すっかり日が暮れ、都内の某大学に隣接している男子学生寮にも、夜の時間が訪れていた。
学生たちが続々と大学やバイト先から帰宅し、景色に溶ける灰色の低層建物にぽつぽつと明かりが灯り始める。静かな時間帯にさしかかるところ、かえって次第に喧騒が増し賑やかになっていく様は、若者だけが集う学生寮ならではといったところであった。
部屋から部屋へ足音をたてて移動していく者や、なにやら奇声をあげる者など、既に日常茶飯事の様相を呈していく中、とある角部屋の一室はそれらとは一線を画す静寂と、濃い霧のような煙で満たされていた。
狭いワンルームに備えられた小窓の下で片膝を立てて座り、
休日とあって起き抜けなのか、いつもは彼流に整えられている黒髪は乱れ、下着が見えそうに緩く履いたスウェットにタンクトップ姿で、首からは黒い石が光る銀色のペンダントが下がっていた。
「…」
表情に生気は薄く、虚ろげな双眸は間接照明しか灯らない空間をどこともなく見やったままで、短くなった煙草を指に摘み、既に吸殻で埋め尽くされた灰皿に投げる。
口に残った紫煙を溜息と共に吐くと、スウェットのポケットに収められた煙草ケースへ伸ばす。しかし途中で手は止まり、そのまま前髪をかき上げ頭を軽く打ちつけた。
と、床に転がるスマホが震え、影斗は視線だけをやり、光る液晶をぼんやりと眺める。
持ち主に拾われることが無いままスマホは長く振動し続け、やがて静かになった。
「…放っとけって言っただろうが。…阿呆が」
留守電を残していった相手――
「……思い出させんじゃねぇよ」
――
もう、待てなかった。
むしろ、待ち過ぎたのかもしれない。
「そろそろはっきりさせねぇか? 俺たち」
穢れを知らない薄い瞳が、きょとんと見返してくる。
心から、"見当がつかない"という面持ちを晒してくる。
予想通りの反応だったが、この時ばかりは爪の先ほどでもいいから察して欲しいと恨んだ。
「先輩じゃねぇよ。外向けに
当然だ。初めて一目惚れした相手を、
周りの誰に指摘されなくたって、そんな関係で収まることなんて望んじゃいない。
出会ってから一度たりとも、俺の中のあいつへの思慕はずれたことが無い。
…出会ったあの時からずっと、誰よりも、何を捨ててでも、常に一番に想ってきた。
…どんなにあいつに伝わらなくても。
「出会った時から、お前が好きだ。ダチンコとか、仲間とか、そういう類のもんじゃねぇ。お前を、俺の恋人にしたい。そういう"好き"だ。わかるよな?」
自分でも笑えてくるくらい、
これくらいのレベルで伝えないと、何度も煮え湯を飲まされてきた経験則上また空振りを喰らい、逃げられてしまう。
それでも馬鹿にし過ぎたと思ったが、結果自分に用意された"決断"のステージを、ようやく理解できたようだった。