近付き触れそうになった唇は影斗の口元を過ぎ、耳傍で囁く。
「今までずっと想って下さってた先輩に"誠意"を見せなければならないって、思いを改めました」
「…誠意?」
言葉を続ける代わりに、蒼矢は片手を懐へ戻して自分のシャツの前を開けた。
密着する彼から柔らかな肌の温かさが伝わり、小さな二つの突起が影斗の胸板を布越しにくすぐる。
それらを呆然と受け止め、影斗は眼前の襟足をただ眺めていたが、少しずつ思考が回るようになり、冷静になっていく。
「…これが、お前の"誠意"か?」
「はい。…受け取って頂けませんか…?」
…誰だ? こいつ。
「…」
影斗は遊ばせていた両腕を蒼矢の背中に回し、ややきつめに抱いた。
そして艶っぽく吐息を漏らした彼を一旦引き離し、その顔を真正面から見やった。
「…"お前"は、それでいいんだな?」
「はい」
問いかけに薄く頷いた蒼矢を、影斗は抱き寄せたままフローリングへ落とし、馬乗りになる。
シャツを払い、仰向けに寝そべる白い肌へと手を滑らせる。
「…」
蒼矢の裸体を間近で目にするのは、たぶん4年半前のあの日…不良に襲われた彼を助け出した時以来だと思われた。
その時でさえ、気持ちが冷静ではなかったことに加え、気絶する彼の着衣を即刻整えて背負ったため、あまり鮮明には覚えていない。
それでも微かに残る記憶の限りでは、中性的で起伏の浅い、未成熟な痩躯だった。
今眼前に見える彼は、影斗が知らない成長期という空白の間に、変貌を遂げていた。
滑らかな肌に骨張って浮き出る首筋と鎖骨。骨格を薄く覆う曲線の中に、地道に積み重ねてきた武術修練により確かな陰影の入った腹と胸。
美しさと、紛いようもない男性らしさを表出するその身体を見、影斗の中に形容しがたい感情が湧き上がってきた。
感慨深さと寂寥感を、ないまぜにしたような。
…お前、俺が気付かねぇ間に…知りたくても知りようがなかった間に、こんな風に成長してたんだな…
近くにありながらも手を出せなかったものは、いつしか手の届かないところへ行ってしまった。
溢れ出しそうな悔しさを噛み殺すと、影斗は蒼矢の脇腹を撫でていた手を移し、彼の顎を辿って下唇を軽くつまむ。
「……本当に、俺の好きにしていいんだな?」
触れる口元が、黙ったまま微笑を浮かべた。
その妖艶な面差しを、影斗は静かな表情で眺めやった。
…
タンクトップを脱ぎ捨て、少し浮かせていた身体を蒼矢の腰へ落とす。
「…目、閉じてろ」
言われる通り目を閉じた秀麗な面差しを見下ろし、影斗はその艶やかな唇へ顔を近付けていった。