次の日の早朝、
小さくノックをして扉を開け、ベッドに横たわる蒼矢の様子をうかがう。
「…起きないなぁ…」
昨日
肩が掛け布団からはみ出ていることに気付き、起こさないようそろりと直してやると、苡月の手元がぴくりと震えた。
「…蒼矢君…!」
長い睫毛が揺れ、薄く開いた目を虚空へ漂わせる様子に、苡月は大きな声をあげかけた口を手で塞ぐ。
思春期の青少年が胸を高鳴らせながら見守る中、蒼矢は緩慢な所作で身を起こした。
「…ここ、は…」
「大丈夫ですか? ここはお兄ちゃんの…楠瀬の家です」
ふらつく上体を支えてやりながら、蒼矢の視界に入るように伝えると、薄茶の涼やかな瞳が苡月をじっと見つめた。
普段見慣れぬ眼鏡オフの彼に、小さな心臓が跳ね上がりそうになる。
「…俺は、いつからここに?」
「っ…昨日の夕方からです。お兄ちゃんたちと出掛けてから、戻ってきて…それからずっと、です」
「……」
苡月の返答を黙ったまま受けとめると、蒼矢はゆっくりと立ちあがる。帯が緩み、襦袢の胸元を乱した姿のまま部屋を出て行こうとする彼を、苡月はあわあわと前に入って止める。
「あのっ、前を…整えた方が…っ」
少し頬を染めながら見上げる彼へ、蒼矢は無表情のまま視線を投げた。
「…やってくれる?」
「! えっ…」
「腕に力が入らなくて」
「…! は、はい…っ」
端正な面差しから目で追われる中、苡月は顔を耳まで赤く染めながら、たどたどしい手つきで帯を解き、襦袢の合わせを整えた。
蒼矢は苡月の肩を借りながら階下へ降りると、朝のお勤めを終えた葉月と廊下で鉢合わせた。
「…! おはよう。良かった、やっと起きてくれたね」
「すみませんでした。長い時間ご迷惑をおかけしたみたいで」
「ううん。…身体の具合はどう? 大丈夫?」
「少しふらふらしますが、問題ありません」
「昨日から何も食べてないからね。…お腹空いてるでしょう、朝ご飯用意するから、座って待っててね」
長髪をお団子に結わえ、たすき掛けをしながらキッチンへと歩いていく葉月の後ろ姿を見送ってから、蒼矢は苡月を伴って居間へ入る。
すぐに葉月お手製の朝食が運び込まれ、3人で食卓を囲った。
「蒼矢、目覚めて早々悪いんだけど…昨日のことを、
「構いません。わかりました」
「お兄ちゃん、その前に…」
「ん?」
「蒼矢君、昨日お風呂に入れなかったから…沸かしてあるんです」
「! そうなんだ、気が利くね苡月。そうだね、さっぱりしてからにしようか」
「はい、是非そうして欲しいです」
葉月の同意に、苡月が嬉しそうに微笑む。
兄弟ふたりの朗らかな顔を見比べ、蒼矢は無言で頷くと、箸を進めた。