※この作品はR-18です。

屠殺鬼   作:赤だし滑子

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金髪の子

 金髪の子の目に正気が戻った。彼女の動きがピタリと止まった。

 

 彼女が僕の言葉に耳を傾けたことを確認してから、リズムを変える。

 

 ――キミ、アースピント――

 

 金髪の子の全身に鳥肌が立ったのが、密着している僕には分かった。

 

 間違いない。この子はスパイだ。

 

 先日、僕に舞い降りた天啓はこれだった。

 

 この街には他にもアースピント――スパイがいる。

 

 それを知った直後、僕の中のスパイの知識に、彼女がピタリと当てはまった。

 

 スパイには二種類いる。どこにでもいるような隠密(おんみつ)に適した平凡な容姿を持つ人間と、逆に相手に取り入りやすい容姿端麗な人間だ。彼女は後者。

 

 そして、諜報員は特別な対拷問訓練も受けていると聞いたことがある。

 

 だから、金髪の子はこんなにも美しく、タフだったんだ。

 

 前線に来るとは思えないほど美麗。

 

 時折見せる頭の回転の速さ。

 

 それでいて獣の凌辱にも耐える精神力(タフネス)。

 

 先日感じた、喉の奥の引っ掛かりが氷解した。スッキリ。

 

 対拷問訓練の噂を聞いた時は、本当に役に立つのかなって思っていたけど、いやはや。こうしてブッチャーの責め苦に遭ってなお、正気を保つという、しっかりとした成果を出しているではないか。たいしたものだな。さすがはエリート集団。

 

 とはいえ、疑問は尽きない。

 

 どうして捕虜として潜入を? この立場だとほとんど情報が入ってこない。そもそも僕以外のブッチャーにあてがわれていたら、今頃廃人になっていた。中で行われていることは不明だったとしても、ほとんど捨て身に近い潜入手段だ。

 

 どうやってここから外の連中に情報を流しているんだろう? 先日見た男スパイのように、配管を通じたモールスかと予想しているんだけど、さすがに無理があるかも。なにか別の手段があるのかな。

 

 なんにせよ、自分を犠牲にしてこんなところにまで潜入してくるとは。二度と脱出は不可能かも知れないのに……そのプロ根性、恐れ入る。同じプロとして、彼女にもシンパシーを感じる。

 

「――なんで……うそ……だっおブッ――んグ――ッ!」

 

 おっと。

 

 慌てて彼女の口に舌を突っ込んだ。

 

 ――シャベルナ、モールス、シャベルナ、モールス、シャベルナ、モールス――

 

 僕にも立場というものがある。不用意に話しかけてこないで欲しい。

 

 金髪の子は小さく頷いた。

 

 さて……次は、この子にどうやって僕にモールスを送らせるかだ。

 

 彼女は僕に抱きついていて、両手両脚は僕の背中に回ってる。下手に動かすとバレちゃうな……あ、そうだ。

 

 僕は彼女の口に差し入れていた舌を引いた。浅く差し込んだ状態にし、彼女の顎の動きを妨げない具合にだ。

 

 金髪の子は小さく困惑の表情を浮かべたけど、すぐに僕の意図に気が付いた様子で、差し込まれた舌を甘噛みし始めた。そこにはリズムがある。

 

 この子、やっぱり頭が回るぞ。さすがはアースピント。エリートだ。

 

 ――コトバ、ワカル、?――

 

 ――ワカル――

 

 金髪の子がモグモグと、おっかなびっくり僕のベロを噛み、僕がこっそり彼女の尻肉を指の腹でペチペチと叩く。僕らは抱き合ったままこの行為を続ける。

 

 傍(はた)から見れば、恋人同士が熱烈と愛に耽っているようにも見えただろう。

 

 ――アースピント、シッテル、?――

 

 ――アースピント、シッテル、キミ、スパイ――

 

 金髪の子は、僕がスパイという単語を出した時に、眼球を小さく揺らした。なにか動揺があったようだ。

 

 まぁ、スパイだとバレたら凄惨な拷問レイプの上、フルタイム輪姦肉便器で死ぬまで地下室放置は当たり前だもんね。食事は飲ザー。最後はダルマにされて変態野郎のペットコースか、胎が壊れるまで生む装置。女の死に方としては最悪の部類に入る。

 

 それでいい。怖がってもらわないと。

 

 僕はこれから、この子を支配するんだから。

 

 ――ナゼ、オハナシ、スル、?――

 

 ――ボク、キョウミ、アル、キミ、ナニ、シタイ、?――

 

 それにしてもすごい。本当に会話が成り立ってる。

 

 彼女もびっくり仰天してるだろうけど、僕はもっとだ。

 

 頭上からファンファーレと共にパアァッと光が降りてくるようだった。

 

 さてさて。ここからどうやって彼女に協力させようかな。

 

 ただの捕虜兵だったら役立たずだと思っていたけど、アースピントなら別だ。

 

 アースピントはエリートだ。捨て駒で飛び込んで来るはずがない。たぶん、ここから脱出する手はずも計画されているはず。そこに僕も乗せてもらおう。

 

 情報通の諜報員だ。ひょっとしたらブッチャーの制御の仕組みについても詳しいかも知れない。この制御装置をどうにかする手伝いもさせたい。

 

 でも、素直に僕が脱出したい、制御装置を外したいと彼女に伝えるのはタブーだ。弱みを見せれば、それをカードに交渉をかけてくる。それをやられると辛い。立場をイーブンに持っていかれるのは駄目だ。

 

 外で自由に動ける奴らとは違って今の彼女は囚われの身。しかも都合の良いことに、僕の供物としてあてがわれている。これなら恐怖と苦痛で支配して、一方的に言うことを聞かせられるかも知れない。

 

 僕の持っているカードは少ない。

 

 君を犯す。殺す。食べる。この子は先日、鬼軍曹のレクチャーを受講済みだから、僕が本気で犯すと言えばかなり怖いはず。

 

 他には、別のブッチャーに渡す。彼女を次のステージに送り出す。

 

 僕は喋れないから本当はできないんだけど、君をスパイだとエイリアンにばらすぞ、って嘘をつく戦法もあるな。

 

 でも脅せるカードはこれだけ。拷問に強いアースピント相手だとちょっと弱い。

 

 彼女は単身捕虜として飛び込んでくるほどの剛の者だ。もっと、こう、彼女の精神を根底から揺さぶれる、切れ味鋭い脅迫が欲しい。

 

 うーん。

 

 ……確か、スパイは大ポカをやらかすと、家族にも連帯責任がいくはずだ。

 

 そうだ。君が裏切ったと、嘘の情報をアースピントに流すぞ。が一番強力なカードになり得る。エリートを排出するほどの家柄のはずだ。そんな噂が立っただけでも、彼女の家族は想像を絶する苦境に立つ。これでいこう。

 

 僕がそんな風にして、腕の中のエリートスパイを出し抜く作戦を練っていると、金髪の子が、僕の恐ろしい顔をじっと見つめていることに、ふと気が付いた。

 

 動かない僕を不思議に思ったのだろうか。彼女は僕の目をまっすぐ見ている。

 

 見つめ合う。

 

 利発そうで、綺麗な榛(はしばみ)色の瞳。

 

 そこに不思議な安らぎと力強さを同時に感じる。

 

 やげて、彼女は意を決したように顎を動かし始めた。

 

 ――ワタシ、デタイ、ココカラ、タスケテ、ホシイ、オネガイ――

 

 ここから出たい? 助けて?

 

 ……あれ? なんか僕が思っていたのとは違うっぽい?

 

 自己犠牲精神で自ら乗り込んで来たのでは?

 

 ひょっとして、何かしくじって捕まっただけ?

 

 外のアースピントと繋がっていない?

 

 脱出ルート無し?

 

 やっぱこの女、ただの役立たず?

 

 っていうか、そういうことを直接敵に言う? 何考えてるの君?

 

 突然の救出要請に、今度は僕が当惑していると、彼女は器用にクチュクチュと僕の舌を食(は)み続けた。

 

 ――ワタシ、ナマエ――

 

 彼女の榛(はしばみ)色の瞳が、静かに僕を射貫いた。

 

 ――アビゲイル――

 

 ドクリと、僕の大きな心臓が跳ねた。

 

 アビゲイル……。

 

 アビゲイル……。

 

 アビゲイル……。

 

 ――アナタハ、?――

 

 ベロの刺激で現実に引き戻された僕は、彼女の柔らかい尻を静かにペチペチ。

 

 ――ジェヴォーダン――

 

 僕はジェヴォーダン。人間の魂を持った囚われのケダモノ。

 

 でも元人間だという事実は伏せることにする。今は、彼女にほんのわずかなアドバンテージも与えたくない。

 

 彼女はスパイだ。狡猾な人種。何気ない情報ですら、彼女の武器になり得る。支配するのは僕であって、彼女ではない。

 

 僕はジェヴォーダン。エイリアン達によって生み出されたケダモノ。犯し、殺して、食らうだけの背徳的な野獣。囚われた哀れな娘に暇つぶしに話しかけただけ。君は数ある慰み物の一人に過ぎない。助けを求めているのは君。僕は君がどうなろうと知ったことではない。僕の言うことを聞かなければ手酷く凌辱してぶち壊す。君が裏切り者だとアースピントに嘘を流す。僕がフォートについたら君の関係者を皆殺しにする。僕の言うことに従え。

 

 でもモールス信号でこの長文を送るのはかなり厳しい。

 

 だから要点だけ繰り返す。

 

 ――シタガエ、アビゲイル、アースピント、バラス、アビゲイル、スパイ、カチクイカ、シタガエ、アビゲイル、ウマソウ、アビゲイル、カゾク、ツブス、ゼンブ、アビゲイル、オカス、シヌマデ、アビゲイル、キモチイイ、アビゲイル、ウラギル、アビゲイル、キレイ、コワス、アビゲイル、シヌ、アビゲイル、ニゲル、アビゲイル、ツカマエル、アビゲイル、オイシソウ、アビゲイル、ヒキニク、アビゲイル、セール、ウル、ゼンブ、アビゲイル、ボクノモノ、シタガエ、アビゲイル――

 

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