黄昏月弐拾溌日目
明日奈達が本日一日は行動不能です。ハッスルしすぎました。
賢者モードになってようやく理解したが、どうやら俺は戦の前で昂っていたらしい。攻撃的なセックスがしたくなったのも、その影響だろうなぁ。
ま、それは置いといて。
クサレイヅチ対策の結界は、橘花・虚海・樒さんの3人で着々と進んでいるようだ。
博士と茅場は、グウェンと真鶴を連れて何やら調査したり、怪しい数式を書き連ねたりして、クサレイヅチとトキワノオロチの出現場所を探っているようだ。
俺も昨日博士に言われた事を反省し、心機一転して錆び落としに励んでいる。
…ん? この辺の鬼が相手じゃ、錆び落としにもならない? うん、普通にやってればそうだよね。
だから、鬼に混じってうちの子達が襲ってきます。
うちの子達だけじゃなくて、里のモノノフも襲ってきます。「女の敵!」とか「しっとの心が燃え上がるぅぅぅ!」とか「俺だって若みたいに…は多すぎるから、一人でいいから彼女がほしいんだよぉぉ!」叫ぶから、いつ何処から来るか見え見えです。つーか最後の鹿之助だろ。
すっごいいい笑顔で木綿季が挑んで来ます。何? 新しい技思いついたって?
大和のお頭がマジ奇襲してきました。この前木綿ちゃんを気絶させた事を根に持ってるようだ。
ホロウも参加しているようです。姿の見えない場所から、鬼と戦っている時に容赦なく狙撃を見舞ってきます。
…割りとガチで命狙ってるのが何人か居ますね。
いやー、うちの子達もこの短期間で強くなったもんだ。以前にも似たような戦いで力量差を教え込んだが、随分と様変わりしている。
咄嗟の機転は勿論のこと、作戦、連携、戦術、戦略、タマフリの使い方に至るまで、非常に洗練されている。…奇襲なのに叫ぶっていうのには目を瞑る。
何をやってるって、まぁ、こういう事だ。鬼だけでは相手にならないなら、追加で相手を持ってくればいい。
鍛錬として正しい事をやっているかと言われると、反論のしようがないんだけどね。無暗に戦うだけで強くなれるなら、喧嘩っぱやい奴程強くなれるって事になっちまう。
それでも、危険を感知する感覚を鋭敏化させるくらいの効果はある。ハンターにとって、一番重要な要素だ。
波状攻撃を凌ぎ続け、間を縫って鬼を葬り、時にセクハラし、斬り合いながら握り飯を頬張り、ついうっかりでミフチの巣を崩落させる。…いや、ミフチの巣なんぞ見つけた先から潰していいんだが、ササガニがワラワラ沸いて出てさぁ。いつの間にか攻撃に混じっていた桜花が、青い顔になっていた。叫んだり腰を抜かしたりしなかったのは、主力陣としての意地からか。
中々にいい鍛錬になったけど、これは別の意味で問題かな…。
束になっても俺一人を倒せない、足止めするのが精いっぱい。桜花達が本気で俺を敵と見做して戦いにくればまた話は違うだろうが、それにしたって力の差が開き過ぎている。
ウタカタのモノノフは強い方に分類されるんだが、それでもこの結果だ。以前の模擬戦に比べれば充分に奮闘できていたが、大分自信を喪失させてしまったようだ。
うーん、ウタカタでもブートキャンプせにゃならんか? しかし、強くする為とは言えよそ様の部隊の訓練にあまり首を突っ込むのもな…。大体、訓練っつっても一日二日で効果が出るようなもんじゃない。…そう言うのも無くは無いんだが、それをやると普段の防衛に支障をきたす。
下手な事をするよりは、こうして俺を相手にして連携の訓練でもさせといた方がいいだろう。
それはそれとして、模擬戦帰りにようやくホロウを捕まえた。延々と遠距離から芋スナしてきやがってからに。
「貴方が相手なら、それが最も有効なので」
ああ、確かにな。だが普段から避けてるのはどういう事だ。
過去の記憶について、こう、話し合っておく事とかあるだろう。
前の繰り返しの事は覚えてるんだな?
「…ええ、貴方が覚えていない繰り返しの事も」
俺が覚えていない繰り返し…。橘花も千里眼で読み取ってたし、状況証拠は山ほどあったから疑う訳じゃないが…そっちでも一緒だったのか。
何回くらいだ?
「私も思い出せない部分が多くありますが、共に行動していたのは少なくとも5回以上です。全く会わなかった場合もあります」
そんなにか…。そこまで行くと、最初に出会った時の事が本当に最初だったのかとさえ思えてくるな。
…根本的な事を確認するけど、俺達が最初に会ったのはマホロバの里でよかったか? 遺跡の中で一触即発状態になっていたら、博士が乱入してきたやつ。
「はい、私の記憶でもその通りになっています。紅月と共にウタカタの里までやってきました。最後はイヅチカナタと戦ったようですが……どうやら仕留め損ねたようですね」
…ああ、そうだな。今度こそしくじらない。
ところで、俺が覚えていない俺は一体何をしてたんだ? ホロウはその時何を?
「今と変わりありません。イヅチカナタが現れるとしたらウタカタの里だと、いつもここにやってきて、女性を囲い込んでいました。ウタカタの里に来るまで何をしていたかまでは知りません。…聞いたら大抵挙動不審になるので、真っ当な事はしていないでしょう」
は、犯罪はしてない筈…ばれてない筈…多分…。
「私はイヅチカナタを追おうにも、相変わらず探知機能が働きません。貴方の近くにいると思われたので、止むを得ず貴方を探して動き回っていたのです」
そ、そうか…。ん? ウタカタに居ない場合もあったんだよな? その時はどうしてたんだ。
俺と同じように、『前にあった事を踏まえて…』とか、そういう事はしなかったのか?
「手掛かりを探して旅をする事もありましたし、ウタカタで足を止めて待つ事もありました。ただ、ウタカタで会えなかった場合は大抵再会できませんでしたね。確か…ウタカタに来る途中の道で、一度見つけただけです。私自身も毎回違う場所に出るので、ウタカタに向かうまで時間がかかります。何より、当時の私に残っていた記憶は、あなたと最初に出会った一回だけです」
…うん? え、何? 前にも記憶喪失になってたって事?
「少し違います。先程、私はあなたと同様に繰り返していると言いましたが、それを認識できたのは今回が初めてです。マホロバの里で貴方と出会い、そしてウタカタの里に来てイヅチカナタと戦った。…いつの間にか見知らぬ場所で倒れていた私は、目覚めるまでの間に何があったのか全く覚えていない」
成程ね。多分、俺もそれと同じ状況なんだろうな。
毎回デスワープして目を覚ますけど、前の世界と今回の世界の間で、何かがあったなんで思った事すらなかった。
ホロウの場合、同じ世界で繰り返されるんだから猶更だ。クサレイヅチを仕留め損ね、時空跳躍した先で目が覚めた…それしか分からないだろう。
「今になって思い出したのは、遺跡の調整機能によって記憶障害の一部が取り除かれた為でしょう。…ただ、虫食いになった記憶ばかりです。転移前は勿論、イヅチカナタと遭遇したと思しき場面も殆ど思い出せません」
成程。
…で、本題に移るが、クサレイヅチ対策、何か手札は増えてるか?
「いいえ。あの時に使っていた鬼の手も既にありませんし、状況は良くありません。…ですが、今まで使っていなかった手札が一つあります。魂食いです」
魂食い…そういや、そんな機能があるって言ってたな。他者のミタマを取り込んで、ホロウ自身を強化するんだったっけ。
…おい待て、前もそうだったけど、俺の魂を使おうとしているんじゃないよな?
「それを考えていましたが、現時点であなた以上の戦力はありません。それを動けなくするのに釣り合う効果があるか、疑わしいのです」
そうか…。そうそう新しい技や道具なんて手に入る筈もないか。
んじゃ、これまでと同じやり方で戦わなきゃならんのだな。
ところで……今までの繰り返しで、俺ってお前に手ぇ出した?
「いえ、肉体関係を持ったことは、思い出す限りでは一度もありません」
マジか。…それ、本当に俺なのか…?
久々にホロウと長々話した気がする。
しかし、やはり何となく壁を感じている。ホロウの考えは読みにくいんだよな…。正直言って、思い当たる事は無い。
強いて言うなら、俺が思い出せなくなっているループの中で、何か致命的に敵対するような事があった、とかだが……それだと記憶が無い内から素っ気なかったのが分からない。記憶を失っても尚、嫌悪感が消えないくらいに嫌われていたとか? それならそれで、ホロウはざっくり言ってきそうなものだ。
嫌われるの自体は…嬉しい筈がないが、構わない。自分が女に必ず好かれるなんて考えるほど、ナルシストでも己惚れやでもない。
ただ、正直言って見過ごせない。
今まで、こういったフラグを「大丈夫だろう」とか「是非もないよネ!」とか言ってスルーしてきた結果、致命的な場面で何度噴き出してきた事か。
解決、せめて究明する必要がある。
とは言え、今ホロウに付き纏っても逆効果にしかならない。さっき話している間にも、徐々に拒否感が募っていた。
迂闊に突けば、それこそ銃を向けられる程の諍いに発展しかねない。そうばってしまえば、連携どころの話じゃない。うちの子達だって、どこまで抑えが利くか分からない。
里のモノノフ達は止めようとしてくれるだろうけど、それがかえって里を割るような抗争にまで発展する恐れがある。
探りを入れさせるなら…まずうちの子達は難しい。元々接点が少ない上に、腹芸が出来る子は少なすぎる。
里のモノノフ達……例えば那木。…候補ではあるな。
いっそ、天狐にでも探らせるか? …駄目だ、会話は出来るから聞き出す事はできるかもしれんが、何だかんだ言って人間の価値観とは違うから、正確な情報は望めない。
となると……虚海。
元よりホロウの関係者で、再会したばかりだから色々話をしようとしても不自然ではない。
多少不審な態度をとっても、長い年月で性格が変わったと言い張る事もできる。
…適任だ。適任ではあるんだが…………不安だなぁ。
だって虚海だもんなぁ。ポンコツなのはまぁいいとして、今となっては色に溺れてるし。そうさせた俺が言うのもなんだけど…。
うーむ…別に一人に絞る必要もないんだが、無暗に当たらせても訝しがられるだけ。一人がメインで、もう一人はサポート、誘導…。
この中で有効な組み合わせは…………ん? 誘導?
…あ。
「はい、それで私に探りを入れてほしい、と言う訳ですね。承りました。虚海さんが主、私は補助がいいでしょうね。…ご褒美、期待していますね?」
人目を忍んでやってきたのは、神垣の巫女の屋敷。勿論、目の前で笑顔になっているのは橘花である。
隣りには、荒い息を吐く半裸の世話役が転がっているが、これは俺がやったのではない。俺への貢ぎ物にする為に、橘花が篭絡している真っ最中だっただけだ。
ちなみにその後ろには世話役の女2人が控えているが、騒ぎもしない。むしろ橘花に弄られていた女を羨まし気にチラ見している。とっくの昔に篭絡済みで、俺も味見した事のある女達だ。
…いつもの橘花ならともかく、今回ループの橘花はエラい事になってるからな。
演技、誘導、誘惑と何でもござれ。つくづく思うが、俺は忘れたループでどれだけの躾けを橘花に施してきたのだろうか。……なんつーか、自分でやってる筈なのに、記憶が無いから他人にされたような気分になってくるな。寝取られ属性は無いぞ、俺。
「それにしても、ホロウ様ですか…。私が読み取った記憶でも、確かにウタカタを訪れていた事があるようです。しかし、その時は不仲な様子は無かったと思うのですが…」
うーん…。それがいつのホロウなのかも分からんし、参考にするにはちょいと情報不足だな。
ああ、念のために言っておくが、あんまり強引な真似は無しで頼む。
「分かっていますよ。私、そんなに強引じゃありません」
…そこで転がってる女の子には、強引な真似してねーの?
「してないですよ、あなたに比べれば。それに、この子は自分から興味を持って志願してきたんです。…もっとも、私達の戯れをわざと目撃させたり、こういう事がどれ程気持ちよく素晴らしい事なのか、何度も語り聞かせてあげましたけどね」
思いっきり誘導しとるやないかい。強引っちゃ強引だが、要するに今回はそういう事を求めてるから何も言えん。
とにかく、後は頼むぞ。俺は虚海に話を通しに行くから。
「ええ。…ところで、味見していかれないのですか?」
チラリと横目で、まだ起き上がる事もできない女の子に目をやる橘花。
興味はあるが、人が躾けてる最中に横から手出しするのもなんだしな。
俺がやったら即落ちほぼ確定だし、堕ちる過程を楽しむなら橘花に任せた方がよさそうだ。
『調理済み』になってから食わせてもらうよ。
「残念ですねぇ…。ご褒美の前払いもいただけると思ったのですが」