夜は恐ろしい。
ここはエイリアンの領地に近く、頻繁に〈魔獣〉が現れる。特に夜は魔獣の活動が活発化する。
魔獣は危険な敵だ。人々は壁の中に逃げ込み、朝日を信じて銃を持ち、森の闇を狙い続けなければならない時刻。
そんな日の暮れた道を、コロニーに向かって急ぎ帰る男達の中から、素っ頓狂な声が起こった。
「ええっ⁉ じゃあお前、彼女と結婚すんのか⁉」
「ああ……来週、彼女の両親がいるフォート51に移動して結婚式挙げるんだ」
おめでとう、フォートに入れるなんて羨ましい、もうすぐお別れか、もうやったの? 出来婚? そんな会話を交わしながら、夜の道を歩く男どもの集団。
街の門はもうすぐだ。
僕はその後ろを素知らぬ顔でついていく。
足音を忍ばせているとはいえ、彼らは至近距離でブッチャーの巨漢にまるで気付いた様子もない。むしろ仲間の一員として完全に
なぜなら、彼らからは、僕が、仲間の一人として見えているからだ。
すなわち、僕が、彼らの仲間を殺して、その皮を、被っているから――。
〈
僕は殺した相手の顔の皮を頭に貼りつけることで、周囲の人間からは、その人物がそこにいるかのように錯覚させられる。ひと言で言うと偽装だ。
僕も実際にブッチャーになるまで知らなかったけど、ブッチャーの奥底にはこういう狂った能力が山ほど眠っている。
僕はその力のほんの一端をエイリアン達にチラ見せして、自身の有益さをアピールしてきた。
普通のブッチャーはそんな能力をまったく使いこなせていない。ブッチャーと言えば、力任せにブッチャーナイフを担いで迫ってくるパワー系モンスターだというのが常識だ。
エイリアン達も、ブッチャーの中には、高々ひとつかふたつ固有な能力を備えた特殊個体がいるけど、基本的には力で押すタイプの怪物だ。そう理解している節がある。
僕は大人しく従っているフリをして、その間にこっそりと、ブッチャーの秘密を明らかにし、その力を徐々に採掘してきた。それらは僕だけの秘密の牙であり、爪でもある。
エイリアン達はブッチャーを危険な生物兵器として扱っているけど、それでもまだ過小評価だ。奴らはいずれ思い知ることになる。ブッチャーが実は、どれほど危険な怪物であるのかを――。
この摩訶不思議な〈
まず、触られれば間違いなく違和感を覚えるし、話しかけられても返答できないから、ものすごく怪しい。
ただただ、見た目を錯覚させるだけなんだ。映像経由でもバレる。だから監視カメラ付きのハイテクな門をくぐったりはできず、こうして集団に紛れたり、あるいは警備が手薄な場所にギリギリまで接近するのが主な用途となる。
加えて、〈
今回の攻撃目標となるコロニーは、
僕は一番槍として、今からそこへ堂々と進入するつもりだ。
エイリアン達は今、この門近くの森に配置していて、僕が中で暴れ始めたら突入する手はずになっているっぽい。
僕の役割は
ブッチャーに対して、裏から門を開けろとか、防御陣地を先に潰せとか難しい手順は指示できないとエイリアン達は考えている。だからなのか、「紛れて中に入れ」「暴れろ」、それ以外の指令を受けた試しがない。
談笑しながら門が開くのを待つ男達。
その後ろで、ぬぼーっと突っ立っている僕。
客観的に見て極めて不審。でも大丈夫。バレてない。
最悪バレたとしても、ここまで接近してしまえば、後はそのまま門を破壊して突入してもいい。というか、こんな手の込んだことしなくても、この程度の規模の集落なら力押しで、どうとでもなると思う。
とはいえ、エイリアン達も
まぁ、ブッチャーである僕ならいつ死んでも構わないと。お前ちょっと一人で突入して勝手に暴れてこいと。そういう扱いだ。
ゲートが開いた。
門をくぐる男達。
僕も続いた。
中に入れば、道は街灯に照らされて寝静まっていた。遠くで喧噪が聞こえるのは歓楽街だろう。まだ起きている連中もいるけど、子供や老人は寝ている。そんな時間だった。
「――なぁ、エリック。来週ポールの送別会しようぜ」
そう言いながら僕に近づいてくる奴がいる。僕はエリックというらしい。
当然答えられないので、僕はこういう時のお決まりのジェスチャーをする。
「ん? ああ、トイレか。早く行けよ……じゃ、先行ってるわ。また後でな」
股を閉じて腰を引いて片手をかざす。これ万国共通。必ず通じるし、止められない。実際はブッチャーがやっているから絶対面白い絵面になっているはずなんだけど。
脇道に逸れて、路地に入ったところでひと息つく。
はぁ……さて、どうしますか。
一応、プロとして、暴れる時は武器庫から始めることにしている。騒動に驚いて、慌てて武器を取りに殺到した時、そこにブッチャーが待ち構えていたら絶望感あるかなと思って。
というのは冗談で、火薬があれば大きな音を立てられるし、当然敵の戦力を大幅に削ってしまえるからだ。僕も重火器を奪えれば後の殺戮が楽になるから、鉄板と言える。
別案として、司令所を掃討しておくという方法もある。実は先ほどの会話の中で彼らの上司の話を聞いていたから、おおよその場所は分かる。
これからのスケジュールを考えるに当たって、まずは、顔にくっつけたエリックの皮を指で触ってみる。
……うーん、もうそろそろ駄目かも。不摂生だな、エリック。
この能力のもうひとつの欠点は、被った皮の鮮度が落ちてくると偽装の効果がなくなってくるということだ。だから定期的に取り替えないといけない。
だいたい二、三時間は効果が続くものだ。でも、このエリックの皮はすごく鮮度が悪かったのか、たった一時間ほどで駄目になった。きっと酒にタバコな奴だったんだ。
武器庫。あるいは司令所。
どちらを狙うにせよ、一度皮を取り替える必要がある。
そうと決まれば善は急げ。適当な家を探して、窓を覗き見しつつ暗い路地を歩く。
家々には、まだ部屋の中に明かりが残っていた。騒がれるのはまずい。だから三人以上で暮らす家庭に押し入るのは駄目。手が足りない。
こういうときは、独り暮らし。あるいは――。
ブッチャーの鼻と耳を駆使して物色を続ける。
僕はついにベストな部屋の、ベストな状況を見つけ、そこに決めた。
アパートメントの二階だ。
廊下に忍び足で侵入し、目星をつけた部屋のドアの前に立つ。
ブッチャーの爪を鍵穴に差し込めば、鍵穴の形など関係なく錠前を破壊できた。
パキン、カチャリ。
ギィィ……。
こっそりとドアを開けて、ブッチャーの巨体を部屋の中に滑り込ませる。
良い塩梅で騒いでいる。これだけ音がすると、ご近所さんも迷惑だろう。もう少し我慢してね。すぐ静かにさせるから。
「――はぁ、はぁ、はぁ、あぁん! もっと! もっとぉ! ――はぁ、はぁ、はぁ、ああ、だめっ! ――あっ! い、くっ! いくッ!」
僕が廊下の闇から奥の部屋を覗き込むと、ベッドの上でギシギシと絡み合っている男女がいた。
「いけッ! ほら! いけよッ! はぁ、はぁ――おら! おらッ!」
「ひぎ――いぐ! いっちゃうぅ! ――いくッ! ――だめぇ! ああぁぁっ……そ、そこぉ! そこっ! あぁん――もっと激しくして! きもちいいのぉ!」
女の喘ぎ声が大きい。
これは都合が良い。この後さらに大きな声が漏れても不自然じゃない。
「そら、いけッ! 旦那の留守中に浮気チンポでいけ! この、ドスケベ不倫女が!」
「んぁあ゛あ゛ッ! ――いぐッ♡ いぎまずぅ♡」
それにしても汚い声だ。アビゲイルを見習ってボイストレーニングした方が良いんじゃないかな、君。
……彼女の声、凄いんだ。僕の理性が溶けるほど。
僕のところにやって来る兵士の女だって、君よりいい啼き声出してくれる。鍛えているからね。
なのに、そんな兵士の犠牲の上で暮らす君たちのような市民といえば、あーでもないこーでもないと口を開けば文句ばっかり……。
ちょっとイライラしてきた。手早く仕事を済ませることにしよう。
「おらっ、どうだ! あの、すかした、野郎と、どっちが良いんだよ! 言ってみろ、おら! 言わなきゃ、イカせて、やらねぇぞ!」
「ああっ! だめ! すきっ……♡ ボルドの浮気チンポ♡ すき♡ スニフのよりずっとおっきくて、男らじいでずぅ♡ だから♡ もっとぉ♡ んぎぃ♡」
音もなく移動してベッドの脇に立つ。
男の背中に影が落ちた。
「へ……っ、言った……な! じゃあ、今から、お前の、その――」
盛り上がってるところ、ちょっとごめんね。急ぎだから。
覆い被さっていた男の首を後ろから掴み、へし折った。
ペキ……と、小枝を折るような音が立って、ビクビクと男の身体が絶頂したように痙攣した。
すぐに部屋が静かになった。
女がはぁはぁと息を切らしながら、顔を上げた。
「――? ボルド? どうしたの……?」
ボルドと呼ばれた男の身体を持ち上げ、ベッドの脇にゴトリと下ろす。
こいつの顔はこれから使うからキープだ。
すると、女は困惑の表情を浮かべてグッグッとベッドの上を後じさり、「だ、誰っ⁉」と声を上げた。今の僕は、エリックだ。
その問いかけに応えるべく、
すると下から露わになったのは赤い眼球。そげ落ちた鼻。歯茎剥き出しの口。
女には、暗い部屋の中に、瞬時にして醜悪な怪物が現れたように見えたはずだ。
「ひっ――――ぐっ、が……ッ‼」
目を白黒させた女の首を素早く掴んだ。
この女、おっぱいは大きいね。でもなんだか、だらしない身体だ。まったく鍛えられていない。脂肪ばっかって感じ。不味そう。
こういう弱い女は、僕の責めにどれくらい耐えられるんだろう――そんな純粋な疑問が湧いてくる。そしてその結果をもってして、僕の相手をしてくれている女性兵が、こんな女よりもずっと、確かに価値のある素晴らしい女なのだと証明したかった。
でもじっくりレイプしている時間もない。
僕はプロだ。プロは時間厳守。ささっといこう。
暴れる女の首を掴んだまま、足元の男を拾い上げ、二人を引きずって風呂場へ向かった。
こういう粗末な造りの部屋だと水漏れして下の階に迷惑がかかる。そんな凡ミスをして騒ぎを起こしてしまった苦い失敗体験から、風呂場は鉄板の作業場所となった。
シャワーを出し、女を壁に押し付ける。その口に
彼女の片脚を持ち上げ、エプロンをずらすと同時に、ギンッとそそり立った凶暴なブッチャーランスを女の股ぐらに突き刺した。
「~~~~~~~~~~っ⁉」
女の眼球がグルンッと回った。男とのセックス中だったから大丈夫だと思ったけど、キツかったかな? 僕はキツくて嬉しいよ。
身体をビクビクと痙攣させる女を風呂場の床に下ろし、灼熱棒を差し込んだまま次の作業に取り掛かる。
ボルドと呼ばれた男の頭を、まるでペットボトルキャップを外すかのようにパキパキ、ペキペキとねじり切る。
次に、その断面に爪を差し込んでペリペリと丁寧に顔の皮を剥いでいく。
結構難しい作業なんだけど、お肉屋さんの経験が生きている。店長に感謝。
女はようやく何が起こっているのか理解し始めた様子で、恐怖の形相を浮かべ、大声を上げて泣き叫び始めた。もっとも僕の舌に口を塞がれていて、くぐもった声しか出せていない。
「ん゛ん゛ん゛~~~~~~~ッ‼ ん゛ん゛ん゛~~~~~~~ッ‼」
暴れる女を、貫いたまま体重で押し潰して抵抗を制圧する。
「ん゛ぐっん゛⁉ ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛――――‼」
女の目の前で、ボルドの顔の皮を手際よく剥いだ。
すぐにそれを適当にシャワーで洗い流して、自分の顔に貼り付けた。ペタリ。間髪を容れず女の口からズボッと舌を抜く。
――さぁ、どう?
女は叫ぶことも忘れ、僕の顔を
「ボルド……?」
よしよし。成功だ。
他者視点がないと、上手くいっているか分からないんだよね。
満足した僕は、腰を荒っぽく振り始めた。
「――ッ⁉ ぐぅ、あぅっ‼ ボルっ、ド! さっき、あ゛あ゛ッ⁉ なん、でっ、ぐ! ぐる、じ! お゛お゛ぎ、ずぎッ! るぅ⁉ うお゛っ‼ お゛っ⁉ お゛っ⁉ お゛っ⁉」
うんうん。見た目だけボルドで、中身僕だからね。
とりあえず、ここまで来たら僕もムラムラしちゃうから、一発付き合ってよ――。
その後、結局二発ほど名も知らない女の
最後は金切り声をBGMにして女の全てを胃に収めた。
犯し、殺し、食らう。
ドラゴンお嬢様で寸止めされて溜まっていたから凄く夢見心地。久しぶりの贅沢で満足。彼女も彼氏に抱かれながら逝けたのだから、きっと夢見心地だったろう。
よかったよ、君。肉はやっぱり脂っぽくて美味しくなかったけど。
ついでにボルドも美味しくいただいて腹ごしらえをし、シャワーで身体をすすいだら、清潔なタオルまで拝借して身支度を整える。
これにて死体は綺麗さっぱり。血痕もほとんど残っていない。迷宮入り失踪事件の完成だ。
その時ふと、アビゲイルの顔が脳裏を
――ああ、そうだ。美形なエイリアンの皮を被って抱いてあげたら、アビゲイルも喜ぶんじゃないかな。いつもより激しく乱れてくれそう。
美形に巨根。向かうところ敵無しじゃないか。ちょっと
こうしてプロの技を見せた僕は、再び夜の街に出た。
十五分にも満たない、電光石火の早業だった。
今日の仕事は、ジェヴォーダンの獣を名乗っても恥ずかしくない出来映えだったと自負している。