エイジ774、サイヤ人襲来以降から外敵が現れなくなった地球はすっかり平和一色に染まっていた。
しかし平和な世の中でも必ず現れるものがある。それは悪いやつ…。
「ひったくり!助けてぇーッ!」
サタンシティの街中で中年のおばさんが覆面の男二人にバッグを盗まれる。おばさんの悲鳴を聞き何事だと振り向く通行人はいたが、誰も助けようとはしない。誰もが、我が身が可愛いのだ。
「兄貴、やりましたね!」
「あぁ、このまま逃げるぞ!」
そう…必ずいるのは悪いやつ…そして…。
「待ちなさい!」
そして…正義の味方である。
「パパの街で犯罪なんて、私が許さないわ!」
覆面の男達の前に現れたのは一人の少女だった。
サタンシティに存在するオレンジスターハイスクールの生徒証であるバッジを身につけ白い服、黒いスパッツを履いた少女は毅然と犯人の前に立ちはだかった。
「どけやガキィ!」
構わず突き飛ばそうとする犯人だったが、少女の足払いによって転倒する。
「…フッ!」
「グゲッ!?」
倒れた犯人の鳩尾に少女の拳が決まる。急所を攻撃され犯人の一人は気を失った。
「こいつ!よ、よくも兄貴を!」
もう一人の犯人がナイフを取り出し少女に向かっていく。
しかし少女はナイフを軽く躱し、する違いざまに首元へ手刀を当てる。
「ガッ!?」
首元へ攻撃すれば確かに気を失うが簡単にできることではない。適度な角度と力で攻撃しないとただ痛いだけだ。
それをやってのけた少女は間違いなく強者である。
その直後に遅れて街の警察が到着した。
「すみません!お待たせしましたビーデルさん!」
「遅いわよあなたたち!街の平和を守るあなたたちが犯人にすぐ逃げられそうになってどうするの!」
出動してきた警察に対し目上の立場として叱責する少女は犯人を引き渡すと、何事も無かったかのようにそのまま学校へ向かったのだ。
「しかし凄いですね、あの人」
「あぁ…流石世界チャンピオン、ミスター・サタンの娘さんだ」
警察が関心するほどの少女。彼女の名はビーデル。かつて天下一武道会で優勝した世界チャンピオン、ミスター・サタンの1人娘である。
彼女もまた第24回天下一武道会少年の部で優勝した経験を持つ武術の達人でもあった。
誰にも教えを受けず我流で鍛え上げたその力と技は高い水準であり、並大抵の武闘家では相手にもならない。
そんな彼女の趣味は正義の味方。先程のように父の名を冠した街で悪事を働く者達を成敗するのが彼女の趣味であり日課でもあった。
その反面警察はすっかりビーデルに頼り切っており、困った時はビーデルさん、そのような考えが蔓延していたのである。
「おかえりなさいませ、ビーデル様!」
学校から帰宅したビーデルを多数の召使いやサタンの門下生が出迎える。
「はいはい、ただいま」
内心ため息をつきながら投げやりに挨拶をするビーデル。彼女からすればこれは日常茶飯事であり、家にいる間は常に誰かの視線が向かってくる。ストレスを感じるのも当然だろう。
サタンの家は豪邸であり召使いも大勢いるし、道場には同じく多数の門下生が、毎日修行を行っていたのだ。
そんじょそこらの芸能人では相手にならない知名度や人気を誇るビーデルだ、少しでもお近づきになりたいと邪な思いを、持つ者がいても不思議ではない。
家に入るとそこには割れた顎にカーリーヘアーで黒い道着に白いズボンを履いた男が立っていた。
「おかえりビーデル!さっき警察から連絡が来てひったくり犯を捕まえたそうだな。さすがわたしの娘だ!」
その男こそ、ビーデルの父であり世界チャンピオンであるミスター・サタンその人である。
「もう、やめてよパパ。あんなの朝飯前よ」
嫌がる素振りを見せるビーデルだが内心は満更でもなかった。
ビーデルの母であるミゲルは数年前に死去しており、妻を失ったサタンにとってビーデルは生きがいそのものであり目に入れても痛くない程に可愛がっている。
そんな父の気持ちを知っているがビーデルも多感な年頃、ついつい素直じゃない返事をしてしまうのだ。
そのような日常も壊れるのは一瞬であった。
それから数日が経過し、街は何事もなく静かな時が流れていた。
(はぁ、退屈だわ。何か事件でも起きないかしら…?)
何気に物騒な事を考えながらビーデルは学校から下校していたその時…。
(あら、なにかしらこのカエル。見たことがない品種だけど…?)
ビーデルの足元に一匹のカエルが座っていた。
頭に触角が生えており、ビーデルも図鑑では見たことがない品種であった。
そのカエルはビーデルの前で地面に文字を書き始める。
(え?文字を書くカエル?頭がいいのかしら?誰かに飼われているの?)
ビーデルは頭にいくつもの疑問がよぎるが、カエルが書いた文字は『たったの四文字であった…』
「…チェンジ?」
ビーデルがその言葉を口に出した瞬間カエルがニヤリと嗤い、口から光線が発射される。光線は思わず口を開けていたビーデルの口腔内に直撃し、二人の身体は互いに激しく輝き始めた。
一切見動きをしなくなった二人だったが、発光が収まるまでにかかった時間はほんの数秒だった。
ビーデルは世界が巨大化したような感覚に陥った。建物は高く、道路は広い。
ゲ、ゲロゲロ?(い、一体なにが起こったの?)
そしてビーデルは気づいてしまった。自分が人間の言葉を話せないことに…。
ゲロゲローッ!?(なんで、なんで私カエルになってるの!?)
そして自分の身体がカエルになっていることに!
「…フッフッフッ…チェンジと言ってくれてありがとよ。おかげで忌々しいカエルの身体から解放されたぜ」
カエルとなったビーデルの目の前にはなんと自分自身が立っていた。
しかし目つきは悪く、声はまるで男のように野太くなっていた。
ゲ、ゲロゲロ!?ゲロゲーロ!(あ、あなたまさかこのカエル!?あなたが私と身体を入れ替えたの!?元に戻しなさいよ!)
ビーデルはカエルに訴えるが、何を話してもゲロゲロとしか発音されない。
「フッフッフッ、せっかく身体をプレゼントしてくれた褒美だ、特別に教えてやろう。トウッ!」
ビーデルとなったカエルはその場でジャンプしビーデル背中を向けて着地。そして両手を横に伸ばして身体を大の字にし、上半身を器用に前へ反らす。顔を両足の間から覗かせる。両手はパーにし両頬の横へ持ってきて、高らかに声を出した!
「フリーザ軍の精鋭部隊隊長にして、フリーザ様の忠実なる部下!そう、俺の名は!」
不安定なはずであるにも関わらず華麗にターン。しゃがみながら両手の人差し指を伸ばし、真剣な表情で宣言する。
「ギニュー特戦隊隊長、あ!ギニュー!」
ビーデル…ギニューは特戦隊で考案したスペシャルファイティングポーズの一つを披露した。
ゲ…ゲーロ…(ダ…ダサい…)
ビーデルからの反応は当然のものであった。さらに自分の身体がこんなダサいポーズを取り、しかも大声で叫んだ事に目眩を感じた。
「ありがとよお嬢ちゃん。カエルの姿ではこの美しいポーズができなくてな、これからも大事に使わせてもらうぜ」
ギニューの言葉を聞いて我に返ったビーデルは慌ててしがみつく。
ゲロゲロ!ゲロゲーロ!(冗談じゃないわよ!早く私の身体を返して!)
ギニューはビーデルを摘みながら目の前に持ってくる。
「悪いがそうはいかないな。さっきスペシャルファイティングポーズを取った時に気づいたがな、この身体は中々のものだ。以前地球人の女と身体を交換したことがあったが、あれに比べれば天と地の差だ。身体のキレ具合、筋肉の付き具合、どれを取っても地球人にしてはレベルが高い。しばらくはこの身体を使わせてもらうぞ」
ギニューの宣告に顔が青くなるも、ビーデルは気丈に叫ぶ。
ゲロゲロ!ゲロゲーロ!(私のフリをしたってすぐバレるわ!あんたなんかパパがやっつけてくれるんだから!)
「ほう…貴様のパパか…ふふふ……ふははははッ ! 」
ギニューはビーデルの身体で高笑いしながらビーデルの家へと歩いていき、カエルのビーデルは自分の身体にしがみつきながら涙を流した。
(うう……どうしてこんなことに……)
*
ビーデルは一切迷うことなくサタンの家へ到着する。ビーデルはサバイバル生活の中でサタンシティの道は全て把握している。そして有名人であるサタンとビーデルの名は何度も聞いていたので、ボディチェンジの算段はついていた。
ギニューは決して行き当たりばったりでビーデルにボディチェンジを仕掛けたのではない。このサタンシティで一番強いと言われるミスター・サタン、その次に強いと言われる娘のビーデル。サタンにチェンジを仕掛けるためにもまず娘と入れ替わり、その後にサタンとチェンジする。それがギニューの作戦だった。
さらにボディチェンジの新しい使用方法、自分で発声するのではなく相手に言わせて発動させる……これを身に付けられたのは全くの偶然だった。
ナメック星からドラゴンボールの力で地球へ瞬間移動してからギニューの放浪生活が始まった。
およそ十二年の放浪を続けたが強い肉体には出会えず、『チェンジ』と発声できないのでボディチェンジそのものが使えない。
そして先日、ギニューは『この身体の寿命が近い事に気が付いた』
生命の危機に陥ったことによる馬鹿力なのか、ボディチェンジのバリエーションを増やす事に成功したのである。
ビーデルに使ったのはぶっつけ本番だったが見事に成功させた。
さて、話しをもどすがビーデルの家では彼女が帰宅すると召使いや門下生が出迎えるのは先ほど述べた通りである。
「おかえりなさいませ、ビーデル様!」
本来のビーデルなら適当にあしらうのだが……。
「うむ、出迎えご苦労 ! 」
今のビーデルは下の者に労いの言葉を忘れずにかける。ギニュー特戦隊隊長として部下とのコミュニケーションを取ることは必須であるからだ。
「ビ、ビーデル様が我々にご挨拶を…… ! ? 」
召使いや門下生が感激のあまり騒いでいると奥からビーデルのパパであるサタンが歩いてくる。
「おかえりビーデル ! 今日の学校はどうだった ? まさかボ、ボーイフレンドなどできていないだろうな ? パパより強い男じゃないと認めんからな ! 」
(パパ ! こいつは私じゃないわ ! このギニューとかいうカエルに身体を入れ替えられたの ! 気付いて ! 助けてパパ ! )
カエルは必死にサタンへ助けを求める。父なら今の自分の違和感に気が付くだろうと……だが残念な事に今のカエルになったビーデルがいくら叫んだところで、今の彼女はゲロゲロうるさく喋る事しかできないのだ。
「ビーデル、なんだそのカエルは ? 」
「なぜか知らんがおれ……私にしがみついてくるカエルだ……よ。迷惑してるんだけどね」
(パパ ! パパ ! お願いだから気が付いて ! 私が本物のビーデルなの ! )
ビーデルの必死な訴えはサタンに届かない……今のビーデルは得体の知れない醜いカエルなのだから……。
「おい ! この汚いカエルを外へ放り出せ ! 」
「はい ! 」
(そんな ! パパ ! パパぁッ ! ? )
カエルビーデルは門下生の手によって屋敷の外へ文字通り摘まみだされ、地面を転がり這いつくばる。
昨日までは引ったくり犯を軽く倒し、サタンシティの有名人だったビーデル。そんな彼女は今や地球上で弱い部類に入るカエルになってしまった。
(……これからどうしたらいいの…… ? )
カエルビーデルの眼前には巨大化した世界、巨大生物が多数いる世界、その後の生活は熾烈を極めるに違いない。
その後サタンの屋敷から一匹のカエルが姿を消した……。
ビーデルは自分の部屋へ移動すると乱暴に椅子へと座り足を組む。
(なにが世界チャンピオンだ。あの男は弱い、弱すぎる。あの程度なら今の身体の方がまだマシだ)
ビーデルはサタンを一目見た瞬間激しく落胆した。ビーデルは放浪中に地球の生物をたくさん見てきた。
そして見た感想が、地球の生物は当初の見立て通り宇宙の中でも弱い生物ばかりだというものだった。
ビーデルはかつてギニュー特戦隊隊長の役職についており、相手の戦闘力を一目で見抜く特技を持っている。
地球で見た生物はそのほとんどが戦闘力が低くギニューのお眼鏡にかなう者はいない。例外として極一部の地球人やナメック星で見たサイヤ人くらいだけであった。
そんな時世間で騒がれているミスター・サタンの噂を聞いてみたらてんで大したことが無い男でありギニューの目論見は外れたのである。
椅子から立ち上がったビーデルは屋敷の中をぶらつきながら今後の予定を考える。
(しかしこれからどうするか ? 別の身体を得ようとしてもこの女は地球人の中でも間違いない強者。ならば様子を見てさらに強い身体を……)
そんな中たどり着いたのはサタンの道場だ。肝心のサタンが道場に顔を出す事はめったにない。理由は多忙というわけではなく、ただ単純に修行をさぼっているからである。
むしろたまにトレーニングをしに来るビーデルの方が門下生の指導を行う始末だったのだ。
「ビーデルさん、お久しぶりです。今日はトレーニングですか ? 」
「うむ、この身体の具合を試したくなったのでな」
「は ? は、はあ……」
門下生からの視線を感じながらビーデルのトレーニングが始まった。トレーニングといっても特別な事はしていないのだが門下生達は全員がビーデルに注目した。なにしろ教えてくれる先生がいないのだから仕方がないだろう。
途中でビーデルは拳に気を込める。ギニューはフリーザ軍の中でもフリーザに次ぐ実力者であり同時に他者の身体を使いこなす達人でもある。孫悟空の時は非常に使いずらかった為格下の孫悟飯とクリリンに後れをとった。だがビーデルのような地球人の身体ならば容易く扱える。現にナメック星でブルマの身体を使った際も舞空術を使う事もできたのだ。
「……せいッ ! ! 」
サンドバッグに対しパンチを当てると衝撃波が発生、サンドバッグは穴が開いて消し飛び壁も貫通した。
興味津々だった門下生一同も思わず固まり目も飛び出ていた。
「ちっ、こんなものか……」
ビーデルは想定よりも弱い威力しか出せずに思わず舌打ちする。十分すぎる威力なのだが本人からすればこの程度はフリーザ軍の一般兵にも及ばないのだ。
そんな中ビーデルのバッジに連絡が入る。相手は警察からで、また事件が起きたから手伝ってほしいというものだった。
『お願いしますビーデルさん、犯人が逃げてしまいます ! 』
「……ならん ! 貴様達だけで解決するのだ ! 」
本物のビーデルならばすぐに飛んで行っただろう。しかし今のビーデルはあえて突き放した。
『そんな ! お願いします ! 」
「バカ者 ! 自分たちの力で解決しようとせず、すぐ他人に頼る腐りはてた根性……俺は情けなくて涙が出る ! 」
『そ、それは……くっ ! 』
「悔しいか…… ? 悔しいのならば、貴様達だけで困難を克服して見せよ ! 」
連絡はそこで切れた。警察官に残された良心とプライドが彼ら自身を動かした。
この事件にビーデルは関与していない。しかし事件は無事解決された、それは間違いない。
*
翌日ビーデルは学校で運命的な出会いを果たす。
グラウンドでピッチャーをしているツンツン頭の男……ビーデルはその男からただならぬ気を感じた。
(あの男……どこかで…… ? )
ビーデルは気が付くとバットを持ちバッターボックスに立っていた。
突然現れたビーデルに周りの学生と男は呆然としていた。
「貴様、名は何というのだ ? 」
「え ! ? えと、僕は『孫悟飯』といいます」
「悟飯…… ? 貴様、俺とどこかで会った事は無いか ? 」
「えーと……初対面だと思いますけど……」
周りにいた学生のうち、男性は全く話しについていけず、女子は甲高い声を挙げている。端から見れば、これは気のある異性に対するファーストアプローチにしか見えないのだから。
今まで恋愛に対して興味が無さそうだったビーデルが突然、時期外れに入学してきた孫悟飯へアプローチをしかけた。女子はこの話題だけでご飯三杯は軽くいけるだろう。
「前置きはいい。全力で投げろ ! 後ろにいる奴はどいていろ、邪魔だ ! 」
ビーデルの気迫に押されキャッチャーどころか他の生徒もいなくなり、グラウンドは悟飯とビーデル、二人だけの世界に変わった。
一球目……悟飯は相手が女の子だからと軽めに投げた。それでも一般人にとっては豪速球……。
「し、しまった ! 」
悟飯は力加減を間違えた事に気が付き焦った……が、ビーデルは全力で振りかぶり命中 ! 綺麗なアーチを描きグラウンドの外へ放り出された ! ホームラン !
「え……ええ ! 」
悟飯は目を点にして驚いた。今の球は少なくとも女子が打ち返せるようなものではなかった。だが実際にビーデルは打ち返し悟飯に勝った。
「貴様 ! 俺をなめているのか ! 俺は本気で投げろと言ったはずだぞ ! 全力を見せてみろ ! 」
美少女ビーデルからの漢らしい喝を受けた悟飯は気持ちを正す。
空気が変わった……ビーデルは久しく感じなかった強者との対峙に思わず笑う。
「……すみませんでした、失礼ですがお名前を伺ってもいいですか ? 」
「俺の名はギ……ビーデルだ ! 」
「ビーデルさん、僕は本気で投げます。危ないと思ったら避けてください」
悟飯はビーデルを気遣うが、表情を見て杞憂だと感じ真剣にビーデルを見る。見て……投げた !
二球目……ビーデルはバットに命中したが強烈な衝撃に手を放してしまいボールは直進。フェンスに激突し大きくめり込んだ。
「……ふふ……ふはははは ! やるな孫悟飯 ! 次で決着をつけよう ! 」
「不思議だ……ビーデルさん、僕もどこかであなたと会ったような気がします」
とっくに始業時間は過ぎているのだが、グラウンドは熱狂に包まれていた。
男子は二度と見られないかもしれない熱戦に。
女子は二人をカップル成立と勘違いし大盛り上がり。
誰もグラウンドに入れず最後の三球目に入る。
三球目……悟飯が投げた手加減無しのボールはビーデルのバットへ容赦なくめり込む。ビーデルも負けじと押し返す。衝撃波が発生するほどの圧迫感がグラウンドを包み込む。
結果は……ビーデルのバットが折れ、ボールは角度を変えフェンスの網部分に直撃。誰が見てもビーデルの敗北だった。
「ビーデルさん ! 大丈夫ですか ! 」
倒れこんだビーデルを抱きかかえる悟飯、これを見て周りが爆発した。男子からは真剣勝負の熱気と学園一の美少女を抱いた事の妬み。女子は二人に熱い視線をぶつけキャアキャア言ってる。
「……俺の負けだ。中々やるな」
「いえ、正直ここまで強いなんて思ってもみませんでした」
「次こそ負けんぞ……俺はこの身体で貴様に勝つ」
最後の言葉は悟飯に届かなかった。だが悟飯はこの対戦で『ギニューとボディチェンジをする』という最悪の事態から逃れられたのだ。
ギニューの心に植え付けられた熱き心が、強い身体と入れ替わり勝つという邪道を抑え込んだのだ。
なお、今回の試合の副産物として大多数の生徒が遅刻して廊下に立たされるという前代未聞の出来事があった事を記しておこう。
*
さて、ボディチェンジする意欲が封じられたビーデルは悟飯に付きまとう事が多くなった。まだこの時点では悟飯に向ける視線はライバルに対するものだったが、自然と感情が変わってきた。
今までビーデル……ギニューは男にしかボディチェンジを仕掛けて来なかった。例外はナメック星でブルマとチェンジした時くらいだろう。
ビーデルは徐々に精神が女性側に引っ張られていき、ついには悟飯を異性として意識するようになってしまう。
完全に女性の精神に浸食されなかったのは、門下生や警察から自分たちを鍛えてほしいという声が挙がり、それに付き合ったからだろう。
元々隊員の面倒見がよかったビーデルは要望に応え扱きまくった。警察側も今のままでは……ビーデルに頼り切ってはいけないと感じたからか必死に食らいつく。
そしてビーデルが学校を卒業する頃にはもうビーデルに助けを求める事は無くなった。門下生も立派に成長し道場を巣立っていった。
そんな汗くさい環境にあった事もあり、ビーデルはうまく男と女の精神が同居しあっている状態であった。
同年代の女性がいなかった悟飯もビーデルに惹かれていき……。
「パパ、ママ、行ってきます ! 」
ついには結婚、一人娘のパンもできた。
「ああ、行ってらっしゃい」
「気を付けるんだぞ ! パン ! 寄り道せずにな ! 」
パンがパオズ山に建てられた家から元気に学校へ飛んでいく。
学者になった悟飯が見送り、ビーデルは親バカ丸出しの母親となった。
「……心配だ。ついていくべきか ? いや、バレたらパンに嫌われる……だが変な男に引っかかったら……」
「ビーデルさん、義父さんみたいに心配性だね、大丈夫だよ。学校に行くだけだから」
パンは両親から戦闘センスを受け継いだ為とても強く一般人で勝てる者はいない。
もっとも、母親の妙にセンスがダサイ所も受け継いでしまっていたが。ビーデルからギニュー特戦隊のスペシャルファイティングポーズを継承し、相手を強制的に躍らせるダンス技も編み出した。
(……この俺が地球人を愛してしまうとはな。しかも女の身体で娘まで産むとは……特戦隊のみんな、俺はまだ死ねない。パンが嫁に行くまでは……)
地球人の女として生きる決意をしたギニューは、最期の時までボディチェンジを使う事は無くビーデルとして生き抜くことを誓った。
(しかしパンの夫となる男は慎重に見極めなければ……少なくとも俺に勝てる男でなければ……)
パンはまだ子どもだから結婚はまだまだ先の話しなのだが……心配性なところはサタンと似ている。
パンのボーイフレンドはどんな男になるやら……。