ナメック星で悟空とフリーザが激戦を繰り広げている頃、遠く離れた場所でブルマは一人寂しく過ごしていた。
「ああ、もう ! 悟飯君もクリリン君も私を放っておいて、一体今何が起こってるのよ ! 」
悟飯達がブルマと別行動を取ってからだいぶ時間が経過している。ブルマを危険な目にあわせない為の別行動であったが、当の本人は退屈だと癇癪を起こしていた。
そんな時、顔を洗っているとやたらと芸達者なカエルがいた。ブルマにタオルを渡したり、チョコレートを食べてダンスを踊る等して、ブルマはカエルを退屈しのぎに使うことを決めた。
ブルマは余っていた機械を使い、小型翻訳装置を作成しカエルの首にかけた。
「これでよし。うん、我ながら上出来ね。さあ、なにか言ってみて」
ブルマはこの芸達者なカエルを話し相手にしようと思ったのだが……
今回は天才科学者であり好奇心旺盛なブルマの性格が仇となった。
カエルはニヤリと笑うと立ち上がり、身体を大の字に広げる。
「チェーーンジッ ! ! 」
カエルは翻訳装置によって明確に言葉を放せるようになっていた。
カエルが声を出すと全身が激しく輝き始める……
「な、なによこれ……なんなの…… ? 」
そしてカエルの口から怪光線が発射された。
「うわああ…… ! ? 」
放たれた光線はブルマの口腔内に命中、ブルマの悲鳴が途中でかき消されてしまう。
ブルマの全身もカエルと同様に激しく輝き始め身動き一つ取れなくなってしまう。
光線が消え二人は脱力しうなだれる。
先に動き始めたのは『ブルマ』だった。だが彼女は普段とは全く違う邪悪な笑みを浮かべた。
「ふぅ……こんなに早く別の身体になれるとは思わなかったぜ……」
動き始めたブルマは先ほどまでとは様子が全く違っていた。
男口調で目つきも悪く、声も野太い男のようであった。
「……な、なんで私がいるの……ええっ ! なんなのこれ ! ? 」
『カエル』は動き始めると女のような声で悲鳴をあげた。
ブルマは笑いながらカエルを持ち上げると首にかかっていた翻訳装置を外して放り投げた。
「ケ……ケロケロ ! ! ケロケロ ! ? 」
翻訳装置を外されたカエルは人間の言葉を放す事ができなくなってしまった。
「悪いな姉ちゃん。お前の身体はギニュー特戦隊隊長、ギニュー様が使わせてもらうぞ ! 」
そう、カエルの正体はフリーザ軍の精鋭部隊であるギニュー特戦隊の隊長、ギニューである。
彼は奥の手である相手と肉体を交換する隠し技"ボディチェンジ"を使い悟空を苦しめた。
その後カエルとチェンジして自滅、使用条件である「チェンジ」と発声することができなくなり一生をカエルのままで過ごすはめになった……。
しかし、ブルマが作った小型翻訳装置で発声できるようになり、ブルマと肉体を交換したのである。
*
「しかし何とひ弱な身体だ、これではフリーザ様の役には立てんな……」
ブルマは自分の胸をさすり自虐する。ブルマ……ギニューにとっては肉体の強さが全ての基準であり、それ以外は評価するに値しないのだ。
『うう……私の身体を奪って、何しようって言うのよ ! ? 』
言葉を話せないカエル……ブルマは涙を流しながらケロケロと声を出す。
「さて……どうするかな ? 」
本来であれば、ブルマはホイポイカプセルに入っていたエアバイクを使って爆走し悟飯達と偶然合流。
悟空ではなくフリーザの応援をした事等、下手な芝居で正体がバレてピッコロにボディチェンジを使用。
悟飯が投げつけたブルマガエルに光線が命中し、ブルマは元に、ギニューはカエルに戻る……そうなるはずだった。
だが、ここで歴史のIFが生じる。
歴史にもしもは無い。だが、そうなるかもしれなかった可能性はある。
『天津飯がピッコロに魔封波を使い電子ジャーに封じ込め、数年後に戦力不足の悟空がラディッツに殺される』
『地球でクリリンがベジータにとどめを刺し、悟飯とクリリンがグルドのサイコキネシスを破れずに殺される』
『ギニューのボディチェンジがベジータに命中し悟空達を殺した後、ギニューもまた不老不死の夢が潰え怒り狂ったフリーザに始末される』
こうなる可能性もあったのだ。
だから今回もまた、こうなるかもしれなかった可能性の一つではある。
*
ブルマはその場でへんてこなポーズを取り始める。
「やはりスペシャルファイティングポーズの一つでも決められなければ、フリーザ様に合わせる顔が無い。少しでも練習せねば ! しかし、何と弱い……軟弱な身体なのだ。地球人が宇宙でも弱い生命体だとは聞いていたが、皆こんなものなのか」
ブルマの自身の身体に対する酷評、その基準が宇宙でもトップクラスの肉体と比較されれば少々酷ではある。
『そんなに嫌なら私の身体返しなさいよ ! この美女である私がこんな醜いカエルの姿だなんて、耐えられないわ ! ! 」
カエルもまたケロケロ言いながら文句を話す。
二人が文句を言っているなか、事態が急変する。
「な、なんだ ! ? 空が暗く……」
『まさか、ドラゴンボール。誰かが神龍を呼び出したの ! ? 」
界王様の作戦により、地球のドラゴンボールを使い"フリーザ一味に殺された者達を生き返らせてほしい"
この願いをかなえた後に一時的だが最長老も蘇生、ナメック星のドラゴンボールで"悟空とフリーザ以外の者達を地球へ瞬間移動させる"
この願いが聞き入れられた。
こうして界王の作戦は成功した……ブルマとカエルは元に戻らぬまま……。
*
気が付くとブルマ達の見上げる空は緑色から透き通るような青い空へと姿を変えた。あちこちにフリーザ一味によって命を奪われたナメック星人達の驚く姿がある。
ナメック星の最長老によって現状が説明されている中、ブルマは話を聞く一方で周囲を見回す。
(ここが地球……なるほど、他の宇宙人に高く売れそうな土地だ)
ブルマは地球にかなりの高評価をつける。過酷な宇宙の中でも地球は非常に住みやすい場所だからである。
(しかし早く強い身体を見つけなければ……俺の見立てではやはりベジータ、次にあのナメック星人か)
その場にいる全員が事態の把握に努める中、ブルマは強い身体を物色していた。
さすがにスカウター無しで悟空の戦闘力を言い当てるだけあり、観察眼は確かであった。
しかしながら、こんな場所でボディチェンジを使おうものならすぐに正体がバレてしまう。
(何とか一人の時を狙うしか……)
「ブルマさん、僕たちが家まで送っていきますよ。で、デンデ達はブルマさんの家でお世話になる……という事でいいんですよね ? 」
悟飯がさっきから反応しないブルマに確認の言葉を入れる。
「ん……? うるさいぞガキ、俺の邪魔を……あ、あらやだ、おほほ、も、もちろんよ」
「えっ ! ? ……き、気のせいですよね ? ま、まあいいか。ははは ! 」
悟飯はブルマからありえない筈の言葉を耳にしたが聞き間違いという事でこの場を終わらせた。
そして、ナメック星人はドラゴンボールで移住するまでカプセルコーポレーションで厄介になるのである。
(くそ……これではうかつにボディチェンジができん……どうすれば……)
ブルマは現状でのボディチェンジを諦めるしかなかった。ベジータやピッコロはどこかへ姿を消してしまい、悟飯はカプセルコーポレーションでの要件や挨拶を済ませると自宅へ帰ってしまった。
ドラゴンボールが使えるのは一年後。それまでギニューはブルマとしての生活をするのである。
一方、カエルとなったブルマは瞬間移動先で置いてけぼりになってしまっていた……。
*
さて、現在のブルマはカプセルコーポレーションでの生活にすっかり慣れてしまっていた。
まず、外出がほとんどできない。ブルマはカプセルコーポレーションの令嬢であると同時に次期社長でもある。
そして今のブルマは『天才科学者』ではなく『特戦隊隊長』であるからして、途端に技術力が低下したブルマは勉強のし直しとなった。
しかし、そもそもフリーザ軍の技術力は地球の技術力よりも遥かに上である。特戦隊だけではなく一般兵もそれなりの訓練や座学を受けているため技術面にもある程度は対応できるようになっている。
したがって、今のブルマでも何とかついていく事ができたのだ。
「お前は中々筋がいいな。どれ、次はこのポーズを教えてやろう」
「はい、よろしくお願いします ! 」
ブルマは中庭でナメック星人達にスペシャルファイティングポーズを伝授していた。
発端はブルマが中庭で身体を動かしていた時だった。その様子を不思議そうに見ていたデンデ達に暇つぶしとして教えていたのだ。
元々ブルマは特戦隊隊長だった時にも部下に対する面倒見はよかった。教えてくれと頼まれれば悪い気はせず教えていき、ついにはカプセルコーポレーションにいたナメック星人全員がレッスンに参加していたのだ。
今後の生活に不安を抱いていたナメック星人にとって、ブルマのレッスンはよい気晴らしにもなり、同時にブルマについて知ることができるよい機会にもなっていた。
ナメック星人から見たブルマは『男っぽいけど愉快で面倒見がよい女の人』であった。
ブルマはこのような生活をしており、一旦ボディチェンジの使用を中止していた。
周りに強い地球人がいない、ベジータやピッコロどころか悟飯にすら会えない、そんな今の状況を考えると地球である程度の地位を持つ今の身体を手放す事は得策ではない。
それならば次にドラゴンボールを使う時まで、向こうからやってくる時まで待った方が良いと考えたのだ。
考え自体はよいのだが……。
*
ナメック星から帰還してもう間もなく一年を迎えようとした日の夜……。
ブルマは自室で眠っていた。だがその寝相は悪く口を開けて寝ていた。
自室に入ってきたブルマの父、ブリーフ博士は一個のキャンディを取り出すとブルマの口に入れた。
キャンディはみるみるうちに溶けていき、あっという間に消え去った。
その様子を確認するとブリーフ博士は部屋から出て行った。
ブルマの寝息は男のような声ではなく『本来の女の声』になっていた。
翌朝、ブルマが目を覚まし背を伸ばすと自身の声に違和感を感じた。
あー、あー、と声を出してみるとその違いは明らかであった。ブルマ本来の声に戻っていたからである。
「オヤジ ! いや、パパ、私に何をした ! ? 」
「何って、開発したカナリヤキャンディを舐めさせた。だってお前ナメック星から帰ってきてもう一年経つのに全然声が治らないじゃないか。パパ心配でな、だから新発明のカナリヤキャンディを寝ているお前の口に放り込んだ。どうやら治ったようじゃな」
「な……なんという事を ! ? これでは ! ? 」
ブルマは慌てて自室に戻る。部屋は防音使用であり、中の音が外に漏れる事はない。
「チェーーンジッ ! ! 」
ブルマは身体を大の字に広げ力いっぱい叫ぶ。
しかし、ブルマの身体には何も変化が起きない。
本当ならブルマの身体が光り輝くはずであるが、今回は何も起きない。
「な、なんという事だ。俺の声ではないから技が使えないのか……」
ブルマは前のめりに倒れ膝と手を床に着く。
ボディチェンジを使うにはもう一つ条件があり、使用者の本来の声帯でなければならない。
したがって、声が変わった今のブルマはボディチェンジを使えない。ギニューは一生ブルマの身体で過ごす事が決定したのだ。
「ええい、まだだ。俺は諦めんぞ。チェンジ、チェーーンジッ ! ! 」
ブルマの挑戦はムセこむまで続く。結果は当然無駄であったと記しておく。
*
あれから二年が経過した。
ドラゴンボールは死んだ仲間を生き返らせる事やナメック星人が移住するのに使われ、ブルマが願い事を使う分は残っていなかった。
「ブルマさん……今までありがとうございます。僕たちブルマさんの事、絶対に忘れません……ッ」
「泣くな ! 男なら簡単に涙を見せるな ! お前達に教えたスペシャルファイティングポーズには心・技・体が備わっている。お前達がそれを忘れない限り、俺との絆は消えることはない……達者でな」
「……はいっ ! 」
ブルマからの漢らしい激励の言葉を授かり、デンデ達ナメック星人は別の惑星へ瞬間移動した。
「……さらばだッ ! 」
「ブルマさん、泣いてるんですか ? 」
「馬鹿者 ! これは心の汗だ ! 断じて泣いてなどおらん ! 」
悟飯は会うたびに男らしくなったブルマが目から流す滝のような涙に若干引きながらも、そうツッコむのだった。
*
さて、本来ならばフリーザ親子が地球襲撃を計画しているはずなのだが……何も起こらなかった。
確かに悟空は帰ってきた。だが心臓病では死ななかった。
それどころか
『Drゲロの人造人間』
『魔人ブゥの復活』
これから起きる筈の重大な出来事がなに一つ起こらなかったのだ。
もし、ここに時の界王神がいたらこう解釈しただろう
『この世界線は未来が決まっていない。物語が途中で終わってしまった世界』
だと。
そう……この世界は『ドラゴンボールの物語が悟空とフリーザの戦いを最後に終了した世界』になってしまっていたのだ。
そのため、今後地球が敵に狙われる事は無い。ある意味平和な世界に早変わりしたのだ。
そんな世界では大騒動が起こるはずもなく、ブルマはある男と結ばれ、子どもを作り、育て、社員からはセンスはダサイけど頼れる兄貴みたいな美人社長、として敬われ、数十年後静かに息を引き取った。
泣く子も黙るギニュー特戦隊隊長らしからぬ、平和な最後だった……。
*
「ちょっと ! あんた人の身体使って何してくれてるわけ ! 」
ブルマが目を覚ますと、そこには怒り狂っている"ブルマ"がいた。
「んん……昔の俺そっくりだな……」
「違うでしょ ! ? あんたが私の身体を入れ替えて、私の人生奪ったんでしょ ! ? あの後私がどれだけ苦労したか……」
本物の"ブルマ"はカエルとして瞬間移動の地点からカプセルコーポレーションまで必死に移動した。
ところが、あと少しの所で力尽きてしまったのだ。
「だいたい、なんであんた死んでまで私の姿なのよ。もとに戻りなさいよ ! 」
「あれから何十年経ったと思っているんだ。もう昔の姿など覚えておらん」
実を言うと、ギニューはいくつかの世界線で複数の姿が確認されている。
紫色の宇宙人、悟空、カエル、タゴマ、そしてブルマである。
それぞれ何らかの理由で命を落とすまでの年数を最長で。
紫色の宇宙人=約十年
悟空=約一年
カエル=約二十年
タゴマ=約三十分
ブルマ=四十年以上 "New Record"
ギニューはブルマの身体を本人以上に長く使っており、あらゆる世界線で一番使用期間も長い。
魂の形が変わってしまっても不思議ではない。
若くキャンキャン叫ぶ騒がしいブルマと少々年を取り冷静に流すブルマ、二人のブルマの元へ誘導員のお化けが恐る恐る声をかける。
「あのー、後ろが閊えているので早く前に進んでください」
困ったように話すお化けを見て仕方なく"ブルマ"は歩き出し、ギニューブルマは後ろから肩をすくめて歩き出す。
エンマ大王の元へたどり着くまで、それでも"ブルマ"の叫び声は続くのであった。