なんかちんちん生えたっス! 作:情緒不安定ゾンビ
「ぎゃー! なんスかこれ、生え、生え、生えてる……!?」
とある夏の日の早朝、アルテミスのクランハウス、ライナの部屋。
そのベッドの上で、部屋の主であるライナはすっとんきょうな悲鳴を上げた。
朝の陽ざしを瞼の向こうに感じ、すう、と意識が眠りの奥から覚醒へと浮かび上がる。その最中から、彼女は違和感を感じていた。
股の間になんだか邪魔なモノが鎮座しているような、その鎮座しているモノが、妙に邪魔な感じに突っ張っているような、しかもその邪魔モノが自身の神経と熱とつながっているような。
なんだかおかしい。
そう確信したライナはガッと瞼をかっぴらきベッドの上で起き上がり、狩人の警戒心で周囲を、そして自分の身を確認し、そして、気が付いてしまったのだ。
この時期のライナの寝巻は、ギリギリお尻が隠れる程度のダボッとした綿のシャツに、下は
ところが今朝は、女性ものの下着なんかには収まりきらないブツが、ライナの股座に鎮座しているのである。すなわち――、
「えっ、ちんちん? 私から、生え、てる……。うわ、うわうわうわ、えっこれちんちんっスよね? なんで私……、え、あ、胸は! ……ある。他に変なとこは……、うん、いつもの自分の体っス。ちゃんと、女の。え、でもそこにプラスで生えてる。なにこれ、なんか、腫れ……? ビョーキ……?」
ライナには、ちんちんが、生えていた。
慎ましいながらも女性である事は否定しようがない胸も、『良い尻だ』と評価されたこともある自分でもなかなかのものじゃないのかと思っているお尻含む女性らしいボディラインも、そのまま。男になったというわけではない。
ただ一本の
「え、ど、どうしたら良いっスかこれ。治療院? いや治療院で人様にコレを見せつけるのはさすがに……。もぐ? もげたりしないっスかね。取りたい。いやこんなん私から生えてるわけがないっス。なんかそういうモンスター的なのであって自分の一部なわけがない。……取れる気がしてきたっス!」
早朝、寝起き、異常事態。
ライナは、働かない頭に処理能力を超えた異常事態を突き付けられ、あまりまともではない結論に至りかける。
コンコン……
「ライナぁ? なんかさっきからなんか騒いでいるけど、なんかあったー?」
そこに響いた、部屋の外からの控えめなノックの音と、同じクランに所属する先輩ウルリカの声。
これで、ライナは完全に冷静さを失った。
――人は、信じたいことだけを信じたいように信じる。
「な、なんでもないっス! 大丈夫っス! ……虫! そう、ちょっとでっかめの虫が出まして!」
「ありゃりゃ。それはびっくりだねー。退治、手伝おうか?」
「や、ドアあけてそっちに逃げたら困るんで、平気っス! もう、本当に、今、まさに、追い詰めて、やっつけるとこなんで!!」
ライナは案じてくれたウルリカに力強く断言し、そして、宣言通り早々に
何を? 己に生えている、いいや、ライナの中では自分にくっついているだけの異物、ちんちんを、だ。
「そう? 無理しないでね? でもそれなら、私はゴミ袋かなんか、片づけに使えそうな物探してこよっかな……」
ウルリカの声が、ドアの前から遠ざかっていく。
チャンスだ。今のうちに、コレを処理しなければ。
こんなもの、同じクランのお世話になっている先輩方に見せるわけにはいかない。
そう考えたライナは、えいやと
「ふんっんぎゃあああああああああああ!! いたたたたたっ! 痛い! 痛いっス! え、嘘ヤダこれ私の一部なんスか!?」
「ちょっとライナ、どうしたの!? 虫とやらに噛まれたとか!?」
ちんちんに走った激痛に、ライナはウルリカの事なんかすっかり忘れて叫び、その叫びを聞いたウルリカは遠慮をかなぐり捨て、ライナの部屋に押し入った。
そして、ウルリカはばっちりと、ライナの手の中の異常事態を、見てしまう。
「あ、やだ、ウルリカ先輩、みな、見ないで、ああ、しまえないっスぅうう!」
心もとない女性用下着にはとても収まらない程ご立派な、ライナが綿のシャツの下に隠せば良いのではとひらめいてもあまりに力強くそびえたっているために苦戦しているほどの、元気いっぱいのちんちんを。
ゴクリ、唾を呑む音が響いた。
ウルリカは、無言で部屋に押し入りドアを閉め、後ろ手で内鍵(昨夜、寝る前にライナがしっかりとこれをかけていれば、少なくともこんなことにはならなかったのに!)をかちゃりとしめる。
「ウ、ウルリカ先輩……?」
ずっと無言で、若干血走った目で自分の
聞いているのかいないのか、ウルリカの歩みは止まらない。
「ダメだよライナ、そんな乱暴に扱ったら。デリケートなところなんだから、優しく、ね?」
「え、あ、そう……、っスね? いやあの、違くて、今朝、いきなりこんなんなってて、どうしたらいいかわからなくて、その……。やっぱ治療院っスかね?」
「うんうん。そうだったんだ。とりあえずさ、しずめなきゃ、だよね。その状態で診てもらうわけにいかないじゃない? 下着に、収まってないし。外出るにもまず、さ」
「しずめる……? う、ウルリカ先輩? なんか近いっスよ?」
じりじりと詰まる二人の距離、相変わらず
異様な雰囲気に思わず後ずさったライナの背が、壁にあたった。
ギシリ、
とうとうベッドに乗り上げ、覆いかぶさるようにして、
「大丈夫。ぜーんぶ私に任せて。ね?」
そう言ってぺろりと舌なめずりをしたウルリカの、その白い歯と真っ赤な舌の淫靡なコントラストに、なぜかライナは、恐怖を覚えた。