※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第594話

 

SIDE きらら

 

 きららは少々ご機嫌斜めだった。

 朝一番は、遠足に行く小学生よろしく日が昇るのを待ちきれないとばかりに跳ね起きたと言うのに、昼を過ぎるくらいには急転直下して不機嫌に、オヤツの時間が迫る今では頬を膨らませて不機嫌さを伝える程度には持ち直していた。

 だが、きららが遺憾の意を示していると言うのに、同行者二人…特に意中の男は全く意に介さない。無視されているのではないかと、怒りを通り越して不安になってくるくらいだ。

 時折声をかけられるし、機嫌をとろうとするかのように手を握られたり、尻を撫でられたりするから、全く気付いてない訳ではないだろうが。…尻を撫でるのがご機嫌取りになっているのは今更だ。起きたばかりの頃とはつくづく変わるものである。

 

 

(全く、あんな思わせぶりな事言って…。こっちは昨晩の『お祭り』にも参加せずに体調を整えてたって言うのに!)

 

 

 内心ではやはり、苛立ちが募る。

 事の起こりは昨日の事。一日のやるべき事を全て終え、蛇子や紅と一緒にお喋りに興じていたところ、『彼』から声をかけられたのだ。

 「重要な用事があるから、明日一日付き合ってくれ」と」。

 

 流石にそれで即「嫁入り! 結婚! 輿入れ!」という発想にまでは飛ばなかったものの、それに近い妄想はした。「告白!」とならなかったのは、既にお互い好意を伝えあっているからだ。尤も、彼の好意はきららだけに向けられたものではないのが引っ掛かるが。

 一緒にいた二人が騒ぎたてた事もあり、気恥ずかしくなって自室に引っ込んだ。

 そして来るべき決戦(?)に向けて、髪の手入れに服・下着選び、大浴場で徹底的にお肌の手入れ、隈とかつくらない為に夜伽の参加券を蛇子(紅とじゃんけんして勝った)に譲って疼く体を抑え込んで熟睡してきたのだ。

 

 だと言うのに、大事な用事とやらは楽しい事でも色っぽい事でも、おまけに二人きりでの事ですらなく。

 集合場所についてみれば、彼と一緒に、よりにもよって博士が居る始末。

 

 どういう事かと詰め寄るも、「用事の内容なら、昨日説明した筈だが」と平然と返される始末。…全く覚えていなかった。覚えていなかったが、蛇子と紅が「これ聞いてなかったみたいだけど、どうする?」「まぁ、伽の参加権をくれると言い出したのは本人だし…」みたいな顔をしていた事を思い出した。帰ったら〆ると決意する。

 きららは博士が苦手、と言うよりは嫌いだった。元々あまり接点があった訳ではないが、傍若無人な態度と行動に、やたらとでかい態度と口利き、何を考えているのかサッパリ分からない上に、普段から意味不明な怪しげな研究に没頭している。

 それこそ、博士が以前に暮らしていた場所で『魔女』と呼ばれていた事を知った時など、心の底から納得してしまったものだ。

 

 「彼」から一目以上置かれている事も、苦手意識の理由の一つだ。特に、頭脳面では遠く及ばないという自覚があるから。

 

 そしてその苦手な博士と共に出掛ける先は、よりにもよって「舟』。きららがかつて封じられていた場所であり、記憶にはないが多くの仲間が未だに眠る場所。

 ……そしてかつて自分が迫害されていたらしき場所でもある。

 事実、何があったのかは未だに全く思い出せないが、この舟の中に居ると物凄く嫌な気分になってくる。

 

 それでも、この舟に残る仲間達を見捨てる事はしない、いつか開放する決意が変わる事は無い。

 例えかつて、自分を迫害した連中だとしても。…いや、だからこそ見捨てない。

 利己の為だけに、根拠のない恨みの為に誰かを見捨ててしまえば、自分が心底嫌った「何か」と同じになってしまう気がするから。

 

 

(…だけどさぁ、何だってこんな所にわざわざ来てる訳? しかもあいつ、女ばっかりじろじろ見てるし…。私の方が! おっきいでしょ! 形だって負けてないし! 開発されてるから感度もいいし! しかもあんたの好きにできるでしょ!)

 

 

 なお、好きにできるのは彼だけではない。きららは総受けな立場に居る故、迫られるのにヨワヨワなのである。

 

 透明な筒に封じられている女をしげしげと見ている彼を睨みつける。

 きららから見ても結構なモノをお持ちの女だ。大きさでは負けてないが、バランス的にはちょっと危機感を覚える。

 むきーっ!と内心でハンケチーフを噛んで引き千切って意味もなく氷漬けにした。もしもこれをアサギが見たら、「内心だけで済ませるようになるなんて…!」とどこか間違った感激の涙を流しただろう。

 

 なお、無いに等しい名誉の為に追記しておくが、彼は女の体ばかりを見ていた訳ではない。

 封じられている男性の様子も、同じくらいの時間をかけて観察していた。きららが『女の胸ばかり見てる』と感じるのは、気に入らない事が強く印象に残っている為と、それ以上に『こいつならそうするわね』という先入観によるものだ。つまり自業自得。

 …ただ、眺めている時間は同等でも、観察眼の鋭さは男を見ている時が1とすると、女を見ている時は10くらいである。

 

 

 

 内心で荒れ狂っているきららを知ってか知らずか、残りの二人は筒の中に居る者達を見ながら話し込んでいた。

 

 

「…やっぱり見覚えのある子が何人か居る。名前まで分かったが…この子は、そう……紫水だ。タマフリはスタン……もとい、「操」の強化型。生み出した強力な式神を自在に操作し、また自分の生命力すら活用する。合ってる?」

 

「ああ。資料にあった名前や特徴と一致した。多少は予測していたが…改めて調べると、酷い物だな」

 

「そうだな…。ある種の必然と言うべきか、クサレイヅチのせいと言う事にしておくべきか…」

 

 

 博士がチラリときららに目をやる。何か文句あるのかと、きららは威嚇するように睨みつけるが、まるで意に介さない。こういう所がムカつくのだ。

 でもムカつくよりもちょびっと寂しくなったので、相手をしてくれる方の袖を引っ張る。

 

 

「ちょっと、さっきから何の話してるのよ。そもそも何で私をここに連れてきた訳?」

 

「ん…きららを護衛に選んだ理由は、ここに良くも悪くも縁があるから…かな。勿論個人的に(良い方にも悪い方にも)信頼もしてるが、言っちゃなんだけどそれは他の皆も同じだし。…きららは、ここの皆を助けたいんだろう? なら、気にならないか? 記憶がないとは言え、自分がどうして杜撰な扱いをされていたのか」

 

「それは…あんまり気にならない……けど、助けた後の事を考えると、それじゃ駄目なのよね…」

 

 

 ほう、と博士が意外な物を見た目をする。

 目覚めたばかりのきららであれば、後先考えずにいたかもしれないが、ここ暫くの生活で色々学んでいる。これで意外と、地頭は悪くないのだ。悪くないだけなのが欠点だが。

 

 かつての自分が、意味もなくぞんざいに扱われていたのだとは思わない。人間、差別やイジメの理由なんて何でもいいものだが、そこには何かしらの切っ掛けがある。建前でしかないものであっても。

 自分がそうなった理由が何だったのか、全く分からないが…同じ事が、解放した人間で起きたらどうするのか。

 

 この世界は、きららが知っていた(記憶は無いが、知識としてあった)世界とは様変わりしている。世界の殆どが異界に沈み、モノノフは歴史の陰に隠れる事を止め、鬼が闊歩し、人々は今にも途切れてしまいそうな希望の糸を、必死に紡ぎ続けて生きている。

 こんな状況で、かつての世界と同じように行動していたら、どんな事になるか。少なくとも、目覚めたばかりの自分がやりそうな事を考えてみれば、前向きな想像は全くできなかった。そしてその余波を被るのは、自分達だけではない。

 

 何があったのか、知らなければならない。最低限、ここに眠る者達がどのような考えで行動していたのか知り、対策を立てなければならない。

 …と分かっていても、それ以上どうすればいいのかがサッパリ分からないのだが。

 

「で、何? ここを見に来て、何か分かる事があるの? 今までだって、何度か調査に来てたじゃない。成果が上がったって話は聞いてないけど」

 

「失敬な。成果が上がっていたから、ここに何度も来ていたのだ。貴様らに知らせていなかったのは、説明したところで理解できる筈もないからだ。この舟の技術を解析して得た、動力の活用技術や保存技術を逐一聞かされたいか?」

 

「う…」

 

 

 この際聞くのは構わないとしても、博士自身に理解させるつもりがあるのかが疑わしい。知りたければ自分で勝手に調べろ、私の時間を浪費させるな…と言いそうだ。

 

 

「ま、今回きたのは、新しい手掛かりが見つかったからなんだけどな。手掛かりって言うのもちょっと違うが、別視点から考えてみようって事で。大当たりだったみたいだぜ。きららの前でこう言うのもなんだが…こりゃ酷いわ。きらら一人が疎外されるだけで済んでたのって、奇跡だぞ。発覚してないだけで、似たような事は沢山あっただろうが…」

 

「…私の前でそれを言うの、という感想は、記憶や実感が少ないからいいんだけど……そんなに?」

 

「内乱と言うか限られた空間内で殺し合いになってないのが不思議で堪らんくらいにはな」

 

「ええぇ…」

 

 

 博士の証言に反発するのも忘れ、ドン引きする。

 彼は女の入った管を撫でながら…確か、さっき言っていた『紫水』だったか…遠い目をして語る。

 

 

「根っこはいい奴と言うか、気丈な奴が多いから。極限状態まで追い込まれても、そうそう屈する事は無いよ。だからこそ、鬱憤が貯め込まれるのが怖いってのはあるが…」

 

「随分と、よく知ってるみたいに言うわね」

 

「ああ、知っている。…思い出したんだ」

 

「…は? 女の事を忘れてたの? あんたが?」

 

「記憶を奪われてたんだから仕方ないだろ。…クサレイヅチが…」

 

 

 チリチリと殺気が漏れ出す。やばい部分に踏み込んだ、と察したが、幸いな事にそれ以上は爆発しなかった。

 大きく息を吐いて、呼吸を整える。

 

 

「話を戻すが…例えばこの子は、元々舟に乗っていた子じゃない。いや、この子だけじゃない。ここで封じられている人達の7割以上がそうだ」

 

「? どういう事よ、この遺跡って確か、特別な鬼を倒す為に討伐隊を乗せて…えーと、なんか普通じゃない空間を進んでいた舟なんでしょ? 何でそこに部外者が乗ってる訳?」

 

「自らの意思で乗り込んだのか、何らかの理由で巻き込まれたのか…。その辺はお前が記憶を取り戻した方が正確に分かるだろうさ」

 

 

 そう言われても、思い出せないものは思い出せない。

 

 

「ま、ある種の必然かな。この舟は、トキワノオロチを追っていた。だが強力な鬼だ、簡単に討伐できる筈がない。追いついて戦う事ができたとしても、被害は出ただろう。そうなると考えるのは、戦力の補充だ。舟の中で人を増やす事ができないなら、何処かから連れてくるしかない」

 

「そうだな、トキワノオロチを追った先で辿り着いた、見ず知らずの土地でな。奴らは時空を移動するから、何千年前の世界に連れていかれる事さえあったろう。その先に居るのは、風習も違う、考え方も違う、言葉が通じるかすら怪しい。全くの異民族。友好的な関係を築けるかどうかは、試してみる気にはならないな」

 

 

 相手からの視点で考えると特に、と博士は付け足した。

 それを聞いて、きららは考える。例えば自分がモノノフではなく一般人で、鬼についても何も知らない。そんな中、突如現れる巨体の怪物と、それを追って来たという鉄とも違う金属でできた塊、そこから現れる人々。

 こうして考えると、あらゆる意味で怪しいことこの上ない。自分だって、仲良くできるかと言われると腰が引けるだろう。

 

 

「仮に友好的な関係を築けたとしても、人間ってのは自分の生活で手いっぱいなもんだ。追い払って、戻ってくるかどうかも分からない脅威を討伐する為に一緒に来てくれ…なんて言われて、ほいほいついて行ける奴なんかそう居ない。…例えば、元居た場所で居場所が無くて、何でもいいから何処かへ行ってしまいたいって奴くらいだな」

 

「…随分と、詳しいじゃない。その子だけじゃないの?」

 

 

 紫水の入った管を撫で続けるだけでなく、懐かしい物でも見るように、他の管も眺めている。

 

 

「ああ…ある種の必然、かな。俺はクサレイヅチに付き纏われて、俺自身も奴を追っている。つまり、俺が立ち寄った場所ってのはクサレイヅチが居た場所だ。で、クサレイヅチはトキワノオロチと強い結びつきがある。これまでにも、ちょくちょく合流しようとしてたんだろうさ。…そして、俺が居なくなった時に訪れて、『舟』もやってきて…」

 

 

 大きく溜息を吐いた。

 そこから先は想像に難くない。彼を追いかけようとしたか、それとも彼が居なくなった欠落を何らかの形で埋めようとしたのか、或いは単純に戦いに巻き込まれてしまったのか。

 

 まるで呪いのようだ。彼の事だから、何処に居ても何をしていても、何か大きな揉め事に巻き込まれていたのは間違いない。

 それを現地の人と仲良くなりながら解決し、円満に分かれたと思ったら、毎度毎度後からトキワノオロチという更に大きな戦がやってくる。彼の知らない所で。

 そして、そこで縁があった人物を連れ去るようにして消えていく舟。

 

 

「乗り込んだ奴の意図がどうであれ、舟の中は無茶苦茶になるな。見知らぬ者、食い違う考え方、未知の風習、噛み合わない実力や戦い方。記録を見る限り、指揮官と言える立場に居た者は早々に戦死したようだ。むしろ、元々舟に乗っていた…つまりトキワノオロチを討伐するという意思統一された面子は殆ど消えて、指揮系統すら確立されていない。どんな出来た人間が居たとしても、これで派閥も作らず隊を纏めろと言うのは無理な話だ」

 

「モノノフは時代によって、考え方や隊の制度もまちまちだからな…。正式な訓練を受けていない人も居るし、タマフリの使い方を覚えただけで前線に放り込まれる事だってある。上からの命令、ってだけで私情を押し殺せる奴なんて殆ど居ない」

 

「そうでなくても、問題児の寄せ集めのようだがな。時空を超える鬼討伐なんて得体の知れない旅に同行しょうとする奴らだ。元の居場所に馴染めなかったか、爪弾きにされていた奴らが殆どだろうよ。少なくとも、まともに生活を送れている奴がこの舟に自分から乗り込む理由は無い」

 

「よ、要するに……一言で言うと……呉越同舟…?」

 

 

 …きららの結論に、二人は本気で驚いた。見事に要約されていたからだ。どれだけ頭が弱いと思われているのか、きららはちょっと傷ついた。

 

 

「まぁ、何だかんだ言ったが、そういう事だ。引っ張っておいてなんだが、きららが迫害された具体的な理由は分からん。ただ、誰がそうなってもおかしくない環境だったって事が分かっただけだ。…後は、男女問わず知ってる奴が多いから、一人ずつなら何とかなるんじゃないか、って事くらいかな」

 

「記憶が残っていれば、の前提だがな。封じられたから記憶が消えたのか、それとも例の『繰り返し』でなかった事になっているのか、何とも言えん」

 

「ぬぅぅ…また何だかよく分からない話になってる…」

 

 

 彼からは生暖かい視線を貰えた。博士からは視線一つ貰えなくなった。

 彼はもう一度紫水や他の女達に視線を戻し、少し眺めてから口を開いた。

 

 

「…多分、無かった事になってるだろうな。解放されて、記憶を失ってなかったとしても、俺の事は知らないだろう」

 

「ほう? 何故わかる」

 

「俺の知らない傷跡が沢山ある。傷跡の特徴から、何を相手にして受けた傷なのかは大体わかるが…中にはそうそう現れない奴も居る。一緒に居た時に共闘したんだが、その時にはあんな傷は受けなかった筈だ」

 

「根拠にするには弱いな。珍しい鬼と言っても、生涯に二度遭遇しないとは限らん。こんな、時空を超えて移動する舟に乗っているなら尚更な」

 

「もう一個、明確な根拠があるぞ。みんな、俺がつけた傷が残ってない」

 

「…貴様がつけた傷?」

 

 

 

 

 

 

「ん。女になった時に受ける傷な。つまり、処女膜が残ってる」

 

 

 

 やっぱりそういう関係かと、話の内容はよく分からなかったが、とりあえずきららは必殺技・凍奔征走を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

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