悪女わからせ~悪徳エルフ女王は勇者の☓☓☓で成敗される~ 作:千吹つぐ
「よくやった勇者よ。
エルフの国、エルスタッド。その王宮は
謁見の間には美男美女のエルフが並び、壁には四季折々の花が咲いている。床も卓も、すべてが生きた樹木で出来たその広間はエルスタッドでもっとも栄誉ある場所のひとつだった。
「か弱き人の身で、よくぞ魔王を倒してくれた。礼を言う」
その
美形揃いのエルフの中でも、女の美しさは群を抜いていた。透けるような肌、金の髪。ゆったりとした薄衣のドレスは清楚でありながらも、その奥のやわ肌を透かせている。
女の名はオフィーリア・マナ・ノルニス。エルスタッド王国を統べる女王であり、齢五百歳を数えるエルダーの一人だ。
「さあ、どんな願いでも言うがいい。……このオフィーリアがすべて、叶えてやろう」
謁見の間にざわめきが広がっていく。とくにエルフではない亜人種たちが「おお! あのけちくさいエルフが……」「信じられん」「見直したぜ!」などとオフィーリアの度量を褒め称えていた。
(ふん、無粋な亜人種どもめ……)
だが微笑の下で、オフィーリアは彼らを心の底から見下していた。そもそもからして、この歴史ある『花の間』に他種族を入れること事態が不快なのに、その上これほどの厚遇を与えるなど有史以来のことだろう。
だがそれも仕方がない、この男は、それだけの功績を成したのだから。
(勇者ジン、か……)
オフィーリアは部屋の中央でひざまずく男を見下ろした。
(まさか、こんな野蛮人が魔王を倒すとはな……)
まるで筋肉の塊のような男だった。体が大きく、腕も足も太い。腹筋も胸筋もむき出しの肉体を包むのは、ろくに毛も剥いでいない革の鎧だ。
(まあよい、これも奇貨じゃ。せいぜい利用するとしよう)
「さあ勇者よ! なんでも望みを言うがいい!」
広間はいよいよ盛り上がった。だがそのとき、
「お、お待ち下さい陛下!」
エルフの一人が前に出た。
「なにごとだ大臣、無礼であろう」
「無礼は承知! ですが陛下ともあろう方が、これはあまりに浅慮というもの。我々は契約を重んじる種族です。『なんでも望みを叶える』などと、彼の者がもしこの国を所望したらどうするのですか? そのようなことは軽々しく言うものではありません!」
またざわめきが大きくなる。ジンを勇者と
「だまりゃ! 副官ごときが! 控えおれ!」
しかし彼らが怒る寸前、オフィーリアは威厳あふれる態度で言い放ち、ゆっさりと、そこだけはエルフらしからぬ豊かな胸の下で腕を組んだ。
「妾は決して、軽々しく言ったつもりはない! 彼の者はそれだけの功績を成したのじゃ。であればエルフ族も応えねばならぬ! 国ひとつ? 上等ではないか! 彼の者がのぞむのならば、くれてやるのが礼儀というもの!」
おお! と亜人種たちが喝采を上げる。
「うおおおお! いいぞー!」
「お、俺エルフのこと誤解してたみたいだ」
「いよ! 太っ腹! 女王オフィーリア万歳! 勇者ジン万歳!」
(くっくっく、本当に愚かな生き物だな……)
オフィーリアの軽蔑は頂点に達していた。この程度の小芝居で、彼らはエルフ族に対する長年の不信をすっかり捨て去ってしまったようだ。
「さあ勇者よ! 望みを言うがいい!」
あとは仕上げだ。オフィーリアはこの猿芝居を終わらせにかかった。
「では、嫁をいただこう」
勇者ジンが立ち上がり、言った。
(くっくっく、だろうともなぁ)
予想通りの答えに、オフィーリアはほくそ笑む。
「ふふ、もう、勇者ったら……」
そのときジンの背後から一人のエルフ――サーシャ・マナ・ノルニスが歩み出た。
彼女は勇者パーティの一員であり、またその姓名が表す通り、オフィーリアの末の娘でもある。
(よくやったサーシャ。愚鈍な娘とばかり思っていたが、ようやっと役に立ったな)
そう、オフィーリアは最初から、ジンの望みを知っていたのだ。
いわば、これは出来レースなのだ。オフィーリアは度量を見せつつ自身の悪評を払拭し、それでいて世界最高の名声と戦力を手中に収める。
唯一、高貴なエルフ族が人間なんぞと結ばれる事は腹が立つが……なに、それも一時のこと。
(くっくっく、愚かな人間め。世界の半分を手にする機会を失って、愚鈍な娘をえらぶとはな。このような下等生物、手に入れてからいくらでも料理できよう……なにせ、あの魔王はもはやいないのだから……)
にこやかな、これだけは本心と一致した笑みを浮かべて、オフィーリアは言った。
「では勇者よ、その幸福な者の名を告げるがいい!」
エルフが、人間が、その他もろもろの亜人種が息を呑み、たったひとりの男の言葉を待った。
「ふふふ、さあジン、言ってください」
(くっくっく、さあ言え人間)
ただふたり、彼の者の腕を抱くサーシャと、壇上のオフィーリア親子だけが、勝利を確信して笑っていた。
しかし、
「オフィーリア。お前だ」
その笑顔が、凍る。
「俺は、お前が欲しい」
勇者ジン、そのゴツゴツした指がまっすぐに、エルフの女王を