SIDE 神夜
深月から受けた相談を、明日奈は神夜の元まで持ってきた。
勿論、深月を連れて抱かれに行った後だ。いつもの体感時間操作のおかげで、時間は全く経過していない。
深月自身は…もう暫くお仕置き部屋で玩具にされている事だろう。明日奈は一発ヤッてスッキリしてから抜けてきたのだ。
神夜は普段、用事や興味のある事がない時は、稽古場で剣を振るっている。戦狂いは相変わらずで、迂闊に近付くと模擬戦を要求される為注意が必要だ。
今日も今日とて素振りをしていた神夜は明日奈から持ち込まれた話を聞いて首を傾げた。
あと、つい先程までヤる事ヤっていたらしい痕跡を嗅ぎつけてちょっと嫉妬した。
「見られるの禁止…ですか?」
「ええ。最近…と言うか元々そんな感じだったけど、人目も憚らずに色事に耽っている事が多いじゃない? 流石に里の人に知られるとまずいわ」
「はぁ、それはそうですが…」
神夜は他人事のような口ぶりだった。元々彼女は、(露出狂一歩手前の姿をしていながら)外で致す事はあまり無い。部屋の中で、暖かく柔らかい布団の中で、密着して甘えながらするのが好きだからだ。…外で誘われたら拒否はしないし、それはそれで燃えるよう仕込まれているが。
確かに、自分達の生活態度が色んな意味でまずいという自覚はあるから、反対もしない。
が、明日奈がそれを言いだすとは思っていなかった。これでもシノノメの里に居た頃からの、10年以上の付き合いがある幼馴染。今となっては互いの体で知らない事が無い程に分かり合っている。
乳房の重さなど序の口、秘部の皺と形から直腸の味は勿論のこと、房中術というナニカで生やされた男根を使って女陰の締め付けの強さまで知り、更には互いの体を交換して貪り合った事さえある。
最後におねしょした日から初体験の体位まで、知り尽くしていると言えた。
なので、この真面目そうに見えても煩悩満載な幼馴染が、折角彼氏(明日奈だけの彼氏ではないが)とねっちょり遊べる状況を崩す筈がないと確信していた。
「…何よ、その目は…。…まあ、お察しの通り裏があるんだけどね。このまま皆を放っておくと、将来不味いのも本当だけど」
「建前は結構ですので、何を企んでるか素直に教えてくれません?」
「…相変わらず一刀両断してくるわね、あんた…。まずどういう事をするかだけど、『所定外の場所で色事に耽っているのを発見された場合、睦言一週間禁止』よ」
「一週間禁止ッ…!?」
神夜の顔色が変わる。それがどれ程(ここの女性達にとって)厳しい罰則なのか、身に染みているからだ。
夜毎、淫らな宴に浸って開発され続けた体は、たった一晩欲望を発散しなかっただけでも、ゆっくり眠れなくなる程に夜泣きし始める。
神夜と明日奈、他に木綿季や那木に関してはその程度で済むが、雪風達のような暗示を受けている子達は冗談抜きで生死に関わる。
「大丈夫よ。話したり、触れたりするのまで禁止にする訳じゃないわ。精神的に不安定にならない程度なら、それで充分よ」
「た、確かに元はそうだったかもしれませんが、今はどうでしょう? 暗示とは関係なく不安定になりそうです。それに、皆が従うでしょうか? …いえ皆が従っても、多分本人が一切自重しない気が…」
全くである。どう考えても、あの色狂いが従う筈がない。
そもそも、ここに居る女性達は多かれ少なかれ倒錯した趣味を開発されていて、禁止されている事を行う事で興奮…背徳感を得るなど珍しくも無い。
「本人にも話は通してあるわ。最初は渋ってたけど、裏の目的を話したら大喜びしてたわよ」
「ですからその裏の目的と言うのは?」
「『抵抗させる事』」
神夜の頭の上に?が飛んだ。言ってる意味が全く分からない。
「理屈は簡単。見つかりそうな場所で事に及んだら、一週間の睦言禁止が待ってるのよ。求められたとしても、流石に躊躇するわ。…それを捻じ伏せられて犯されるとしたら?」
「……詳しく聞きます」
神夜の目がギラリと光った。何だかんだ言って、彼女も充分欲望と変態性癖に忠実だった。
詳しく聞く、と言いながらも、神夜の頭は目まぐるしく回転して明日奈の真意を看破していた。戦いと食欲と色事に関しては、彼女の頭は明晰なのだ。…戦に関しては、その場のノリで理性を無視する事が多々あるが。
ともあれ、明日奈の意図はこうだ。
罰則を設ける事で、睦言を行う場所を選ばせる。つまり常識を身に着けさせる。
見つかったら、露見したら酷い事になる…という意識を植え付け、危機感を煽る。
これにより、本心から抵抗するようになった女を、構わず強引に手籠めにするという歪んだ興奮を引き起こす…ひいては、より深くねちっこい責めが期待できる。
「つまるところ、今のままでは風情が無い…そういう事ですね? 外で事に及ぶ場合、『見られてしまう』という羞恥心と、『見られたら大変な事になってしまう』という破滅と紙一重の昂揚、想像が肝要。今の状態ですと、見つかったところで全く不利益はありません。羞恥はあるでしょうが、それも徐々に慣れていく。ただただ、『普通ではない場所でまぐわっている』というだけになってしまっています」
「説明するまでもなかったみたいね。とは言え、これがすぐに受け入れられるとは思ってないわ。みんな、したくなったらする、誘いに行くのが当たり前になっちゃってるし」
「ですね。『若様に求められているのに、拒む理由は無い』と皆言いそうです。私も言います。今までの生活が当たり前になっている皆からすれば、どうして突然に睦言を禁じられねばならないのか、となりますよ」
さもありなん。彼女達にとっては、何よりのストレス解消で精神安定剤で名誉で娯楽なのだから。
「罰…と言う形だけでは不満の元でしょう。人は束縛だけが増えると鬱陶しく感じるものです。ここはひとつ、遊戯と言う形にしてはどうでしょうか? 罰とは別に、事に及んでいるのを見つけた者には褒章を出すとか」
「匙加減が問題ね。褒章の内容によっては、発見者と被発見者が結託する事も考えられるわ」
「確かに…あと問題は、行為に及んでもいい場所と時間帯をどうするか、ですよね。全面的に禁止されるなんて、謀反を起こしてでも阻止します」
「当然よ。私だって刺激的な時間が無くなるのは嫌だもの。ああ、そうなるとあの人本人に関する特例が必要ね。欲望を抑えきれるとも完全に隠れきれるとも思えない…あの人本人が一週間の行為禁止になっちゃったら、巻き添えで全員がって事になるし」
「…行為禁止一週間は決まりとして、場所と時間……普通、睦言と言えば夜に行うものですし、夜の自室であれば見つかっても不問にするとか?」
「そうね、基本はそれでいきましょう。と言うより、それが無かったら人の部屋に無断で乗り込んで発見!なんて事をしかねない子がいるし」
…こうして改めて考えてみると、結構な問題児集団だった。頭領からして爆弾同然の問題の塊なので、然もあらん。
二人はもう少し話を詰めて、他の幹部級に話を通しに行くのだった。
神夜は詩乃に、明日奈は木綿季に話を持っていく。
全体に話を公開する前に、まず組織の主要人物に話を通しておく。こういった運営法は、滅鬼隊の子達と共に情報や書類の重要さを教え込まれた時に学んだ事だ。
その前に、稽古の為に汗をかいていたので、昼間から一風呂浴びに行く。
廊下を歩き、ふと振り返ってみると、小さな水滴が幾つも歩いた後に落ちていた。自分が汗まみれである事を改めて自覚し、少し恥ずかしくなる。
(以前は、このような事で心を揺らす事は無かったのですが……寒くて汗もすぐ乾いていましたし)
故郷であるシノノメの里の事を思い返しながら、早足になって浴場へ。
清掃時間以外はいつでも暖かい湯が貼ってある大浴場は、住民全員に絶賛されている憩いの場である。男性浴場女性浴場、頭領用の浴場と分けられており、男女浴場は日毎に入れ替わる。…尤も、男性浴場に関しては使用者が頭領を含めても4名しか居ない事もあり、『広すぎて落ち着かない』と自室の風呂を利用する事の方が多いようだが。
そして、数少ない『頭領がコトをおっ始めない聖域』でもあるのだった。何故なら、浴槽の湯がエラい事になって、急遽湯の入れ替えが必要になってしまうから。風呂場でナニかしたいのであれば、頭領用の浴場(と言う名のプレイルーム。エロい道具多数完備)のが不文律だ。…それを破ってヤるのがいい、という困ったちゃんも多いが。
ちなみに浴場の清掃時間は、朝食の後。
日中は任務や稽古上がりの者が汗を流しに来るし、夜は就寝前に体を洗う。夜中はあちこちでお楽しみした者が、自室で湯を沸かすのを面倒がって痕跡も露わに入浴しにくるし、朝一番は昨日に玩具にされて身を整える事もできなかった者が入りに来る。単純に朝風呂を楽しみにしている者も居る。比較的利用者が少ないのが、朝食の後の時間と言う訳だ。
(日中の睦み事禁止…となると、今までのように稽古の後に抱き寄せられる事も無くなるのでしょうか…。それは嫌ですねぇ。鍛錬で滾った体の命じるまま繋がり合うのは、昂ること極まりないです))
汗を掻いている状態だと、汚いどころかむしろ興奮して迫ってくるのはよく知っている。
汗にしろ匂いにしろ、女性の生々しい部分や、恥と感じる部分が好きなのだ。乳房の谷間や脇、鼠径部に溜った汗を堪能するように、ねっとりとした舌使いで責められる感触を思い出す。…我慢できなくなりそうなので、途中で止めた。
(いえ、一般浴場では行為に及ばないというだけなら、専用の風呂を使えばいいだけですね。そこはこれまでと変わらないです。…あそこを例外の場所に指定すればいいですね)
自分の欲求を満たす為なら、意外と頭を狡く回せる女、神夜。
あれこれと思い浮かべながら斬冠刀をしまい、汗にまみれた服を脱いで浴場へ。中に入ってみると、見慣れた顔が一人。
「あれ、神夜?」
「雪風さん? 珍しいですね、こんな時間にお風呂なんて。日中はいつも外を走り回っているのに」
「任務上がりよ。ちょっと寒い所に行ってたから、温まりたくて」
「ああ、乱の領域ですか。…そんなに寒いでしょうか?」
「話に聞いたシノノメの里ほどじゃないと思うけどね」
汗を流して湯船に並んで浸かると、横からかなり強く睨まれた。雪風が大きな乳房に対して敵愾心を持っているのはとっくに知っているので、特に不思議にも思わない。
手を伸ばしてきても、好きにさせている。本気で痛いと思うような事は(この場では)やってこないし、凝り固まった筋を解すのに丁度いいからだ。
何より、雪風も度重なる情事のおかげで、女の体をどう責めればいいのか自然と体に染み込んでいる。特に雪風の場合、巨乳の代表格こと不知火と疑似親子睦言を繰り返しているので、自分にはない巨乳を恨みがましくねちっこく弄繰り回しているのだ。そりゃー責めるのも上手くなる。
「雪風さん、相変わらず胸が好きですね」
「むしろ嫌いなんだけど…いや例外は居るし、神夜も例外だけど。…と言うか、相変わらず『さん』付よね。立場云々をあんまり気にするつもりはないけど、先達だし纏め役だしで目上なのに」
「そこはまぁ、私の性分ですから。明日奈さんだって、十年来の付き合いでも自然とさん、を付けますからね」
「うーん、距離を感じるって事もないから、別にいいんだけどさぁ。ていうか、そういう神夜こそ、こんな時間に稽古上がりとか珍しいじゃない。いつもだったら、時子さんとかが呼びにくるまで剣を振ってるのに」
「ああ、それなんですけどね…」
明日奈から聞いた話を雪風にすると、あからさまに顔を顰めた。
「ええ…何それ。なんでそんな事を制限されなきゃいけないの?」
「一般常識に当て嵌めて考えると、全くの正論…いえ、ちょっと論点がずれていると思いますが正論なんですよねぇ。雪風さんだって、霊山での生活を思い出せば、ここの暮らしが異常だって事くらいわかるでしょう?」
「………………………そう? 言われてみれば、そう……なのかな…。いつでもどこでも構わず、女の子と遊んでた覚えしかないんだけど」
目覚めたばかりで、右も左も分からなかった頃を主ぢ明日雪風。しかし今一つ実感がわかないようだ。思い誰かさんのせいで。
あの人はそうでも、他の人は違ったでしょう…と言われるが、そもそも雪風は他の人の事など殆ど覚えていなかった。具体例として山本お婆ちゃんや土井先生達を例に出され、ようやく納得する。
「でもやっぱり面倒よ。別に今のままでもいいじゃない。独り立ちとか考えなくていいじゃないのよ、ずっと一緒に居ればいいじゃない」
「世の中、そうできるとは限らないんですよ。例えば山本お婆ちゃんに会いにシノノメの里に行く時とか、全員で移動するのは難しいでしょう。と言うか、全員揃っていたとしても、ここと同じ行動が出来るとは思ってはいけません。本来、睦言とは隠れて行うべきものなのですから」
「……そういうもんかしら」
神夜はちょっと頭が痛くなった。こういう風に教育されてしまった原因の一端…主な原因はいつもの人…は自分達にあるとはいえ、ちょっと浮世離れし過ぎではなかろうか。
このまま、ずっと楽園(性的・生活環境的な意味で)の中で暮らしていけるなら、それもいい。だがいつまでもウタカタの里に居るとは限らないし、反目し合って出ていく子が現れる事だってあり得る。それはとても悲しい事だが、だからと言ってはいさようなら、発狂死するか野垂れ死んでね、だなんて言える筈もない。
(建前ではなく、これは本気で制限を設けねばなりませんね…。それで私達の時間が減るのは痛恨極まりありませんが、我が子達の為なら致し方ありません)
…完全に我が子認定していたようだ。外見的にも中身的にも年上が居るが、それも含めて我が子である。
「…ともかく、そういう理由で日中の睦言には制限がかかります。なので……楽しんでおくなら今の内ですよ?」
「…一緒に行く?」
「さっきまでは深月さんがお仕置き部屋で玩具にしていたらしいので、まだ仕事を始めたばかりでしょうね。補助役(机の下でじゅぽじゅぽ役)はもういるでしょうから、もう少し温まってから遊びに行きましょう」
「温まって、湯ほぼにしていきましょ。お酒も持っていこうかな」
「あの人に酒魔羅は必要ないと思いますけどねぇ」
さて、どういう風に楽しもうか。もうすぐできなくなってしまう、場を弁えない遊びがいいだろうか?
さっきまで…ひょっとしたら今も…嗜虐心を満たしていたようだから、反対に恋人のように甘々で蕩けるような時間がいいだろうか。
逆に被虐欲を満たすような遊びがいいだろうか?
幸いにして、道具や衣装は揃っている。
「衣装については、未だに謎が残りますが」
「あ、それ言えてる。まぐわいの趣味はまぁ分かるけど、服の趣味だけはわかんないよね。あんな恰好のどこがいいんだろう?」
二人の頭に浮かんでいるのは主にお仕置き部屋に備え付けてある複数の衣装。
『ぶらじゃー』や『ぱんてぃ』に興奮する姿。
二人に限らずこの世界の人間にとって、下着もコスチュームもオーパーツもいいところである。煽情的な姿も奇異にしか見えず、性的なニュアンスも見いだせない。対〇忍スーツやバニーガール姿など、露出度より先に?マークが飛ぶ始末。
おかげで、里一番の鍛冶師が女性用下着を作っていても、新たな装具としか認識されずに変態の汚名を被る事が無かったのは、幸いと言っていいのだろうか…。