※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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絶賛悪い流れが継続中のようです。
今日も今日とてクレーマーがまた一人……とか思ってたんですが、それどころじゃなかった。
お隣さんの店のトラブル・クレーム記録を拝見する機会があったんですが……ちょっと、おかしい人と我侭な人と気が短すぎる人が多すぎやせんか…?
地域ぐるみでコレかよ…。
日本人って、自分達で言うほど温厚でも誠実でもない気がしてきました。

と言うかマジで店側に反撃手段を持たせるべきだと思います、かなり攻撃力と隠密力の高い奴を。
それくらいしないと、自称お客様は立場を理解しないって…。
何処に提案すれば、法案として通るかな…。


第84話

 

神無月雨宮ツバキ視点2日

 

 

 どういう訳だか、私に手紙が届いた。

 しかもリンドウ経由で。

 

 ご丁寧に、封にハートマークが使われている。

 ラブレターかと思ったではないか……いやいや、期待などしていないぞ。

 リンドウから「ファンレターだそうだ」と言われて、ちょっと肩透かしされたりなんかしていない。

 

 …うるさいな、私だって女だ…。

 

 それはともかく、何でも最近有名な農園の主からの手紙らしい。

 私はまだ行った事がないんだよな…忙しいし、一人で行っても虚しくなりそうだし。

 エリックの奴はそれでも一度は行ってみるべき、と所構わず布教しているようだが、万一リンドウとサクヤの二人組みと会ってみろ。

 気まずすぎて死にたくなるわ。

 

 

 リンドウが直接持って来たのは、よくしてもらっている農園の主から頼み込まれたからだそうだ。

 普通なら私に届く手紙と言えど、中身を改めて検閲される。

 単なるファンレターなら、検閲されても問題ないだろうに……随分と熱烈なファンレターのようだな。

 他人に読まれると無条件に困る程に…。

 

 

 …単なる嫌がらせや、剃刀メールの類だったらどうしてくれようか。

 

 

 

 

 

 思った以上に熱烈なファンレターだった。

 これは直接会わなければなるまい。

 

 

 決して遅ればせながらやってきた、春の予感に浮かれてなどいないぞ。

 真面目な話だからな……アリサがどういった状況におかれているか、という…な。

 

 

 

神無月雨宮ツバキ視点3日

 

 噂の農園とやらに行ってきた。

 リンドウとサクヤに会わないように、日程を調整してな…。

 

 なる程、エリックがやたら宣伝するだけの事はある。

 あの一帯だけ、妙に生命の気配に溢れている。

 久方ぶりに生き返った気分だ。

 …これで、妙に男女の観光客が多くなければ文句無しだったが……まぁいい。

 

 

 アポ無しで訪ねてみたのだが、私の接近を感知していたかのように、自然に農園の主に出迎えられた。

 偶然か…?

 

 いや、あれだけ鍛えられた人間だ。

 気配の察知くらいはできるだろう。

 武道の心得もあるようだ…重心のブレが全く見られない。

 

 ゴッドイーターではなかったようだが……はて、それにしては纏う空気が…?

 まぁ今はいいか。

 

 あの農園の主、何者だ?

 腹芸が苦手なのはお互い様らしく、思い返すと子供のような遣り取りだったが…奴は重要な情報を幾つも持っていた。

 それも、フェンリルの奥深くにまで入り込まねば知る事ができないような情報だ。

 

 「こんな仕事をしていると、コネツテも重要なもんで。 そこから情報も幾らか入ってくるんですよ」と惚けていたが、その程度で集められるような話なものか。

 

 

 アリサの精神状態と、オオグルマが持つ催眠。

 そして本来居ない場所に居るヴァジュラと、それらが組み合わさった事による結果。

 

 無論、そのまま話を鵜呑みにする事はしない。

 他にも幾つか気になる話はあったが、まず裏を取らねばならないのはこれだろう。

 オオグルマの医師としての経歴であれば、然程苦労する事なく集められる……まぁ、確かにこの程度の話なら、コネツテでどうにかなるかもしれんな。

 ピンポイントで、しかも私が今必要としている情報を持ち出してくるという点を除けば。

 しかも、その洗脳をどうにかする手段まで持っている、と来たものだ。

 

 愚弟の暗殺計画か……誤報だと楽観する気にはなれん。

 その情報の主が、これ以上無い程に怪しい人物だとしても。

 

 奴から聞いた計画は穴だらけ…というより、幾つかの偶然が重ならなければ発動しない、確実性という意味では下の下である計画だ。

 だが、それだけに証拠を残さず、不意を打つという点では多大な効果が期待できる。

 そして、失敗しても損害は最小限で済む…。

 未必の故意、という奴だな。

 

 

 奴が私を通して、何をしようとしているのかは分からんが……いいだろう、暫くは信を置いて付き合ってやる。

 あの農園が、世界的な改革の基になる可能性があるのも事実だしな。

 

 

 

 ついでに、巷で噂のマスク・ド・オウガについても聞いてみた。

 何か知ってるな、アレは…。

 

 

 

 

 

 

 アナグラに帰ってから、超特急で情報を集めた。

 結果は…黒。

 隠蔽されてはいたが、隠し切れなかったようだ。

 

 すぐさま反撃に出たいところだったが、今はまずい。

 オオグルマにしても、支部長の権限で守られている。

 

 まずは奴らの企てを避ける方が先か。

 アリサの暗示とやらをどうにかする必要があるが……流石に催眠術などという怪しげな技能を持つ人間は居ない。

 奴に任せるしかないのか?

 仮にもゴッドイーターの進退を、信の置けない相手に任せるのは危険すぎる。

 さっきは信を置くといったが、それとこれとは別問題だ。

 

 いやまて、催眠術や暗示と言うから怪しげな技能に思えるのだ。

 高位のカウンセリングの類と考えれば、どうだ?

 フェンリルにもそっち系の医者は少ないが、それでも探せば居る事は居る筈。

 なんだったら、エリックのツテを辿ってみるのも在りだ。

 実家の力を頼る事をあまり良しとしない男だが、仲間の為と言えば否というような男でもない。

 

 よし、まずはそっちを当たってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合わなかった

 

 

 

 

神無月主人公日

 

 ツバキさん…いつぞやのループ以来の名前呼び…と話をしたんだが、思った以上に時間がなかったようだ。

 既にアリサ達は、ヴァジュラに遭遇していた。

 となると、今後いつリンドウさん暗殺場面に直行してもおかしくない。

 

 支部長達にしてみれば、ちょいとミッションの場所を弄ればそれだけで誘発可能な暗殺だ。

 可能性と言うかパーセンテージの問題で、いつリンドウさんが成仏してもおかしくない。

 いやゲーム通りに行けば成仏どころかアラガミ化して生き残るんだけど、それこそシオがそこに居合わせる確率はイカばかりか。

 

 

 暫く悩んだ末、農園を暫く放置する事も覚悟した。

 ここ暫く、アラガミ化…ゴッドイーター風に言うなら、マスク・ド・オウガの姿で歩き回り、それらしいヴァジュラ及び黒爺猫、プッチ神父・股の群れは見つけてある。

 日中はそいつらの近くで事態の発生に備え、夜は農園の作業、明け方近くになったらハンター式睡眠法で短時間睡眠…こんなトコか。

 

 

 

 

 

 と思っていたら、早速事案しやがった。

 速すぎませんかねぇ!?

 仮にも主人公ポジションカッコカリである俺が居なくても早速発生ですか!?

 いや、確かに俺は現地に居合わせましたけどね!

 

 ツバキさんに話して、まだ2日目ですよ?

 

 

 まぁ、ほぼ徹夜な日々がたった2日で済んだと思えば、こっちとしては悪くはないんですけどね。

 なんかこう、釈然としないと言うかスッキリしないと言うか…。

 

 そんな事言ってられる状況でもなかったんで、問答無用で乱入した。

 アリサの錯乱・発射には間に合わなかったが、結果的に誰も死ななかったから別にいいでしょ。

 アリサも何とか気絶せずに済んだし、結果としては最上位と言っていいだろう。

 

 残念だった事があるとすれば、シオが発見できなかった事か。

 ゲーム通りなら、リンドウさんが死に掛けてる時にやってきて、アラガミ化を止めてくれた筈。

 リンドウさん達が無事に立ち去った後、周囲を探索してみたが、誰も居なかった。

 

 シオに関しては、地道に探すしかないか…。

 サカキ博士や支部長の注意が、マスク・ド・オウガに向いてるのが救いかな。

 

 

 さて、ともあれ無事に乗り切った事は確かだし、これならツバキさんも俺からの情報を信用してくれるだろう。

 全面的に、とはいかないだろうが、今後小出しにしていく情報に信頼が得られたのは大きい。

 何せ、ゲームのストーリーの情報だと、突拍子も無い話がワラワラ出てくるからな。

 信用されていても、そうそう信じられないような話だってある。

 

 

 どの情報から出していくべきか……マスク・ド・オウガに関する情報だけは出せないな。

 つーか出してたまるか。

 

 

 差し当たり、やっぱりオオグルマをどうにかしたい。

 今回は暗殺は失敗に終わり、アリサも昏睡しないままだが、だからこそ次に何をやらかすか分からない。

 間違いなく次の手を打ってくる…それも、自分の自信の根幹である暗示を搦めた方法…のは確実だろう。

 一度だけ暗殺を防いでも、首謀者も放置、教唆犯も放置じゃ意味が無い。

 

 

 

 

 

 と思っていたら、電光石火でツバキさんが動いていた。

 暗殺を防いだ翌日の夕方、ツバキさんが訪ねてきんだが……まずは情報の礼を言われた。

 謎のアラガミことマスク・ド・オウガに助けられたらしい、と言っていたが……いや、俺を関係者じゃないかと疑うのは止めてくれませんかね。

 関係者どころか本人なんでマジで。

 

 ツバキさんも何とか暗殺を防ごうと動き始めていたようなんだが、初動が遅すぎて間に合わなかったらしい。

 

 

 俺の情報源についても怪しまれていたが、今はまだ無理に突っ込んでくる気はないようだった。

 そして、本題だが………汚ッサンの更迭が決まった、という事だった。

 

 

 

 ほわーい?

 

 

 

 更迭。

 鋼鉄じゃないよな?

 汚ッサンを鉄で固めてオブジェにするってんじゃないよな?

 止めはしないけど、即破壊決定だぞそんなモン。

 美女ならともかく、何が悲しゅうて脂ぎった中年男の銅像なんぞ建てねばならんのだ。

 いや、美女を鉄固めするというかコンクリ詰めにするなんてそれはそれで許されんが。

 

 

 結局、真面目に更迭、左遷の類だった。

 この人事についてはアリサが反対しているそうだが、理由が限りなく尤もな物だったため、表立っては言うに言えない…らしい。

 

 尤もな理由ってなんぞ?と思って聞いてみたら、呆れた顔をされた。

 気付いてなかったのか?と言葉にまでされた。

 

 

 

 …うん、聞いてみたら実に尤もな理由だったけどね?

 一言で言えば、職務怠慢。

 それも、命に関わるようなレベルでの職務怠慢だ。

 俺が話した情報を基に色々と調べ上げ、過去に見逃されてきたアレやコレやも引っ張ってきたらしい。

 

 

 まず、アリサが持つトラウマの事を知っていながら、誰にもその情報を伝えていなかった事。

 患者のプライバシーというものは確かにあるが、それを持ち出せる職場ではない。 

 増して、ツバキさんは極東支部の指揮官…汚ッサンにとってもアリサにとっても上司にあたる。 

 それに対して、報告を怠った事が一つ。

 

 

 次に、純粋に医師としての能力が疑問視された事。

 確かに汚ッサンは医師としてそれなりに実績があったらしいのだが、それが今回の1件で疑問視され始めた。

 調べてみたところ、かつては学会でも何かしらの問題を起こした事があるらしい。

 それ自体は別にどうでもいいのだが、本人の専門分野(精神的なアレコレ…暗示の研究の副産物か?)である筈の精神面の治療において、何年もアリサに付き添っていながら、治療の効果が全く見られなかった事。

 本人にしてみれば意図的に治療しなかったんだろうが、それを言い出したらそれこそ更迭どころか解雇、或いは投獄だろう。

 

 

 最後に、今まで何度も不正行為を行ってきた疑いがある事。

 過去のアリサと汚ッサンの記録を洗った結果、アリサが錯乱した事(本当に錯乱なのか、暗示によるものなのかは不明だが)は初めてではないようだった。

 勿論、汚ッサンがそれを知らなかった筈がない。

 そしてそれを隠蔽していた事になる。

 

 

 以上の事より、ゴッドイーター、しかも新型使いの主治医としての資格無し。

 そりゃそうだろうなぁ。

 どれをとっても、医者としての能力、信用の不足を示すモノばかりだ。

 増して、どんな影響が出るか分からない新型使いなんぞ任せられたものではあるまい。

 と言うか普通に免許剥奪だろコレ。

 ニュースになるレベルだ。

 

 よくもまぁ、ここまでスピーディにやれたものだ…と思った居たら、ツバキさんが心無しか得意げに胸を張った……いや、その格好で張られると、バストが強調されるだけじゃなく、スッキリしたヘソとかギリギリな下とか、実に目に毒なんですけどね。

 俺、毒とか殆ど効かない体になってきてるけど…いや訂正、時間経過で治るようになってきてるけど、この毒だけには免疫がつきそうにない。

 

 ま、それはともかく、ツバキさんに言わせるとこれが正しいルールの使い方、なんだそうだ。

 倫理的な意味で『正しい』かどうかは微妙な所だがな、と自嘲してたけど。

 行動の是非はともかく、やった事は政敵を謀殺したようなもんだしな。

 

 

 正しいかどうかはともかくとして、確かにコレなら例え支部長であっても、表立って庇う事はできまい。

 暗殺がどうの、イージス計画がどうの、特異点がどうのと言った夢物語のような陰謀論ではなく、明確に今までやってきた事を元に、汚ッサンを「正当に」排除する。

 闇から闇へ葬る事ばかり考えていた俺としては、盲点の一言である。

 

 …仮にもギルドマスターだった身でありながら、正当なやり方を真っ先に捨ててたのは自分でもどうかと思う。

 

 

 さて、そうなると…アリサと汚ッサンはどうなる?

 更迭って事は、逆に言えば地位が下がる、或いは役職を解かれるだけで済む、という事ではないか?

 フェンリルは一応企業なので、銃殺刑に処す訳にはいかない…のは、建前だろうけど、まぁ分かる。

 

 

 ツバキさんは、恐らくだが、と前置きして続けた。

 

 汚ッサンは恐らく、2~3日中に何処か別の支部へ飛ばされるだろう。

 その途中、『アラガミに襲われて行方不明になる』可能性が高い。

 ただ、その行方不明が、隠れる為に潜るだけなのか、それとも永遠に行方が分からなくなるのかは五分五分…というより、支部長が汚ッサンを切り捨てるかどうかの匙加減次第だろう。

 …ああ、ゲームでもそんなのあったね。

 結局アッチでは生きてたけど。

 

 問題なのはアリサだ。

 精神面に問題あり、という事は今回の一見で明確になってしまった。

 そして信頼していた汚ッサンは問題在りとして引き離される……暗示の事を知らないのが、救いなのかどうなのか。

 

 元々他人を拒絶するような態度を取っていた事もあり(これも暗示のせいだろうか? そうでなくても暗示の影響という事にしてしまえばいいと思うが)、極東支部では孤立気味。

 そうでなくても、突然錯乱する可能性がある人間をチームメイトとして迎えたいと思うような人間は居ないだろう。

 リンドウさんやサクヤさんも、迷惑とは思っていないようだが、そんなアリサが戦場に出るのを許容できる筈も無し。

 

 事実上、居場所が無い状態だ。

 アリサもそれを自覚しているのか、塞ぎこんでいるらしい。

 

 

 

 

 

 

 ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……うむ。

 

 

 

 

 一週間くらい後に、精神療養の名目でこっちで預かれない?

 土弄りしてれば、余計な事考えないで済むよ?

 

 

 

 怪しまれたけど、OK貰った。

 

 

 

 

 

 さて……一週間後までに、汚ッサンを始末しに行きますかね。

 

 

 

 

 

 

神無月アリサ視点日

 

 誰が下乳担当ですか!

 ……いえ、失礼しました。

 なんか顔の無い人に囃し立てられる夢を見たもので…。

 

 改めまして、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。

 …新型使いの、ゴッドイーター……です、今でも、一応…。

 

 

 

 極東に来て、たった数週間。

 それだけの時間で、私の置かれた境遇は何から何まで変わってしまいました。

 ロシアで新型使いとして見出され、それなり以上に優秀な成績を残してきたと自負しています。

 シックザール支部長からのスカウトを受け、オオグルマ先生と共に極東へやってきたはいいものの……本当に旧型使いなのか疑わしい程の戦果を上げる極東の方々や、華麗華麗と大騒ぎしているよく分からない人達に、ドン引きする毎日でした。

 気圧されされないようにと気を張っていたのですが……それが逆に、私と旧型使いを隔てる壁になりました。

 

 それでも私はアラガミを倒せていれば、それでよかったんです。

 パパとママを食い殺したあのアラガミを、いつかこの手で……それだけ考えて、やってきました。

 

 ですけど、その結果は…。

 あのアラガミどころか、同じような形をしているだけのヴァジュラとの相対で、心が折れそうになる有様です。

 それでも私は認めませんでした。

 そこで折れてしまえば、私のやってきた事は全て無駄になります。

 

 …折れる、べきだったんでしょうか。

 意地を張るように戦い続け、やれるんだ、あのアラガミを殺すんだと自分に言い聞かせていました。

 

 ですが…それが、あの事件を生みました。

 

 

 あの日、私はリンドウさんと組んで任務をこなしていました。

 …正直な話、リンドウさんはちょっと苦手です。

 一緒に居ると気が抜けるというか……勢い込んでいたのを削がれるというか…。

 苦手云々を言い出すなら、私生活に踏み込んでアレコレと世話をやいてくれるサクヤさんも苦手なんですが…いえ、感謝してるんですよ、本当に。

 でも何となく逆らいづらい空気があります。

 …思い返すと、上司の指示に従わないという時点で、私って色々と…。

 

 えー、とにかくです。

 普段通りに終わる筈の任務でしたが、偶然サクヤさん達のチームと鉢合わせしました。

 本来、余程大きな作戦でもなければ、複数のチームが同じ区域でのミッションを受ける事はありません。

 この時点で、トラブルの予兆はありました。

 

 ですが、私にはそれを冷静に判断する事なんかできませんでした。

 ヴァジュラの遠吠え…。

 それも複数。

 

 それだけで、私の平静を奪うには充分すぎました。

 戸惑っている間に、あっという間に取り囲まれて……正直な話、そこから先の事は朦朧としています。

 パパとママが死んだ場面が何度もフラッシュバックして…立っているのか座っているのかも分からなくなって。

 

 フラッシュバックする場面のアラガミが、何故かリンドウさんに変わっていって…。

 空を見て雲が。

 アラガミの形をして、危なくなったら探して。

 

 

 

 あ

 

 あああ

 

 

 

 あああああああああべしッ!?

 

 

 

 

 ったた……し、失礼しました…ちょっと錯乱しかけたところを、今私が身を置いている農園の主に叩かれまして…。

 にしても、この衝撃…まるであの時のアラガミから受けたかのような衝撃です…。

 

 …えー、回想を続けます。

 ええ、わかってますって野菜の手入れもやってますよ。

 

 

 

 とにかく、あの時錯乱した私は、何故かリンドウさんに銃を向けていました。

 引き金を引く瞬間、咄嗟に銃口を逸らしましたが…手遅れでした。

 気が付けば、リンドウさんは私が崩落させた瓦礫により、アラガミと教会に閉じ込められ。

 私達は多数のヴァジュラ達に取り囲まれています。

 

 私は、またしても錯乱しそうになりました…その時です。

 

 叫びかけた私は、脳天を思いっきりド突かれました。

 ええ、もうそりゃあ痛かったです本当に。

 錯乱とか、どっかに吹っ飛んでしまうくらい痛かったです。 

 

 今自分が居るのが鉄火場で、しかもそうなった原因は自分だって事も忘れて、まるで寝起きの頭でベッドから降りたら、缶を踏んづけてコケて頭を打った時みたいな気分に……いえいえ、モノの例えです、今ではちゃんと片付けてますよ!?

 

 神機すら離して、頭を抑えてへたり込みましたとも。

 涙目で顔を上げれば…そこに居たのはオウガテイルでした。

 我に返るよりも先に、「こんな場面でオウガテイル?」と思いました。

 だってあの時の私達は、大型アラガミの代表格とさえ評される、ヴァジュラに囲まれていたんですよ?

 まともなアラガミなら、食われたくないからさっさと逃げるに決まっています。

 

 …でも、そのオウガテイルは二足歩行でした。

 というより、オウガテイルなのは顔だけでした。

 

 つまり…。

 

 

「マスク・ド・オウガキターーーーー!!!」

 

「本当に実在してたの!?」

 

 

 コウタとサクヤさんの驚きの声が、妙に遠く聞こえました。

 と言うか、私の頭を叩いたのはマスク・ド・オウガのブレードでした。

 峰打ちだったようですが…どっちにしろ凄く痛い…。

 

 そこから先は、動きが目で追えなかったくらいです。

 気が抜けていた私は勿論のこと、サクヤさんでさえ。

 

 閃光、爆音、血の臭いとヴァジュラ達の悲鳴…。

 気が付けば私はサクヤさんとコウタ庇われていました。

 我に返った時には、ヴァジュラ達は絶命…はしていなかったようですが、殆どが血だらけで行動不能になっていました。

 そしてマスク・ド・オウガはほぼ無傷。

 

 …どんだけ強力なんですか。

 はっきり言って、勝ち目はありません。

 リンドウさんを置いてでも逃げるべきか?という二者択一に遭遇する前に、マスク・ド・オウガは次の行動に出ました。

 跳躍し、事切れた一体のヴァジュラを踏み台にして、リンドウさんが閉じ込められた教会の中に飛び込んだのです。

 

 サクヤさんが悲鳴を上げた事は言うまでもないでしょう。

 あの狭い教会で、超がつく程強力なアラガミが二体…いくらリンドウさんでも…。

 

 

 ですが、こちらも余裕はありません。

 まだ動けるヴァジュラも残っていました…情けない事に、私は動けないままで。

 一人でも生き残らせたいなら、逃げるべき…だったんでしょう。

 

 ですが、全ては私達を蚊帳の外において進んでいきました。

 教会の中から、大きな炸裂音が3度、4度…。

 一際大きな爆発音が響いた後、静かになりました。

 

 そして、教会の割れた窓から、再び飛び出すマスク・ド・オウガ…。

 振り返りもせず、そのまま何処かに消えていきました。

 

 

 

 他のヴァジュラ達が動けるようになる前に、教会に駆け寄って声を上げました。

 リンドウさんに呼びかけたのですが……なんというか、ぴんぴんしていたようです。

 私など、「あれ、この人、私の銃撃に掠らなかったっけ?」と首を傾げた程です。

 

 閉じ込められたアラガミは、マスク・ド・オウガの協力(?)によって難なく殲滅。

 後は脱出し、帰還するだけという状態でした。

 脱出に関しては、残ったOPを全て銃撃に注ぎ込み、一斉掃射で何とか成功。

 その後は全員一斉に退避し、誰一人欠けずに戻る事ができました。

 

 無事にアナグラに戻った後、私は気絶し、丸一日目を覚まさなかったそうです。

 

 

 

 

 ですが、それで問題なしとはいきません。

 私があの時錯乱したのは何だったのか。

 ヴァジュラに関してトラウマがあるのは自覚していますが、何故ああまで…しかもリンドウさんを狙うような事をしたのか。

 言うまでもありませんが、私の評価と信用は吹き飛びました。

 

 ええ、私だってそうです。

 今回は運よく助かり…助けられましたが、いつ混乱してフレンドリーファイヤを起こすか分からないような人間と、誰が一緒に戦いたがるでしょう。

 私だって、自分のせいで人が死ぬかもしれないなんて御免です。

 

 

 …私がやってきた事は、何だったんでしょうか。

 何故こんな風になってしまったんでしょうか。

 

 リンドウさん達の顔を直視できずに、部屋で一晩うなだれていました。

 そして気が付けば何故かオオグルマ先生は解任されて別の支部に飛ばされており、相談できる相手もいません。

 

 …私には、無理だったんでしょうか。

 新型という武器があっても、パパやママの仇を討つなんて。

 

 ゴッドイーターとして必死に頑張ってきたのに、ゴッドイーターにもなれず、戦う事すらできない。

 …私は、これからどうすればいいのでしょうか。

 

 

 そんな時に、雨宮指揮官から指示がありました。

 暫くの間、この農園…今居る場所ですね…で体を休めろ、と。

 

 …見切りを付けられたんでしょうか?

 やはり、もうゴッドイーターではいられないのでしょうか…。

 雨宮指揮官は、精神状態が落ち着くまでここに居るように、落ち着いたらまた復帰してもらう、と言っていましたが…。

 

 理屈ではわかっています。

 今、ゴッドイーターを遊ばせておくような余裕は、世界中を見ても何処にもありません。

 アラガミ化を抑える薬剤だって、無限にある訳ではないのです。

 それこそ、使えないのなら捨石にしてでも戦力にしようとする筈。

 

 新型使いなのであれば、例え戦力にならなくてもデータ収集だけでも充分な価値はある。

 そうなると、私の行動や名前が記録に残る事になりますね。

 新型使いの汚点として語り継がれるかもしれませんね……ハァ…。

 

 

 もしも、私が錯乱した理由の一つに、新型神機からの干渉があったとするなら、それこそ調査しなければならないでしょう……干渉があったら、ですね。

 錯乱したのは私自身の問題だと、わかってますけど…。

 

 

 

 

 考えても仕方ないとわかってはいます。

 何をどう解釈したところで、また錯乱する可能性がある時点で私は使い物にならないんですから。

 

 でも、この農園で何をしろと言うんでしょうか…。

 得難い経験だとは思いますけどね、本当に。

 植物や鉱石には詳しくないのですが、それでも明らかに異常と分かる資材の数々。

 異常ではあっても、天然の植物に触れられる機会なんてそうありません。

 …農園だから、天然じゃなくて人工ですかね?

 

 どういう訳だか、この辺にはアラガミも殆ど寄って来ないようですし、錯乱する心配も少ないのも分かりますが…。

 トラウマを乗り越える為に訓練をしろ、と言われた方が余程分かりやすいです。

 実際、雨宮指揮官なんかは、そういう事も考えていたと仄めかしていましたが……リンドウさんとコウタが雨宮教官の背後で、激しく首を横に振っていたのを覚えています。

 

 

 ともかく、思惑がどうあれ、農園に置いてもらっているのは事実なので、間引きや農園のメンテの手伝いをするくらいなら、文句はありません。

 衣食住…いえ、食住を保証してくれているのですし、農園の主であるあの人には感謝しています。

 仮にも男性一人と同居という事で、警戒もしていますが。

 

 いえ、別に身の危険を感じる訳ではありませんよ?

 お世辞にも紳士とは表せない性格ですが、過剰なスキンシップを求めてくる訳でもなし、イヤらしい視線は……あんまり感じませんね、皆無とは言いませんが。

 何といいますか、病人に向けるような視線…でしょうか。

 それともペットを見るような?

 …どちらにせよ、ある種の屈辱です。

 

 それにしても分からない人です。

 何故にフェンリルの庇護下に入らずに、こんな貴重な農園を続けられるのか。

 出所が分からない植物や鉱石もそうですが、この人の家の中もよく分かりません。

 

 今時何処で使うのか分からない全身鎧(しかも明らかに使い込まれています)や、鉄の塊(触ってみたら鉄ではない何かでした)のような大剣が飾ってあったり、何故かオウガテイルを模したお面が立て掛けられていたり。

 電気も通ってない筈なのに冷蔵庫があると思ったら、冷蔵庫のガワの中に、冷気を発する石が幾つも詰め込まれていたり。

 挙句、どう見ても物理法則を無視して浮いているとしか思えないアクセサリ…聞いてみたところ、イカイなる場所で取れる鉱石で作られているそうですが…。

 他にも分からないモノが山ほどあります。

 

 

 本人の体についても分かりません。

 肉体的には、資格喪失しそうとは言え、私も強化され、訓練を受けたゴッドイーターです。

 単純な身体能力でも、格闘術でも、単なる一般人に遅れはとらない………と思っていたのですが。

 

 この人の身体能力、底が見えません。

 ウソか本当か分かりませんが、襲ってきたオウガテイルを鍬で殴り倒して追い返した事すらあるとか…。

 

 

 何度見ても、本当はゴッドイーターなのではないかと腕輪を探してしまいます。

 本人は、「これがNOUKA見習いの力だ!」とか言ってましたが…NOUKA?

 

 NOUKAってアレですか、крестьянин(クリェスチヤーニン)ですか?

 英語で言うファーマーですか?

 私の知ってるクリェスチヤーニンと違う。

 と言うかアレで見習いなんですか?

 一人前ならヘタなゴッドイーターより強いイメージがあるんですけど。

 

 

 

 

 

 ま、まさか…私はゴッドイーターとしては再起不能とみなされたから、ここで修行してNOUKAとなれと!?

 

 

 

 

 

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