居間へ入り、
「今日は、
「! はい…」
「今煙草中だから、少しゆっくりしてて」
蒼矢の前に緑茶と和菓子を置きながらそう言い、葉月は部屋を出ていった。
「…」
ひとりきりになった空間で、蒼矢は昨日葉月らから経緯を知らされたうえで
――
『転異空間』から帰還後、ほどなくして目が覚めた蒼矢は、葉月や
5人が
真相を濁しつつ本意ではなかったことを説明しながら謝ると、苡月はうつむきながら首を横に振ってみせた。
「もう、気にしてません。…大丈夫です」
「…」
そう返答するも、やはり何かを溜めこんでいるように感じられ、蒼矢は途方に暮れる。
しかしさすがに自分に何を言われたのかまでは聞きだしにくく、遠慮がちに肩に触れ、彼の視線へ合わせた。
「…俺は君との間に、壁みたいなものを残したくない。…思ってることがあるなら、話してくれないかな…?」
努めて優しく、慎重に問いかける蒼矢を、顔をあげた苡月は上目がちに見つめ返す。
「……思ってることって、蒼矢君への"お願い"でもいいですか…?」
「! うん、俺に出来ることなら」
苡月の"お願い"が、"なんらかの態度改善"と解釈した蒼矢は思わずほっとしたような表情を浮かべ、耳打ちを請うてくる彼へかがんで耳を近付ける。
「――…」
「……えぇっ?」
耳傍で告げられた苡月の"お願い"に、一瞬蒼矢の時が止まり、ついでうっかり素のリアクションが漏れる。
口に指を当てた苡月に注意を促された蒼矢は、慌てた風に辺りを見回した後、彼へ視線を戻す。
苡月は頬を染め、兄似のつぶらな瞳を輝かせながら目を細めていた。
その表情を受けて言葉を続けられなくなった蒼矢は、一瞬迷うように逡巡した後、短く息をついた。
「…わかった、引き受けるよ。…その代わり、俺の家でってことでいいかな…」
「はい、もちろんです!」
――
顎杖をつきながら回想していた蒼矢は、再び長く息を吐き出し、丸テーブルへ顔を伏せた。
「…やっぱり…、まだ赦されてない気がする」
そう心の声がぼそりと漏れた時、キッチンの方でスマホの通知音が鳴り、葉月がひょっこりと顔を出す。
「影斗が"もういい"って。中庭だよ」
「…! はい」
声掛けされ姿勢を直した蒼矢の表情は、少しずつ強張っていった。