最近、汗疹が酷い時守です。
サウナの楽しみ方に目覚めてから、毎日のように入ってりゃ、そりゃ肌も荒れるわな…。
さて、そういう訳でホロウを伴って、いつもの集会所…大和のお頭が年中仁王立ちしていたり、木綿ちゃんが何気に朝から晩まで受付嬢やってるブラック労働環境だったり、ゲームシナリオでは何かと集まって話をしていたりする馴染みの場所だ。
そこには主要人物が勢揃いしていた。里の主力陣は勿論のこと、橘花や樒さん、博士、茅場、秋水、虚海、真鶴…。鍛冶師のたたらさんまで呼び出されたようだ。
連れ立ってやってきた俺とホロウを見て、あらあらと意味深な笑みを浮かべる橘花、ジト目になる虚海、諦めたような目で物言いたげな表情をする大和のお頭。
…なーんで一緒に来ただけで、こんな反応されてるんだろうね。実績がありまくるのは自覚しているが、今までホロウは俺に対しては割とツンケンしていたし、今も察せられるような片鱗は……………えーと、普段よりも半歩距離が近い、くらいかな…。
(それだけでも、容易に想像がつくくらいにはあなたに慣れましたからね、皆さんが)
お黙り橘花。わざわざ念話まで使う話か。
だが実際にその想像ま全く外れていないので、余計なツッコミを貰う前に話を進めよう。
大和のお頭、遅くなったようですまない。随分と人が集まっているようだが、何の話だ? 吊し上げするくらいなら、宴会がしたいぞ。
「この状況で吊るし上げられるとしたら間違いなくお前だが、生憎といい口実が無くてな。お前一人の為に、その下の連中全員と事を構えている暇はない。それよりホロウ、随分と消耗しているようだが?」
「ええ、今朝まで出産していたもので」
「? 犬のお産にでも立ち会っていたのか?」
「そんなところです」
「い、犬………ぷくく…」
首を傾げる桜花と、それを聞いて笑いをかみ殺す橘花。
そりゃ確かに、桜花の反応も当然だろう。ホロウと俺が懇ろになった事が想像できたとしても、たった一晩で着床妊娠出産、3歳児まで成長していると、一体誰が考えるのか。
お産が軽い犬だってそこまでじゃないぞ。
だが真に恐るべきは桜花よ。
無自覚ながら、モノノフの始祖をワンコ呼ばわりしやがった。これ、本当の事を知ったらどうなるだろうなぁ。……俺が斬られるだけか。始祖様をなんでいきなり女体化させてやがる、って。
「…まぁいいだろう。本題に入る。全員聞け。神垣の巫女から託宣が下った」
空気が一瞬で切り替わり、緊張が走る。
託宣。簡潔に言えば神託。神仏からのお告げ。
はっきり言ってしまえば、怪しげなものである事は間違いない。この世界に神仏が居るなら、何で鬼がこんなに溢れ出してんだって話である。
だが神垣の巫女の場合、確固とした術の事である………らしい。
神垣の巫女の術は幅広い。その全てを納めている者など、それこそ霊山君…神垣の巫女のトップくらいだが、その中には占術の類もある。鬼の部位を使って行方を探る、千里眼の術なんかも占術と言えない事は無い。
その中の一つに、皮肉を込めて『託宣』と呼ばれているものがある。
無意識に行使される術であり、何を占うのか、いつ占うのかなどは一切指定できない。
ただ絶対的な悟性により、遥か未来の事までピンポイントで見通せる。……例えば、20年後の自分のパンツの柄とか、向こう隣りの田吾作どんが200年後にどんな墓に入っているのかとか、拾った浮世草子のオチ(つまりネタバレ)とか、隣の山の一匹の蟻さんが昼寝するタイミングとか…。
…まぁ、何だ、そんなの知ってどうするんだって事ばかり悟ってしまう。その状況で役に立つ情報なんて、10のうち1あればいい方。
そのくせ、それは絶対的に正しい情報だったりする。………らしい。
そして、この術は未来の自分から情報が送られてきているのだ、と言われている。
時に鬼やミタマは時空を超えて移動することが出来る。それと同じように、未来の己の魂が、過去の自分に本当に必要な情報を送り出してくるのだと言われている…らしい。
……パンツの柄が必要な情報だとは、とても思えないけども。
らしいらしいと、ちゃんとした情報がない?
だって俺だってまともに使われてるところ、見た事ないんだもの。橘花や雪華との寝物語で少し聞いたくらいだ。
普通だったら習得しても使っても全く意味の無い代物だし、そもそもその『託宣』が本当に託宣なのか、それともふとした拍子に思い込んでしまっただけなのかすら、他者からすれば区別がつかない。ただ情報が一致したもの、或いは確認できずに否定できなかったものだけた『託宣』とされ、外れたものは単なる世迷言として片付けられるとか、そういう話じゃねーの?
しかしそれは使用者である神垣の巫女であるから、そう感じるもの。
他者から見れば、里を守る神聖な巫女が、自分達の及びもつかない『何か』…それこそ神仏からお告げを受けたようにしか見えないだろう。事実、『託宣』を受けたと言われている場面では、全ての情報は正しかったのだから。正しかった時の事しか、残っていないだけだとしても。
…そんな訳なんで、まぁ、何だ、『いきなり後付けの設定持ち出してくるのやめーや』とは言わないでほしい。
「…橘花が、『託宣』を受けたと?」
「いいえ姉様。私ではありません」
「? どういう事よ? 託宣って神垣の巫女が受け事があるっていう、あれでしょ? 橘花以外に誰が居るのよ」
「この里には確かに橘花しか神垣の巫女は居ないが、里の外に出ればそうではない、と言う事だ」
…あ。ひょっとして、雪華が?
「その通り。あの里の巫女は、お前にご執心のようだな。…里ぐるみで世話になっているし、橘花と親しくしてもらっている事もある。…以前から夢で橘花とよく会っていたそうだが、随分慌てて交信を繋いできたらしい」
うーん…雪華が俺や周りの事を案じてくれるのは、素直に嬉しいが…。
しかし、よくそんな情報が降りてきたもんだ。
託宣って言ったら、的中率はともかくとして役に立たない情報ばっかり出てくる代物だって聞いてたんだが。
「それが、雪華さんに力を託された先代様方中に、風変わりな方が居たようで。何でも、他の術は殆ど適正がなかった代わりに、託宣が頻繁に起こり、精度も高く、身近な人の未来がよく見えたそうです。……里を守る神垣の巫女としては落第を通り越して没落と言える程だったので、色んな意味で持て余されていたようですが」
「未来を視てしまうからこそ、畏れられるってか? やるせないねぇ…」
「いえ、単に性格が悪くて、得られた情報を愉悦にしか使わなかった為、嫌われていたそうです。それも真っ当な神垣の巫女になれない劣等感などではなく、素でそんな性格だったとか」
「…そっちの方がやるせないねぇ…」
うーん……あー、あの子かな。橘花の体を借りてた時だから素顔とかはわかんないけど、ちょっと性格に問題ありな子だったっけな…。
褒め殺しにしたらチョローンといったけど。どーやら、性格の悪さを棚上げしてチヤホヤしてくれる人が好きなタイプだったらしい。
「で? その託宣がどうしたって? シノノメの里の巫女が慌てて橘花に繋ぎを取ったって事は、こいつや連れ合いの絡みか?」
「…前から思ってたが、どうしてお前はそんなにお嬢さん達に好かれてるんだ…羨ましい…」
若干眠くなってきているっぽい富嶽の兄貴。この人にとって、経緯とか背景は割とどうでもいい事らしい。
どうして好かれてるって息吹…強いて言うなら、色々功績を上げたからじゃないか? それが全てとは言わないが、恩もあるから色々好意的に捉えられている部分はあるし。
向こうに居た時は、そこまで大きなやらかしは無かったからな。(なお、第二次オオマガトキ発生未遂は未遂の為ノーカウントとする)
「…それよりも、託宣の内容を」
「そうね、息吹が天狐を探し始める前に」
「むっ………きゅ、きゅい…」
「…私も長年生きて、獣の言葉を人に教えた事はあるが…ここまで筋の悪い奴も珍しい…」
まだシリアスモードを維持できている速鳥、ツッコミを入れる初穂、そして憐れむ虚海(オッキしているのを隠している)。
それはそれとして。
「橘花」
「はい。…昨晩、私の夢に雪華さんが訪れてきました。里が戦火に包まれる託宣を受けた、と」
「里が……いや、すまない。続けてくれ」
「先日、2度にわたる大戦が生じました。幸い、どれも乗り越える事はできましたが…今回の託宣で見えた戦火では、致命的に違う点があったそうです。雪華さん曰く、『里全体で、全ての人と人が、憎み合い諍いあっていた』と」
人と人…。この世界のこの状況で?
どんな状況でも故あれば争い、故無くても争おうとするのが人間だけど、それにしたって経過ってものがある。
この里は人間関係も良好で、備蓄の類も充分、共に大きな戦を乗り越えたおかげで仲間意識もあって、俺達という部外者を抱えているが関係はそこそこ…とにかく、最前線だと言うのに奇跡みたいに上手くいってる里だ。
それがいきなり人間同士…? いや、奇跡的だからこそ、いつ崩れておかしくないという考えもできるが…。
「その光景が起きるのは……今日から4日後です」
「近いよ!?」
「確かに近いが、具体的な日付が分かるのは有難い。だが、たった4日で一体何が…」
「いや、争っているのが4日後と言うなら、実際に事が起きるのはその前日かもしれん」
「鬼の仕業です。雪華さんが視た光景の中で、里の上空を覆うような一体の強大な鬼が、人と人が争うさまを眺めていました。鬼は人を操る力があると思われます」
んー、前例はある…な。
だが里全体でとなると話は違う。千日夢みたいに行動不能にさせるだけの呪いなら、まだ複数人にかけられるが…誰も彼もに同じような憎悪を植え付けるとなると…。
「…その鬼は、イヅチカナタではないのでしょうか。奴は因果を奪い、現状を理解させなくする事もできます。意図的にそこまで出来るかは怪しいところですが、誰も彼もを人生で最も苦しかった時、憎くて仕方なかった時に戻してしまえば…」
「でも、あのイヅチカナタって鬼、あんまり大きくないんじゃない? そりゃ小型や中型に比べれば大きいけどさ」
「…そもそも、本当に鬼は一体しか居なかったのでしょうか? 先日の戦いを鑑みるに、今度襲ってくるのは戻って来たトキワノオロチとイヅチカナタと考えるのが自然でしょう。どうして一体だけなのか…」
「実はもう一体居る?」
「いや、託宣による神垣の巫女の悟性は絶対的と言っていい。『一体の鬼』とあるからには、間違いなく一体だと思っていい」
襲ってきた時には二体だったけど、託宣で見た場面までの間に一体を斬り捨てていたと言う事は?
「それは…有り得…いや待て、初穂も言ったように、イヅチカナタはそこまで大きな鬼ではない。やつらが同時に襲ってきて、既にイヅチカナタを倒しているのなら、どうして里人は争いを続ける?」
「止め所を失ったか………普段表に出ていない不満や殺意が爆発した?」
「むぅ…鬼を放り出してまで互いに刃を向けるような不平不満が、この里にあるか…?」
「……あると言えば…確かにある、か」
大和のお頭? それは何だ?
正直、俺からしても大きな不和の目を見つけるのが難しい里だと思うんだが。
「最近の戦況だ。ああ、確かに大きな戦いを、小さな被害で二度も乗り越えた。これは確かに誇るべき事で、皆の結束や自信の元となっただろう。だが、それが短期間で何度も続くとどうだ。…人は疲弊するものだ」
「…確かに、言われてみれば…。皆が意気軒高だから見逃していたが、戦いを一度乗り越た時点で、普通に考えれば疲労困憊もいいところだ。本人が気付かずとも、疲弊は必ず溜まっている…精神的なものならば特に」
「先の見えない状況ってのはきついからな…。でかい山場を乗り越えても、すぐ同じような山場が来る。状況が好転しない状況には、どんな強兵でも立ち向かえない」
それにしたって、不平不満が爆発するのが急すぎる…。そういう水面下の不満を噴出させるような鬼か?
「何にせよ、良好な状態に見えても、それは薄氷の上に成り立っている状況だ。備蓄は食料こそ多いが、戦略物資の一部が少なくなっている。もう一度大きな戦を乗り越えれば、戦力運営に支障が出る程だ」
そこまでかよ…。資材は充分に貯め込まれていると思ってたんだが。
「平時であれば充分すぎる程だ。言い訳にもならんと言ってしまえばそれまでだが、こんな大戦が連続で起きる状況がおかしいだけだ。……何にせよ、次の戦いで決着をつけ、体勢の立て直しを図らねばならん。襲ってくるのがイヅチカナタやトキワノオロチにせよ、他の何かにせよ、確実に仕留めるぞ」
その後、どういった対策をとるかで色々と話し込んだ。
ああは言っていたものの、襲ってくるのは間違いなくクサレイヅチとトキワノオロチだろう…と、ホロウと俺、そして博士の意見は一致している。
ホロウのクサレイヅチ専用レーダーにも感があるし、俺自身も予感というか予兆を感じている。
博士は博士で、トキワノオロチについて何やら確信があるようだし。
ただ、襲ってくるのがその2体だとしても、別の未知の鬼を連れてこないとも限らないんだよな。
今度は一体どんな理不尽が襲ってくるのやら。前のGE世界の最後で出てきた、惑星級のミラバルカンとか来たら、抵抗のしようがないんだよなぁ…。
しかしそんな泣き言を言っても仕方ない。出来る事をやるしかないか。
追記
会議を終えて屯所に戻ったところ、オビトがうちの子達の9割を友達にしていた。なんというコミュ力。これがムスヒの君の実力か…。