ふと気が付けば、章のタイトルとか変更するのをすっかり忘れていた罠。
あと最近気がつきましたが、マイページの検索ってタグの検索であって、題名とかだと引っかからないんですね。
ユーザー登録してかなり立ちますが、今更気がつきました。
第65話+外伝12
黄昏月『このジンオウガ 真面目な強さ』日
虚海のアレは、マジでうっかりだったらしい。
虚海ェ…。
ちなみにその虚海は、こっそり俺達の家に運び込んで、そのまま熟睡中だ。
まぁ、初体験から一晩張り切ったからな。
体力も消耗しているだろうし、起きても腰が抜けて動けないだろう。
さて、ヤる事もヤったし、今日はとうとう決戦だ。
オオマガドキを呼ぶ塔を破壊できるかどうか。
今回出てくる鬼は、恐らくトコヨノオウ。
強力な鬼ではあるが、その地力以上に厄介なのがマガツヒ状態の突進だった。
突進後にも止まらず、延々と走り回るフルマラソンが死ぬほど鬱陶しかった。
ゲームでは、後日行動パターンが修正されたと聞いているが…さて、どんなものやら。
ゲームと違い、わざわざ隙を見せてくれるとは思えない。
まぁ、それなりに対策は準備しているけどね。
さて、行きますか。
えー、現在、モノノフ総出で鬼と戦闘中です。
うん、予想通り、ボス格はトコヨノオウだった。
が、控えとしてダイマエンとかゴウエンマとかヤトノヌシとか、強力な鬼達がガン首揃えて襲ってくるとは予想外だったよ。
あまつさえ、トコヨノオウの後ろに、良く似たもうちょっとデカい鬼…多分トコヨノオオキミ…が居たような。
「ここは任せて先に行け!」して、ラストバトルに「待たせたな!」しようかと思ったんだが、ガッチリ結界とか色々小細工して通せんぼしてきやがるので、鬼達を順次倒していかなければ進めない。
しかし、初っ端から全員で攻撃しようものなら、疲弊した隙を付かれて押し返される。
なので、交代で鬼と戦い、今は俺は休んでいる訳だ。
普通、こういう交代制はもっと人数が居ないと出来ないのだが、幸か不幸か鬼達は自分達の結界を維持する為に動けない。
だから各個撃破も出来るし、交代で休む事も出来る。
…まぁ、あんまりダラけてると、隙を突いて結界を解除して襲ってくる可能性もあるので、気は抜けないが。
そもそも、結界を張る鬼が少なくなってきたら、恐らくこれ以上は足止めにならないと判断し、一斉に襲い掛かってくるだろう。
本当に厄介なのは、その辺りからだ。
ぬぅ、徒党を組むとか面倒な。
ある意味じゃ、当然と言えば当然か。
そもそも新種の鬼が現れるとして、初遭遇の時に一体で出てくるとは限らない。
増して、今回は鬼達にとってもオオマガドキを賭けた一大プロジェクトだろう。
そりゃ総力を挙げて防衛もする。
遠目に見える問題の塔は、大分エネルギーが溜まっているらしく、赤い光を帯びている。
とは言え、まだ光ってない部分もあるし…半日くらいはまだ余裕があるか。
しかし、ここで敵の布陣を抜いて塔を破壊できなかったら、出直してこれる程の余裕でもない。
こりゃ、本当に切り札出さなきゃいけないっぽいな…仮面ライダーアラガミのデビュー戦か。
胸が熱くなるな。
そしてッ世界…じゃなかった、戦う順番は一巡したッ!
という訳で、再び休憩中です。
うーん、よろしくないな。
敵がちっと多すぎる。
つい先ほど、ザコ鬼を生み出していたヒノマガトリと、瘴気を広げようとしていたタケイクサを潰したんで、大分マシになるとは思ったんだが、代わりに今度は背後からミフチやらマフチやらが迫ってきている。
狩るだけだったら充分なのだが、そっちに手を取られて塔に迫るスピードが落ちてしまっている。
仮面ライダーアラガミ!すれば蹴散らす事はできそうなんだが、アレって継戦能力が低いと言うか、短時間しか保たない上に時間切れになったらダウンしてしまう。
このタイミングでやったとしても、最後のトコヨノオウとトコヨノオオキミ(やっぱり見間違いじゃなかった)に到達した辺りでバッタリだ。
もうちょっと慣れれば、時間切れになった後ももっと動けると思うんだが……今更言っても詮無い事か。
大樽爆弾Gは、塔を破壊する為の手段だから、あんまり使いたくないしな…。
いくらアラガミ化しても、純粋な破壊力では大樽爆弾G以上は出せそうにない。
と言うかあのバカでかい塔を、人間サイズの攻撃で壊せる気がしない。
にしても…気のせいかな?
あの塔に近付く度に、な~んか背筋がゾワゾワするというか、覚えのある気配を感じて体が冷えてくると言うか……恐怖?
いや敵に対する恐怖があるのはいつもの事なんだが(信じられないかもしれないが、あるのだ)、こう……単純な恐怖じゃなくて………そうだ、トラウマ?
まだこのループに入って間もない頃、場慣れもせず実力もノウハウもなく、へっぴり腰でモンスターと初めて対峙した時のような、本能的な恐怖と言うか…。
でも、何でこんなタイミングでそれを思い出すんだ?
なんともイヤな予感というかフラグであるな…。
これ以上考えても仕方ないか。
そろそろ休憩時間も終わりだ。
この分だと、あと1~2回は休む機会がありそうだな。
さて、もう一丁やるか!
3度目の休憩中。
戦いが始まって、半日くらい経過している。
ザコは大分片付いた。
鬼の指揮官らしいゴウエンマも合計3体潰れたし、あっちも疲弊してきているようだな。
大将と総大将のトコヨコンビはまだ全然動いてないが。
と言うか皆戦いに夢中で気付いてないのか?
奴らの背後にある塔だけど、大分赤い光が強くなっている。
……しかも、鬼を倒せば倒すほど、それに比例して光が灯っていくような…。
これってアレか?
俺らを潰せればそれで良し、もしも負けても自分達を贄にしてオオマガドキを開くとか、そういうパターンか?
いや、よそう。
俺の勝手な推測で皆を混乱以下略。
そうでなくても、気にして攻撃の手を休めたら、押し潰されて負けるのがオチだ。
光が灯りきってしまっても、塔をぶっ壊せば何とかなるだろう、多分。
トコヨコンビを仮面ライダーアラガミで戦える距離まで捉えるのももう少しだ。
奴らがどれくらい強力な鬼かは分からんが、とりあえず短期戦で決めるつもりでいく。
皆も休み休み戦っているが、いい加減限界が近い。
…そして、塔に近付けば近付く程、俺の背筋が冷えている。
何が起きるか分からんが、絶対ロクな事じゃない。
と言うか、気のせいか……じゃない。
さっきから、視界の中で妙な光が踊って見えるんだが。
…これに気付くのは3度目だ。
妙な表現になるが、気付いたのは3度…つまり戦闘中にも2度は気付いた。
でもその度に忘れていた。
狩りに集中したから?
まさか。
鬼の新手の攻撃かもしれないのに、意識を逸らすどころか、忘れる筈が無い。
クソ、さっきから何かおかしい。
妙な悪寒や光だけじゃない。
さっきからモノノフ全員の連携が乱れてきている。
近くで戦っているのに…それこそ視界の中に居る筈のに、フォローを忘れたように個人個人で目の前に鬼にばかり攻撃している。
俺もこうやって日記を書いているが、よくよく考えればおかしなものだ。
いくら交代で休憩しているとは言え、コトはそんな悠長な事を言っていられる状況じゃなくなっている。
だと言うのに、どうして俺は加勢に行ってないんだ?
加勢に行こう。
何処へ?
誰の?
何を相手にしての?
ああ、そうそう。
トコヨコンビが標的だったっけ。
…いやいや、他のメンバーへのフォローが要るだろ。
誰と誰が居たっけ。
ああ、こういう時こそ日記を読み返そう。
ゆっくり読みたいところだけど、パラパラ捲って……とりあえず千歳、サカキ博士、イャンクックね。
モノノフの皆ってこんな名前だったっけ?
ま、とにかくここに居る人間の援護をすりゃいいんだし。
んじゃ行くか。
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HR月『怪しい術で街中にユメ(虚構)とキボウ(虚淵)を振りまこう』日
デスワー……ぷ?
いや本当に何が起こったの?
気が付けばMH世界の訓練所のテントで寝てたんだけど。
なんか尻が痛い…。
そういや、起きた時に誰かが出て行った形跡があったな。
見舞いにA.BEEさんが来てくれたが……あの人じゃない。
もっと小柄で華奢な誰かが居たようだ。
A.BEEさんが「先を越されたか」とか言ってたが、誰が居たんだ?
と言うか何がどうなってデスワープ?
死んだ覚えはおろか、戦った覚えさえないんだけど。
でもこの状況に居るって事は、死んでワープしたって事だよな?
一体何が?
そうだ、確か……うん、オオマガドキを防ぐ為、モノノフ総出で出撃!って話になったんだよね。
で?
…その後、気が付いたらここに居た。
日記を読み返してみると、塔を破壊する為の戦いはやっていたようだな。
サッパリ記憶にないが。
と言うか、日記の内容の最後の方がイミフなんですけど。
なんか身に覚えの無い戦いとか光が舞ってるとかそれを忘れるとか、モノノフの皆の名前を忘れるとか、何故かイャンクック先生をモノノフ扱いしているとか。
ちゃんと思い出せるぞ。
千歳、那木さん、初穂、息吹、富獄の兄貴、速鳥、初穂。
…千歳、か。
デスワープしちまったって事は、もう会えないのか?
いや、そうと決まった訳じゃない。
次に討鬼伝世界に行った時に探さないと……肉体関係になるのも、アラガミ化を見せれば多分割りと簡単?
色ボケした内容はともかくとして、例え千歳が居なくても虚海は居る筈だしな。
分かれた(会えなくなった)って実感が無いからか、千歳についても思ったよりショックを受けないな。
相変わらずの薄情者ってだけかな?
それはともかくとして、極め付けに意味が分からないのが最後のヤツ。
文字?
記号?
何かを書きなぐろうとしていたようだが、それが何なのか分からない。
まぁ、日記に書こうとしていたんだから、多分文字なんだろう。
何かの絵を描こうとした…訳じゃないと思う。
緊急事態だったとしたら、悠長にスケッチしてる余裕なんぞ無いだろ。
この日記は3つの世界の言語をミックスして書いている訳だが、同じく緊急事態なのであれば、恐らく一番体に馴染んでいる日本語が出る筈。
となると、最後のイミフな記号だかなんだかよく分からないのは、日本語…カタカナ?
イス゜?
いや、イズ。
…イズ?
伊豆?
IS?
いず?
射ず?
意味が分からん。
HR月『酒の代わりに煎餅とお茶が美味い』日
ハンター訓練所はさっさと卒業する事にした。
が、その前に暫く情報を整理したい。
訓練所に居る間は、行動方針とか考えなくていいからな…思索に集中できる。
訓練を鼻歌交じりにこなせるなら、だけど。
日記を読み返してみたが、幾つか予測が立った事がある。
まず、俺が塔を破壊するまでの戦いを覚えていない理由。
これについては、恐らく戦いの最中に舞っていた光を、度々忘れていたのと同じ理由だと考えられる。
オオガマドキが起こる戦場で、記憶を奪うような『何か』があった。
連携が崩れていったのも恐らくは同じ理由だろう。
他の皆も、自分達が誰と一緒に、何と戦っているのか、分からなくなっていったのではないだろうか。
で、そのまま記憶を奪われ続けて、日記を書く暇もなくなって、アボン、デスワープ?
……やっぱり何も思い出せんな。
で、その記憶を奪った原因だが…やはりアレか。
イヅチカナタか?
結局、千歳や虚海から聞いた僅かな情報しか得られなかった鬼だが、因果を奪うだか記憶を奪うだか、そのまんまな能力があるらしい。
日記を読み返してようやく思い当たった事だが、討鬼伝世界最後の『イズ』は、イヅチカナタの『イヅ』の誤字だと思われる。
発音する分には同じだし、ヅとか普段あんまり使わないし、咄嗟だったら間違えるのも無理はない。
しかしなんだな、という事は、俺はイヅチカナタに遭遇している訳か?
恐らくは直接対面して…でも初見だけじゃ分からないから、その時ひょっとしたら千歳が傍に居て、ソイツがイヅチカナタだと教えてくれたのかもしれない。
だが、オオマガドキでイヅチカナタとやらが出てくるのか…。
オオマガドキは扉とやらを開いて、何かを呼び込もうとする現象だと聞いていたが、ひょっとしたらイヅチカナタを呼ぼうとしていたんだろうか?
そういえば、千歳の鬼ボディはイヅチカナタの呪いを喰らったから、だったよな?
俺も遭遇したんだし、体が変化したりしてないかな?
今のところ、自覚できるようなモノはないが…後でアラガミ化も試してみるか。
…女の子にアレが生えたんだから、男の俺が呪いを受けたら二本になったりしないかなぁ。
とりあえず、イヅチカナタとか言うのには要注意としか言えない。
オオマガドキを防げなかったら、イヅチカナタが来ると思っていればいいだろう。
…千歳というアイドルを以てしても、オオマガドキは防げなかった。
矢張り、何らかの方法でムスビとやらを行う必要があるだろう。
そのムスビも、ゲームでオオマガドキを防ぐのに使われた手段というだけで、具体的な事は何も分かってないのだが。
ただ、多くのミタマが必要な事は確からしい。
…オオマガドキが、時間の流れを滅茶苦茶にしてしまうものなら、ムスビはそれを防ぐ、正すもの?
単純に考えれば、生きた時代の違う英雄達を揃え、時代の流れに沿って何らかの結びつきを作り、歴史や時間の崩壊を防ぐ…のか?
駄目だ、見当もつかん。
今度の討鬼伝世界では、樒さんに相談してみるか。
さて、それはそれとして、今回のMH世界ではどうするべきかな。
前回はA.BEEさんに目を付けられたし、精神を叩き直そうと思ってユクモ村で山篭りしてたっけな。
そして霊力が篭った妙な紅玉を見つけて、そこから妙な事件が発生しはじめた。
あの紅玉は気になるが…正直言って、もう一度見つけられる気がしないな。
文字通り、砂漠の中から小石を一つ探すようなもんだし。
前回の山篭りは…精神的にはあんまり意味なかったな。
結局、どの世界でもエロに走っているし。
ただ、狩りについての実力は随分上がった。
今なら、メゼポルタでも充分通用しそうな気がする。
フロンティア仕様でも、多分上位までは素で行けるだろう。
よし、今回はメゼポルタで何処まで行けるか試してみるか。
MH月『使えなくなっていたコンロが使えるようになっていた。焼き魚とヤキトリだ!』日
訓練所はサクッと卒業。
さて何から狩ろうか……とか考えてたんだが、ちょっと面白そうな話を聞いた。
メゼポルタの近くに、一つ村を作るらしい。
何でまた?と思ったが、どうやらメゼポルタを更に広げる為の前準備だとか。
理由はともかくとして、村を一から作るのか?
鉄腕的なアレか?
実に興味深い。
俺としても明確な目的も持たず狩り暮らししているとダレてしまいそうだし、このプロジェクトに一丁参加してみるとしますかね。
戦場は膠着状態に陥っていた。
多くの結界を張っている鬼達と、その向こうに見えるアンバランスな赤い塔。
そこを目指すモノノフ達。
激戦である事は言うまでもないだろう。
モノノフだけでなく、鬼達の戦力も相当なものだ。
だが、両者とも全く引こうとしない。
分かっているのだ、この戦いが自分達の望みを叶える唯一のチャンスである事を。
両者共に被害が増える。
鬼達はその数を徐々に減らし、モノノフ達は倒れこそしないものの、傷つき、その力を徐々に失い始めている。
鬼が倒れた事で結界が消え、その分モノノフ達は塔に近付いている。
このまま進めれば、遠からず塔に辿り付くだろう。
それを嫌った為かどうかは分からないが、鬼達は増援を呼んだ。
別の場所から鬼達を呼び寄せ、モノノフ達の背後を強襲させたのだ。
しかし手練のモノノフ達は円陣を組み、これを防ぐ。
増援達は数こそ多いものの、そこまで強力な鬼ではなく、背後を守るモノノフ達に殲滅されていった。
だが、それでも前方、進軍しようとするモノノフの戦力が削れた事には変わりない。
塔に迫る速度は落ち、疲労や傷が加速度的に増えていき、天秤は徐々に破滅へと傾きつつあった。
だが、それを何度も覆す声がある。
「もうちょっと!
皆、頑張って!」
「「「おお!!」」」
幼いとさえ言ってしまえる、少女の声。
それが張り上げられる度に、モノノフ達は何度でも奮い立った。
暢気に日記を書いてる奴も居たが。
彼女がモノノフ達の中心である事を示すかのように、彼らの円陣は彼女…千歳という鬼の体を持った少女を中心にして組まれている。
まるで一個の生き物であるかのように、綺麗な円を崩すことなく、彼らは戦っていた。
その円が乱れ始めたのは、一体何が切欠だったのだろうか。
鬼の数は減っている。
塔への距離も縮まっている。
だが、確実にその連携は乱れ始めていた。
それに最初に気付いたのは、円の中心に居た千歳だった。
「那木さん、回復お願い!
初穂姉、出過ぎだよ下がって!」
「承りました!」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
声をかけ、陣が崩れないように注意する。
しかし、おかしいのはその後だ。
初穂は下がっても、またすぐに突出するようになり始め、那木も自分から回復を施す事が少なくなっている。
二人だけではない。
息吹や富獄、桜花は目の前の敵を倒そうとしているが、他者からの援護をまるで考えてないような戦いぶり。
速鳥もまるで、他者を信用しなかった頃のように自分一人で戦おうとしているかのようだ。
千歳が誰よりも頼りにしている男は……暢気に日記を書いている。
休憩時間も終わりだったので、蹴っ飛ばして戦わせた。
(おかしい…おかしいよ、これ。
皆の足並みが、急に乱れてきている。
塔まであともうちょっとなのに!)
千歳の心が焦燥で埋まりはじめる。
どうにかしないと、と思っているが、原因が分からず、対策はただ声をかけ続けるしかない。
しかも徐々にだが千歳の声に耳を貸さなくなっているようにさえ見えた。
このままでは、連携を断たれて……敗北する。
それはモノノフ達の、ウタカタの、人の世の終わりを意味した。
「なぁ、千歳…さっきから、なんか光ってないか?」
「え?
光…あ、本当だ」
焦りで埋め尽くされようとしていた心が、声をかけられてふと冷静になる。
たった一言でこうまで落ち着くのだから、自分もいい加減依存しているな…と自覚しつつ、周囲を見渡してみた。
鬼達の攻勢を凌ぐのに手一杯で気付かなかったが、確かに光が舞っている。
明らかに自然のものではない、モノノフ達が発しているものでもない。
一見すれば綺麗だが、何処と無く不吉な綺麗さを感じさせる光。
それが、ゆっくりと空に昇って行っている。
…空へ、正確にはオオマガドキを開くための塔の上へ。
(あれ?
なんだかこれ、見た事がある。
なんだっけ…)
ひどく特徴的な光景なのに、すぐには思い浮かばない。
…何故だか、ひどく嫌な気持ちになる。
体の半分が疼く。
鬼の体が、何か喚きたてようとしているかのような…。
そこまで考えて、ようやく気付いた。
「まずいよ!
イヅチカナタが来てる!」
すぐに思い出せなかったのも当然だ。
嫌な気持ちになるのも当然。
この光は、千歳がまだ元の時代に居た頃に最後に見た光景。
千歳にとっては苦難の始まりとなる鬼の体にされ、孤独に生きる事になる切欠になった光景だ。
もしもまた、別の時代に飛ばされたら?
今度は残り半分の体も、鬼に変えられてしまったら?
…確実に、壊れる。
絶望で心が死んで体も死ぬか、人であった事を忘れて身も心も鬼と化してしまうかもしれない。
そんな未来を想像しかけて、頭を叩かれた。
「おい、ち………千歳?
これイヅチカナタの仕業なのか?」
「う、うん…多分。(私の名前に疑問符がついてる…)
でも、どうしてここに…」
「理由は後でいい。
俺もさっきから皆の名前が思い出せなくなりそうなんだが?」
「…それがイヅチカナタの力なの。
因果や繋がりを食って、自分の力に変える。
おまけに、仲間同士の因果を食べられたら、他人になっちゃうから…」
「連携も信頼関係も無くなってしまう、か。
話に聞いた以上に洒落にならんな…。
しかも、既に俺達の因果も相当食われてる」
既にモノノフ達は、ほぼ単独戦闘に突入している。
連携も何もあったものではない。
モノノフ達だけではない。
結界を張っていた鬼達も、守備は不要と判断したのか、それとも因果を食われて塔を守る役目を忘れたのか、てんでバラバラに暴れ始めていた。
動いてないのは、最奥に居るトコヨノオウとトコヨノオオキミだけだ。
千歳がまだ正気で居られるのは、恐らく体に宿したイヅチカナタの鬼の力の為だろう。
何よりも忌々しい体が、最後の手助けになるとは皮肉なものだ。
……多分その千歳とオカルト版真言立川流で交わりまくった誰かさんにもその力が宿っているのだろう。
「…多分、もうすぐ皆には私達の声も聞こえなくなると思う。
それまでにどうにかしないと」
「…幸い、塔までの道は空いている…か。
博打をするぞ。
単騎駆けだ」
「皆はどうするの!?」
「もう時間がないんだろ?
俺だっていつまで正気で居られるか分からん。
皆を守るのに時間をかけて、その間にオオマガドキが始まったら完全にアウトだ。
幸い、鬼達が連携して襲ってくる訳じゃないようだから、皆の力量なら生き延びるだけなら何とかなる。
最悪、塔だけでも壊してオオマガドキを防ぐ」
千歳の顔は、苦虫を噛み潰したようなものになった。
言っている理屈は分かる。
だが、千歳は『正義のモノノフ』なのだ。
損得勘定で…例えそれが勝利する為のものでも…味方を危険に晒したまま進む事を、心が受け付けてくれない。
例えそれが、身も心も依存しきっている相手の言葉であってもだ。
「単騎駆け……一人で行く気?」
「そう言ってるだろ…と言いたい所だが、違う。
駆けるのは千歳、お前だ」
「私が?」
「多分、俺よりも長く正気で居られるだろうしな。
俺はあの2体の鬼を全力で潰す。
その間に塔まで走って、爆弾使って纏めてブッ飛ばせ」
そう言って、何処からともなく取り出す大樽爆弾と、更に大きな大樽爆弾G、その他諸々に加えて、運搬用のリヤカーまで。
重さを考えれば小娘一人に運べるようなものではないが、鬼の体の力なら充分運べる…ちなみに本来なら牛に引かせるモノだった。
千歳は考え込む。
確かに、この状況をどうにかできるとしたら、それくらいしか手段が無い。
あの塔を破壊すれば、オオマガドキは止まり、イヅチカナタも消える…だろう、恐らく。
そうすれば因果を食われるのも止まり、皆に声が届くようになる。
食われた記憶が戻るかどうかは博打だが、少なくとも互いの存在を認識して戦うようにはなるだろう。
「……あの2体を相手にして、生き残れるんだよね?」
「おう、どっちにしろ短期決戦になるからな。
全力で行く」
「……あ」
『変身』。
千歳は初めて会った時を思い出した。
異形の体、明らかに格が違うと分かる霊力。
どれ程の力を振るえるのかは聞いた事が無かったが、誰よりも信じる男が切り札として切ろうとしている。
それだけの力はあるのだろう。
もう、その札を信じるしかない。
やり切った上での結果を信じるしかない。
「…分かった、覚悟を決める」
「そんなマジな顔するなよ。
……名前も思い出せなくなり始めてるけどな…好きな話だったろ?
『ここは俺に任せて先へ行け』ってヤツさ」
「嫌いな話にさせないでよ。
…行って来る」
「おう、俺も行くぜ」
千歳はリヤカーに手をかけ、走り出した。
それと同時に、背後で力強い『変身!』という言葉が響く。
そして今までとは一線を隔する霊力の高まり。
2体の鬼があげる咆哮と、激突の音。
振り返らずに、千歳は駆けた。
爆弾は重かったが、鬼の力を持って駆け抜ければ然程時間はかからない。
むしろ、悪路を走って爆弾がポロリもあるよ!しないかの方が怖かった。
詰み方がよかったのか運が良かったのか、幸い流れ弾に当たりそうになりつつも塔まで辿り付く。
「よし、後は爆破するだけ…」
爆弾を設置しながら、チラリと後ろに目をやる。
…よく見えないが、トコヨノオウとトコヨノオオキミがマガツヒ状態になったのが見えた。
と思ったら、背中に生えた翼のようなものが突然粉砕される。
尻尾や腕の武器などは、とっくの昔に切断されていたようだ。
炎やら氷やら雷やら色々出ているようだが、本人の姿は全く見えない。
あと、何やら体に悪そうな緑色の光がドカンドカンと爆発している。
…距離と遮蔽物(鬼達の体)の問題もあるが、どうやら見切れない程のスピードで動き回っているらしい。
(…まだ3分も経ってない筈なんだけどなぁ)
鬼と化した(千歳は知らないがアラガミ化だ)姿での全力がアレか。
最初から使っていればよかったんじゃないか、とは思ったが、やはりモノノフの仲間に鬼の体を晒すのは抵抗があったのだろうか?
いや、それよりも時間制限があるのだった、と思い出し、せっせと爆弾設置を続けるのだった。
程なくして爆弾設置完了。
…塔の赤い光が強くなっている。
空に立ち上っていく光も多い。
(早い所、爆破爆破…火種は無い。
『その辺の小石を適当にぶつければ爆発する』って言ってたけど、爆弾ってそういう物かなぁ)
首を傾げながらも、素早く距離を取って投石準備。
…その瞬間に気が付いた。
異形の塔が崩壊し始めている。
爆発させたのではない。
空に奇妙な渦ができており、そこに吸い込まれるように登っていくのだ。
設置した爆弾も、それに釣られるように塔の上に転がり堕ちていく。
最早一刻の猶予も無い。
もう少し距離を取りたかったが、千歳は石を放り投げた。
激しい爆発の衝撃に煽られながら、千歳は見た。
異形の塔の根元がゴッソリと抉り取られ、塔の赤い光が失われるのを。
空に空いた渦が消え、塔の先端部付近が自分に向かって倒れてくるのを。
無言でダッシュした。
「い、生きてる、私生きてる……!」
よりにもよって直撃コースだったので、かつてない程全速力で走った。
何とかオオマガドキを防げたようなのに、こんなんで死んだら死に切れない、という執念の賜物か。
どうにかこうにか千歳は塔を避けきった。
「皆は…」
激しい動悸と呼吸に耐えながら、これできっと大丈夫……と、千歳は顔を上げた。
空に昇る光が乱舞している。
何故、と問うよりも先に、千歳の視界にそれが飛び込んできた。
空から現れた巨大な触手を持つ鬼が、人間の姿に戻って動けなくなったモノノフの前に立っているのを。
「知ってる…知ってるぞ、お前の事!
そうだ、俺はお前と何度も遭遇している!
あの時も、あの時もあの時もいつもいつもいつも!
お前は」
鬼の前で、正気を失ったかのように叫び、逃げようともしない男。
走り出そうとした瞬間、全身から『何か』が抜け落ちる。
何もかもが見えなくなり、何もかもを思い出せなくなる。
(因果を、取られた…)
それ以上何も思う事はできなかった。
因果と、それ以外の何か…或いは全て…を食われる感覚すら、徐々に薄くなっていった。
外伝:討鬼伝デスワープ編