「一人の身体に、男性器と女性器の両方が備わっている状態。つまり、両方の性を併せ持って生まれた人のことを、両性具有――通称“ふたなり”といいます」
珍しく静まり返った教室で、私は黒板に簡単な人体図を描きながら説明していく。
やはり思春期の真っ只中の高校一年生たちにとっては、この手の話は興味をそそられるものらしい。今までにないほどに、みんな食い入るようにして保健の教科書と黒板を見つめている。
「基礎的な身体のベースは女体ですが、筋力や持久力といった肉体的ポテンシャルは男性をも上回ると言われています。また、両方の性での生殖機能が備わっていますので、男性器の勃起や射精に加えて、女性器での受精や妊娠、出産が可能です」
「射精……妊娠……っ」
女性らしい丸みを帯びた人体図の股間部分に、陰茎と睾丸、そして子宮を書き加えながら説明を続けると、あちらこちらから生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
同時に、一部の男子生徒たちから私の胸の辺りに視線が注がれるのが気になってしまうけれど……年頃の男の子であれば致し方ないことなのだろう。
教師として働き始めて3年が経とうとしてる私は、そんな生徒たちに構うことなく淡々と授業を進めていく。
『ふたなりの出生率は低く、比較的珍しい存在であること』『優れた身体能力を有するふたなりたちは、人類史の黎明期から非常に重宝され、支配者や権力者、時には英雄として歴史に名を残してきたこと』などなど……。
カリキュラムに則って、テストに出るような重要かつ必要最低限の情報だけを解説する。
もちろん、ふたなりの性的特徴はそれだけではないのだが……授業で取り扱うには少々刺激が強すぎる内容であるため、今回は割愛する。
「――ここまでで、何か質問のある人はいますか?」
「はいっ! 先生っ!」
「はい、どうぞ。 えっと……田中くん」
一通りの解説を終えて質問を促すと、待ってましたと言わんばかりに男子生徒の一人が手を挙げた。
田中くんは、このクラスで一番のお調子者として知られる、坊主頭のやんちゃな男の子だ。
何となく嫌な予感はするが、ここで無下に扱うわけにもいかないので、指名して発言を促す。
「先生のそのおっぱいって、本物なんスか!?」
(はぁ……またか……)
案の定、お調子者の質問は、授業に関係の無い無遠慮で下品なものだった。
保健をはじめとする副教科を担当する教師として、多少センシティブな内容の授業をすることもある私は、男子生徒からこういったセクハラまがいの質問を受けることも少なくない。
これでも、キッチリしたスーツと黒縁のダテメガネで多少は真面目そうに装っているつもりなのだが……やはり、この無駄に大きな胸は誤魔化せないようだ。
「授業に関係ない質問には答えません」
私は内心溜め息をつきながらも、毅然とした態度でその質問を切り捨てる。
ここで狼狽えたり、恥ずかしがったりしてしまうと、この手の生徒は余計に調子に乗るだけだと、これまでに身を持って痛感してきたからだ。
「それと、そういった質問はセクハラに該当しますので、今後は控えるようにしてください」
「すんません! でも、先生のおっぱいってマジでめっちゃデカいから、スイカでも入れてるんじゃないかって気になって!」
「それもセクハラです」
「あはは、サーセンッ!!」
私が少し強い口調で嗜めるも、全く反省している様子のない田中くんに、周りの女子生徒たちからは呆れたような視線が浴びせられる。
しかし、そこはお調子者で有名な彼なので、そんな批判もどこ吹く風でヘラヘラと笑っていた。
そのメンタルの強さだけは、私も見習うべきところがあるかもしれない……。
「それでは、授業を続けますね」
私は気を取り直して黒板に向き直ると、再び保健の授業を再開する。
田中くんのせいで若干場が乱れてしまったものの、その後は特に問題なく授業を進めることができた。
「――それでは、今日はここまでにします。今回の内容をまとめたプリントを配るので、各自で復習するように」
「起立、礼!」
チャイムが鳴り、日直の合図で授業を締めくくると、私は教科書類と次の授業で使うための大きな道具を抱えて教室を後にする。
(えっと……次は家庭科だから、調理室に行かないと……)
頭の中で今日の時間割を反芻しながら、ずっしり重く感じる荷物を両腕に抱いてよたよたと廊下を歩いていく。
女性としては平均的な身長・体重である私だが、その体格に似合わないHカップバストが足元を見えづらくしているため、余計に負担がかかってしまうのだ。
(はぁ……重い……)
やはりこの大きすぎる胸は、日常生活においては色々と不便だ。
そんなことを考えながら、一歩一歩、必死に廊下を踏みしめていると――。
「ミカ先生っ! それ、あたしが持ちますよ!」
「えっ……?」
不意に背後からかけられた声に振り返ると、そこには綺麗な栗色のポニーテールを靡かせた女子生徒が立っていた。
私のことを『ミカ先生』と愛称で呼ぶ彼女は、私の受け持つクラスの学級委員でもある
「ミカ先生ったら、またこんなに大きなもの抱えて……。いっつも大変そうですね?」
早乙女さんは、私の抱えていた荷物を半ば強引に取り上げると、それをまるでお手玉でもしているかのように軽々と持ち上げてみせた。
「彩花さん……ありがとう」
「いえいえ! お気になさらずっ!」
(彩花さんって……本当に良い子よね)
早乙女さんは明るく社交的な性格の女の子で、その可愛らしい顔立ちと抜群のプロポーションも相まって、男女問わず人気があるらしい。
スポーツが得意で勉強もできるという、まさに絵に描いたような優等生でもあるので、私を含め周りの先生たちからも全幅の信頼を寄せられている。
「あたし、こう見えて結構力持ちなんですよ?」
そう言って朗らかに笑う彩花さんは、器用に荷物を片腕にまとめて持ち直すと、空いた方の手で私の手を取り歩き出した。
私はその距離感に若干戸惑いながらも、自分の手を引いて歩く彼女に感謝の念を抱くのだった――。
◇
(ふぅ……なんとか今週も乗り切った……)
すっかり日も落ち、夜の闇に包まれた金曜日の午後8時過ぎ。
ようやく仕事を終えた私は、自宅のマンションへふらふらと帰ってきた。
高校教師の仕事は、授業だけではない。放課後は部活動の顧問をこなし、それが終われば来週の授業の準備をして、そして先輩教師に押し付けられた雑務をなんとか片付けて……。
そんな激務に追われ心身ともに疲労困憊な状態で帰宅した私は、玄関を抜けると一直線にキッチンへ向かい、冷蔵庫でキンキンに冷えていた缶ビールを取り出した。
「疲れたぁ……! ビール、ビール……!」
コンビニで買った安いおつまみをテーブルに並べ、缶ビールのプルタブをプシュッと開ける。
そして華金の開放感に身を任せるように、一気に黄金の液体を喉へ流し込む。
「んくっ、んくっ……っはぁー! おいしい……!」
ソファにどっかりと腰を下ろし、五臓六腑に染み渡るアルコールの刺激と苦みを堪能する。
お酒の味はあまり好きではない私だが、疲れている時に飲むビールだけは格別なのだ。
「やっぱこれがなきゃやってられないわぁ……。あー、ビール最高……」
まるで色気のない、おっさんのような台詞を呟きながら、私はだらしなくビールを呷る。
まあ、彼氏いない歴=年齢の女なんて、こんなものだ。
職場である高校では、周りの生徒や教師たちに舐められないように必死で取り繕っているが、家に帰ればこの有様である。
「私、今週も頑張った……。もう働きたくない……」
虚空に向かってブツブツと愚痴りながら、おつまみのチータラを口に運んでいく。
……最近は、こんな風に独り言を言うことが多くなった気がする。それもこれも、孤独な一人暮らしの弊害だろう。
そう思うとなんだか虚しさが込み上げてくると同時に、ムラムラとした感情が湧き上がってくる。
(最近忙しくてご無沙汰だったし……久しぶりにアレしちゃおうかな……)
お酒に弱く、早くも酔いが回ってきた私は、ふわふわとする頭でそんなことを考える。
昼間は男子生徒に下品だなんだと呆れていた手前、少しばかり気が引けるが……。
「私だって、年頃の女なんだし。たまには発散したっていいわよね……」
誰に対してでもない言い訳を口にしながら、私はノートパソコンを取りに立ち上がる。
ついでに冷蔵後から二本目のお酒も引っ掴むと、私はリビングのソファへと戻った。
「んくっ……んっ……っぷはぁぁ……」
普段は一本しか飲めない私だが、今日だけはもう少し酔いたい気分だった。
私は、二本目の缶ビールを半分ほど一気に飲み干すと、ノートパソコンの電源を入れる。
そして、お馴染みのアダルト動画サイトを開くと、慣れた手つきでとあるワードを打ち込んだ。
(『ふたなり』っと……)
私のお気に入りジャンルは、ここ数年はもっぱら“ふたなり”一筋だ。
ふたなりというのは、私が授業で生徒たちに教えていたとおり、両性具有のことを指す。女性のしなやかで美しい肉体に、雄々しい陰茎を兼ね備えたふたなりという存在は、私を含め、一部の層の性癖を大いに刺激して止まないのだ。
私なんて、その神秘的かつ魅惑的な身体に惹かれ、彼女たちの人体について勉強しまくった結果、気付けば保健の教員免許を取得して、高校教師になっていたくらいだ。
……うん、自分でも意味不明だとは思うが、実際そうなのだから仕方がない。
(今日のオカズはどれにしようかな……)
ビールを片手に、発売日順にずらりと並んだサムネイルを一つずつ吟味していく。
ふたなりモノの中でもなるべく、男優は登場せず、女の子同士の絡みだけが題材になっている作品を選ぶのが、私のこだわりポイントだ。
別に男性嫌いというわけではないのだが、彼氏などいたこともない私は、男女の濡れ場を見ていると独り身である現実の虚しさを感じてしまい、精神衛生上よろしくないのである……。
(お、これとか良さそう……)
『私の妹はふたなりっ!? ~無自覚に誘惑する巨乳姉と絶倫妹の禁断中出し性活~』
そのタイトルから察するに、おそらくふたなりの妹を持つ姉が主人公の姉妹モノだろう。
中々にそそられるサンプル動画に、じんわりと下腹部が潤いを帯びてくるのを感じる。
「よし……これにしよう」
私はさっさと購入手続きを済ませると、缶ビールの残りをぐっと煽った。
そして、ノートパソコンのモニターの角度を調整すると、私はいそいそとスラックスと下着を脱ぎ捨てるのだった……。
◇
『お姉ちゃんっ……お姉ちゃんっ……! あんっ……!』
『んあっ……! そこっ、だめぇ……っ!』
(うわぁ……エロい……)
画面に映るのは、姉妹の濃厚なセックスだ。
姉役は黒髪ロングの豊満な体型をした女優さん。そして、妹役の子は対照的にスレンダーな身体をしている……が、その股間には立派な男根が備わっているふたなり女優さんだ。
2人は一糸まとわぬ姿で抱き合いながら、汗ばんだ身体を密着させて、互いを激しく求め合っている。
『はぁんっ! いいっ……! おねえちゃぁん……!』
(……やばい、めっちゃ興奮する……)
姉妹モノ特有の背徳的なシチュエーションもさることながら、女優さんたちの迫真の演技がすごい。
私は自身の濡れそぼった女性器と、たわわに実った胸を弄り回しながら、すっかり彼女たちのセックスに釘付けになっていた。
(いいなぁ、いいなぁ……私もこんなえっちなことしたいなぁ……)
いつの間にか、私は画面内の姉と自分自身を重ね合わせていた。
24歳にして未だに処女な私は、その行為がもたらす快楽を、一度も実際に味わったことはない。
しかし、妄想逞しい私は、まるで本当にふたなりの妹と致しているような気持ちになり、すっかり身体を昂らせてしまっていた。
『はあっ……んっ……! お、お姉ちゃんっ……! もぉ、わたし、我慢出来ないよぉ……』
『うんっ……いいよ、お姉ちゃんの中に出して……!』
姉妹同士の熱い絡みも佳境に差し掛かり、彼女たちはラストスパートと言わんばかりに激しく腰を打ち付け合っている。
やがて姉妹はお互いの背中に手を回し、ギュッと抱き合いながら、絶頂へと至ろうとしていた。
『出すよっ、お姉ちゃん……んあっ、イクぅっ――!!』
『わたしも……イクっ、イックぅぅううぅっ!!』
(ああもうダメっ……私もイクッ……!)
2人が絶頂を迎えるのと同時に、私は右手の指で自身の充血した陰核をきゅっと押し潰した。
その瞬間、頭の中が真っ白になるようなオーガズムの波に襲われ、私はソファの上で全身をガクガクと震わせる。
久しぶりの自慰行為だったためか、その快感は凄まじく――。
「ぁあっ……! やば、い……っ!」
――ぴゅっ、ぷしぃっ……!
私はあまりの刺激に、軽く潮を噴いてしまった。
それは目の前のテーブルにも飛び散ってしまい、ノートパソコンや、食べかけのおつまみにもかかってしまった。
「はぁっ、はぁっ……あちゃー……もうサイアク……」
昔からこんなはしたないばかりしていたせいか、やたらと潮吹き体質になってしまっている私は、油断するとすぐこれだ。こんなことなら、先にタオルを敷いておけば良かった……。
絶頂後の気怠さに襲われながらも、パソコンが壊れてしまっては大ごとだと、私は急いでティッシュで愛液を拭き取っていく。
(ほんと私、この歳でなにやってんだろ……)
事後処理をしているうちに段々と冷静になってしまった私は、そんな自己嫌悪に陥りながら、大きなため息をつく。
……このところずっとこんな調子だ。メンタルはもうボロボロなのに、年甲斐もなく性欲ばかりは一丁前にあるのだから笑えない。
「私……このまま一生、処女のままなのかな……」
独りで慰めた結果、なんだかますます虚しい気持ちになってしまった私は、冷蔵庫から追加のお酒を取り出すと、やけくそ気味にグビっと呷った。
保健の教師として、性についてなんて偉そうに教えておきながら、その実、本人は性行為は愚かキスの経験もないなんて……。
こんな恥ずかしいことってあるだろうか?
……いや、ない。
「ううっ……もう終わりだぁ……」
あっという間に三本目の缶ビールを飲み干した私は、自然とぽろぽろと流れ落ちる涙を手で拭いながら、お先真っ暗な将来に絶望する。
家と職場の往復だけを繰り返す毎日に出会いの機会などあるはずもなく。彼氏はおろか友達すらもほとんどいない私は、これから先の人生、ずっと孤独に過ごしていくのだろう……。
(こんなんじゃ……私、死んでも死にきれないよぉ……!)
アルコールに侵された頭をぐるぐると巡らせながら、どうしたものだろうかと私は思考を巡らせる。
もはや結婚なんて高望みはしないから、せめて……せめて初体験くらいはしてみたい。
「そうだ……」
するとほどなくてして、答えと呼べそうなものが、私の頭の中に閃いた。
(風俗に行って、ふたなりの女の子に慰めてもらおう――!)
そう、風俗ならお金さえ払えば確実にその手の欲望を叶えてもらうことが出来るのだ。それも、私が愛してやまないふたなりの女の子に……!
我ながら、素晴らしい名案である。普段の私ならまず思いつかないだろうが、今日の私は冴えに冴えていた。
風俗なんて未知の世界だが、そこはネットの力を借りればなんとかなるだろう。
(そうと決まれば、善は急げね……!)
天啓とも言える思いつきにすっかり気分を良くした私は、私はこれまでのネガティブ思考から一転し、なんだか無性に嬉しくなってきた。
もはやなりふり構っていられない! 私は裸のままパソコンに向かうと、ふたなりの女の子が在籍している都内の風俗店を検索し始める。
「ええっと、どれがいいかなぁ~」
私はウキウキでマウスをカチカチさせながら、いくつかの店舗の情報をチェックしていく。
早いに越したことはないし、できれば明日にでも予約が入れられるところがいい。
「あっ、このお店とかいいかも!」
『女性のお客様限定☆ふたなりレズビアン風俗』の文言が書かれた風俗店が目に止まる。
ふたなりレズビアン――なんて素晴らしい響きだろうか。このお店に決めた!
私は興奮冷めやらぬまま、そのお店のホームページに書かれていた番号に、迷いなく電話を掛けた。
「こちら『ふたなりレズビアン風俗店・デュアルエクスタシー』です。ご予約のお電話でしょうか?」
「あっ、はい! ふたなりの女の子とエッチなことがしてみたくて……!」
「かしこまりました。当店では、お客様のご希望に沿ったキャストをご紹介することが可能です。ご要望などはございますか?」
「そうなんですか! えっと、それじゃあ――」