以下我らがブルマ隊長の簡単な状況説明です。
・時間的にはデンデ達がカプセルコーポレーションから旅立った後。
・ブルマは既にギニューと身体を入れ替えられている。
・ギニューブルマは現在31歳であり入れ替わって2年経過している。
・ブリーフ博士が発明したカナリヤキャンディの効能で声がギニューの声からブルマの声に変わった為にボディチェンジは使用不可。
ついでに作中で出てくるブルマの戦闘力高くね ? と思われるかもしれませんが、以前ネットで戦闘力14と書かれたブルマのカードダスを見たことがあったからです。
以上を踏まえてお読みいただくようお願いします<(_ _)>
ナメック星からブルマ達が帰還しサイヤ人との戦いで殺された皆がドラゴンボールの力で蘇ってから早数か月。ヤムチャはおよそ2年ぶりにカプセルコーポレーションの廊下を不安そうな様子で歩いていた。
「はあ……怒るだろうなあブルマ、浮気してたなんて知れたら……」
見る者もうんざりさせるような溜息をつく彼だが、理由はヤムチャが浮気をしていたからである。ヤムチャはブルマと14年も前に最初のドラゴンボール探しで知り合った旧知の仲である。ヤムチャは女限定のあがり症の克服、ブルマは素敵な彼氏が欲しいという願いを叶えるべく旅をしていたのだが、その旅の最後で意気投合しカップル誕生の運びとなった。
ところがブルマは生まれながらの天才お嬢様、非常に我儘だったのである。最初こそそういう所も可愛いなと考えていたヤムチャではあったが次第にうんざりしてきてしまった。彼のあがり症が勝手に治った事もあるが、彼が生活費を稼ぐためにと始めたスポーツのバイトで女に困ることが無くなったからという理由もある。
一応浮気相手とはサイヤ人との決戦から一年前、修行に専念するために別れてきっぱり清算をしたのだが今日罪悪感からカミングアウトをしようと考えていた。ビンタの一発で済めばいいなと考えながらブルマの部屋まで頼りない足で移動していたのだが……。
「申し訳ございませんヤムチャ様。社長は今日も部屋にこもって何かを……」
「そうですか……ちなみに今日会える時間はあるんでしょうか ? 」
「私どもも何とも……これは社長の気分次第なので……」
ブルマの部屋があるフロアの入り口でヤムチャは案内係から待ったがかけられる。ブルマは現在プライベートルームに入ったまま姿を見せない。社長としての仕事はきっちりこなしているので誰も文句は言わないのだが。
(なんだかブルマもナメック星から帰ってきて変わったよなあ……)
2年前ナメック星から帰ってきたブルマはこれまでとは別人のようになったという。ヤムチャはドラゴンボールの力で生き返ってからその話を聞いたのだが、聞けば聞くほど首を傾げた。
・前までは我儘な女性だったが、最近はそんな様子を全く見せない。仕事熱心で部下の面倒見も良くカプセルコーポレーションへの入社希望者で溢れかえる程。
・カプセルコーポレーションで生活している宇宙人(ナメック星人)によく健康体操を教えていた。でも……なんかカッコ悪い。センスもかなりダサくなった……社長の前でこれは禁句であり、特にスペシャルファイティングポーズという独特のポーズに関して悪口を言うと激怒し、特戦隊メニューフルコースと呼ばれる強化合宿に強制参加させられる。
・声が男みたいになってアンバランスだった。本人は全く気にしていない様子だったが最近になって元の綺麗な声に戻った。ブリーフ会長は嬉しそうだったけど社長はこの世の終わりのような顔をしていた。
・急に凛々しくなった……というよりも見た目は美しい社長だけど中身が男になったみたい。でも男性職員は男気に惹かれ、女性職員はイケナイ道に入りかけた。
(だめだ、全然わからん)
唯一わかるのはブルマがまるで別人のように変わってしまったという事。ブルマがギニューに身体を入れ替えられてしまった事を知るのは本人同士だけ。天才美女であるブルマの中身はギニューであり、本物のブルマはナメックガエルの身体で行方不明。ヤムチャを含む界王星にいた者達はボディチェンジされた様子を見ていなかったし、何ならギニューの存在すら知らない。これでギニューの事をヤムチャが知っていたら何かが変わったかもしれないが、現実は非常である。
しかし地球にこれ以上の悪が訪れない事が確定されているこの世界線では、悪であるギニューの精神が弱いブルマの身体に閉じ込められているのは世界全体で言えば良い事なのかもしれない。
* * *
さて、では部屋の中に閉じこもっているブルマは何をしているのか ?
「……はああああッ ! ! 」
ブルマはかつて特戦隊隊長だった頃の特製スーツを部下に作らせ一人きりの時に身に着けていた。頑丈、伸縮自在、衣類環境に革命を起こす事間違いない特注スーツである。これを作成する指示を出したブルマもブルマだが作った部下も部下だ。カプセルコーポレーションは安泰だろう。
話を戻すが、ブルマは足腰に力を入れ踏ん張ると勢いよく身体を大の字に広げる。
「チェェェンジッ ! ! 」
ギニュー最大にして切り札の一つボディチェンジ……相手に自らの口から発射した黄色い光線を相手の口腔内に命中させ互いの身体を入れ替える事ができた技である。
しかしそれを使えたのは去年までの話、今や発動前の全身発光も、力んだ事によるプレッシャーも、なーんにも起こらない。今のギニューにボディチェンジは使えない。ここにいるのはギニュー特戦隊のコスプレをしてギニューの物真似をする31歳の美女だ。
「くそ……やはりダメなのか」
ブルマの日課となっているボディチェンジごっこ、未だ諦めきれていないのかいつも決まった時間に続けていたのだ。だが最近は心折れてきているのか気が乗らなくなってきた。
「地球人の身体がこんなに弱いとは……身体の衰えが早い……」
いつどの世界でも美容と健康は人間の永久課題。ブルマもチェンジされる前は大層お肌には気を遣っていた。しかしチェンジした後のギニューはそんな事そっちのけ、強い身体を探したり生活基盤を安定させるべく勉学に励んだり仕事に没頭していた。そのためお肌の具合は右下がり、以前カプセルコーポレーションの女性職員に心配されさり気なく化粧品等の情報を得た。
鏡台の前に座り顔に化粧品を染み込ませる。いつしか『俺の肌よ若くなれ、俺のシミよ、忌々しい皺よ消え去れ』と心の中で必死に唱えるようになっていた。ボディオイルを身体に塗り込み丹念に身体をケアしていく。ブルマとなる前はボディメンテナンスをするなど考えもしなかっただろう。だがボディチェンジが使えなくなり老いていくブルマの身体と運命を共にする事が確定した今自らの肌をかさついた荒地にしないようにするのは急務といえる。
もう一つ、ブルマの頭痛の種なのが婚約話。ブルマも31歳、そろそろ結婚を考えなければならない歳である。2年前ならば呑気に『いい男いないかしら』と口にしていたのだろうが、今のブルマはギニューなので婚約話には消極的。しかしながらブルマとして生きていく以上最早婚期を逃す事は避けられない。2年とはいえ大企業の女社長をしているからそこら辺の事情は理解せざるを得ない。この身体は鍛えても強くはなれない。試しに地球に残されていたスカウターを入手修理してみた所、今のブルマの戦闘力は高くて14である。これはギニューがブルマの身体を鍛えたから出せた数値であり、この戦闘力を維持する事はできないだろう。トレーニングだけすればいい身分ではなく、ブルマの身体はこれから先どれだけお手入れをしても老いからは逃げられないのだから。
「はあ……いい男か……そんな都合の良い男などいるものか」
ブルマの中にあるいい男の基準は何と言っても強い男だろう。これまで戦いの中に身を置いていたギニューの中では他の基準など存在しないしわからない。普通の女ならば収入イケメンなど出てくるのだろうが。そう考えているとジリリリリと仕事の時間を知らせるアラームが鳴る。ブルマは素早く婦人用のスーツに着替え部屋を出ていく。
* * *
部屋を出た先でブルマとヤムチャがばったりと出くわす。ヤムチャは思わず『や、やあブルマ』とぎこちない挨拶をするが、ブルマは軽く会釈をして立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれブルマ ! 」
ヤムチャは咄嗟にブルマの手を握る。実のところ今のブルマはヤムチャの事を全く知らない。2年前にヤムチャを生き返らせる時も『ヤムチャとは誰だ ? 』と頭の中に疑問符しか無く、悟飯にヤムチャを生き返らせると言われた時も『あ、ああそれでいいんじゃないか ? 』と適当に返答しており、今までヤムチャの存在そのものをすっかり忘れていた。今回もてっきり職員だと勘違いしたのだ。
「すまなかった ! 俺、お前がいながら浮気してたんだ ! 」
目の前に回り込むとブルマの前で素早く初手の土下座を決める。男が悪いことをしたのなら女に謝罪する時は古今東西土下座、それしかない。ブルマからの言葉を土下座したまま待つヤムチャだったが、目の前にしゃがみこんだブルマはこう言った。
「お前、俺と付き合っていたのか ? 」
トドメである。ヤムチャの中で決定的な何かが砕け散った。ブルマからはヤムチャと付き合っている認識などこれっぽっちも無かったのだと、本人の口から同じような意味の言葉が放たれた。
「そ、そうか……すまなかったなブルマ、そうか、俺達付き合ってなかったのか……ははは……」
背中が煤け口から人魂が抜けかかっている。ほっといたら翌日にはエンマ大王の前にいるかもしれない。
「む ? おい待て ! 」
ブルマからかけられた男らしい声に思わずヤムチャが立ち止まる。ブルマは弱くなったとはいえ強さを見抜く力まで無くなったわけではない。ナメック星で戦ったサイヤ人や地球人程ではないが、目の前にいるメンタル瀕死の男は中々の強さを持っているとすぐに見抜いた。
「貴様、俺と付き合っていたのだな ? 」
「あ、ああ……そうだよ」
ブルマは、ふむ……と少しだけ考えるとヤムチャと面と向かって言い放った。
「ならば俺と結婚しろ」
「ああ……え ? 」
「よし返事をしたな。ぼけっとするな、これから職員全員に発表するぞ」
「え ? 」
かつての天下一武道会で行われた孫悟空のあっさりとした結婚承諾に勝るとも劣らないブルマからのプロポーズ。ブルマはヤムチャを引っ張りずんずん歩いていく。事態を飲み込んだヤムチャの絶叫がカプセルコーポレーションに轟いたのは言うまでも無い。それに対し『うるさいぞ、耳元で大声を出すなバカ者 ! 』と られたのもまた言うまでも無し。
* * *
数日後
「いやあおめでとうございますヤムチャさん」
「ああ、ありがとうクリリン……」
カプセルコーポレーションの中庭ではブルマやヤムチャの知人を呼んでの結婚式となった。突然の結婚話に全員が驚き、同時に祝福をした。
「どうしたんですかヤムチャさん。嬉しくないんですか ? 」
「いや、そんな事はないさ。でもさ……あまりにも急すぎて何がなんだか……」
浮気謝罪からの→付き合ってない→結婚しろ。あまりにも呆気なさ過ぎた冗談のような一連の流れ、まさに即断即決のブルマ社長である。
「ま、まあまあ、あのブルマさんだから……」
「そ、そうだよな、あのブルマだもんな……」
ブルマの破天荒さを知っている二人には、よく考えてみたらこれくらい普通なのかもしれないと納得できる部分がある。それがブルマの恐ろしい所であり、ある意味自業自得という所なのだろう。無論今のブルマではなく2年前のだが。
「ほう……俺がなんだと ? 」
「「げっ ! ブルマ(さん) ! ! 」」
二人の背後から忍び寄る美女、その声の主の前で『げっ』と言ってしまったのは失点だろう。たとえ絶世の美女がウエディングドレスを着ていたとしても鬼の表情がそれを台無しにしている。
「これから忙しいんだ、さっさと来いヤムチャ。貴様には覚えて貰うことも山ほどあるし、しばらく休んでいる暇など無いぞ」
ヤムチャの脳裏にここ数日間の悪夢がよみがえる。スペシャルファイティングポーズの練習、会社に関しての座学、スペシャルファイティングポーズの練習、他企業への挨拶回り、スペシャルファイティングポーズの練習。いったいどうしてしまったんだブルマとこれまでの姿とまるで異なる仕事の鬼と化した妻の姿、ダサいポーズの練習を日に三回もやらされる(しかもこれが1回につき1番時間が長い)。
「というわけだクリリン。貴様も早く妻を娶れよ」
「は、はい……」
ヤムチャを引きずりながら立ち去るブルマを見て呆然とするクリリン。数年後ストリートファイトをしていた金髪美女と結婚する事になるのは別の話。
数分後に始まったブルマの結婚式。派手な演出、豪華な食事、さすがは大企業の社長の結婚式という内容であった。
「……それではこれからも私と夫のヤムチャをよろしく……いくぞ、ミュージックスタート ! 」
結婚式も問題なく進み、これでおしまいかと思ったときにそれは起こった。ブルマが指を鳴らすと突然のドレスから動きやすいスーツへの早着替え。彼女の奇行が始まった。頼むからそれはやめてくれと願っていたヤムチャも妻の姿に天を仰いだ。
それは喜びのダンス。かつてフリーザに見せようと練習していた超リズミカルなダンスである。指を鳴らしたり高速移動したと思いきや流れるようなポージング。しかもいつの間にか習得した舞空術で空まで飛びながらスペシャルファイティングポーズの連続披露。ブルマの知人以外はカプセルコーポレーションの新技術だと思っていたが、クリリン達は口をあんぐりと開けて驚いていた。
「ふはははは!どうだ、これが喜びのダンスだ!」
最後はビシッと両足を大きく広げ股下から顔を覗かせる決めポーズ。
シーンと静まり返った会場だが数秒後訪れる拍手喝采。まさかの大ウケである。
どこまで行ってもこの世界の住人は地球の危機以外は呑気なもの。ブルマの奇行も『まあブルマさんだしな』で済まされた。
(はは……俺も今度からあれやらされるんだろうなあ)
無事結婚したヤムチャ、少なくとも一生退屈しなさそうである。しかし数十年後、あの世で本物のブルマと出会いギニューブルマに挟まれ修羅場になるのだと、この次点のヤムチャには知る由もないのであった。
今回を持ちまして、ギニューのボディチェンジ話は終了となります。ネタ切れで上手く書けないというのもありますが、最後は私の好きなギニューブルマで締めくくらせていただきました。それでは失礼いたします。ここまでお読みいただきありがとうございました<(_ _)>