『転異空間』から帰還し、
戻った一同を出迎えた
「大丈夫、出先で少し具合悪くしただけだから。…稽古をやらせ過ぎちゃったね」
安心させるように声を掛けながらさらっと通り過ぎ、葉月は2階の自分の寝室へと上がっていく。
声も出せず、動揺する苡月へ、陽も努めて明るく接した。
「
「…! うん、わかった…、買い足しに行ってくる」
陽の声掛けに我に返ったのか、苡月は財布を取りに居間へと駆けていった。
その後ろ姿を目で追いつつ、陽も階段を上がり、ベッドに寝かされる蒼矢を葉月の背後から見守った。
「苡月、買い物に行かせたぞ」
「ありがとう、助かるよ」
「…まだ起きねぇな…」
「うん…、見たところ顔色も悪くないし、外傷も無いと思うんだけどなぁ」
そう言いながら、葉月は蒼矢の着衣に手を掛け、躊躇なく脱がし始めた。
「っ!?」
「ああ、ごめんね。意識があれば自分で脱いでもらうんだけど、今日は仕方ないね。蒼矢には内緒ね」
「お、おう…」
手際良くするすると脱がされて下着一枚になっていく白い痩躯を見、赤面する陽は鼻の下が伸びる感覚を抑えきれず、葉月から隠すように彼の真後ろに身を寄せた。
「!」
腕や脚を持ち上げたり身体をひっくり返したりする内に、葉月は蒼矢の太股の内側に出来た小さな赤い点に気付く。周囲の皮膚を薄桃色に染めたそれは、まだ新しい刺し痕のように見えた。
「…虫刺されか?」
「……だといいんだけど。いつ出来たものなのかな…」
口元に手を当て、葉月は思案する。
…今回の戦闘で出来た傷なら、[異界のもの]から何らかの影響を受けた可能性がある、ってことになってしまうな…
「陽、君は[異界のもの]とは接触したんだよね?」
「うん。『
「それは[侵略者]だったのかな」
「んー…多分。[異形]がいたのかどうかはわかんねぇ。蒼兄、そのナマズ野郎に喰われちまってたから、その時出来た傷なのかもしれねぇけど、あんなに思いっきり喰われててそれだけか? って気もしちゃうなー」
「…っ? 食べられてた…!?」
「あー、悪い。口に咥えられてたって状況。胃の中には収まってねぇよ」
「…そ、そうなのか…」
顔色を変える葉月へそうフォローを入れた陽は、再びそろりと蒼矢の内腿へ視線を注ぎ、首を振ってみせた。
「多分、今回のじゃないと思うぜ。『
「…うん…」
「蒼兄の着替え、要るだろ? 俺取ってくる!」
「あぁ…、ありがとう。居間の襖隣の部屋にある六段の桐箪笥から、襦袢と帯をひとつずつ持ってきてくれるかな。組み合わせは君のセンスに任せるよ」
「了解っ」
陽が部屋を出て行くと、息をついた葉月は、改めて蒼矢を見下ろすようにうかがう。
「…」
先ほどあれだけ身体を動かされたのに、蒼矢は気がつく気配が全く無かった。
目を固く閉じたままの顔を見やり、ひとつ息をつくと葉月は先ほど陽が漏らした言葉を思い返す。
…"喰われ"てしまった。…僕が行けていたら…ちゃんと機能していれば、そうはならなかったかもしれないな…
そう、自身の不甲斐無さと後悔の念に駆られながら、意識を奥底へ追いやられてしまった美麗な面差しを見つめ、白い頬を撫でた。
「……」
…君はその心と身体をいつまで、どれだけ削れば、何にも犯されず穏やかに生きられるんだろうね…
その日、蒼矢は終ぞ目覚めることはなく、