「4年半、ずっと好きだった。もう俺は十分待った…お前にとって、俺は何だ? …今ここで、お前の答えを聞かせろ。
「……っ…」
「蒼矢」
呼び掛けに、蒼矢は困惑した面持ちから上目遣いで影斗を見返した。
「…今すぐ、じゃないといけませんか…?」
おずおずと漏れる言葉に、影斗はため息をつく。
「俺はもう、充分お前に考える時間をやってる」
「……」
急かされるものの、口をつぐんでしまう彼を見つめ、影斗は努めて柔らかな口調で低く呟く。
「…"男だから"って理由で断っちまってもいいんだぞ」
考え方次第では、悪手ともとれる一言だった。しかしその実、影斗にとっては
もはやそれが理由でもいい。
そう思って、あえて伝えた。
蒼矢は逡巡するように目を伏せ、沈黙した後、再び影斗を見つめた。
「…すみません。先輩の気持ちには…、…応えられません」
影斗は返答を受けても黙ったまま彼を見返す。無言で促され、蒼矢はわずかに頬を染めながら、視線は外さずに続けた。
「先輩は…俺にとって見上げる人で、導いてくれる人で…先輩と関ってきたこの数年間で、俺の中でそういう人だって、固まってしまっているんです。…それ以外の存在として見ることはできません」
影斗の中に初めて、落胆の感情が降りていく。
自分が過去下してきたいくつもの判断の過ちに、悔しさが込み上げてくる。
「先輩がいつも気遣って下さったり、…愛情を注いで下さったりするのも、すごく感じてます。自分には勿体無いくらいで、本当に感謝しています。…でも、だから…俺は先輩と同じくらい、先輩に思いを返せる自信がありません。きっとこれからも、先輩からの愛情に甘えてしまうだけになる。…俺はそれが嫌だし、…苦しいんです」
影斗は頬に触れていた手を首筋へと移し、シャツの中へ滑り込ませる。
「…っ」
肌を這うその感触に、蒼矢の身体がぴくりと揺れる。
手のひらから伝わる熱に目を細める面差しを、影斗は表情を変えずにじっと見下ろす。
「俺からの一方的でもいい。傍に居てくれるだけでいい。…だったら?」
「……、…すみません」
しかし、その少し強引に続けた口説き文句にも、蒼矢は首を横に振った。
「…」
影斗は息を吐き出しながら、蒼矢から手を離す。
被さっていた身体を外していく影斗を追うように、蒼矢は身を起こした。
「でも先輩は、俺にとってかけがえのない人です。…唯一の人なんです。…それだけは…」
「…わかった。ありがとな」
焦った風に、思いを振り絞って訴える蒼矢へ、影斗はそう短く応えるだけだった。
「…帰っか」
「……」
そう声を掛けられ立ち上がったものの、蒼矢はうつむいたまま歩き出せない。
「おら、行くぞ」
「…、…っ先輩、」
「謝んなよ」
零れかけた言葉を止められ、思わず見上げた蒼矢を、振り向いた影斗は静かに、鋭さを込めた視線で見やっていた。
「謝んな。お前の口から謝罪はもう聞きたくねぇ。…こっちが惨めになるだけだ」
「…っ……」
そして少しずつ歪んでいく面差しに、落ち着いた声色で続けた。
「お前とはしばらく会わねぇ。…俺がいいって言うまで連絡してくんな」
――