(仮)僕と彼女が契約を結んで冒険する話。 作:Marchhatter
語り手は、セ〇レ契約(?)の募集投稿に関心を示した女と待ち合わせ、契約の説明を行う。
変態的な行為が含まれると知って、女は引いてしまった。
引いてる女に対して、さらに補足的に説明を加える、というか追い討ちを加える。
1回あたりのプレイ時間の見込みとか、休憩の有無とか。
娘はさっきから眉をしかめて、考え込んでいる。
まあ、そういう性癖の人ならともかく。
この娘は
気休め程度だが、若干の不安解消のための措置を伝えておこう。
「プレイにあたり、セーフワードを決めます。
どうしても嫌なら、それを言ってくれればプレイを止めます。」
彼女の尖っていた視線が、僕から外れて、揺れる。
「──ただし、場合によっては、口を拘束する器具を使うかもしれません。
そのときに意向を伝える手立てについては、追って相談しましょう。」
またも、ずざーと引いた気配。
そうだよな、そんなことされるのかよって、思うよね。
ただ、ここでそもそもダメなら、こちらとしても見切ってもらった方がいい。
そこらへんを曖昧にして契約し、後出しで押し切る手もあるかもしれない。その方が一般的だろう。
でもそれ、フェアじゃないと思う。
(ここらへん、僕はよく周りから固すぎるとか融通がきかないとか言われるんだけどさ。僕はそれされて、いつもすごい不快になる。やった側は忘れるみたいだけどね。)
だが、眉をしかめてメモを見返してる彼女は。
即、やーめた、とかいう感じではない。
リスクの高い、怪しい契約を、なぜ彼女がすぐに見切って断らないのか。
僕が、想像するに。
多分、彼女は
この娘、素材はかなりいい。
相当賢いし、さっきマスクをはずしたところを見た限り、肌荒れはあるが顔も美人っぽい。
だぼっとしたトレーナーのせいで体つきはわからないが、運動が得意そうな、いい姿勢をしてる。
それを打ち消すぐらい、貧乏くさい着古しの服装。
この野暮ったい恰好をどうにかすれば、高いギャラも狙えるだろう。
毎日、苺でこつこつ円光して、月4、50万円。
ギャラ飲みでも、普通に月30~40万円いくっていうし。
頭の良さを活かしたパパ活で金満実業家を籠絡したら、月収100万オーバーとかも狙えるというし。
セクシー系ビデオなら、
そもそも、もっと健全な稼ぎの道もありそうだ。
しかしそれらは、即金とはいかないのだろう。
彼女としてはこの取引を成立させたい。それは多分、準備金狙い。利子なし即金で、他の方法では追いつかない額を得たいのだろう。
だが今までの条件を聞くに、リスクが大きい。
僕が悪人なら、だれにも知られず彼女を殺せる。
だから、自分を納得させられる安心材料を求めてる。
──そんな感じじゃないだろうか。
なんとなく可哀そうに(?)なってきたので、こっちも、ある程度の配慮を示してみる。
「目白さんとは、信頼関係をつくりたいと思っています。
月2日だけですが、ちゃんとした、長く続くパートナーになりたいので、いきなり危険なことはしません。少しずつ、試してもらっていい。
それでやっぱり無理なら、なんのペナルティもなしで契約解除でも構いません。」
繰り返すように、目白さんを特定できる情報を第三者に伝えたりすることは、絶対しない。写真なども撮らない。別れた後でも、それは同じ。
そのことは、別に契約書や覚書として残してもいい。違反したら訴えていい。
もちろん、それはお互い様で。彼女も第三者には漏らさないでほしい。
そう、言ってみる。
彼女は、それはそれでいいと思ったらしいが、まだ逡巡してる。
さっき、プレイの時間はそれなりにかかるかも、と馬鹿正直に伝えちゃったから、そのせいかな?
仕方ないんだ、だって僕は一族にしては体力ないモヤシなんだけど、こと性欲とかは一族トップクラスで、──。
まあそれはともかく。さらに、彼女が自分自身を説得できるように、彼女の身に立った安全対策を考えてみる。
「メールの予約送信機能で、ご家族やお友達宛てに。
目白さんの連絡がつかなくなったとき用のメッセージを準備してはいかがでしょうか。それに僕の連絡先を書いて。
目白さんが帰宅予定時刻までに送信予約をキャンセルしなかったら、ご家族がそれを読んで、警察に連絡できるようにすればいい。」
ただしその場合以外で、親友であっても第三者には言わないでほしい、と念押しする。
彼女は、ゆっくり頷いた。だが、決心まではついてないかな。
僕の提案も一定の歯止めにはなる、と考えているようではある。メモを取って見返す視線は、否定的ではない。
だがここまできても決断できないのは、やっぱり根本的なところで抵抗感があるのだろう。
──これは、ちょっと無理かな?
ましてや、次に「血をもらいます」みたいなわけわからん条件があるものな。
なんていうか、かなりの上玉だから惜しい気はするが、あきらめるか。
ただ、サンプルとしてすごく参考になった。今後に活かそう。
そう、思ったとき。
彼女が、ぱっと顔を上げた。
覇気のある視線が、僕を貫いた。
「──いいです。それなら、やっても構いません。
でも、さっきお話のあった『準備金』のこと、聞いてから。
どれだけの額を、お願いできますか?」
──死ぬ可能性があるような危険なプレイもされるんですよね。その分、奮発してもらいたいです。
そう、主張してきた。やっぱり、準備金狙いか。
さて、しかしどう答えるべきか。
「事情と金額次第です。こちらも、お渡しして持ち逃げされては困りますので」
「はい。額は、たとえば、──三千万、とか?」
娘の声が、小さくなった。
さすがに額が桁外れだと、自分でも思っているのだろう。
「──どのような事情か、お伺いしても?」
この女の子、やっぱり訳アリだな。
借金大王の線が、濃厚。
だがこの娘に無担保で3000万円も貸すやつがいるとは思えない。多重債務か。
あるいは自分の借金ではなくて、親兄弟の借金か?
破産できないってことは、かなり強硬な相手かもしれない。
「言えません。」
「そうですか。それでしたら、残念ですが、この話──」
「待ってください!」
娘が打ち切りの気配を察知して、声を上げる。
「──詳しい事情は、話せませんが。
駒込さんに返しおわるまで、監視をつけてもらっても、構いません。
ただ。来週中には絶対、必要なんです。」
もう終わりにしよう、と僕があらためて思ったのを、娘は読み取ってさらに言葉を続ける。
いや、無理でしょ。
「月1回、20万円ですよね。
月2回、20万円にして、もらえるはずの20万円分を、返済に回します。」
そう、提案してくる。結構必死。
回数増やしても、比例的にお金も増やすかどうかは決まっていないんだけどな。
それをひとまず、おいても。
「──12年半、かかりますよ。」
「月4回だと、4年ちょっとですよね。」
ちょっと冗談のように笑いを含ませて、彼女が言い募る。だが目は真剣だ。
どうやら、3000万円という額は、彼女にとって非常に大事なラインらしい。
──きな臭いな。ただ、すぐに断らなくてもいいか。
「もし契約が結べるのなら、無理に準備金を短期間に返せというつもりはありません。
だから、回数を無理にたくさん入れる必要も、ありません。
もし長い休暇がとれて、僕の予定と合うようでしたら、そのときにまとめて入れるとか。
何かのイベントでご一緒してくれれば、その分、色をつけるとか。
そういった手段もあるでしょうし、返済については、柔軟に対応しましょう。」
──ただそれは、仮に契約が成立したとしての話。
実際に月1回、できるかやってみた後の方がいいのではないでしょうか。
それより問題は、ちゃんと返してくれるかどうか。監視にはお金がかかりますので、現実的ではありません。
そう、続ける。
「目白さんは持ち逃げするような方ではないと思いますが、僕はまだ目白さんのことを、よく知りません。
事情がわからないのに信用してくれ、と言われても、無理ですよね。」
そういうと、彼女も、僕の言い分の正しさを認めたように、ぐっと黙り込んだ。
なにか考えてるらしく、眉間を寄せ、全く使ってないカラオケ機器のキャビネ横に活けてある、きれいな花を見つめてる。あれ、生花だな。
──まあここは、これでいいか。無理は、無理だ。
しばらく考えてもらって、諦めてもらおう。
「ほかに、これまでのところでご質問ありますか?」
そう聞かれた彼女は、スマホの投稿と、僕の説明をメモしたルーズリーフのメモを見比べる。
「──この医療機関のところですけれど。
救急車が来ても、駒込さんの指定した医療機関でないとダメなんですか。」
あ、気づいたか。賢いな。
こちらの息のかかった悪徳病院で闇に葬られる可能性もあるのでは、って。
そうではなく、もちろん好きな医療機関でいい、ただ障害とかが残り補償を払うことになった場合には、ちゃんとした医師に見せてからにしたいという趣旨だ、と説明する。
まあ、ひどい医者と組んでばかげた要求をしてくる、という僕の側のリスクにも想像が行くようだ。
これについても、彼女は承諾した。
最後の条件の確認に、移る。
僕にとっては、一番大事な条件だ。
「これ。採血って、注射か何かするのですか」
娘の目に、また警戒心が高まった。
クスリを使う口実だ、と思われてるのかな。
「はい、注射器は使いますが、消毒しますし、もし僕を信用できないなら器材をお渡ししますので、そちらで採血していただいても構いません。」
大きく譲歩する。僕には全く不都合はないし。
場合によっては、注射器を使わなくてもいい。
軽く切って、吸わせてもらうだけでもいい。
それも併せて伝える。
ただ、傷の負担も小さくて清潔なのは消毒した注射器ではないでしょうか、と言っておく。
娘はちょっと考えたが、特におかしな点を見つけられなかったらしい。
「それでいいです。」と言った。
「ひととおり、確認は終わりましたが。どうしますか。」
「はい、あたしはこの契約、構いません。」
娘は頷く。
それじゃ、契約書を作ってサインだな。
しかし、そう思ったとき。
「ただ、すみません。やっぱり、さっきの準備金。
事情をお話ししたり、ちゃんと駒込さんに信頼してもらえるようなことをしたりすれば、借りられますか。
そしてできたら、少し増額できたりできますか。」
そう、彼女は蒸し返してきた。
どうやらあきらめては、いなかったらしい。