金髪の子の目に正気が戻った。彼女の動きがピタリと止まった。
彼女が僕の言葉に耳を傾けたことを確認してから、リズムを変える。
――キミ、アースピント――
金髪の子の全身に鳥肌が立ったのが、密着している僕には分かった。
間違いない。この子はスパイだ。
先日、僕に舞い降りた天啓はこれだった。
この街には他にもアースピント――スパイがいる。
それを知った直後、僕の中のスパイの知識に、彼女がピタリと当てはまった。
スパイには二種類いる。どこにでもいるような
そして、諜報員は特別な対拷問訓練も受けていると聞いたことがある。
だから、金髪の子はこんなにも美しく、タフだったんだ。
前線に来るとは思えないほど美麗。
時折見せる頭の回転の速さ。
それでいて獣の凌辱にも耐える
先日感じた、喉の奥の引っ掛かりが氷解した。スッキリ。
対拷問訓練の噂を聞いた時は、本当に役に立つのかなって思っていたけど、いやはや。こうしてブッチャーの責め苦に遭ってなお、正気を保つという、しっかりとした成果を出しているではないか。たいしたものだな。さすがはエリート集団。
とはいえ、疑問は尽きない。
どうして捕虜として潜入を? この立場だとほとんど情報が入ってこない。そもそも僕以外のブッチャーにあてがわれていたら、今頃廃人になっていた。中で行われていることは不明だったとしても、ほとんど捨て身に近い潜入手段だ。
どうやってここから外の連中に情報を流しているんだろう? 先日見た男スパイのように、配管を通じたモールスかと予想しているんだけど、さすがに無理があるかも。なにか別の手段があるのかな。
なんにせよ、自分を犠牲にしてこんなところにまで潜入してくるとは。二度と脱出は不可能かも知れないのに……そのプロ根性、恐れ入る。同じプロとして、彼女にもシンパシーを感じる。
「――なんで……うそ……だっおブッ――んグ――ッ!」
おっと。
慌てて彼女の口に舌を突っ込んだ。
――シャベルナ、モールス、シャベルナ、モールス、シャベルナ、モールス――
僕にも立場というものがある。不用意に話しかけてこないで欲しい。
金髪の子は小さく頷いた。
さて……次は、この子にどうやって僕にモールスを送らせるかだ。
彼女は僕に抱きついていて、両手両脚は僕の背中に回ってる。下手に動かすとバレちゃうな……あ、そうだ。
僕は彼女の口に差し入れていた舌を引いた。浅く差し込んだ状態にし、彼女の顎の動きを妨げない具合にだ。
金髪の子は小さく困惑の表情を浮かべたけど、すぐに僕の意図に気が付いた様子で、差し込まれた舌を甘噛みし始めた。そこにはリズムがある。
この子、やっぱり頭が回るぞ。さすがはアースピント。エリートだ。
――コトバ、ワカル、?――
――ワカル――
金髪の子がモグモグと、おっかなびっくり僕のベロを噛み、僕がこっそり彼女の尻肉を指の腹でペチペチと叩く。僕らは抱き合ったままこの行為を続ける。
――アースピント、シッテル、?――
――アースピント、シッテル、キミ、スパイ――
金髪の子は、僕がスパイという単語を出した時に、眼球を小さく揺らした。なにか動揺があったようだ。
まぁ、スパイだとバレたら凄惨な拷問レイプの上、フルタイム輪姦肉便器で死ぬまで地下室放置は当たり前だもんね。食事は飲ザー。最後はダルマにされて変態野郎のペットコースか、胎が壊れるまで生む装置。女の死に方としては最悪の部類に入る。
それでいい。怖がってもらわないと。
僕はこれから、この子を支配するんだから。
――ナゼ、オハナシ、スル、?――
――ボク、キョウミ、アル、キミ、ナニ、シタイ、?――
それにしてもすごい。本当に会話が成り立ってる。
彼女もびっくり仰天してるだろうけど、僕はもっとだ。
頭上からファンファーレと共にパアァッと光が降りてくるようだった。
さてさて。ここからどうやって彼女に協力させようかな。
ただの捕虜兵だったら役立たずだと思っていたけど、アースピントなら別だ。
アースピントはエリートだ。捨て駒で飛び込んで来るはずがない。たぶん、ここから脱出する手はずも計画されているはず。そこに僕も乗せてもらおう。
情報通の諜報員だ。ひょっとしたらブッチャーの制御の仕組みについても詳しいかも知れない。この制御装置をどうにかする手伝いもさせたい。
でも、素直に僕が脱出したい、制御装置を外したいと彼女に伝えるのはタブーだ。弱みを見せれば、それをカードに交渉をかけてくる。それをやられると辛い。立場をイーブンに持っていかれるのは駄目だ。
外で自由に動ける奴らとは違って今の彼女は囚われの身。しかも都合の良いことに、僕の供物としてあてがわれている。これなら恐怖と苦痛で支配して、一方的に言うことを聞かせられるかも知れない。
僕の持っているカードは少ない。
君を犯す。殺す。食べる。この子は先日、鬼軍曹のレクチャーを受講済みだから、僕が本気で犯すと言えばかなり怖いはず。
他には、別のブッチャーに渡す。彼女を次のステージに送り出す。
僕は喋れないから本当はできないんだけど、君をスパイだとエイリアンにばらすぞ、って嘘をつく戦法もあるな。
でも脅せるカードはこれだけ。拷問に強いアースピント相手だとちょっと弱い。
彼女は単身捕虜として飛び込んでくるほどの剛の者だ。もっと、こう、彼女の精神を根底から揺さぶれる、切れ味鋭い脅迫が欲しい。
うーん。
……確か、スパイは大ポカをやらかすと、家族にも連帯責任がいくはずだ。
そうだ。君が裏切ったと、嘘の情報をアースピントに流すぞ。が一番強力なカードになり得る。エリートを排出するほどの家柄のはずだ。そんな噂が立っただけでも、彼女の家族は想像を絶する苦境に立つ。これでいこう。
僕がそんな風にして、腕の中のエリートスパイを出し抜く作戦を練っていると、金髪の子が、僕の恐ろしい顔をじっと見つめていることに、ふと気が付いた。
動かない僕を不思議に思ったのだろうか。彼女は僕の目をまっすぐ見ている。
見つめ合う。
利発そうで、綺麗な
そこに不思議な安らぎと力強さを同時に感じる。
やげて、彼女は意を決したように顎を動かし始めた。
――ワタシ、デタイ、ココカラ、タスケテ、ホシイ、オネガイ――
ここから出たい? 助けて?
……あれ? なんか僕が思っていたのとは違うっぽい?
自己犠牲精神で自ら乗り込んで来たのでは?
ひょっとして、何かしくじって捕まっただけ?
外のアースピントと繋がっていない?
脱出ルート無し?
やっぱこの女、ただの役立たず?
っていうか、そういうことを直接敵に言う? 何考えてるの君?
突然の救出要請に、今度は僕が当惑していると、彼女は器用にクチュクチュと僕の舌を
――ワタシ、ナマエ――
彼女の
――アビゲイル――
ドクリと、僕の大きな心臓が跳ねた。
アビゲイル……。
アビゲイル……。
アビゲイル……。
――アナタハ、?――
ベロの刺激で現実に引き戻された僕は、彼女の柔らかい尻を静かにペチペチ。
――ジェヴォーダン――
僕はジェヴォーダン。人間の魂を持った囚われのケダモノ。
でも元人間だという事実は伏せることにする。今は、彼女にほんのわずかなアドバンテージも与えたくない。
彼女はスパイだ。狡猾な人種。何気ない情報ですら、彼女の武器になり得る。支配するのは僕であって、彼女ではない。
僕はジェヴォーダン。エイリアン達によって生み出されたケダモノ。犯し、殺して、食らうだけの背徳的な野獣。囚われた哀れな娘に暇つぶしに話しかけただけ。君は数ある慰み物の一人に過ぎない。助けを求めているのは君。僕は君がどうなろうと知ったことではない。僕の言うことを聞かなければ手酷く凌辱してぶち壊す。君が裏切り者だとアースピントに嘘を流す。僕がフォートについたら君の関係者を皆殺しにする。僕の言うことに従え。
でもモールス信号でこの長文を送るのはかなり厳しい。
だから要点だけ繰り返す。
――シタガエ、アビゲイル、アースピント、バラス、アビゲイル、スパイ、カチクイカ、シタガエ、アビゲイル、ウマソウ、アビゲイル、カゾク、ツブス、ゼンブ、アビゲイル、オカス、シヌマデ、アビゲイル、キモチイイ、アビゲイル、ウラギル、アビゲイル、キレイ、コワス、アビゲイル、シヌ、アビゲイル、ニゲル、アビゲイル、ツカマエル、アビゲイル、オイシソウ、アビゲイル、ヒキニク、アビゲイル、セール、ウル、ゼンブ、アビゲイル、ボクノモノ、シタガエ、アビゲイル――