今年もよろしくお願いいたします。
どうも、時守です。
半端ない寒波が押し寄せる昨今、いかがお過ごしでしょうか。
非常に遅くなって恐縮ですが、戻ってまいりました。
思えば一か月半前にバイクで事故って腕の骨折をして以来、非常に不便な生活でしたが、何とかなるものですね。
風呂に入れないのがきつかった…コノクソサムイノニ
夜中に信号無視して横断歩道を渡っていたお婆ちゃんを避けてスッ転んだのですが、交通事故としてはまだマシな結果でした。
相手には怪我無し、自分は骨折するも命に別状は無し。
骨は何とかくっ付いて、現在リハビリ中です
相手が保険会社に入っていたので補填やら修理費やらも出る。
7割程度しか出ませんでしたが、バイク屋さんがその範囲内でどうにかしてくれて、先日ようやくバイクが手元に返ってきました。
あと慰謝料も貰えるらしい。…ドラマや893の専売特許じゃなかったのね…ちゃんとした権利だったのか。
尽きかけていた書き溜めもある程度出来上がりました。
厄介な場面を超えたので、暫くお気楽チョイエロな日常を書きたいものです。
今までのような定期更新は難しいと思われますが、またお付き合いいただけると幸いです。
…こんな事を言った矢先になんですが、新年のお年玉として、連続更新を開催いたします。
まぁ1/1から1/3までですが。
さて、ヴァルハラと悟りの道の続きを…。
黄昏月弐拾玖日目
迎撃の準備は整った。たった一日で? と思うかもしれないが、元々頻繁な鬼の襲撃に備えて色々な対策をしている里だ。
規模こそ大きいが、普段の軍備の延長線上でしかなかった。要するに、元々準備してあった上に慣れている、と。
俺自身の準備も済んだ。
出来る限りの武器防具を備え、道具も準備し、禊も行って精神統一。
…いつものパターンなら、オカルト版真言立川流を駆使して、パワーアップという名目で乱交に耽るのだが、今回はそれも無しだ。
…どこからか、『悪いモノでも食ったか?』と言われた気がした。いやまぁ言われるような事ばっかしてたのは事実なんだけどね。
オカルト版真言立川流で、自分も相手も強化できるのは確か。今まで散々その恩恵に預かってきたのだから、これは間違えようのない事。
だが、やはり代償というのはあるものだ。相手が腰砕けになる…とかではなく、何て言うか精神的にね。
愉しいし気持ちいいし霊力も強くなるんだけど、弛むのはどうしようもない。
色にかまけて、戦いに向かっていた精神がブレてしまう。
クサレイヅチに加え、今回はトキワノオロチとかいうトンデモ鬼が出てくるのだ。どんな奴なのか分からないが、最悪ラヴィエンテ並みの化け物だと思っておく。
そんなのが相手なら、多少霊力が増えるよりも、精神から油断や腑抜けを排除した方がいい。
…ただ、その分うちの子達の様子をしっかり見ておかないといけないけどね。
『自分達なら勝てる、鬼なんぞ何するものぞ!』って感じの子も居れば、『そんな鬼に勝てるのかな…』と不安がっている子も居る。
根拠も無く勝てると思って楽観するのも問題だが、どっちかと言うと厄介なのは後者だ。大分安定してきたものの、不安やストレスを感じると不安定になる暗示は消えた訳ではない。放っておけば、加速度的におかしくなっていく可能性があった。
いつもであれば、肌と肌の触れ合いで安定させている(そしてそれを期待している子も多い)のだが、今はその手段を封じてるからな。
会話や軽いスキンシップで安定させていくしかない。
…いつもの方法を使わない事に対して、『何か悪い物でも食べましたか?』って言われたけどな…。
ま、それは置いといて…。
その時は思っていたよりも早く、そして分かりやすく訪れた。
博士がトキワノオロチ出現を予想した異界の一つで、異変が起きた。そこに居た鬼達が、一斉に他の異界に向かって散っていった…いや、逃げ出したのだ。
異界を消失させた時の動きに似ていると言えば似ているが、あの時とは違い縄張り争いする暇もなく、とにかく恐怖しながら逃げに徹している感じだ。
何か言われるまでもなく、皆が直感した。あそこから、鬼すら畏れる悍ましい『何か』が現れるのだと。
異変を察知したウタカタの人達の行動は早かった。
事前に決められていた通り、篝火を焚き、一般人を避難させ、撃退の為の各設備を起動。橘花、虚海、樒さんの3人で里を覆う結界を強化し、遺跡の誘導装置を起動させる。
そして動けるモノノフ全員が臨戦態勢に入った。
…俺とホロウは待機前提だったけどな。最初からクサレイヅチの対応要員にする、と言われては居たが、なんか疎外感…。
そのクサレイヅチも何処に出てくるか分からない為、俺とホロウは見張り櫓で里の周囲を見回していた。双眼鏡で問題の異界を覗き込んでみると、異界上空の空間がおかしな事になっているのが分かった。
黒い穴みたいなものが出たり消えたり、雲が一部だけ歪んだり。
…あの黒い穴、多分アレだよな。時空の穴と言うか空間の穴と言うか、そんな感じのアレ。そう言えば前の騒ぎで、メガラケルてんてーが這い出てきた穴もあんな感じだった。
黒い穴は、少しずつ大きくなり、消える時間よりも現れている時間の方が長くなる。
ああうん、何も言われなくてもすぐ分かりますな。あそこから何かが出現しようとしている。何ともオーソドックスな演出ですこと。
ホロウの肩を叩いて指さすと、無言で頷かれた。
見張り櫓の下に居る伝令に異常を伝え、自分達はクサレイヅチの出現を警戒。
…と言っても、やはりあっちが気になる。トキワノオロチなる未知の鬼、その威容は様は果たしてどのような姿なのか。
程なくして、空の歪みは黒い穴となり、消える事が無くなった。もはや誰の目にも異変は明らかだ。
その下、少し離れた場所ではモノノフ達が臨戦態勢で待ち構える。うちの子達も、遠距離からの援護射撃の構えに入っている。
最初に姿を現したのは、竜の頭だった。ラオシャンロンを連想させるような、典型的な竜。
口元には炎の吐息が漏れている。長い首がずるずると這い出てきた。
何だ、確かにデカいが普通の鬼じゃないか…と思ったら、殆ど同じような竜の頭がもう一頭。
更に一頭、一頭…。
「…あれがトキワノオロチ…」
とうとう全ての姿が現れる。5つの頭を持った竜……いや、怪獣。
体の全てに強烈な力が漲っているのが分かる。そもそも質量からして脅威だろう。
自己主張するかのように、5つの頭が次々に叫び声を上げる。ここまで響く遠吠えで、異界ごと空気がビリビリ震動した。
…確かに、強そうではある。強そうでは。
討伐隊を作り上げて、時空を超えてでもどうにかしようとするのも、分からんではない。
だが、それだけだ。ホロウ、どう見る?
「…強力な鬼ではあります。ですが、あれ一体で国一つ焦土にできるかと言われると、疑問が残ります」
俺も同感。見た目から推測できる範疇でしかないが、攻撃のリーチもそう長くは無いだろう…いや接近戦を挑む者にとっては充分なリーチかもしれないが。
仮に、あの口元の炎がとんでもない威力で、あっという間に燃え広がるのだとしても、あの遺跡…『舟』を作り出すような技術力を持った国を亡ぼせるとは思えない。
「…早合点は危険です。奴には、まだ何か…」
ホロウの言葉が止まった。理由は明らかだ。
トキワノオロチが出てきた穴から、ボトボトと別の『何か』が落下してきたからだ。トキワノオロチ程ではないにせよ、普通の大型鬼程度には大きなそれは、俺も見た事のない異形だった。
鬼とも違う。鬼はまだ生物的な印象が強いが、それはまるで無機物を悪意を籠めて繋ぎ合わせて、動かしているような…。或いは、煮えたぎる何かを無理矢理生物の形に押しとどめたような…。或いは、壊れかけの機械が狂いに狂って自己改造したような…。
統一性さえない、化物の集団が溢れ出ていた。
モンスターではない、アラガミではない、鬼ではない。今まで見てきた夢の中で遭遇した化け物たちとも違う。
あれは、もっと別の場所で存在していた『何か』だ。
「ええ。恐らく、トキワノオロチが時空を回遊するうちに、巻き込んできた『何か』なのでしょう」
…千歳のように、か。
イヅチカナタとの闘いで、千歳はあの穴に…トキワノオロチが出てきたような、あの真っ暗な穴に落ちた。
幸運にも……いや、不幸中の幸いとさえ言っていいものか、彼女は別の穴から抜け出す事が出来た。…体を半分、鬼に変えられて。
そして、抜け出す事ができなかった者達の末路が、アレなんだろう。
元は、俺達と同じ人間だったのかもしれない。そうでないのかもしれない。俺も見た事も聞いた事もない土地から流れ着き、呪いの塊とされた名前も姿も知らない誰か。
思う所がないとは言わない。
だが、どうにも和解の道は無いようだ。
言葉が通じないとかいう以前に、地面に落ちたら即暴れ出している。動きからも分かるが、理性と呼べるようなものは全く残っていないようだ。
無理もない。あの真っ暗な穴の中で、一体どれだけの時を彷徨い続けたのか。どのような場所なのかは想像するしかないが、自分から動く事もできないような状態で、少しずつ体が変質していくのを見続ければ発狂もしよう。
空に空いた穴は少しずつ小さく成ろうとしているようだが、その間にもポツリポツリと新たな怪物が降ってくる。
トキワノオロチは勿論、あれらを放置してはいけない。
現地では、トキワノオロチにモノノフ主力陣が、それ以外の怪物達にそれ以外のモノノフとうちの子達が挑んでいた。
今すぐにでも援護……と言うか、乱入したい欲求に駆られる。情勢が不利とか皆が危ないとかではなく、未知のモンスターに対するハンターの根源的欲求だ。
それに従えば…千歳を助け出す機会が無くなる。抑え込んで周囲を更に見回した。
…ホロウ、どうだ? 何か見つけたか? クサレイヅチの場所を探る機能はどうなった?
「残念ながら、イヅチカナタに繋がるような物は何も見つかりません。感知も故障したままのようです。あちこちからイヅチカナタの反応が生じます」
……うん? あちこちから?
ちょっと待て、それっていつからそうだったんだ?
探知機能が故障しているとは聞いてたが、具体的にどういう風になってるんだ?
「あなたと初めて出会う直前からですが。先程言ったように、イヅチカナタの反応が複数生じています。情報の解析機能が誤作動しているか、探知に反応すべきでない物をご認識しているものと…」
……クサレイヅチが複数存在する、という可能性は?
「…どういう事ですか」
文字通りだ。俺もつい最近まで一匹だけだと思っていたが、シノノメの里で会った識って奴に言わせると、クサレイヅチは亜種も含めると結構な数が居るらしい。
ずっとそいつらが、ちょっかいも出さずに俺達の近くに居た、というのはちょっと考え辛いが、万が一って事も…。
「……………」
……………。
「……………直近の反応は、あの山の上空です。先程から、じりじりと近付いて来ようとしています」
結界に阻まれてるって事かな。他は?
「地図を。……こことここ、それにここ…直進しているのだとしたら、移動経路はこのように予測されます」
…里を囲むように移動しているな。里から因果を吸い上げるのが狙いか…。
複数匹が同時に襲ってきたのだとしたら、いくら結界を強化していたとしても防ぎきれそうにない。
ホロウ、俺は遊撃に出る。すまんが見張りは任せる。
「引き受けました。千歳の無事を祈ります。武運も」
なんか俺の事がついでみたいになってるけど、まぁいいか。
見張り櫓から飛び降りて、ホロウに教えられた場所に向かって失踪する。
それにしても、「情報は共有した( ・`ω・´)キリッ」とか言っといて、何て無様な…。情報の扱いについて、うちの子達と一緒に学び直した方がいい気がしてきた。
鬼疾風を使えば、目的の場所まで駆け抜けるのはそう時間はかからない。鬼の手を使って、障害物を飛び越えたりもしたからな。
里を覆う結界を抜けた辺りから、確かに奇妙な感覚を覚えてきた。
体の内側から、何かが外に引っ張られているような、些細だが不快な感覚。
…これはクサレイヅチの因果簒奪の前触れだろうか? それとも、決戦が迫っている事に対する不安でも感じているのか。
空を見上げれば、地上の争いなど知らぬとばかりに星と月が光っていた。
その中に幾つか、不自然な星がある。少なくとも、昨日までは瞬いてなかった星だ。流れ星や惑星ではない。そもそも、雲がかかっている部分にも関わらず、輝きが隠れていない。
やはり、居る。
奴のツラを思い浮かべて、すぐにでも狂乱しそうになるのを抑え込み、山の上へ。
殺意を籠めて空に浮かぶ星(仮)を見上げ、神機の銃口を向ける。
そこでようやく、自分が捕捉され、しかも敵意を向けられている事を理解したらしい。
生意気だ、潰れてしまえと言わんばかりに、嫌な感覚が膨れ上がる。同時に周囲から、青い燐光が立ち上り始めた。
言うまでも無く、クサレイヅチの因果簒奪が発動した証だ。
だが、クサレイヅチは姿を現さない。まぁそうだよな。
ただの人間がどうするって話だ。自分の存在を感知できても、手の届かない空の上、しかもあいつは時空を超えて身を隠している。普通に考えれば、ロケット弾を飛ばしても命中させられる筈がない。
奴の感覚で例えてみれば、目障りな虫けらが、生意気にも自分に近付こうとしている、くらいのものだろう。因果簒奪を発動させたのも、虫を追い払う為に手を振ったか、虫よけスプレーを振りまいた程度の認識でしかない。
------こいつじゃない。
こいつは、千歳を捕らえて俺につきまとっていた、あのクサレイヅチじゃない。
奴なら、その羽虫は自分を傷つける事ができる羽虫だと、身を以て知っている。時空の狭間に隠れていたとしても、因果簒奪を使うだけで潰れるだろう、なんて楽観をするとも思えない。
ならばやる事は一つだけ。
クサレイヅチでなくても、イヅチカナタは狩る。肝心のクサレイヅチが、他のイヅチカナタとどう違うのか、見極めるいい機会だ。
星に向けて銃撃を討ち放ち、それに続いてアラガミモードを発動させて飛び上がった。
…本命のクサレイヅチは、ちんちんレーダーで千歳っぽい気配を探れば見つけられるかな、なんて思いながら。
で、一言いいかな。
弱ッ! イヅチカナタ弱ッ!
動きが鈍いし、脆いし、部位破壊される度に怯むし! あと拡散連続エネルギー弾撃つし。
パワーは強いっちゃ強いが、それだってフロンティアのモンスター達の方が余程恐ろしい。何てったって恐くない。天敵がいない状況で生きてきた為か、危機感も足りないし、天敵を欺く狡猾さもない。
アラガミ化無しでも、普通に勝てるぞこいつ。
……こんな奴に、今まで散々手古摺って来たのか…?
…いや、まだだ、まだ。クサレイヅチの本領が因果簒奪なのは分かり切った事だし、何よりも、やはりあのクサレイヅチは普通のイヅチカナタとは違うようだ。
気配そのものが違ったし、体に赤い電流も走ってない、体調不良のような動作も無い。何より千歳の気配も無い。
推測だが、クサレイヅチは俺の因果を度々吸い上げて食っているのだから、その分強くなっているのではないだろうか?
質の悪い物を食って育つより、質のいい物を食って育った方が体が強くなるのは道理だろう。
……と言うか、そうであってほしい。討伐しようとする怨敵が強い事を望むのも本末転倒だが、こんだけ手間かけさせて、散々ヘイトを高めてくれやがった相手がこんなにもあっけないんじゃ、俺が報われない。
…いや、俺が報われなくても、捕らえられてる千歳や、まだ生まれてすらいなかった俺の子の因果が報われてくれればいいんだけどさ。
ともあれ、イヅチカナタを一体討伐。
クサレイヅチがどこにいるかは分からないが、残ってる奴らを虱潰しに狩るとしよう。
討伐したイヅチカナタが隠れていた空間から飛び出すと、予想通り空中に放り出された。落下中に視線を巡らせたが、結構な激戦になっているようだ。
トキワノオロチは地面に降りてモノノフ達を相手にドンパチやっている。奴と共に出現した異形達は大分数を減らしているようだが、空の上に空いた穴から、まだ時折ポトポトと出現しているようだ。
…小康状態、と言ったところか。
あっちの援護はまだ後でいい。里の周囲のイヅチカナタをどうにかする方が先だ。
一体を問答無用で潰されて、ようやく危機感を覚えたのか、それぞれのイヅチカナタが因果簒奪を使い始めたようだ。
全く、随分呑気なものだ。相手の無能を期待するのは好きじゃないが、実際に無能なんだから仕方ない。遠慮なく弱点をつかせてもらおう。
地面に着地して、次の標的の場所へ向かう。
青い光が乱舞するが、影響は感じない。結界のためか、俺に耐性が付いているのか、いずれにせよ選ぶべきは電撃戦、速効であることには変わりない。
誰かに見られていても構わない。アラガミモードのまま駆け抜ける。
空を見上げれば、明らかに輝きを増した不自然な星がいくつか。あの中に千歳をとらえているイヅチカナタが居る。
不思議と怒りを感じなかった。今やるべきことだけが、体を突き動かす。
瞬く間に山を駆け抜け、二つ目の星に向かって跳び上がった。