僕が君に変わるまで (花隈千冬乗っ取り) 作:そのやまよーく
夜中。狭い合宿所の雑魚寝布団に横たわって、僕は一日を反芻していた。
僕が花隈千冬のカラダを完全に乗っ取ってから、およそひと月。今日は千冬ちゃんが所属している軽音部の強化合宿で、いやというほどドラムを叩かされたのだった。無論僕はそうした経験はなく、全くの門外漢ではあるのだが、乗っ取った千冬ちゃんのカラダと記憶から引き出した技能で何の支障もなく物事は進んだ。身体が覚えているとはよく言ったものだと思う。
すよすよ安らかな寝息が聞こえる。僕のすぐ隣では二人の先輩が寝入っていた。夏色花梨。小春六花。僕が千冬ちゃんになってから短い間で、千冬ちゃんとしてもまだ今年に入ってからの関係性なのだが、随分と昔から彼女たちとこうしてきたと思えている。思えば、僕が軽音部に入ったのは、中学生の時の夏に、高校フェスで見た花梨先輩の熱唱に心動かされたからで、それまで家の喫茶でやっていたジャズしか知らなかったのだが、あれは完全に僕の心に火を……おっと、これは千冬ちゃんのことで、僕じゃない。僕は千冬ちゃんと僕の線引きを再確認した。
僕は千冬ちゃんのカラダと心を掌握し、奪い取ったが、完全に自分のものにする、すなわち"魂を食う"ことには抵抗があった。それは歪んでいることを自覚の上だが、僕が花隈千冬という可憐でひたむきな少女の在り様を、たまらなく愛しているが故だと思う。このガラスの花を僕のものにしたい。この唇で紡がれる声を僕だけのものにしたい。この華奢なカラダとともに喜怒哀楽を歩みたい。ただ、それだけなのだ。
隣で寝息を立てている六花先輩。彼女もまた、僕がしたように誰かに乗っ取られた存在であった。だが、"彼"は僕のようなナイーブな感情は持ち合わせていないようで、小春六花はすでに彼によって消化済みらしい。その事実と向き合うと、僕の中の千冬ちゃんの部分によって胸が締め付けられるようになる。花隈千冬は小春六花に恋心を抱いている。その存在がすでにこの世にはなくて、ただガワの美少女だけが男の欲望によって動かされている状態であることが、たまらなく悲しかった。とはいえ、僕個人は彼に対して悪印象を抱いているわけではない。個人的な感情としては悪友、そんな言葉が似つかわしいと思った。
隣でごろりと六花先輩が寝返りを打ち、こちらに顔を向けてきた。昏々と眠る筋の通った整った顔立ち、愛らしい唇。この普段は元気いっぱいの少女が見せる静かな側面が僕の胸をドキリとさせた。僕はこの一連の複雑な感情を処理しきれず、反対側に身体を返した。
「……ち、ふ、ゆ、ちゃーん」
耳朶をブレスたっぷりのささやきが殴りつけてきて、僕の胸は再び高鳴った。
「なんですか、六花先輩。起きてたんですか」
「今起きた」
僕はささやきを返す。六花が身体に腕を回してくる。
「なんですか、この腕」
「シよ」
「やですよ。花梨先輩、隣で寝てるじゃないですか」
僕は今向いている方向、その先で、花梨先輩がすややかに眠りについているのを見て、声に棘を混ぜた。
「ばっかだな、お前、だからいいんだよ。よいしょ、っと」
六花が身を寄せてくる。僕は身をよじり、それに抵抗しようとした。何を考えてるんだ、こいつ。バレたら……花梨先輩にどうにかできるわけではないが、僕、というか、千冬ちゃんはこの軽音部にまだ未練があった。未練があるどころじゃない。大ありだ。
「じゃあさ、千冬ちゃんはそのままでいいから、さ」
僕の千冬ちゃんのパジャマの胸を六花の腕がまさぐってくる。気が付いたら、完全に股間にも手を忍び込まされていた。
「愛しの先輩が気持ちよくしたげるね」
六花の手がパンツのゴムを超えて、下腹に這い進んでくる。それと時を同じくして彼女の手のひらが僕の乳房を捉えていた。
「この、バ……」
「おっと、そんなこと、言っちゃっていいのかな?俺はこのおままごと、ぶち壊しにしてもかまわないんだぜ」
六花が愛らしいウインクをした。僕は怒りを飲み込み締めた股を緩めた。ダメだ、こいつにはやはり勝てない。それを感じ取り、六花の手の侵攻が進む。さわさわと下腹部、鼠径部を超え、千冬ちゃんの大事な場所をなぞった。
「……ひ、う」
「気持ちよかったら、鳴いちゃってもいいよ。花梨先輩に千冬ちゃんの恥ずかしいところ、いっぱい見てもらおうね」
こいつ、都合のいい時だけ六花先輩の真似しやがって。その言い回しが極めて癪に障ると同時に、体の芯がカッと熱くなるのを感じた。期待している。
つぷりと六花の指が秘めたる唇を割って入ってくる。胸を捉えた手が千冬ちゃんの控えめな胸を穏やかに愛撫し始める。悔しいがこいつはとても女体慣れしていて、自分でやるよりはるかに気持ちよい場所を捉えるのが上手かった。僕は喉まで出かかる嬌声を押しとどめ、噛みしめ、鼻息に変換した。
「んっ、ふ」
「千冬ちゃん、可愛いよ」
ダメだ。こいつの声で、六花先輩の声でささやかれると、カラダの歯止めが効かなくなる。六花の指が千冬ちゃんの乳首をかりかりし始めた。鈍い幸福感が乳房を中心に波及していく。六花の中指が千冬ちゃんの膣内をシチュー鍋のようにかき回す。すでに期待感が溢れ切っていた身体はそれを熱烈に歓迎し、愛ある液を大量に分泌して、その愛撫に応えた。僕は悶え続けることしかできなかった。やがて累積した快感のボルテージが上がっていき、限界を迎える。
「……んううーー❤」
僕はタオルケットを噛み、声を押さえた。それでも殺しきれない声が静かな合宿所の空気に溶けて消える。六花はその反応に満足して、わざとらしくいやらしい水音を立てながら千冬ちゃんの中から指を抜いた。
「やっぱお前で遊ぶの、楽しいわ」
「クソ野郎」
「千冬ちゃんの声で罵られるの、すげークセになる」
六花が低く笑った。
「大丈夫、まだ壊したりしねえよ、お前と遊ぶのが楽しいうちは、な」
六花に頭を撫でられ、カラダが安堵する。これは花隈千冬としてはどうしようもない反応で、僕が千冬ちゃんである間はどうしようもなかった。
隣から何も知らない花梨先輩の寝言が聞こえてくる。ドゥーブルフロマージュがどうのこうの。ああ、僕も何もこんなふうに知らないままでいられたらよかった。僕は嘆息した。
「で、さ、次はあたしを気持ちよくしてほしいんだけど」
六花が僕の手を自分の胸へと持って行った。どうやら、この夜はまだまだ長くなりそうだった。