※この作品はR-18です。

屠殺鬼   作:赤だし滑子

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デモンストレーション

 逃げ惑う生徒たち。教師を含めて阿鼻叫喚。

 

 これはパフォーマンスだ。

 

 廊下を揺らしてドラゴンお嬢様の尻尾を追いかけながら、このホラー・チェイスの行く末を考える。

 

 フェリスに手を出すと、どうなるのかを女子校全体に知らしめ、かつ、やっぱりブッチャーを学校に連れてくるのは危なくない? という危機意識を振り撒く。

 

 ここで、こっぴどくドラゴンお嬢様を脅(おびや)かし、全校生徒にブッチャーの恐怖を存分に刻み込む。

 

 さらには、フェリス・グループにちょっかいを出すと、またあいつがやって来るぞ……という戒(いまし)め系怪談的な潜在意識を植え付ける。

 

 そうすれば僕がいなくなった後もフェリスは安泰。僕も施設に戻されてお役御免。二度と呼ばれることもない。

 

 いいよ。冴(さ)えてる。

 

 自画自賛と共に、お嬢様や周りの生徒に当たらないようにブッチャーナイフを振り下ろし、廊下の床を砕いた。

 

 とにかく人的被害が出ない範囲で大暴れした。

 

 窓を割り、天井を裂き、壁と柱を切断。あたかも旅行の記念と称して、壁に自分の名前を彫るような軽はずみな感覚で、ブッチャーの爪痕を次々と校舎に残していく。

 

 肩越しに僕を振り返って走るドラゴンお嬢様。あえて腕を前方に伸ばしながらその後を追う僕。そんな恐怖のドタバタ劇が長く続いた。

 

 ――あ、行き止まり。

 

 意図せずドラゴンお嬢様を追い詰める形となった。

 

 実は僕、終わり方で悩んでいる。何かインパクトのある締め方をしたいのだけど、それが思いつかない。

 

 睨み合う僕とドラゴンお嬢様。

 

 とりあえず、ブッチャーナイフをゴリゴリ引きずって前に出る。重苦しいナイフの先端が、床に一筋の深い傷を刻み込んだ。

 

「チッ……」

 

 ドラゴンお嬢様が舌打ちした。その顔に焦りが見える。

 

 僕も内心で冷や汗ダラダラ。ここからどうしよう……。

 

 いよいよ僕の間合いにお嬢様が入る。その寸前、なんと彼女はバサリと背中の翼をはためかせ、ゴッと音を立てて飛翔して見せたのだった。

 

 窓を突き破って校庭に出るお嬢様。ぼけっとそれを見上げるしかない僕。

 

 あの翼、飾りじゃないのか。

 

 いや……羽ばたいてないや。下から風が吹いている。魔法と併用なのかな。すごい。下からバッサバッサと髪の毛が舞い上がって超格好いい。でもスカートが巻き上がってショーツが見えている。赤のローレグか。髪の毛と合っていてお洒落だね。

 

「§▽◎☆○※■&〒□‼」

 

 彼女は勝ち誇った様子で僕を指差し、叫んでいる。

 

 まずいな……これで終わると、逃げられた間抜けなブッチャーと、逃げ切ったお嬢様凄い! という構図が出来上がってしまうぞ。僕の幸せ恐怖計画が台無しだ。

 

 ざわめきの中、全校生徒が飛行を続ける彼女に注目している。

 

 ――いや、これはチャンスだ。ピンチはチャンス。本物のプロは一撃で戦況をひっくり返すんだ。狙撃兵のド根性を見せろ。

 

 ブッチャーナイフを放り出し、数歩後ろに下がる。

 

 それを見てさらに高笑するドラゴンお嬢様。

 

 そんな彼女の様子を睨み付け、床を蹴った。

 

 バキィッとめくれ上がる床板。

 

 ドッドッドッと床を蹴り、窓枠を蹴って校庭の空に飛び出す。

 

 縦割れの瞳孔をキュッと窄(すぼ)ませて戦慄したドラゴンお嬢様。

 

 ブッチャーが空を舞うという信じがたい光景。

 

 それを唖然と見上げる周囲の視線。

 

 ――キャッチ!

 

「――がっ!」

 

 お嬢様の首を掴んだ。意表を突かれた彼女に逃げる暇はなかった。

 

 そのまま一緒に校庭に落ちていく僕たち。ドラゴンお嬢様は僕の腕を掴んで必死に抵抗したけど、僕の巨重を背負ってまでは飛行できなかった。

 

 ズゥゥン……という振動と共に巻き上がる砂埃(すなぼこり)。

 

 煙が収まると、その中から現れたのは、ドラゴンお嬢様の首を掴んで掲げ上げるブッチャーの姿だった。

 

 とったどー。胸中でそんな勝ちどきを上げる。

 

 これで全校生徒に僕の恐ろしさが伝わっただろう。

 

 この学校においてフィジカル的上位にあると目(もく)されるドラゴンお嬢様でも逃げ切れない。僕にかかれば、こうして無様に狩られてしまう。ブッチャーとは、それほど恐ろしい――――

 

 視界が真っ白に染まり、直後に痺れるような痛みが全身に来た。

 

 じんわりと視力が回復してくると、キーンという耳鳴りの奥にブスブスという音があって、そして焼き肉の匂いが鼻を突いた。

 

 何が起こったのか分からないままに、視線を上げる。

 

 そこには驚愕に引きつったドラゴンお嬢様の顔が浮いていた。半開きの口からはシューッと煙が漏れている。

 

 ……ブレスか。

 

 彼女、僕にブレスを吐きかけたな。

 

 そうだ。竜人や竜は、ブレスを放つんだった。油断した。

 

 僕も昔、その純然たる破壊の息吹(いぶき)に何度か巻き込まれかけたことがある。森に更地が出来上がって危うく消し炭になるところだった。

 

 そうか……僕は半分冗談のつもりだったんだけど、君は本気なんだね。

 

 いいね、いいね。その方がリアリティが出る。それにしても身体が痛い。

 

 視界が広い。ブッチャーバッグが至近距離のブレス直撃に耐えられなかったみたいだ。エプロンも吹き飛んじゃって。見れば僕の全身が焦げてるじゃんか。こりゃ痛いよ。全身がⅢ度(さんど)の火傷(やけど)状態になってる。

 

 ドラゴンお嬢様が口を開けたのが見えた。牙の奥に光が見える。

 

 ――させるか。

 

 すかさず黝(あおぐろ)い舌を伸ばして彼女の口に突っ込んだ。

 

 そのまま喉の襞(ひだ)をコリコリと押し広げながら、ずぷずぷと喉奥に差し込んでいき、さらに首を握っていた手にも力を込めて気道を締め上げる。

 

 どういう原理で吐くのか分からないから、とりあえず全部閉じちゃうね?

 

 嘔吐(えず)き、痙攣しつつも僕の腕を引っ掻いたり、僕を蹴ったりと藻掻くお嬢様。そんな諦めの悪い姿を眺めていると、なんだか、段々とイライラしてきた。

 

 僕がフェリスの護衛についていたのは、知っていただろうに。

 

 そもそも事(こと)の発端が自分の行動にあるくせに、手加減して遊んであげていた僕にここまでやるか、普通?

 

 ゴッという鈍い音が聞こえ、同時に僕の視界が横に流れた。

 

 尻尾で殴られた。これもなかなか痛い。竜鱗(りゅうりん)のせいで釘バット並の威力だ。

 

 ドラゴンお嬢様が何度も尻尾で殴りつけてくる。

 

 すっごく、痛い。

 

 この……雌(めす)トカゲが……ッ!

 

 そもそも、ここの学校関係者はみんなブッチャーに対する警戒心が低すぎる。

 

 まぁ、僕は生物兵器に近いから。一般市民が目にする機会は滅多にないんだろうとは思う。街中に戦車が走ってても、市民からすると「おお、なんかすげぇのがいる」くらいの感覚なのかも知れない。

 

 とはいえ戦車を蹴ったり、あまつさえ引っ掻いたり。明確な攻撃を仕掛けるかな。ちょっと平和ぼけしすぎじゃないか、君たち。人間の子供だってそんなことしないぞ。

 

 ちゃんと教育しないから、休憩時間のたびに、とっかえひっかえ、まぐわったり、そこら中で虐めが横行する、こんな道徳崩壊した自由すぎる学び舎(や)が出来上がるんだ。

 

 ……そうだ、ここは学校じゃないか。

 

 僕も微力ながら教育の一助になろう。ちょうど全校生徒が見ていることだ。

 

 ブッチャーが犯し、殺し、食らうケダモノだっていうことを、教育して差し上げよう。

 

 パフォーマンスは終わり。次はデモンストレーションだ。この子を生け贄にして。そうすればこんな悲劇はもう二度と起こらない。彼女一人の犠牲で済む。

 

 犯しながら食べるの、最高なんだ。

 

 ブッチャーの三大欲求が全部同時に満たされる至高の贅沢。

 

 僕がまだブッチャーになりたての頃、自分を制御しきれずに一人だけ、やってしまったことがある。あれは今思い出してもムラムラする。ほら、もう僕の息子がギンギンにいきり立ってしまった。

 

 今日のご馳走を改めて見ると……ああ、ちょっと昂(たか)ぶって力が入っちゃった。彼女、もう意識がない。口の隙間から泡を吹いて。おしっこまで漏らしちゃって。

 

 まぁ生きていればいいや。死体じゃだめなんだ。生きていないと。

 

 舌をドラゴンお嬢様の喉から引き抜く。

 

 彼女の衣服を爪でバリィッと引き千切った。

 

 引き締まった筋肉質な女体だけど、出るところはしっかり出てる。僕好みの強そうな女だった。

 

 こういう女の魂を屈服させた時の至福感といったら。美味しそう。

 

 ドラゴンお嬢様を地面に叩き付ける。

 

 めくれ上がる校庭の土。その上に横たわった彼女。

 

 足首を掴んでぱっくり開かせ、のし掛かる。

 

 いただきまーす。

 

 ――殺すな。殺すな。殺すな。殺すな。殺すな。殺すな。殺すな。殺すな。

 

 今さら遅い。

 

 僕の禍々しい獣芯が、ドラゴンお嬢様のぴっちり閉じた綺麗な割れ目に当てがわれた。ぷりっとしたビラビラを押し開いた感触が心地いい。

 

 ブッチャーランスでひと息に串刺しにしてやる――。

 

 まさにその直前、僕の視界がまたしても光に遮(さえぎ)られた。

 

 何らかの攻撃を受けたことを覚悟した。

 

 続いてくるだろう痛みに身体を強張らせていると、全身を温水プールに放り込まれたような仄(ほの)温かさがあった。

 

 光が収まった。

 

 僕の視界にはフェリスの顔が広がっていた。

 

 彼女は僕の頭を両手で持って、真剣そうに目を閉じている。

 

 ――動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。動くな。

 

 ……このメッセージ、フェリスがやっているの?

 

 ふと、僕の腕にも柔らかな感触があることに気が付いた。そちらに目を向けると、例の褐色娘が手を当てていた。彼女も真剣そうに目を閉じている。

 

 いったい何なんだ? このメッセージは君が送っているの?

 

 ちょっと……うるさいな。君がこの雌トカゲのかわりに僕の餌食になってくれるのかな?

 

 褐色娘はビクッと肩をふるわせて、手を離した。

 

 ペチペチと、フェリスが僕の顔を叩いて何かを語りかけてくる。

 

「ジボダン★※§&◎! ▲〒ジボダン&! ジボダン! ジボダン■□◇〒!」

 

 ……。

 

 ……ふふっ。

 

 ジボダンって……クソダサい変形ロボの名前みたい。そんな真剣な顔で連呼しないでよ。笑っちゃう。ふふふっ。

 

 ――ああ、もう。

 

 間抜けなフェリスの呼びかけに毒気が抜かれたようだった。僕の中で膨らんでいたはずのブッチャーの凶暴性が、さっぱり消え去っていた。

 

 立ち上がって天を仰ぎ、青空に向かって吠えた。

 

 びりびりと空気が振動する。

 

 そういば、身体の痛みがなくなってる。フェリスか。

 

 また治してもらったね。お礼にまたまた舐めて上げよう。ペロリ。

 

「んっ……」

 

 フェリスの肩から力が抜けた。僕が落ち着いた事が分かったみたい。

 

 黝(あおぐろ)い舌を収納し、足元を見る。

 

 褐色娘に介抱されるドラゴンお嬢様。

 

 すごく口惜しいけど、仕方がない。

 

 正直なところ、止めてもらえたのは助かった。ここまでならまだ、お仕置きの範疇に入ってるだろう……多分。

 

 心配そうにお嬢様を見るフェリス。その頭をこっそり指で撫でた。

 

 校庭のど真ん中で、素っ裸のまま全校生徒にガチガチの勃起を鑑賞されるという新たな境地を切り開いた僕は、その日はフェリスに引き連れられて帰ることになった。

 

 帰り道、ストリーキング状態でおっ勃(た)てたまま街を歩く僕。その前を先導するフェリスはずっともじもじ、恥ずかしそうにしていた。耳がペタンと倒れている。

 

 そんな羞恥プレイの道すがら。精肉店の前を通りかかると、ミノタウロス店長が慌てて道に出てきて腰巻きを貸してくれた。ありがとう店長。一生ついて行く。

 

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