。
「いや別に。ただ、理由はどうあれ触られたくないみたいだし、同じ女としてはそっちに味方するべきかなって」
「僕もまぁ何となく? 偶にはいい薬になるでしょ。それに、うちの子の中でも玖利亜と並んで年少の子だし、あんまり強引な事すると泣いちゃうかもよ」
「流石に玖利亜と同じ年代扱いには文句を言いたい…けど感謝…」
タマちゃんが何を抱えてるのか確認した方がいい、って言ってたのは六穂の方だろうに…。
でも駄目です。お子様相手に酷いとか言われても、許容できません。
ああ、普段であれば多少の秘密は構わんさ。頭領であっても全てを把握できる訳じゃないし、しなければいけない義務がある訳でもない。
でも、これは明らかに見逃していい範疇を超えている。
分かってるのか? さっきの鬼達の様子がおかしかった理由は、タマちゃんが隠そうとしている物とまず間違いなく関係がある。
タマちゃんが戻って来た途端に、鬼達は攻撃を辞めた。だが遠巻きに包囲する事は辞めなかったし、異界浄化で住処が消滅しても、まだここに留まって俺達を狙っている鬼も居る。
鬼達はな、『人質を取られた』と解釈してるんだよ、今の状況を! そんな状態で里まで連れ帰ってみろ! そいつを取り戻そうとする鬼が押し寄せるだろうが!
「そんな事ない…! 人質じゃない、この子は友達!」
…って事はやっぱりそこに居るんだな。
軽い殺気を籠めて、タマちゃんの膨らんだ腹を睨みつける。それに呼応したように、膨らんだ胎がもぞもぞと動く。
「出てきちゃ駄目…!」
「え、本当に居るの」
「!」
不動金縛り!
意識が逸れた一瞬を逃がさず、3人纏めて動けなくする。
蠢く腹に、服の隙間から手を突っ込んだ…ちょっと興奮した。
が、すぐにその手触りに顔を顰める。
…やはり、AMIDAに取り憑かれていたか…。
「駄目! 何も悪い事してない!」
人と鬼…鬼って言っていいのか分からんが、とにかくこいつとは同じ世界には住めないのだよ。主に世界観的に。
甲殻の部分を鷲掴みにして、ワサワサと足だか触手だかを動かすAMIDAを取り上げる。
幸いな事に、取り憑かれたのはタマちゃんだけのようだ。木綿季と六穂は、『うげっ!』とばかりに顔色を変える。
そろそろ金縛りの効果が切れるが、流石にこれ以上タマちゃんの味方はしないだろう。
これくらいなら自力で破れる筈だし、離れても大丈夫だろう。
抵抗するように参を飛ばすAMIDAをなるべく体から遠ざけながら、振り返って歩いて距離を取る。後ろから悲痛な鳴き声が響いて来るが、ここで情に絆されるわけにはいきませぬ。
ただ、何で俺がナウシカのお父様みたいな事をしなければならんのか、それだけが気がかりだった。
さて。動けるようになった六穂と木綿季がタマちゃんを止めてくれている間に、彼女の目の届かない場所までやってきた。
相変わらず、鬼達はでかいのも小さいにも、隠れて俺を包囲しているようだ。
さてどうしたものか。
本家のバウシカのパパ上なら、例え王蟲の幼虫であっても殺す事はせずに野に還すだろう。だって一匹でも怒らせたら洒落にならん事になるし。
だがこいつは触鬼でアラガミでAMIDA。情けをかける理由は無いし、放置しておけば必ずや超ド級の災いを招くだろう。
しかし…ここでこいつを粉砕したら、周囲の鬼達が敵討ちだと暴れ出さないだろうか? 余計なところだけ王蟲に似やがって。
チラリと目をやってみれば、口元の足付近から触手のような物を伸ばし、俺に向かってうぞうぞと蠢かせている。
生意気に、攻撃でもしようとしているのか? 実際、酸は飛ばしていたが。
それとも、俺に対して触手プレイでもお望みか。それこそ生意気というものである。
…と思っていたら、違和感を感じた。精神に直に擦り寄られるような感覚……テレパス、か? そういや王蟲ってそんな能力持ってたっぽい……いやこいつは王蟲じゃない、AMIDAだAMIDA。
なるほど、これを使って鬼達や、タマちゃんを篭絡した訳か。タマちゃんは同じテレパス系…洗脳寄りだけど…の能力を持ってるし、感応してあっという間に引き摺り込まれてしまったのだろう。
伝わってくるイメージは、確かに不快な物ではない。無邪気に懐き、じゃれついてきて、遊ぼうと誘われているような印象だ。無邪気過ぎて、逆に狂気を感じるが。
…このテレパス、うまく使えば虚海を叩き起こせないだろうか?
…いや、辞めといた方がいいよなぁ。だってあいつ、AMIDAがどうのって魘されてるんだよ。そこに本物のAMIDAを放り込んだら…本気で精神崩壊するんじゃね? それこそ、鹿之助と仲がいい姉弟の亜玖阿が泣き喚くような感じで。ちょっとやってみたい。
それを差し引いても、虚海が作り上げた触鬼でアラガミ細胞が混ざり合った個体で、そういう意味では俺と同類だ。何やらかしてもおかしくない。
つまり、こいつを始末するかどうかだが…。
甲殻を砕こうと、ひびが入る程に握りしめても、伝わってくるイメージに変化はない。
代わりに周囲からの敵意が強くなる。
…どの道、この一体だけを始末したところで、他の個体が残っている…か。
少しだけ細工して、俺は手に持っていたAIDAを放り投げた。
周囲を囲んでいた気配の殆どが、それに向かって殺到していく。保護しよう、とでもしているのだろうか。
よくもやってくれたな、とばかりに突っ込んできた数匹の鬼だけ始末して、踵を返した。
「あ、若様。戻って来たんだ。…さっきの奴は?」
適当に放り投げておいた。…始末したら、流石に恨まれそうだからな。
恨めし気に、かなり本気で怒っているらしいタマちゃん。殺してないと聞いて、一先ず胸を撫でおろしたようだ。
「タマちゃん…さっきも言ったけど、流石にあれは駄目だよ。いや鬼と友達になるってのも面白そうではあるんだけど、可愛いから……可愛い? からって、鬼を見逃すモノノフなんかいないって」
「まぁそうだよね。本気で連れて帰るつもりだったでしょ。やめてよね、鬼と一緒になんか暮らしたくないよ、僕」
「……………」
口々に非難されている。少しは頭が冷えたのか、そうされても仕方ない事をした自覚は出てきたようだ。
だがやはり感情が納得してない。…テレパスを使って篭絡された、と言っても認めないだろうな。感情を強制するようなテレパスじゃなかったのは事実だし。
…これ以上伝える必要はない。奴は野に還った。悪いが、二度と会わない事を祈るよ。どうやったって、一緒には生きていけないんだから。
黙り込むタマちゃんの手を引いて、異界を後にする。
…ああ、野に帰ったのは確かさ。大勢の鬼達に囲まれてね。…その甲殻の中に、火薬を押し込んだけどな。
これで死ぬと確定した訳じゃない。運が良ければ、火に触れずに体を洗い流す事もできるだろう。…真っ先にあいつを保護しに行った鬼の中に、ヒノマガトリが居たけどな。
非道とは思わない。タマちゃんが友達認定したとしても、俺にとっては最優先で始末するべきなのには変わりない。
あの場で大勢の鬼に襲われるのを防ぐ為に利用しただけの事。
…本家AMIDAも無駄に頑丈だったし、存外生き延びている可能性もあるかもな。
やれやれ…俺にしては随分迂遠で不確かな事をしたもんだ。俺もあのテレパスに、多少は感化されてしまってたのかな…。