癒された。エロい事した訳じゃない。頬に接吻までだ。
何ていうか、俺、心配されてたんだなぁ…って実感しました。眠っていたと言ってもたった一日程度、大した外傷も無かった。なのに、顔を見るなり駆け寄ってきて、抱き着いたり泣きそうになったり寝起きの酒を進めてくる子の多いこと多いこと。
骸佐、権佐、鹿之助の男組も、起きている俺と会って大きく安堵の息を吐いていた。
愛されてるっていいなぁ、と心の底から思う。
…それはそれとして、不安定になる兆候が出ている子も多いから、今日か明日辺りに精神安定と言う名目で乱交しますけどね。
差し当たり、今日は男組と飲みに行きたい。激戦が続いて、あいつらも結構参ってたみたいだしな。
それはそれとして、情報共有や確認も必要なので、大和のお頭の元に向かわなければならない。
なるべくウタカタの里との接触を減らしておきたい、と思った矢先にこれなのだから、世の中うまくいかないものだ。
…色々思い出した桜花に、いきなり斬りかかられたりしないよね? 他の連中にも恨まれる心当たりを、山ほど思い出せる。どれがどこまで事実なのかは分からないけど。
例えば富獄の兄貴なんか、因縁にケリを付けようと一大決戦に出ようとしたところに、下剤を仕込んで動けなくして、先にダイマエンを討ち取った事があった。何の為にそんな事をしたのかは思い出せない。
例えば息吹なんか、ゲームシナリオ通りに哨戒班の死人を防げず落ち込んでいた頃に、同じくヤケッパチになっていた俺とつるんで酒におぼれ、心の古傷を抉りまくって、二人そろって急性アル中にまで陥り、完全にリタイアになってしまった事があった。その後、戦力が足りずにウタカタは滅ぼされた。
例えば速鳥なんか、どういうルートだったか思い出せんがウタカタと敵対し、速鳥が元々所属していた忍びの集団を発見、唆してウタカタを襲わせた。勿論、速鳥との関係を暴露するように叫ばせながらだ。
桜花と橘花の時は更に酷い。
橘花も言っていたが、俺が橘花を…神垣の巫女を攫って逃げた事がある。その後、俺は人の立ち入らない(鬼は居る)場所で掘っ立て小屋を作り、その中で延々と橘花を凌辱し続けた。今みたいに色狂いになってない橘花を、相手を気持ちよくさせる事なんかまったく考えず、自分の憂さを晴らす事だけ考えて。
勿論、神垣の巫女を失ったウタカタの里は滅んだ。鬼に囲まれ襲われるのも構わずに、俺は飯も食わずに只管橘花を凌辱し続け、最後は動けなくなって橘花ごと鬼に喰われた。
…んだと思っていたが、実態はもっと悪辣だ。
ウタカタが滅びても、どういう経緯か生き残っていた桜花。たった一人の妹を攫った下手人、そしてウタカタ滅亡の元凶である俺、何よりまだ生きているかもしれない橘花を追い、どうやってか俺達の元まで辿り着いた。
そこで見たのは、凌辱され尽くし、しかしまだ息のある橘花。命だけは助けられた、そして貴様だけは許さん…!と、至極当然の怒りに燃える桜花だったが…背後から刺され、一太刀浴びせる事もできずに崩れ落ちた。
刺したのは、言うまでもないだろうが凌辱…調教され、俺に犯される為なら何でもするようになった橘花。
絶望する桜花に、変わり果てた橘花が悦んで凌辱される様を見せ付け、おまけに神垣の巫女として里に居た頃の貯め込んできた鬱憤まで吐き出させ、心を圧し折った。
で、ここぞとばかりに囲んで襲ってきた鬼に喰われて、3人揃ってデッドエンド。
簡潔に言えば、裏切って妹を連れ去った挙句、洗脳して助けに来た姉を殺させた。まぁ結局揃って死んだが。
………なぁ、これ本当にあった記憶じゃなくて、連想ゲーム的に浮かんできた妄想だよな? いくら俺でも、シラフじゃここまでやらんぞ。
橘花を攫って逃げ、ウタカタ滅亡の元凶になった事が事実だとしても、流石にここまで悪辣外道下劣な事はしないんじゃが。…でも、自棄になったり拗らせたりしてる人間って、普段からは想像もできない事をやらかすしな…。
これが徹頭徹尾マジの記憶だったとしたら、里から私刑にされても文句ひとつ言えん。むしろ今すぐにでもセルフ斬首して全てを無かった事に…全てが単なる妄想で、思いつきさえしなかった事にしてしまいたい。自分から因果をクサレイヅチに喰わせてしまいたいくらいに忘れたい。
やろうと思えばいくらでも出来てしまうのがまた…。
このよーに、嘘か真か分からない怨みの元や、そこら辺の民家を見ただけでも「あー、そういやあの家、焼き討ちした事があったよーな無かったよーな」「あそこの人妻、篭絡した挙句に旦那と破局させてポイ捨てしなかったっけ。でも手を出した女を捨てた事だけはないし」と湧いて出る『やんちゃ』(←ただし規模は考えないものとする)の記憶がボコスカ出てくるのだ。
マジで誰に斬り付けられるか分からない。下手すると、俺の一族郎党(うちの子達だね)皆死ね矢とかにもなりかねん。
一応言っておくが、恨みを買った記憶ばかりではないぞ。恩を売った記憶もあれば、逆恨みされて張り倒しただけの記憶もある。…うちの娘を嫁に、と言われたこともあったな。でもその娘、どう見ても初潮前だったんですが。まぁアリだけど。
…いかん、また心が荒んできた。とにもかくにも用心せねば。
仕込んだアサシンブレードをいつでも発動できるようにしつつ、大和のお頭の所へ。……木綿ちゃんに手ぇ出した記憶も薄っすらあるんだけど、バレないよな? 少なくとも木綿ちゃんはいつも通りに仕事してるし、大和のお頭も即斬りかかってはこなかった。…出された茶に毒も無い。
「…何を警戒しとるのだ、お前は。また何かやらかしたか。…寝ていた状況でも何かやりかねんのが貴様だ」
あ、いえ別に。ちょっと夢見が最悪だったもんで…。大和のお頭に合わせて言えば、木綿ちゃんが見ず知らずの馬の骨と駆け落ちした夢って言えば分かるでしょーか。
「…………うむ、あれだけの戦いの後だし、嫌な夢を見るのもおかしくあるまい。茶菓子を用意してやろう、食え」
納得はしてくれたけど、怒気が滲み出てきた。あと手が震えている。想像してしまったらしい。
ちなみにその夢だと、駆け落ち相手は俺だったりするけども。…そーいや、木綿ちゃんに手ェ出して、大和のお頭がマジで斬りかかって来たから返り討ちにしちゃった記憶もあるような無いような。返り討ちにした結果は覚えてないが、これは思い出したくない為なのか、妄想だから生きてても死んでてもおかしくないってだけなのか。
まだ毒を警戒しながら茶を啜り、状況を確認していく。と言っても、大部分はホロウから聞いていた通りだ。
クサレイヅチとトキワノオロチは逃げたが、去った訳ではない。遠からず再度襲来するというのが共通見解。
あの因果受け渡しを行ってから襲来するか、それともウタカタ近辺で再度受け渡しを計るのか、この辺は微妙な所だ。
「恐らくこの地で因果の受け渡しを行うだろう、と博士は言っていたな。理屈はよく分からんが、奴らの移動できる範囲の関係で、そうなる可能性が高いらしい」
ああ、時間と空間を行き来できると言っても、それなりに制約があるって話ね。
それなら、まだいい方か。最初から、トキワノオロチのあの力を発揮して襲ってきたら、流石に勝てる気がせん。
「うむ…。先日の戦いでも、死者こそ無かったが被害は大きかったからな。橘花も樒も虚海も力尽きる寸前だったし、回復の為の宝玉もあらかた使い切ってしまった」
もう一回、同じように襲ってきたら…結界が保てない。そうなると、クサレイヅチの因果簒奪で全員戦闘不能だ。
希望があるとすれば、次に出てくるイヅチカナタは、俺が標的にしている一体だけって事かな。
「それも希望的観測にすぎん。イヅチカナタとやらは決して数が多い訳ではないようだが、それでもあれだけ集まっていたのだ。前回は近くに居なかったイヅチカナタが、新たに近寄ってきている事も考えられる」
いや、そうやって近付いてきていたやつは、前ので全部だと思う。トキワノオロチが出現するのに合わせて、他の奴らも出てきた…つまりそれだけ数が揃うのを待っていた、って事じゃないかな。
また鬼を誘き寄せる遺跡の誘導機能を動かせば近寄ってくるかもしれないが、これ以上の数が揃わないから襲ってきたんだと思う。
「ふむ、一理はあるか…。いずれにせよ、ある程度の希望的観測に縋るしかないか。最初から因果の受け渡しとやらを行って、あの力を発揮してきたらほぼ勝ち目無し。イヅチカナタが複数現れ、結界を超えて因果簒奪の力を行使すれば詰み。やれやれ、敵の無能に縋らねばならんとは…俺も焼きが回ったな」
あんたで焼きが回ってるなら、俺は何だろな。焼かれ過ぎて真っ黒に焦げていそうだ。
「であるならば、一つここで明確にしておく必要がある。もしも奴らが揃い踏みして現れたら、貴様はどうする?」
? どうって……質問の意味が分からない。戦うけど、そういう事を聞いてる訳じゃない…よな?
「ああ。『どちらと』戦うのかだ。俺としては、貴様はトキワノオロチの相手をさせたい。先日の戦いを見るに、例の力を発揮していなければ、他のモノノフでも対抗はできるが、純粋に『火力』が足りん。イヅチカナタの力も脅威だが、トキワノオロチは敵の首魁と言えるだろう」
それは……………。
判断に迷った。
俺個人としては、クサレイヅチを斬りに行きたい。千歳を、俺の子達を、奪われた因果を取り戻したい。
そして、クサレイヅチがそこに要ると知った以上、状況も何もかも無視してブチギレして斬りかかっていきそうな気しかしない。
だが戦力比較で考えると、どうしたって俺はトキワノオロチの抑えに回らせるべきだった。トキワノオロチは大きく、タフで、力強い。単純に強いのだ。数の暴力を蹴散らすほどに。また、例の力を発揮してこられたら、それこそ全力を出した俺以外に対抗する事はできないだろう。
翻って、クサレイヅチの特殊能力は驚異的だが、本体そのものはそこまで強い訳ではない。事実、ホロウは鬼千切の一発でクサレイヅチの触手を撥ね飛ばして見せた。因果簒奪の影響が及ぶ前に接近戦に持ち込めるなら、ウタカタ主力部隊なら充分に勝ち目はある。
それこそ、数さえ揃えれば袋叩きにしてしまえるだろう。
…だがそれも、因果簒奪を掻い潜って接近できれば、という前提あってこそ。
…トキワノオロチが例の力を発揮してないなら、先にクサレイヅチを仕留めるべきだと俺は思う。俺個人の意思を抜きにしても、だ。
「ほう。その心は」
因果を受け渡しする事で、トキワノオロチは真の力を発揮する。因果ってのがどんな風に力に変換されるのかは分からないが、使えば無くなる消費型である事は間違いないだろう。
トキワノオロチの真の力も、決して長続きするもんじゃない…と考察する。
クサレイヅチからの、因果の供給あってこそ。…補給を潰すのは、人間相手の戦であっても常套手段だろう?
比較的脆く、そして力の源泉になっているクサレイヅチを先に集注的に叩くべきだ。上手くすれば、因果の受け渡しを阻止して、力を発揮させる前に始末できるかもしれない。
「成程な。理に適った話だ。だが、それに反対する者も居る」
反対…? 俺をトキワノオロチか、とにかくクサレイヅチ以外の担当にすると?
それなりの道理があって、納得できれば従うのも吝かではないが…。ブチギレして突撃するのを我慢できるかは別として。
「生憎、道理と呼べるほどの説明は受けていないな。貴様をイヅチカナタに近寄らせてはならない、の一点張りだ」
…珍しいな、大和のお頭がそんな…こう言っちゃなんだが、戯言を真に受けるとは。
今まで俺も色々とお目溢ししてもらったり、融通を利かせてもらったりしたが、それは損得計算をしっかりこなしての事だろう。寛容な態度にも、ちゃんとした根拠があった。
なのに、どうして今更、根拠も提示されない世迷言に耳を傾ける? いや、それ以前に誰がそれを言ってるんだ?
「…………ホロウだ」
……なん…だと…。
クサレイヅチとトキワノオロチの戦いで、俺をどこに配置するか。この問題は先送りとなった。
いつ奴らが戻ってくるか分からない状態で、先送りなんかしてもロクな事にならんのだが、事が事だ。大和のお頭も、ここはきっちりと納得してから配置を決めなければならないと考えているようだ。主に俺の暴走を警戒していると思われる。
確かに、以前から再開したホロウとの間に壁があったのは感じていた。
幾つかの因果…記憶が戻って、「こんだけやらかせばホロウから嫌われもするか」と思う心当たりもできた。だが逆にホロウのやらかしを俺がフォローした事も同じくらいあったし、助け合った事だってある。
何より、クサレイヅチと討伐するという一点において、少なくとも利害は一致すると考えていた。
クサレイヅチを戦う上で、俺にとってもホロウにとっても、互いは有益な戦力の筈。出来れば自分で仕留めたい、という私情を差し引いても、協力しない理由は無い。
だというのに、何故?
…ホロウの真意を確かめなければいけない。
今夜はうちの子達とスキンシップして、色々落ち着かせないといけないから、明日以降にな。