私と浅野茂美が属すテニス部のうち、反前田交際理論に呑み込まれ、前田君本人に詰め寄って酷い事を言ったりしていた事が解った。呑み込まれたとしても、加担はしたんだから許されることでは無いと思う。織田、美原、羽島の3名から謝罪は受けたが、そう簡単に許すことは出来ない。なので、これから何事も一つ一つの行動で示して欲しいと感じたところまでが前回のアブストラクト。
<今回のお話>
今日は金曜日。1週間の〆とも呼べる平日の最後。私と浅野茂美、前田一也、織田義香がいる2年B組のクラスで1時限目の数学I小テストの結果が返ってくる。どれも50点満点で7割取れてれば合格というテストだ。全てマークシート方式ではなく筆記問題なのでしっかり普段から勉強をしていないと受からないそう。小テストだろうが中間・期末試験だろうがテストはテスト。答案返却のため、数学Iの阿閉長義先生から呼ばれる。
阿閉先生「前田。」
一也「はい。」
阿閉先生「良かったな。45点だ。」
一也「ありがとうございますっ!」
答案用紙を受け取ったあと、普段通りの足取りで机と戻っていく。
クラスの皆は「えっ??あの前田が??一体そんな高得点を取ってどうしたの??」という目線を彼に向けている。それもそのはず。普段はそんな点数を取らず、平均かもしくは中の下の点数だから。そんな彼の事を「純粋に凄いじゃないか」と捉える男子がいた。織田義香の男友達である武田頼俊。彼は学内に広がっている「反前田交際理論」を信じずに前田君の事を見守ってきた人。むしろ、「反前田交際理論」自体が新興宗教そのものだろという現実型思考の持ち主でもある。
数学Iの授業の次は化学I。この教科もまた小テストを行ったので、平川先生より答案返却される。
平川先生「前田君。」
前田「はい。」
義香、私、しげみん、武田以外の皆の目線が前田君へ視線を向ける。
平川先生「よく勉強をしてきたな。50点満点だ。」
前田「ありがとうございます。」
この瞬間、クラスの目線がガラッと変わり始める。「実は勉強がすげぇデキる奴じゃねぇの?」とか、「優秀な遺伝子じゃねぇか」といった目線へ。前田君、結果を少しずつながら出してるわね。幼馴染の私でさえ、これは凄い事だと思う。
キーンコーンカーン……
2時限目が終わると、お待ちかねの昼休み突入。義香の友人、武田君が前田君に声をかけに行く。
頼俊「なぁ、かずっち。昼飯一緒にどうだ?」
一也「そうだなぁ、最近昼休み返上で勉強しまくりの日々を続けてたから腹減ってるよ。OK、一緒に食べよう。」
頼俊「それは腹減らしすぎだっつーの(笑)」
前田君と武田君はクラスから離れて、昼飯を中庭へ食べに行った。
〜中庭〜
一也「いやぁ、昼休み返上して勉強をした甲斐があったなぁ……。」
頼俊「昼休み返上って……。少しは休み取れよ(汗)」
一也「心配かけてごめんな。でも、これは過去の自分との戦いでもある訳で。」
頼俊「全くだぞ(笑)ん?過去の
自分との戦い??」
一也「あぁ、そうだ。ある日、訳の分からぬ噂で今までの人間関係もガラリと変わってしまった。それは現在も含めて過去の自分がいかに凡人かと。そして、それだけ認められてねぇって事を現実として突きつけられた訳だ。頼俊もクラスの目線というか空気で解るだろう?」
頼俊「例の反交際理論の話だろ?」
一也「そう。新見さんがスポーツや勉強が滅茶苦茶出来る人に変わった事を契機に、始まった噂だよ。」
頼俊「うーん…。お前の幼馴染としか聞いてないから何とも言えんが、学力等のレベルだけでそういったような噂を立てた輩の神経を疑うし、むしろ許せないね。」
一也「共感に感謝するよ、ありがとう。俺は誰から共感されることの無い孤立無援状態だろうなと思っていた。」
頼俊「……。」
一也「新見さんにも極力俺に近づかないでくれと言ってあるし。だから変えるには俺が変えていくしかない。例え身を粉にしてまでもな……。」
頼俊「だから昼休み返上をしてまで勉強に勤しんでいたのか……。きっと、新見さんも身を切られる思いだろうなぁ……。」
一也「ごめんな、こんな話をしても楽しくないよね(汗)」
頼俊「いや、お前の怒りに満ち溢れる辛い気持ちが解るよ……。」
一也「マジか!?!?」
頼俊「あぁ、俺も昔、かつて友人だった奴らに学力の事で散々比べられた事あるしな。だから崖っぷちに追い込まれているかずっちの気持ちが痛いほど解るんだよ。」
一也「ありがとう、そんな言葉をかけていただけるだけでも十分励みになるし、こういう辛い気持ちを持ってるのは、一人じゃないんだなと思えてくる。」
頼俊「かずっち。これだけは言うけど、本当に少しくらいは休みを取れ。反交際理論の噂が出ているからって、体調を崩してまで形勢逆転をするというのは違うと思うぞ。脳を少しでも休ませないと頭がおかしくなる。そして、着実にお前さんへの見る目というのは変わってきているからな。そこは安心しろ。」
一也「頼俊、すまんな。」
頼俊「いや、良いっての。気にすんなよ。かずっちの一大事は俺の一大事だから。」
そんな二人が話をしている光景を私、しげみん、義香と共に教室の窓から見る。
茂美「うーん……。身を粉にしてまでと言うのは……。しかも昼休み返上とか言ってるけど、実際は休日も返上してるからね……。」
義香「えっ!?!?せっかくの休日も返上!?!?そんなにしてまで勉強してるの!?!?」
遙佳「……。彼の場合は黙ってやるタイプな上に、そう言った感情は表に出さないわ……。で、一度やると決めたらやり遂げるまで手を止めないの。」
義香「前田君は、誰にも知られることの無い影の努力者なのね……。」
遙佳「私が勉強やスポーツが出来るようになってから何もかも変わってしまった……。彼といる時間も距離感も何もかも……。綺麗になったり勉強やスポーツが出来るようになったからいけなかったんだ……。」
茂美「勉強、スポーツが出来るようになると言うのは別にいけないことではないわ。出来ないより出来た方が良いに決まってる。それはあくまで他人と差をつけるためでは無くて、自分のスキル向上という目的の一環で勉強やスポーツに取り組むのよ。勿論、自分が綺麗になって魅力的になるのも同じ事。」
義香「知らなかった……。勉強やスポーツ等に取り組む真意……。」
遙佳「いや、私もその真意は本当に知らなかったわ……。出来た方が良い程度の事なんだね……。」
茂美「そう。殆どの人はこの事を知らないで、勉強・スポーツなどの出来る出来ないをパワーバランスと同様に考えて「釣り合う」、「釣り合わない」とか根拠の無い事を言っているという事実よ。」
義香「なるほどねぇ……。」
遙佳「それにしても……。私が綺麗になったり勉強やスポーツが出来た代償かつ、責任が重い事もまた事実なの……。確かに前田君には「女の子なんだから髪を長く」なんて小学の頃に言われたからのばしてみたけど……。結果がこれじゃ……。」
義香「うーん……。」
茂美「私ははるが責任の十字架を背負おう背負わないどちらにしても構わないと思ってる……。はる自身、幼馴染の前田君と話すことや一緒にいる時間が無くなるという事自体、身を切られる思いをしてるんだから。その負の気持ちが簡単に無くなるなんて事が無いし。時間がかかるものだと弁えてる。」
義香「今度前田君に会ったら、今までの事をしっかり謝ろうと思う……。周りの空気に乗じて酷いことを沢山言ったり、詰め寄ったりしてごめんねって……。それは私にも責任がある……。」
項垂れる私と、涙を川のように流す義香。
その時。
中庭で喋っていた武田君と前田君が教室へ戻ってくる。昼休みが終わったのだろうか?いや、まだ昼休み終了の予鈴がまだ鳴っていない。中庭から戻るやいなや、武田君は私達の様子を見て、不憫に思ったのか、すかさず前田君に声をかける。彼に私達の様子を伝えられたのか前田君は驚きを隠せず、私達の方へゆっくりとした足取りでやってきて私の右肩をそっと叩く。
ポンポン
遙佳「何……??」
一也「俺だよ、一也だよ……。」
遙佳「キャッ……!?!?ま、前田君!?!?」
一也「しーっ……。声でけぇよ(笑)」
遙佳「あっ……。ごめんごめん(汗)」
茂美「前田君……。」
一也「あっ、俺を影で励ましてくれた浅野さん……。」
茂美「覚えてくれていたんだね、嬉しいわ。///体調の程は最近、どうなの??」
一也「お陰さんで、全快とまではいかないがある程度回復したよ。」
茂美「それは良かった……。ずっと落ち込んでたままなのかなと思ってたんだよね……。」
遙佳「私も……。最近の前田君休み返上してるって話だし……。」
一也「いや、俺自身のレベルを上げて見返したくてね……。そう簡単じゃない事は弁えてるさ……。歯を食いしばって苦労をすることもまた必要って事よ……。」
遙佳「そうさせてしまったのは私が勉強が極端に出来たり、スポーツ万能になったからだよね……。ごめんね……私のせいで前田君がこんなに身を粉にするくらいの辛い思いをさせてしまって……。」
一也「いや、新見さんのせいでは無いよ。俺が努力する事を適当にしていたせいだから。自業自得だよ……。」
遙佳「ううん、こうなったのは全て私のせい。自業自得だなんて悲しい事を言わないで……前田君……。」
義香「ねぇ、まえかず……。」
一也「貴方は……。」
義香「織田義香よ。武田君の友達なんだけど。」
一也「あぁ、あの時の。」
義香「そう。あの時、まえかずに散々酷い事を沢山言ったり、詰め寄ったりしてメンタルを破壊させた極悪人よ……。」
一也「……。」
義香「前田君……。散々酷い事を言ったり、詰め寄ってメンタルを破壊した事……。謝るわ。許されることでは到底無いと思うけれど。本当にごめんなさい……。」
一也「……言われた最初のうちは、何根拠ねぇ事を言ってくれやがったんだこの女はと思ったね……。当時は俺に色んな事での自信というものが備わっていなかったのも事実だったし。そんな分際で言い返すくらいなら勉強でも部活動でも何でもいいからぎゃふんと言わせるくらいにできるようになる方が先だと思って言わなかったんだけど。」
義香「そうだよね……。そう思わせる事をして本当にごめんなさい……。えっ、あの時のまえかずは自信が無かったのか……。」
一也「そうだね……。今でも自問自答を継続してるよ。どんな男になりたいのかと。」
茂美「自信ねぇ……。私の彼氏の滝川和孝君も今の前田君と同様の事を言ってた……。」
一也「はい?浅野さんの彼氏である滝川にもそんな過去があったのかい……。」
茂美「えぇ。貴方と同様、滝川君も成績は中の下くらいだったわ。クラスのやっかみを受けて、自信を喪失、葛藤する苦しい経験をしたのよ。」
一也「……なるほどな。最終的にどうなったんだ?」
茂美「無事に恋人として結ばれた。今でも連絡を取りあってたまに遊びに行ったりしているわよ。」
一也「滝川も相当努力をしたんだな……。浅野さんと付き合うのを認めてもらう為に自分のレベルを上げたんだね……。」
茂美「そうね……。」
義香「私が言えた事じゃないけど、脳を酷使してまで反交際理論を打破しようとしないで……。今のまえかずを見る限りだと、目の下にクマが出来て大分疲れきっている感じよ……。」
茂美「確かに……。休む時は休んで良いのよ……??また気持ちを切り替えて頑張っていけばいい話よ……。」
遙佳「休日や昼休み返上をしてまで頑張らないで……休みの日くらいは私や義香と一緒にいて欲しい……。ただただ苦しいだけだから……。クマを作ってまで頑張ってなんて誰も望んでないの……。」
茂美「私も同じくよ……。前田君。クマを作ってまで頑張ってだなんて誰も言わないわ……。」
一也「ハハハ……。面目無い……。クマを作ってること自体に気付いていなかったよ……。」
頼俊「それだけかずっちの事を心配してくれてる人達がいるんだ……。そういう心配をしてくれてる人が1人でもいるだけで幸せ者だからな。」
一也「よ、頼俊……。」
頼俊「辛い思いをしてるのはお前だけじゃない。かずっちの幼馴染の新見さんでさえ苦しいんだ……。休日でも彼女と一緒にいる時間を少しでも作るとか考えてみたらどうだ?」
一也「中々は難しいかもしれんが……。なるべく新見さん及び織田さんと一緒にいる時間を作るようにするよ……。そして、休日返上も縮小をさせていくつもりだよ……。今まで多大な心配をかけてごめん……。」
茂美「いえいえ……。これからも継続的に見に来るけど……よろしくね?」
一也「了解。見に来た時には勉強の手を止めるように善処する。」
遙佳「もぉ、毎日断腸の思いをするほどに辛かったんだからね……。」
一也「悪かった……。勉強はやる時はやる、休む時は休むと言うように切り替えるようにしていくから……。」
義香「前田君に散々酷い事を言った私でも……はると共にまえかずと一緒にいて良いんだ……。(T^T)」
一也「もう過ぎたことは仕方ない。良いに決まってるよ……。(汗)」
武田君が私達の様子を見て前田君に伝えてくれていなかったら、彼はまた自分の身を酷使してまでも勉強に投じるところだったと考えると……恐ろしい。私自身もかなり塞ぎ気味で元気があまりなかったから、久々に前田君と喋れた事は本当に嬉しかった。彼もまた私や義香と共にいる時間を作るようにすると言ってくれた事だから今度こそは安心していいよね?前田君?と思った私でした。
Fin.