(仮)僕と彼女が契約を結んで冒険する話。 作:Marchhatter
僕は叔母の家を訪問し、叔母を実験台に首輪の検証を続け、股間をふくらませる。
検証が終わり、のんびりした休日をすごしていると、あたおかな娘(僕視点)から、メッセージが入ってくる。
本日2回目の投稿ですので、ご注意ください。
次話くらいから、ぬるいですが多少の鬱描写が入ってきます。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。
展開にすこし迷いがあり、この部分は後で多少改稿するかもしれません。
時間は、少しさかのぼる。
金曜日の夜。
「駒込」と名乗る男と、「目白」と名乗った娘が会談を持ち、別れたときから、十数分後。
ふたりが会談をした商業施設からは、数十メートルばかり離れた、裏路地。
柔らかくばねのきいた足取りでまわりの様子をうかがいながら路地に入ってきた、ほっそりとした人影が、植え込みの段に腰かけている別の人影に呼びかける。
「ごめん、アズっち!警戒されてて、撮れなかったよ。
しかも、尾行も途中で巻かれちゃった。ボクのこと、気づかれてたかも。」
「仕方ない。でもありがとう、タマちゃん。」
アズっち、と呼びかけられたのは、さきほどの面談で、目白と名乗っていた背の高い女。
通りにあるビル前の植え込みのへりに腰かけているが、疲れた表情ながらも、親友に笑みを返す。
「タマちゃん」と呼ばれたのは、すらっとした体型の、ボーイッシュな女。
茶色の髪は短めのボブカット。キャスケット帽に、薄いカーキのトレンチコート。
男装っぽいおしゃれな感じだが、あまりお金はかけてない。トレンチコートは友達のお下がりだ。
ふたりは、同じ大学の友人同士。
たまたま入学時のオリエンテーション行事で隣同士になって、言葉を交わし。
その後も親交が続き、今ではお互いに一番の親友といってもいい。
このすらっとしたボーイッシュな娘、
背の高い友人、
がんとして口を割らないこの友人に、つきまとい、脅迫し、泣き落とし。
ついにその事情の一端を知るに至り。
そして今日、あやしげな掲示板で知りあった男に支援を求めて面談するのだ、とその重い口から聞きだし。
そんなあやしい男に、友人がおかしなことをされてたまるか!と、息まいたが。
しかし珠季にも友人を救えるような手段がなく、また友人の決心も固いので、正面から邪魔をするわけにはいかず。
せめて親友の安全を高めるために、万が一の際の男の素性を突き止めるために写真を撮るし、できたら尾行するよ、と申し出たのだった。
(梓も、これには同意した。何より、怪しい場所でみつけた情報で彼女も不安だったから。)
しかし男はどうも警戒していたようだ。シャッターシーンに巧妙に店内に戻り、相当に離れた尾行も、あっさり巻かれてしまった。
珠季はこの夏休みに探偵事務所でバイトして、張り込みと尾行の経験もあり、それなりに自信があったにもかかわらず。
それを聞いた梓は顔をしかめたが、しかたないと考えているようだった。
「で、どうだったの?」
「そうね。──本っ当の、クソ野郎だったわよ?」
いまいましげに、梓は毒づく。
だがその言葉には、ここ最近、梓に漂っていた重苦しい切迫感、焦燥感がないことに、珠季は気づいた。
どうやら、支援を引き出すことには成功したらしい。
「ふーん。聞きたいけど、ボクには言えないんでしょ?」
「本当にごめん。まだ、誰にも言えない。
終わったら。全部終わったら、いちばん先にタマちゃんに言う。いちばん先に。約束する。」
そのときは、すごい豪華に、なにか美味しいものでも食べに行こうよ。南も一緒に。そしてタマちゃんの彼氏も、一緒に。
と、そう言う。
「わかったよ。でも、本当に危ないときは、言ってね?」
ボクだって少しはやるんだよ、と細い腕で、ぶんぶん、とシャドーボクシングらしいものをしてみせて、梓を笑わせる。
まあ、本当のことを言えば梓の方がずっと強い、と珠季は思っている。
過去にも、ぶつかりおじさんや痴漢や絡んでくる酔っ払いから珠季を守ってくれたのは、梓だ。
大学のクラスの打ち上げで、たまたま繁華街のチーマーみたいな人に因縁をつけられてしまったとき。
数人いた男どもも、どうするよ、と怯えて頼りにならなかったのに。
同級生たちにすごみ、殴りつけてきたそのじゃらじゃらピアスを付けた強面の男を、物理的に説得してみせた(要は、逆に殴り倒して馬乗りになってボコボコにして最後には先方に非を認めさせた)のは、この友人である。
この親友は、頭も回る。困ったことがあっても、珠季が考えるような方法は、試してるはず。
それでどうにもならない、ってことは、よほどの事態。
何も教えてくれないのも、それが最善だと判断しているのだ。何か、口止めされてるのだろう。
──だけど、スーパーウーマンのアズっちも、万能じゃない。
いろいろ無理を重ねてるみたいだし。もっと頼ってほしいけど。
珠季は、友人の様子を、すかしみる。
梓は珠季のギャグに笑ったけど、少し咳きこんで。
息苦しかったのか、マスクを外して指先にプラプラさせてる。憂愁を湛えた横顔は、端正な美しさがある。
だけど肌はちょっと色つやが悪い。特にここ最近1、2か月、急にやつれてきてる。
それは、顔だけでなく、体も。
中高では陸上短距離のエースだったという、(ジーンズの太腿も、ぱつぱつになる)均整がとれてる大柄で魅力的な体は。
気のせいでなければ最近、急にしぼんだ感じがする。うん、体重落ちてるはず。
大学にもあまり来てなくて最近会えないし、たまに来たときに聞いたら朝昼深夜バイトを掛け持ちしてるって、言ってた。
先週なんて、やっと連絡あったと思ったら。
急に手術を受けることになった、って言われて。
連絡先に名前を借りたい、って懇願された。
水くさいなあ、って付添も申し出たけど、日帰り手術だから、って断られた。
手術後連絡が途絶えたら、悪いけどこの連絡先といっしょに警察に行ってほしい、とメモを渡されたから。
こっそりネットでその住所を調べると、すごく良くない評価がたくさんついてる個人病院。
疑問がいろいろ膨らんだ。
手術は成功はしたって言ってるけど、それ以来、ますますやつれてて体調も悪そう。
お金がなくて、ヤブ医者に手術してもらって失敗した?
それに手術したのは、病気のせいだよね。なんの病気だったんだろう。
やっぱり無理が祟って、イカイヨウとかになっちゃったんだろうか。
──それともまさか、日帰りってことは。妊娠しちゃったから、中絶?
住所も、前は駅から遠いけどきれいなマンションだったのに。
3、4か月くらい前だったかな、学生街の風呂なしアパートに引っ越した、って言ってて。
親友のはずなのに引っ越しの手伝いもさせてもらえず、それ以来、新しいおうちに招待もされてない。
同居してて、仲良しになれてたかわいい妹のミナミちゃんのことも、最近は話してくれない。
そこにきて、今日のこれ。
──たぶん、アズちはすごくお金に困ってる。
だからすごく切り詰めて、バイトも鬼の様に入れてるんだ。
もしかすると体を売ってる、あるいはこれから売る、ってことも?
たぶん、援交かパパ活で?
ただ、珠季の思うに。
梓は全く、その手の活動に向いてないはずなのだ。
梓は、男嫌いなのだ。男に媚を売ることなんて、まず無理。
性的な目線を向けられると、毛虫が這ったような気分になる、と公言してた。
梓は背が高くて外見はモデル系の美人だし、体も男の人からみてきっと魅力的だと思う。
(夏前にクラスの仲良し何人かで温泉めぐりしたとき、彼女のその、彫刻みたいな盛り上がりのある美しい白い体と、自分の薄っぺらい体を比べて劣等感を抱いてしまったのを、まだ珠季は鮮明に覚えている。)
でも梓は、お近づきになりたいという考えで話しかけてくる男を、ことごとく忌み嫌って撃破してきた。
同級生であろうと先輩であろうとバイト先の会社の人であろうと通りすがりのおじさん・お兄さんであろうと、それはもう鮮やかに。
なかには、珠季の目からみてそれほど悪くない性格の、かっこいい男子もいたのに。
男嫌いには何か理由がありそう、と思うけど、はぐらかされてしまう。
それはともかく。
もし、梓がもう「売ってる」なら、もう珠季も気づける変化がありそうに思うのだ。
でも、これまではそんな気配はみえなかった。相変わらず、男関係ではいままでどおり平常運転。
話しかけてくるチャラ男も勘違い若作りおじさんもまとめて一蹴、って感じだった。
すごく梓が疲れて落ち込んでたことはあっても、それはバイトの肉体労働と睡眠不足によるものだったように思う。
──でも今日、会うんだ、って言ってたときに、アズっちはなんか今までと違ってた気がする。
何かを諦めた、捨てた感じがしたんだ。なんだか自棄気味、っていうのかな、そんな感じ。
それに。
初対面の男からまとまったお金を引き出すって、さ。
ボクの頭だと、パパ活くらいしか思いつかない。
斬新なビジネスモデルをプレゼンして、ベンチャーキャピタルに投資してもらった?ないない。
今日、男と会うって言ってたとき。
(本人は明るく隠してるつもりだっただろうけど)梓に漂ってた悲壮感を、思い出す。
いままでは「売り」以外のバイトで頑張ったけど、それじゃ無理だとわかった。
だから今日、会う男に「売る」ことにしたんじゃないかな。そこらへんが、真相じゃないだろうか。
だから珠季は本当にこの友人が、心配だった。
──だけどな。ボクも、ほんと貧乏で役立たずだし。
なんにも思いつかなくて、どうしようもなくて悔しいよ。
珠季の家庭も、正直あまり問題がないとはいえない。
経済状況は、はっきりいって赤貧状態。こわいから援交パパ活は無理だけど、コスプレには興味あるからオプ控えめならコンカフェでバイトしてみようかな、時給高いし。と思うくらいに。
だから、梓にお金を貸してあげたいけど、珠季の自由になるのはスズメの涙程度。
(ただ10万円くらいだったらなんとかなるよ?って、一応申し出てみたけれど、笑って辞退された。)
それでも、せめて元気の出るもの、食べてもらおうと思って。
今夜はお金は心配しなくていいから、キッチンブロリー(彼女らの母校の貧乏学生行きつけの、安くて美味しい定食屋さん)に行こうよ!と誘ったのだが。
疲れた様子の梓には、ごめんねタマちゃん、今日はちょっとだけここで休んでから帰るよ、と言われた。
いつも活力に満ちていた親友の姿に心配を強めた珠季は、梓と押し問答になったのだが。
ごめん、すこしだけ一人にさせて。お願い。と言われ。
さらには今日はありがとう、と肩をぎゅっと抱かれて。
なんだか心残りを感じながらも、梓を残して、ふり返りふり返り、帰って行った。
振り返る珠季に、座ったままの梓が手を振っているのがみえた。
心になにか、「重し」みたいなのが残ったままで、改札を通り。
ときどきしなだれかかってくる酔っ払いのおやじをいなしながら、帰りの混んでる電車の、吊革にぶらさがり。
やっぱり、無理を言ってくっついておけばよかったかな、と珠季は後悔していた。
明日は、また連絡してみよう。住所も、強引に聞き出そう。
ウザく思われても、構うもんか。
そう、珠季は思った。