※この作品はR-18です。

悪女わからせ~悪徳エルフ女王は勇者の☓☓☓で成敗される~   作:千吹つぐ

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即死の呪文

 

(な、なんじゃこれは……)

 

 娘の感覚を味わいながら、オフィーリアは呆然としていた。

 

(し、しらぬ……こんな快楽……ああ……こ、腰が)

 

 共感魔法は、せいぜい対象の十分の一しか感覚を伝えない。だというのに、それはオフィーリアがいままで味わった最高のものだった。

 

(このような快楽がこの世にあったとは……は! い、いかん、ほうけておる場合ではない! 急がなければ!)

 

「……グ、グラム・イル・ノルス・クルーエル」

 

 オフィーリアは呪文詠唱を開始した。途端に闇の魔力がほとばしる。

 

「アーガマ・イルス・オフェントス・オロバス……」

 

 魔力がユグドラシルを経由して、娘の身体に流れ込む。

 

「あ……ああ……あ!」

 

 気をやっていたサーシャが、突然むくりと顔をあげた。

 

 

『――くっくっく、隙だらけだなぁ勇者どの』

 

 

 母親と娘、その両方が、まったく同じセリフを言った。

 

「サーシャ? いや、オフィーリアか……」

 

『おっと、乱暴はやめてたもれ。この体は正真正銘、娘のものだからのぅ。そら』

 

 オフィーリアはほんの少しだけ魔力を緩めてやる。

 

「え? な、なにが……これは、お母様?」

 

『そうともサーシャ。わが愛しき馬鹿娘よ』

 

「こ、これは禁呪? お母様! どうしてこのような呪文を私に!」

 

『なに、愚かなそなたに、最期に一働きしてもらおうと思っての』

 

 がしぃ! っと、サーシャが全身全霊で、ジンの体にしがみついた。

 

『ジオ・グラマトラ・トリス……』サーシャの唇が呪文を唱え始める。

 

「か、体が! こ、この呪文はまさか!」

 

『ほう、分かるか。旅に出て少しは魔法の才が目覚めたようじゃな。そのとおり、これは術者の命を犠牲にして放つ、自爆魔法じゃ』

 

 サーシャの恐怖が伝わってくる。オフィーリアは溜飲を下げる。

 

『くっくっく、もちろん、この場合の術者とは妾ではない。サーシャ、お主じゃ』

 

「お、お母様? 嘘ですよね? こんなものを唱えては、私は死んでしまいます。む、娘に、そんなことさせませんよね? だってサーシャはお母様の誇りだって、愛娘(まなむすめ)だって、そう言ってくれたじゃないですか!」

 

『…………愛娘、じゃと?』

 

 怒りが弾ける、ずっと抱えていた鬱憤を開放する。

 

『だまりゃ! この淫売め! 人間ごとき豚に惚れた汚れたエルフなど! 妾の娘でもなんでもないわ! この雌豚が!』

 

 サーシャの心が凍りつく。

 

「お、お母様……」

 

『おお、やめてたもれ、豚に母と呼ばれるなど、寒気がするわ。のうサーシャ、妾がいつ人間に惚れろと命令した? 心の底から下等生物に傅けと? まっこと汚らわしい恥知らずじゃな。……だが、そんな淫売で最低のエルフに、妾は最期の奉公をさせてやろう。……ガラクーラ・ノソス・シオン……』

 

「~~っ! ジン! 逃げて!」

 

 言葉とは裏腹に、サーシャの手足がガッシリと絡みつく。暴走した魔力が熱を帯び、体全体が光りだす。

 

「お願い! 私を殺して! 逃げて!」

 

『……なんと、最後の奉公すら拒むとは。……やはりお主は、愚娘じゃったな』

 

「いいや、愚かなのはお前だ、オフィーリア」

 

 そのとき、黙っていたジンが言った。

 

「まったく、なにをするのかと思ったら、こんな馬鹿げた企みだったとはな」

 

『おや、気づいていたとでも? くっくっく、安い負け惜しみじゃな』

 

「そういうお前は、ずいぶんと喋るな。安い悪役だ」

 

『慈悲深い、と言ってたもれ。なにせ夫婦の別れだ。言いたいこともあるじゃろう?』

 

「お願い……ひっく……逃げて……逃げてぇ……」

 

 サーシャの恐怖が心地よい、溜まっていた苛立ちが癒やされていく。

 

『ほれほれ、豚の花嫁に、なにか言葉を掛けてやったらどうだ?』

 

「……安心しろ、サーシャ」

 

 ぶふぅ! オフィーリアは吹き出しそうになった。

 

「お前は俺が、守ってやる」

 

「む、無理よ! いくらあなたが勇者でも、この禁呪は防げないわ!」

 

『くはは! よく分かっているではないか! エルフ一人分の魔力で練られた即死魔法。それも交合を通した零距離射撃じゃ! 発動したらたとえ、妾でも防げんぞ?』

 

「発動すればな」

 

(……こやつ、何を言っている)ジンの堂々とした態度に、オフィーリアは一瞬、部屋の中に視線を戻した。

 

 魔女の工房、オフィーリアの側近すら知らない部屋には当然だれもいない。

 

『……くっくっく、なんだ? 対抗呪文でも編み出したか? だがお生憎様、そんなものを唱える時間はないぞ? 呪文はあと一小節で完成じゃ』

 

「そんなものは必要ない」

 

『最期まで負け惜しみとはな。よかろう、勇者の遺言は、妾が適当に考えてやろう』

 

 オフィーリアはほんの少しだけ不満だった。本当はこの男が恐怖し、命乞いをする姿を見たかったのだが……まあ、仕方がない。

 

『死ね、勇者よ。アル・グラン……』

 

 最期の呪文を唱えていく。そのとき、

 

「……こぉぉぉぉぉぉう……」

 

 ジンが言った。だがオフィーリアは気にもしなかった。なぜならその言葉は呪文でもなんでも無い、ただ息を吐いたものだったからだ。

 

 しかし次の瞬間、息吹は恐るべき力を産んだ。

 

 

「……応えよ『ユグドラシル』!」

 

 

(??? なんだ? なぜここで聖樹の名が出る?)

 

 オフィーリアが訝しんだ、次の瞬間、

 

「――むぐぅ!」

 

 突然、床から木の枝が何本も伸び上がり、オフィーリアの身体を束縛した。

 

(な、なんじゃこれは、こんな呪文、妾は知らんぞ!)

 

 床がぐにゃりと陥没し、つる草が引きずり込まれていく。

 

(い! 息が! くるし……ああ……あああ!)

 

 まるで穴に落ちたゴミのように、オフィーリアは樹木の気管を流れていった。

 

 

 

 露台、その気孔のひとつから、オフィーリアは『ぺっ』と吐き出された。

 

「ぷはぁ! ぜぇ……ぜぇ……」

 

 ゴロゴロと床を転がる、その体は青あざだらけで、皮膚は酸欠で真っ白だった。

 

「な、なんじゃ? なにが起きたのじゃ……いったいこの魔法は……」

 

「魔法ではない」

 

「ひぃ!」

 

 五歩ほど離れた場所で、ジンが床にかがみ込み、解呪魔法を使っていた。そこにはサーシャが、泣きつかれた子供のように眠っていた。

 

「き、貴様! なにをした! 聖樹をどうやって操った!」

 

「操ってなどいない、ただ、頼んだだけだ。……ふぅぅぅぅむぅぅ……」

 

 ジンが息を吐いた。

 

「た、頼む?」

 

「ああ、ユグドラシルにな」

 

 ジンが視線を上げて居住まいを正し、その右手から純粋な魔力を立ち上らせた。

 

 コオオオオオオオ…………。

 

 途端に、ユグドラシルが呼応して、枝葉を鳴らして魔力を吸った。返礼として、さらに倍する陽の魔力が返される。

 

「俺はユグドラシルに頼み、お前をここに喚んだのだ」

 

「ば、馬鹿な。聖樹がなぜ、人間なんぞに味方する」

 

「聖樹、か……」

 

 視線が落ちる。

 

「聖なる樹と持ち上げてはいるが、お前たちは彼のものになにをした? 実を盗み、幹をくり抜き、魔力を吸い上げて契約で縛る。……『森の民』と言えば聞こえはいいが、やっていることは寄生虫だな。……お前には聞こえなかったか? 彼女の嘆きが。どれほど虐げられても、太古の友情を忘れない、その愛情が分からなかったか?」

 

「な、なにを言っている。樹木ごときが、なんだというのじゃ……」

 

「……もういい、お前はもう、喋るな」

 

「ひ! な、なにをする気じゃ! ……んん!」

 

 ジンが髪の毛を高々と持ち上げて、上向いた唇に吸い付いた。

 

「んんんん~~~~!」

 

 びりびりと、ドレスがひん剥かれる。野太い指が、あらわになった股間に潜る。

 

「ぴちゅ……ほう、ずいぶんと具合がいいな。娘の情事を覗き見して、股を濡らしていたというわけか」

 

「な! そ、そんなわけが、~~~~~!」

 

 ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ! ジンが女陰を掻き回す。まるでトラが爪でひっかくような愛撫は、しかし濡れきった女陰には丁度よかった。

 

「見ろ。昨日とは大違いじゃないか」

 

 ぬっとりと、愛液で濡れた右手が見せつけられる。目の前で、己の匂いがむんわりと立ち上る。

 

「少しは女を思い出したか? オフィーリア」

 

「は! ああ! くぅ!」

 

 ジンが、巨乳をキリキリと揉み上げる。昨日はただ痛いだけだった刺激が、しかし今は違っていた。

 

(あ、ああ! あの快楽が、直に伝わってくるぅ!)

 

 娘の身体で味わった快楽が、オフィーリアの身体に新たな回路を作っていた。目覚めたばかりの快楽神経に、ふたたび熱が入っていく。

 

「れろ……ちゅう……」

 

「ひぃ! や、やめい! やめろというに!」

 

 下等生物に触れられる不快感にゾッとする。同時に女の快楽が股を濡らしていく。

 

「ふむ、そろそろイキそうじゃないか」

 

「い、いく?」

 

「ん? そうか、お前、絶頂を知らなかったのか。なるほど、道理で」

 

「あ、ああ! やめ! やめよ! 妾の股を勝手にいじるな!」

 

 くちゅくちゅくちゅ! 人の指が繊細に動き、中と外を同時に刺激する。

 

(まずい! あの時のあれがくる! あんなもの直に味わったら、妾は! 妾は!)

 

 たったの一割であれだ、今度はどうなるか分からない。

 

(このままではまずいぞ! だ、だれか! 止めてくれ! だれか!)

 

 

「おかあ、さま……?」

 

 

 そのとき、声がかかった。

 

「おお! サーシャ!」

 

 オフィーリアは顔を輝かせた。

 

 いままで気絶していたサーシャが目を覚まして、ジンのマントを羽織って立ち尽くしていた。

 

「む、娘よ! た、たすけてたもれ!」

 

「おかあさま……」

 

「そうじゃ! そなたの母が! ひどい目にあっているのじゃ!」

 

 オフィーリアはあえて哀れっぽい声を上げた。

 

「そなたからこの男に言っておくれ! 誤解……そう! これは誤解なんじゃ!」

 

「ごかい?」

 

「そうとも! さ、ここではなんじゃ、場所をあらためて――」

 

 話をそらそうとする、だがサーシャは無視して、

 

 

「お母様は、どうしてサーシャを殺そうとしたの?」

 

 

「そ、それも誤解じゃ! 聞いてくれ! 話せば長くなるのじゃが――」

 

 オフィーリアの表情が固まる。なんとか言い訳を考える。

 

「お母様は、どうしてジン様を殺そうとしたの?」

 

 だが、サーシャは答えなど必要としていなかった。

 

「そ、それはだな、深いわけが――」

 

「お母様は、最初からサーシャを捨てるつもりだったの? お母様は、サーシャを愛していなかったの? お母様は、お母様は、お母様は……」

 

「サ、サーシャ?」

 

 オフィーリアは、ようやく異常に気づく。

 

 サーシャは質問しながら、しかし答えなど一切もとめていなかった。ただ瞳を真っ黒に染めて、過酷な事実を確かめていた。

 

 

「お母様は、どうして私のジン様に、キスをしてもらっているの?」

 

 

 虚ろな笑みに、一筋の涙がこぼれて落ちた。

 

「サ、サーシャ、落ち着いて――」

 

「………………………………せない」

 

「え?」

 

「ゆるせない……ゆるせない、ゆるせない、ゆるせないゆるせないゆるせない!!!!!!!!!!!!」

 

 サーシャの顔に、どすぐろい感情が踊っている。恨み、哀しみ、そして女の嫉妬が、殺意となって噴き出した。

 

「お母様ぁ!」

 

 サーシャが、傍らにあったジンの大剣に手をかけた。少女には持つことすらきつい鉄板を振り上げて、ためらうことなく振り下ろした。

 

 ぱきぃぃぃん!

 

 光のヴェールが発動し、剣戟を完璧に受け止めた。

 

「お母様! お母様! お母様! お母様ぁ」

 

 だがそんなことは、狂える少女には関係なかった。何度弾かれても、失敗しても、最初の激情そのままに、刃をデタラメに振り回した。

 

 ばきぃぃぃん! ばきぃぃぃん! ばぎぃぃぃん!

 

「ひぃ! ひぃぃぃ!」

 

 絶対の防御に守られながら、しかしオフィーリアは恐怖していた。まるで鉄の檻に閉じ込められて、サメにガシガシと噛じられている気分。安全だと分かっていたとしても、荒れ狂う凶刃に薄皮を撫でられるのは恐怖でしかなかった。

 

「やめろ、サーシャ」

 

 そのとき、ジンが大剣を取り上げた。

 

「いや! はなして! はなしてジン! どうしてこんな女をかばうの!」

 

「かばっているのはお前だ」

 

 大剣が遠くに放り投げられる。

 

「殺すな、サーシャ」

 

「どうして!」

 

「殺せばお前は、後悔する」

 

「後悔なんて、そんな――」

 

 ジンが、サーシャを抱きしめた。

 

「離して! この女はよりによって! 私にあなたを殺させようとしたのよ!」

 

「だとしてもだ」

 

 膨大な狂気を、男が真正面から受け止める。

 

「サーシャ、お前は優しい」

 

「そ、そんな、そんなこと――」

 

「お前は激しやすく、苛烈だが、その心はあくまで優しい。優しすぎるほどにな。……そんなお前が一時の激情に身を任せて母親を殺したら、必ず後悔するだろう。……あとは俺に、まかせておけ」

 

 ジンが言葉通りにする。サーシャを抱きしめて、口づけする。

 

「ん……んん……ジン」

 

「ジンではないだろう? 我が妻よ。いったはずだ、妻は夫にしたがうものだと」

 

「っ! ……ですが、ですが! この女は!!!」

 

「ひぃ!」

 

 ぎろり、サーシャが、オフィーリアをヌメつける。そこに宿った嫉妬の炎は、いささかも減じていなかった。

 

「だめ……ジン様……あなたは私を優しいと言ってくれるけれど。……でもだめ、私はこの女を許すことなんて出来ません……」

 

「誰が許せといった?」

 

「え?」

 

「勘違いするな、俺が止めたのは殺意だけだ。お前『たち』には復讐の権利がある。……ユグドラシルよ」

 

「ひ! な、なんじゃ! なにをする!」

 

 梢からつる草が伸びてきて、この隙に逃げようとしていたオフィーリアを捕まえた。

 

「あううう!」

 

 両手が拘束されて、吊り上げられる。

 

「そら、これを使うといい」

 

 ジンが、つる草の一つをもぎ取って、サーシャに渡した。

 

「っ!」

 

「扱い方は、分かるか?」

 

「……ええ」

 

 サーシャは笑った。熱の入った、じめっとした喜びが、ぺろりと舌を閃かせた。

 

「……私、鞭にはくわしいの。……だってもう、何度も何度も『使われて』きたもの。ふふ、ふふふ……」

 

「ひぃ!」

 

 ぱしぃぃん! 鞭が床を打ち据えた。

 

 その手付きは洗練されていて、とても素人とは思えなかった。

 

「さぁ、お母様。お仕置きの時間ですよ」

 

 娘の顔に、母とそっくりな笑みが浮かんでいた。

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