女子校を恐怖のどん底に叩き落とした僕は、ようやくいつもの退廃的な生活に戻れ……なかった。
馬車。
このご時世、馬車に揺られて僕は移動している。
遠征に参加するためだった。
僕と同じ馬車には、お気に入りのソバージュの子と、アビゲイルも一緒だ。
この馬車はブッチャー専用の車両だ。ラッシャーと呼ばれる、ブッチャーを使役する専門兵が御者をしている。
どうやらこの遠征は計画済みだったらしく、女子校で暴れた直後にもかかわらず、僕は独房送りにならずに、すぐにこの馬車に積み込まれての移動となった。
こういった遠征に同行するのは慣れっこだ。大抵は人間の拠点への攻撃参加、あるいは物資や人員輸送の護衛。
今回は攻撃参加。しかも、女が一緒ということはそれなりの遠出になるだろう。
女は当初ソバージュの子と、最近壊してしまった黒髪長髪の子が選ばれて馬車に乗っていた。外に出る時は正気を失っている女の方が逃亡の恐れが少なく、制御しやすいからだ。
でも、これは願ってもないチャンスだった。心苦しいながらも、挿入しない限りなにをしても無反応となった黒髪の子に向かって存分に威嚇行為を行って暴れた。
それでやっと黒髪の子が交代となって、アビゲイルが運良く回ってきたという運びだ。何度も暴れると怪しまれるので、一発で彼女を引き当てられたのはツイてた。
アビゲイルはこうして施設の外に出た。
彼女の話によると数ヶ月ぶりのはずだ。しばらくは言葉を失った様子だった。
では、これで彼女をどこかに逃がしてやればそれで終わりかというと、そうはいかない。彼女の首にはチョーカー型の逃亡防止装置が巻かれているから。
それは僕の側頭部の制御装置と似ていて、制御端末を持つエイリアンの意思によって、あるいは設定期間中にエイリアンの拠点に戻らないと、吹っ飛ぶ仕組みだ。
たぶん、アビゲイルはまだ自分が外に出された理由を分かっていない。彼女達はあくまで僕の性欲処理兼、種付け続行用に持ち出された対象であって、いちいち外出の理由を説明する必要がないからだ。しかし首の装置に関してだけは説明されて脅されているのか、彼女はしきりにチョーカーを気にする素振りを見せていた。
エイリアン達はどうやって彼女達にいうことを聞かせているんだろう。この遠征でその辺りも聞いてみよう。
アビゲイルは、やはりというべきか、抜け目がなかった。
周りのエイリアンの目を盗んでチラチラ。街の様子。外へ向かう道順。門の警備の様子。外に出た後も、しばらく道や森の様子を窺っていた。
申し訳程度の
いつもと違う場所に行けて、こういった、ちょっとした女の子の変化も楽しめるものだから、この遠征は僕にとって旅行気分の心躍るイベントとなっている。
しかも遠征先では思う存分、暴れられるからね。たまには僕だって自分の中に潜むブッチャーの暴力性を発散させないと身体に悪い。特に、今は女子校事件のせいで色々と溜まっている。楽しみだな。ある意味、過酷な女子校勤めへのご褒美とも言える。
ちなみに自分が死ぬかも、という点は心配していない。
これまでの経験からいって、僕を殺すには不意打ち気味に
そして人間側の戦力事情を知る僕には、この小規模な戦闘でそんな大火力が出てくる可能性は皆無だと分かっている。人間が全戦力を投じてくるのは、人類の生存の
心配なのはアビゲイルだ。小規模な戦闘でも彼女にはうっかり流れ弾の可能性がある。とにかく今回の遠征で気をつけないといけないことはそれだ。
そんな遠征の事情を、膝の上をトントン叩きながら教えてあげた。
――ニゲル、ダメ、クビ、トブ、タタカイ、ハジマル、ソト、デナイデ――
「……分かった。従う」
コクリと、アビゲイルが頷いた。
馬車にいる限り、彼女は大丈夫なはずだ。
何を隠そうこの馬車、ブッチャー輸送用の特別製。箱状の車両になっていて、監視員であるラッシャーが乗った先導馬車に引かれる仕組みだ。馬車に牽引されるトレーラーハウスを想像してもらうと近い。ただし窓は少なく、薄暗くて、中は相変わらず殺風景だ。
馬車なんていうと
しかも、よほどの悪路でない限りは揺れや振動がほとんどないという、車両として夢のような作り。本当にエイリアンのテクノロジーは摩訶不思議だ。
しかもしかも、窓を閉め切れば完全防音仕様。二十四時間ブッチャーのセックス音が漏れてたら、同行する兵士から苦情ものだからね。
普通のブッチャーの場合は、慰みものの女は別の馬車待機で、都度放り込まれるわけだけど、僕は優等生なので、なんと女は常に放り込まれた状態となる。今までの僕の従順な家畜っぷりがここで活きた。
つまり、移動中は馬車の中が自由空間。エイリアンの目を逃れられるんだ。
おかげで、こうしてアビゲイルは僕に向かって話かけることすらできる。是が非でも彼女を連れ出したかった理由だ。
いつもなら馬車の中にいる間はずっと暇だから、朝から晩まで女とまぐわっているだけだけど、今回は我慢だ。
正直、アビゲイルのワンピースの首元から、柔らかそうな谷間がチラリと見えるたびに押し倒したくなる。でも我慢。良い匂いがするけど我慢。
こうして僕とアビゲイルの落ち着いた会話は続いた。
この遠征は往復で少なくとも十日はかかるだろう、という僕の話も合わせて状況を理解した彼女は、ようやく安堵したのか、緊張の面持ちが少しずつ緩んでいった。
「――でね、その犯人っていうのが――」
そこからは、まずは最近のアビゲイルの楽しみだという半世紀前のミステリ本の話を聞かされる。
「――こんな服、今の時代で着てたら笑いものよね――」
次いで同様に凄く古いファッション雑誌も眺めたらしいけど、今の感覚でみるとものすごく滑稽で笑えて面白いという、割とどうでもいい話も聞かされる。
どうしてこの子は、こうも話の脱線が多いんだ? 状況分かってるよね……?
……まぁ、女だからかな。分からなくはない。
観念した僕は、まずは彼女の会話欲を満足させるべく、僕の近況を伝えた。
アビゲイルは僕の話に顔を強張らせたり、あるいは頬を緩めたり。興味深そうに耳を傾けていた。
特に僕がミノタウロス店長の精肉店でバイト(報酬は草のみ)をしている話は好きみたいだ。いろんなエピソードを話して聞かせると、目を輝かせてじっと聞いていた。
ブッチャーが普通の仕事してるのって、人間感覚で言うとびっくり仰天だよね。プロレスのヒール役がお洒落なカフェでバイトしてたみたいな感覚。合い挽き肉の話は黙っておいた。
段々とブッチャーの私生活が面白くなってきたのか、アビゲイルは次から次へと僕の話を聞きたがった。
狐っ子の話。狐っ子宅での防衛の話。
意外にも、彼女はその襲撃はタンゴチームという人間の特殊部隊だろうということを、あっさり僕に教えてくれた。結構前から街に潜入していたらしい。
アースピントは秘密を漏らさないものだけど、彼女は僕の信頼を勝ち取るためのカードを切ったつもりなのかも知れない。何故、狐っ子達が狙われたのかは分からないと言っていた。
「女子校……?」
話が最近の女子校のおつとめに移ると、アビゲイルは途中から眉をハの字にして困ったような顔になり、僕が我慢しすぎて憤死しかけた話に、ついには小さく吹き出した。
「んふ……ふふふっ……」
笑った彼女を見たのは初めてだった。不思議なくらい眩しい笑顔だった。
竜人のブレスを至近距離で食らった話に、アビゲイルは息を飲んだ。彼女は諜報員だから、竜の息吹の破壊力を正しく理解している。
「よく無事だったわね……」
あれは人類にとって本当に脅威なんだ。僕もブッチャーになって初めて受けたけど、強烈だった。それでも感覚としては、まだ何発でも平気そうではあった。アビゲイルはその話を聞いて唖然としていた。
「クスクス……ジェヴォーダンも大変なのね……んふふ」
ただし、その後すっぽんぽんで全校生徒に鑑賞された話。そしてそのままストリーキングで帰った話で、また困った顔になって笑っていた。
まぁ、彼女のストレスが減ったなら良かった。
フェリスと二人で名前を教え合った話。ジボダンと間違って名前が伝わったという話でクスクスと忍び笑いしたアビゲイルが、思い出したように僕の膝を
「回復魔法は、とても貴重な才能なのよ」
なるほど……それでフェリスはタンゴに狙われたのか。あの日の夜も、変態狐女はどうでもよくて、あくまでも狙いはフェリスだったのかも。でも他にも回復魔法を
アビゲイルは
そうこうしている内に、アビゲイルの様子がようやく落ち着いたので、問題の制御装置の話に移る。
この装置が自爆装置であるという点は、彼女に教えることにした。そうしないと話が進まないし、僕が死ねばアビゲイルの未来も断たれるわけだから、そう簡単に僕を殺そうとは思うまい。と判断した。
制御端末はしょっちゅう見かけるけど、この装置は他にも色々と
あるいは、近くに端末を持ったエイリアンがいなくても指令が飛んでくることがある。
僕の予想だと、どこかに電波塔みたいな場所があって、そこから遠隔で操作しているんじゃないかと疑っている。
そうなってくると、この自爆の
なので、脱出のための別案として、この側頭部の装置そのものを外すという手も考えた。実際、僕の頭の装置を外すほうがいろいろと都合が良い。そうすれば何がどう転ぼうとも脳味噌バーンされなくて済む。
もっとも本当にできるかどうかも、その方法もノーアイディアだ。
だからアビゲイルにはこの装置を外す方法を一緒に考えて欲しい。そして脱出までの細かい計画もお願いしたい。
それが、僕が君に望むこと。力が必要な場面は全部僕がやるし、それを当てにしてもらった計画で構わない。
「分かったわ」
アビゲイルが頷いた。
そこまで僕の考えを彼女に伝えると、少し考えてから彼女は、
「ジェヴォーダンは……」
と言いかけ、口を止めた。
しばらく、彼女の
「――いつから、あそこにいるの?」
元人間か? とは聞かなかったな。
アビゲイルはもう僕が元人間だと確信していると思う。だって、色々と人間側の知識に詳しすぎるもの。ずっとあの牢獄に閉じ込められている獣とは思えないだろう。そもそも言葉が分かる時点でね。
僕はその辺りはバレてもいいと思っている。
僕の基本スタンスは、記憶喪失だ。単純にして強力な言い訳。困ったら覚えていないの一点張り。僕のバックグラウンドについては彼女の想像に任せるつもりだ。実際かなりの記憶を虫食いで失っている。
僕の記憶喪失は、ちょっと変わっていて、主に人物関連の記憶がないみたいなんだ。誰かを思い出そうとすると、影法師となってその姿と名前が出てこない。自分の姿すら
まるで、僕と人との関わりを
牢獄の外に出られたら、フォートに復讐するつもりだという本心。それは彼女には伏せておく。アビゲイルには警戒心を持たせたくない。
僕は、外に出てみたい、囚われの、自由を夢見る憐れな獣。そういう設定。
意識がはっきりしてからは、おおよそ二、三年。それより前は覚えていない。それだけ伝えておく。
「そう……」
アビゲイルは視線を落として相づちを打った。
僕が何かを隠していると感づいたかな?
そう思って僕が彼女の顔を覗き込むと、アビゲイルの視線は僕の股間に注がれていた。頬が少し朱に染まっている。
いつの間にか、僕の息子がエプロンをグイッと
これはさ、しょうがないんだよ。この狭い空間で君が良い匂いを漂わせるものだから。しかも反対側ではソバージュの子も座って僕に寄りかかってるし、生理反応だって。
――ガマン、デキル――
僕がそう伝えると、アビゲイルが僕におずおずと上目遣いを送ってくる。
「――少しだけ……する?」