「
「…あぁ!! そうそう、お前にこれ見て欲しくってさー」
「この前お前に見てもらった定理と解き方、まんま出たぜ! その結果、補講スルー達成!!」
どうやら数学の小テストらしいその用紙を指差しながら、陽は頬を上気させる。問題文と陽の解答に目を通し、苡月も嬉しそうに顔をあげた。
「…良かったね!」
「おう! いやー、まさかお前が理系人間に育ってるとは思わなかったぜ。兄貴は超文系なのになー。つか、中三なのに高校で習う数学まで出来んのすごくね?」
「好きで、高校でやる内容まで追っちゃうんだ。…役に立てて嬉しい」
「もうお前様々よ! 今まで俺の数学をどうにかしてくれるの
「…苦労してたんだね」
少し前まで兄貴風吹かして勉強見てやるなどとのたまっていたのに、いつの間にやら逆に教えてもらう立場になり下がってしまっていた陽だったが、双方そんな違和感は全く気にしていない。
「今後もよろしく頼むぜ!」
「期待値が大き過ぎるよ…」
「お前も高校入る前に予習できるし、一石二鳥だろぉ? 俺の成績底上げに貢献してくれよ」
「うん、でも…」
陽の言を受け、苡月は少し目を見開かせた後、再び視線を下げた。
「多分、自分にはあまり役に立たないよ。…少しは一般教養としてやると思うけど」
苡月はそう、どこか言いにくそうに手遊びしながら漏らし、やや眉をひそめる陽を上目遣いで見る。
「…秘密だからね。…あっちの学校の保健の先生以外には、まだ誰にも言ってないんだ」
そして棒立ちの陽へ寄ると、耳打ちした。
「……っ!?」
「…良かった。陽君、大声で言っちゃうと思った」
耳そばで明かされた苡月の言葉に、陽はリアクション出来ずに声を詰まらせてしまった。そんな彼の表情を追いながら、苡月は気恥ずかしそうに微笑っていた。
陽は驚きを隠せずにしばらく無言で固まっていたが、彼の表情を受け、無い頭からどうにか言葉をしぼり出す。
「……そ…そっか。いや、いいんじゃねぇ? その歳からちゃんと進路決められる奴はそういねぇと思うし…すげーと思う!」
「そうかな…ありがとう」
「その話、
「! …うん、まだなんだ」
「大丈夫なんか? 兄貴なんだし、こっちから通うつもりならちゃんと言っといた方が良くね?」
「いずれは必ず言うよ。…今はまだ言っちゃいけない気がするんだ」
苡月はそう返すと、頬を少し染めながら自分の手元を見つめた。
「僕、
「……!」
「だからもう少し…こっちで色んなことに慣れて、胸を張って志望先が言えるようになるまで、秘密にしておくつもり」
「苡月……!!」
静かにゆっくりと、しかし確かな意思を持って考えを吐露する苡月を見、感極まった陽は瞳を潤ませながら彼の両肩を強く引き寄せた。
「すげぇっ…偉いぞ、お前!! ちょっと見ない間に成長してたんだなっ…兄貴分として、俺は感動した!! お前の気持ちは俺が一切合財受けとめた!!」
「陽君…!」
「月兄に言う時に心細くなったら、いつでも俺に連絡して来い! ずっと傍についててやるし、俺からも説得してやる!!」
「ありがとう」
顔を真っ赤にしながら腕で目元をぬぐい、苡月から手渡されたハンドタオルを受け取って顔を拭くと、少し落ち着いた陽は彼に問う。
「そういや、
「ううん、いるよ。今日は稽古の日だから。
「おっ、
「…きっと果物出してもらえるよ。僕さっき、新しいご供物買いに行ったから」
「わーい、秋の味覚!」
百足競争よろしく陽が背後から苡月の肩に両手を置きつつ、ふたりは仲良く境内脇の住居へ吸い込まれていった。