悪女わからせ~悪徳エルフ女王は勇者の☓☓☓で成敗される~ 作:千吹つぐ
(な、なんじゃこれは……)
娘の感覚を味わいながら、オフィーリアは呆然としていた。
(し、しらぬ……こんな快楽……ああ……こ、腰が)
共感魔法は、せいぜい対象の十分の一しか感覚を伝えない。だというのに、それはオフィーリアがいままで味わった最高のものだった。
(このような快楽がこの世にあったとは……は! い、いかん、ほうけておる場合ではない! 急がなければ!)
「……グ、グラム・イル・ノルス・クルーエル」
オフィーリアは呪文詠唱を開始した。途端に闇の魔力がほとばしる。
「アーガマ・イルス・オフェントス・オロバス……」
魔力がユグドラシルを経由して、娘の身体に流れ込む。
「あ……ああ……あ!」
気をやっていたサーシャが、突然むくりと顔をあげた。
『――くっくっく、隙だらけだなぁ勇者どの』
母親と娘、その両方が、まったく同じセリフを言った。
「サーシャ? いや、オフィーリアか……」
『おっと、乱暴はやめてたもれ。この体は正真正銘、娘のものだからのぅ。そら』
オフィーリアはほんの少しだけ魔力を緩めてやる。
「え? な、なにが……これは、お母様?」
『そうともサーシャ。わが愛しき馬鹿娘よ』
「こ、これは禁呪? お母様! どうしてこのような呪文を私に!」
『なに、愚かなそなたに、最期に一働きしてもらおうと思っての』
がしぃ! っと、サーシャが全身全霊で、ジンの体にしがみついた。
『ジオ・グラマトラ・トリス……』サーシャの唇が呪文を唱え始める。
「か、体が! こ、この呪文はまさか!」
『ほう、分かるか。旅に出て少しは魔法の才が目覚めたようじゃな。そのとおり、これは術者の命を犠牲にして放つ、自爆魔法じゃ』
サーシャの恐怖が伝わってくる。オフィーリアは溜飲を下げる。
『くっくっく、もちろん、この場合の術者とは妾ではない。サーシャ、お主じゃ』
「お、お母様? 嘘ですよね? こんなものを唱えては、私は死んでしまいます。む、娘に、そんなことさせませんよね? だってサーシャはお母様の誇りだって、
『…………愛娘、じゃと?』
怒りが弾ける、ずっと抱えていた鬱憤を開放する。
『だまりゃ! この淫売め! 人間ごとき豚に惚れた汚れたエルフなど! 妾の娘でもなんでもないわ! この雌豚が!』
サーシャの心が凍りつく。
「お、お母様……」
『おお、やめてたもれ、豚に母と呼ばれるなど、寒気がするわ。のうサーシャ、妾がいつ人間に惚れろと命令した? 心の底から下等生物に傅けと? まっこと汚らわしい恥知らずじゃな。……だが、そんな淫売で最低のエルフに、妾は最期の奉公をさせてやろう。……ガラクーラ・ノソス・シオン……』
「~~っ! ジン! 逃げて!」
言葉とは裏腹に、サーシャの手足がガッシリと絡みつく。暴走した魔力が熱を帯び、体全体が光りだす。
「お願い! 私を殺して! 逃げて!」
『……なんと、最後の奉公すら拒むとは。……やはりお主は、愚娘じゃったな』
「いいや、愚かなのはお前だ、オフィーリア」
そのとき、黙っていたジンが言った。
「まったく、なにをするのかと思ったら、こんな馬鹿げた企みだったとはな」
『おや、気づいていたとでも? くっくっく、安い負け惜しみじゃな』
「そういうお前は、ずいぶんと喋るな。安い悪役だ」
『慈悲深い、と言ってたもれ。なにせ夫婦の別れだ。言いたいこともあるじゃろう?』
「お願い……ひっく……逃げて……逃げてぇ……」
サーシャの恐怖が心地よい、溜まっていた苛立ちが癒やされていく。
『ほれほれ、豚の花嫁に、なにか言葉を掛けてやったらどうだ?』
「……安心しろ、サーシャ」
ぶふぅ! オフィーリアは吹き出しそうになった。
「お前は俺が、守ってやる」
「む、無理よ! いくらあなたが勇者でも、この禁呪は防げないわ!」
『くはは! よく分かっているではないか! エルフ一人分の魔力で練られた即死魔法。それも交合を通した零距離射撃じゃ! 発動したらたとえ、妾でも防げんぞ?』
「発動すればな」
(……こやつ、何を言っている)ジンの堂々とした態度に、オフィーリアは一瞬、部屋の中に視線を戻した。
魔女の工房、オフィーリアの側近すら知らない部屋には当然だれもいない。
『……くっくっく、なんだ? 対抗呪文でも編み出したか? だがお生憎様、そんなものを唱える時間はないぞ? 呪文はあと一小節で完成じゃ』
「そんなものは必要ない」
『最期まで負け惜しみとはな。よかろう、勇者の遺言は、妾が適当に考えてやろう』
オフィーリアはほんの少しだけ不満だった。本当はこの男が恐怖し、命乞いをする姿を見たかったのだが……まあ、仕方がない。
『死ね、勇者よ。アル・グラン……』
最期の呪文を唱えていく。そのとき、
「……こぉぉぉぉぉぉう……」
ジンが言った。だがオフィーリアは気にもしなかった。なぜならその言葉は呪文でもなんでも無い、ただ息を吐いたものだったからだ。
しかし次の瞬間、息吹は恐るべき力を産んだ。
「……応えよ『ユグドラシル』!」
(??? なんだ? なぜここで聖樹の名が出る?)
オフィーリアが訝しんだ、次の瞬間、
「――むぐぅ!」
突然、床から木の枝が何本も伸び上がり、オフィーリアの身体を束縛した。
(な、なんじゃこれは、こんな呪文、妾は知らんぞ!)
床がぐにゃりと陥没し、つる草が引きずり込まれていく。
(い! 息が! くるし……ああ……あああ!)
まるで穴に落ちたゴミのように、オフィーリアは樹木の気管を流れていった。
露台、その気孔のひとつから、オフィーリアは『ぺっ』と吐き出された。
「ぷはぁ! ぜぇ……ぜぇ……」
ゴロゴロと床を転がる、その体は青あざだらけで、皮膚は酸欠で真っ白だった。
「な、なんじゃ? なにが起きたのじゃ……いったいこの魔法は……」
「魔法ではない」
「ひぃ!」
五歩ほど離れた場所で、ジンが床にかがみ込み、解呪魔法を使っていた。そこにはサーシャが、泣きつかれた子供のように眠っていた。
「き、貴様! なにをした! 聖樹をどうやって操った!」
「操ってなどいない、ただ、頼んだだけだ。……ふぅぅぅぅむぅぅ……」
ジンが息を吐いた。
「た、頼む?」
「ああ、ユグドラシルにな」
ジンが視線を上げて居住まいを正し、その右手から純粋な魔力を立ち上らせた。
コオオオオオオオ…………。
途端に、ユグドラシルが呼応して、枝葉を鳴らして魔力を吸った。返礼として、さらに倍する陽の魔力が返される。
「俺はユグドラシルに頼み、お前をここに喚んだのだ」
「ば、馬鹿な。聖樹がなぜ、人間なんぞに味方する」
「聖樹、か……」
視線が落ちる。
「聖なる樹と持ち上げてはいるが、お前たちは彼のものになにをした? 実を盗み、幹をくり抜き、魔力を吸い上げて契約で縛る。……『森の民』と言えば聞こえはいいが、やっていることは寄生虫だな。……お前には聞こえなかったか? 彼女の嘆きが。どれほど虐げられても、太古の友情を忘れない、その愛情が分からなかったか?」
「な、なにを言っている。樹木ごときが、なんだというのじゃ……」
「……もういい、お前はもう、喋るな」
「ひ! な、なにをする気じゃ! ……んん!」
ジンが髪の毛を高々と持ち上げて、上向いた唇に吸い付いた。
「んんんん~~~~!」
びりびりと、ドレスがひん剥かれる。野太い指が、あらわになった股間に潜る。
「ぴちゅ……ほう、ずいぶんと具合がいいな。娘の情事を覗き見して、股を濡らしていたというわけか」
「な! そ、そんなわけが、~~~~~!」
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ! ジンが女陰を掻き回す。まるでトラが爪でひっかくような愛撫は、しかし濡れきった女陰には丁度よかった。
「見ろ。昨日とは大違いじゃないか」
ぬっとりと、愛液で濡れた右手が見せつけられる。目の前で、己の匂いがむんわりと立ち上る。
「少しは女を思い出したか? オフィーリア」
「は! ああ! くぅ!」
ジンが、巨乳をキリキリと揉み上げる。昨日はただ痛いだけだった刺激が、しかし今は違っていた。
(あ、ああ! あの快楽が、直に伝わってくるぅ!)
娘の身体で味わった快楽が、オフィーリアの身体に新たな回路を作っていた。目覚めたばかりの快楽神経に、ふたたび熱が入っていく。
「れろ……ちゅう……」
「ひぃ! や、やめい! やめろというに!」
下等生物に触れられる不快感にゾッとする。同時に女の快楽が股を濡らしていく。
「ふむ、そろそろイキそうじゃないか」
「い、いく?」
「ん? そうか、お前、絶頂を知らなかったのか。なるほど、道理で」
「あ、ああ! やめ! やめよ! 妾の股を勝手にいじるな!」
くちゅくちゅくちゅ! 人の指が繊細に動き、中と外を同時に刺激する。
(まずい! あの時のあれがくる! あんなもの直に味わったら、妾は! 妾は!)
たったの一割であれだ、今度はどうなるか分からない。
(このままではまずいぞ! だ、だれか! 止めてくれ! だれか!)
「おかあ、さま……?」
そのとき、声がかかった。
「おお! サーシャ!」
オフィーリアは顔を輝かせた。
いままで気絶していたサーシャが目を覚まして、ジンのマントを羽織って立ち尽くしていた。
「む、娘よ! た、たすけてたもれ!」
「おかあさま……」
「そうじゃ! そなたの母が! ひどい目にあっているのじゃ!」
オフィーリアはあえて哀れっぽい声を上げた。
「そなたからこの男に言っておくれ! 誤解……そう! これは誤解なんじゃ!」
「ごかい?」
「そうとも! さ、ここではなんじゃ、場所をあらためて――」
話をそらそうとする、だがサーシャは無視して、
「お母様は、どうしてサーシャを殺そうとしたの?」
「そ、それも誤解じゃ! 聞いてくれ! 話せば長くなるのじゃが――」
オフィーリアの表情が固まる。なんとか言い訳を考える。
「お母様は、どうしてジン様を殺そうとしたの?」
だが、サーシャは答えなど必要としていなかった。
「そ、それはだな、深いわけが――」
「お母様は、最初からサーシャを捨てるつもりだったの? お母様は、サーシャを愛していなかったの? お母様は、お母様は、お母様は……」
「サ、サーシャ?」
オフィーリアは、ようやく異常に気づく。
サーシャは質問しながら、しかし答えなど一切もとめていなかった。ただ瞳を真っ黒に染めて、過酷な事実を確かめていた。
「お母様は、どうして私のジン様に、キスをしてもらっているの?」
虚ろな笑みに、一筋の涙がこぼれて落ちた。
「サ、サーシャ、落ち着いて――」
「………………………………せない」
「え?」
「ゆるせない……ゆるせない、ゆるせない、ゆるせないゆるせないゆるせない!!!!!!!!!!!!」
サーシャの顔に、どすぐろい感情が踊っている。恨み、哀しみ、そして女の嫉妬が、殺意となって噴き出した。
「お母様ぁ!」
サーシャが、傍らにあったジンの大剣に手をかけた。少女には持つことすらきつい鉄板を振り上げて、ためらうことなく振り下ろした。
ぱきぃぃぃん!
光のヴェールが発動し、剣戟を完璧に受け止めた。
「お母様! お母様! お母様! お母様ぁ」
だがそんなことは、狂える少女には関係なかった。何度弾かれても、失敗しても、最初の激情そのままに、刃をデタラメに振り回した。
ばきぃぃぃん! ばきぃぃぃん! ばぎぃぃぃん!
「ひぃ! ひぃぃぃ!」
絶対の防御に守られながら、しかしオフィーリアは恐怖していた。まるで鉄の檻に閉じ込められて、サメにガシガシと噛じられている気分。安全だと分かっていたとしても、荒れ狂う凶刃に薄皮を撫でられるのは恐怖でしかなかった。
「やめろ、サーシャ」
そのとき、ジンが大剣を取り上げた。
「いや! はなして! はなしてジン! どうしてこんな女をかばうの!」
「かばっているのはお前だ」
大剣が遠くに放り投げられる。
「殺すな、サーシャ」
「どうして!」
「殺せばお前は、後悔する」
「後悔なんて、そんな――」
ジンが、サーシャを抱きしめた。
「離して! この女はよりによって! 私にあなたを殺させようとしたのよ!」
「だとしてもだ」
膨大な狂気を、男が真正面から受け止める。
「サーシャ、お前は優しい」
「そ、そんな、そんなこと――」
「お前は激しやすく、苛烈だが、その心はあくまで優しい。優しすぎるほどにな。……そんなお前が一時の激情に身を任せて母親を殺したら、必ず後悔するだろう。……あとは俺に、まかせておけ」
ジンが言葉通りにする。サーシャを抱きしめて、口づけする。
「ん……んん……ジン」
「ジンではないだろう? 我が妻よ。いったはずだ、妻は夫にしたがうものだと」
「っ! ……ですが、ですが! この女は!!!」
「ひぃ!」
ぎろり、サーシャが、オフィーリアをヌメつける。そこに宿った嫉妬の炎は、いささかも減じていなかった。
「だめ……ジン様……あなたは私を優しいと言ってくれるけれど。……でもだめ、私はこの女を許すことなんて出来ません……」
「誰が許せといった?」
「え?」
「勘違いするな、俺が止めたのは殺意だけだ。お前『たち』には復讐の権利がある。……ユグドラシルよ」
「ひ! な、なんじゃ! なにをする!」
梢からつる草が伸びてきて、この隙に逃げようとしていたオフィーリアを捕まえた。
「あううう!」
両手が拘束されて、吊り上げられる。
「そら、これを使うといい」
ジンが、つる草の一つをもぎ取って、サーシャに渡した。
「っ!」
「扱い方は、分かるか?」
「……ええ」
サーシャは笑った。熱の入った、じめっとした喜びが、ぺろりと舌を閃かせた。
「……私、鞭にはくわしいの。……だってもう、何度も何度も『使われて』きたもの。ふふ、ふふふ……」
「ひぃ!」
ぱしぃぃん! 鞭が床を打ち据えた。
その手付きは洗練されていて、とても素人とは思えなかった。
「さぁ、お母様。お仕置きの時間ですよ」
娘の顔に、母とそっくりな笑みが浮かんでいた。