「……」
…からかったり優しくしたり、いつもこっちが狙って誘ったってそんな顔になりゃしねぇのに、なんでして欲しくねぇ時に限って簡単に出来んだよ。
…結局、困らせねぇと見せてくれねぇのかよ…
困らせた結果、蒼矢の悔恨に満ちた泣きそうな顔が、影斗の記憶の中の最後に残ってしまった。
…あんな顔さすつもりなかったのに。
…見たくもねえ面させて、何してんだ俺…
「くそ…」
どう接すれば意識してくれたんだろう。
どう言葉を掛ければ振り向いてくれたんだろう。
「……それが解りゃ、長年苦労はしてねぇってな…」
どこで間違ってしまったんだろうか。
数えきれない逢瀬の中で、正解だった時はあったんだろうか。
むしろ、数えきれない逢瀬の中に、正解を導き出せる機会はあったんだろうか。
「……」
何度目かの深い息を吐き出し、腕を押し当てる両眼の奥に、蒼矢と出会って間もない時の記憶がよみがえる。
――……俺は、お前と出会うべきじゃなかったな…――
自らしでかしたことへの後悔に、思わず投げやりになった時にふとよぎったあの言葉が、今になって確かな意味を持って心を潰してくる。
…結局、割り入る隙は無かったんだよな、きっと。
…出会った時点で既に、俺は出遅れてたんだ。
視界の正面に見える玄関ドアが軽く叩かれる。
「…」
目だけを向け、反応せずにいると、間隔をあけて再びノックされる。
鍵は開いていた。気心知れた相手なら、こちらのことなどお構い無しに開けて入ってくるのが常な学生寮だったが、ノブが回される様子は無い。
影斗は軽く舌打ちしながら身を起こし、ドアへとのそのそ歩いていく。
そして、不機嫌さを面に晒して開け、目の前に居た人物に時を止めた。
「…は?」
思わず間の抜けた声が漏れてしまった彼へ、蒼矢は少し目元を緩めながら微笑んでいた。
「…お前…何でここに…、っ…」
何故か眼鏡は無く、襟口が緩み、胸元深くまで露出するその艶めかしい姿に、気持ちが追い付かない影斗は言葉を詰まらせる。
蒼矢はするりと部屋へ入りドアを後ろ手で閉める。
「…すみません、突然」
「……会わねぇって言ったはずだけど」
「はい。ですが、あれから考えて…ずっと心残りで。断ってしまったことを…先輩の気持ちを無下にしてしまったことを、後悔してるんです」
そう言い、蒼矢は口元に笑みを浮かべて影斗を見つめる。
立ち尽くしたままの影斗は混乱しかける頭を必死に冷やし、彼へ視線を返しながら平静を取り戻そうとする。