※この作品はR-18です。

屠殺鬼   作:赤だし滑子

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重装機械化歩兵

 襲撃ターゲットは司令所に決めた。

 

 たまたま、浮気現場の家から近かったからだ。

 

 司令所は金属製の柵で囲われていて、門があった。

 

 そこには数名の警備兵が立っていたけど、構わず堂々と近付いていく。

 

 スタスタと道を歩いてきた僕(ボルドの顔)を、警備兵が制止した。

 

 すれ違いざまに彼の頭部を握りつぶす。

 

 潰れたトマトめいた脳漿(のうしょう)が、隣の同僚の服と顔に飛び散った。

 

 突然のことに息を呑んで硬直した同僚を蹴り飛ばした。

 

 彼が身体をくの字に曲げて飛んでいった先は、門の詰め所だった。

 

 詰め所にはもう一名の警備兵がいたけど、声を上げる暇も与えず、踏み込みざまに建物ごとまとめてブッチャーナイフで輪切りにした。

 

 それでも僕の顔はボルドに見えているからか、司令所の玄関を守る警備兵が何かを叫びながら銃を構えて制止の声を上げた。

 

 彼らはすぐに引き金を引くべきだった。

 

 ドッと駆け込んで玄関ドアごとその二人を切り飛ばした。

 

 そこでようやく警報が鳴ったけど、もう遅い。

 

 喧騒の中、玄関ホールを突っ切って一目散に走り抜ける。

 

 外から見て確認しておいた、それらしい部屋に猛牛のごとく突撃し、ドアをぶち破ってみれば、中には肥えた男が一人。ベッドの上で幼い少女を数人侍(はべ)らせていた。

 

 男が不機嫌そうに声を上げた。そこには侮(あなど)りがある。きっと僕の顔がボルドだからだ。

 

 人間としての感覚が残っている僕は、兵士が前線で命を張っている中をこうして享楽的に過ごす者どもが我慢ならず、男も少女もまとめて、なます切りにした。

 

 こうしてまんまと敵の中枢を仕留めた僕は、続けて司令所の機能を完全に破壊するべく、美味しそうな少女の脳をひとつだけつまみ食いしてから、男の生首を持って踵(きびす)を返した。

 

 玄関ホールに戻ると、そこでようやく組織立った銃撃が始まった。

 

 隊列を組んで斉射された銃弾が、僕の頭部に張り付いたボルドの皮膚を弾き飛ばした。

 

 下から現れたのはブッチャーの不吉な顔面。彼らの顔が驚愕に歪んで、一瞬銃撃が止んだ。

 

 その隙を狙って、手に持っていた男の生首を隊列に向けて全力投球。砲弾と化した頭部は隊列のど真ん中をぶち抜いた。

 

 ほとんど同時に、その隙間に僕の大兵(だいひょう)な身体をぶちかましてブッチャーナイフをぐるり、水平に一閃。これで玄関ホールは血の海と化した。

 

 落ちていたアサルトライフルを拾い上げて、逃げようとする警備兵の背中を撃ち抜いていく。彼らは突如として出現したブッチャーを前に逃走を選んだ。それは正しい選択だったけど、もう手遅れだ。逃がさない。

 

 こうして司令所を掃除し終えた僕は、女性兵の喉に噛りつき、血を啜(すす)りながら二階の窓から外を確認した。

 

 すでに街中は警報まみれ。

 

 この騒ぎを見たエイリアンの本隊も、突入を開始したことだろう。僕のお仕事はほとんど終わりだ。後は適当に遊びつつ、ご飯を食べながら帰ろうか。

 

 そんな観光プランを練っていた時だった。

 

 道の向こうの暗がりからノシノシ……ガシガシ……と、地面を震わせてこちらに迫る大きな影があった。

 

 〈重装機械化歩兵〉――通称〈リプリー〉だ。

 

 本家エイリアンに挑む例の女性のパワーローダーによく似ていることから、兵士達にそう呼ばれて頼りにされている。

 

 あれは、ちょっとばかり厄介だ。

 

 元々、竜や巨人などの脅威に対抗するために作られた二足歩行型の大型兵器で、要するに、歩く機関砲だ。森だろうが山岳地だろうが市街地だろうが瓦礫の山だろうが展開できる凄いやつだ。

 

 そして奴が背負っている20mm機関砲は、エイリアンの謎防御力をもってしてもさすがに無傷とはいかない。

 

 当然ブッチャーにも有効な対抗手段となる。かなり高価な兵器だ。なんでこんな小さな片田舎にあれが……?

 

 リプリーが立ち止まった。僕を認識したようだ。

 

 上を向いていた二連装機関砲が両肩から下りてくる。

 

 銃口の黒い円が見えた瞬間、僕は走った。

 

 直後、ドドドドドドドッという重いビートに乗せて司令所の二階が木っ端微塵に吹き飛んでいく。

 

 時折混じる曳光(えいこう)弾が光の筋を引いて僕に迫ってくるのが見えた。

 

 僕が反射的にブッチャーナイフを盾にした時と、けたたましい炸裂音が鳴ったのはほとんど同時だった。衝撃で僕の身体が大きく後ろに飛んだ。

 

 ――こういうとき、身体(まと)がでかいと不利だよな!

 

 壁を突き破って司令所の逆側に吹き飛ばされたけど、着地と同時に身体を転がして路地に滑り込み、事なきを得た。

 

 我ながら身軽なブッチャーだ。こんな動きするブッチャーなんていないぞ。もし僕が兵士の時に見かけたら即断で尻尾巻いて逃げるレベルだ。

 

 すでにあのリプリーには僕の存在がバレている。逃げても追ってくるだろう。今日はブッチャーバッグを被ってないし、うっかり背中から撃たれるとちょっと危ない。今ここで始末するしかないな。

 

 路地から顔を出して道を確認する。

 

 ちょうど奥の道の角から姿を出したのは重装機械化歩兵(リプリー)が一機。周囲に随伴(ずいはん)歩兵が四名。支援火器は見当たらない。

 

 歩兵がグレネードを装備しているけど、飛び込んで近接してしまえば同士討ちを恐れて撃てないはず。いけそうだ。やるか。

 

 おもむろに近くの家の玄関柱を引き剥がし、道に躍り出ると同時にそれを綺麗なやり投げフォームでリプリーに向けて投擲。

 

 きりもみ回転を伴って一直線にすっ飛んでいった柱は見事、奴の胴体を捉えた。

 

 ゴァアンッ! という重い金属音を立てて仰け反るリプリー。

 

 その時すでに、僕は地面を蹴って加速していた。

 

 歩兵は無視する。彼らの応射を受けながら、道の上で足を滑らせてリプリーに肉薄。そして身体の回転を乗せたブッチャーナイフでリプリーの足元を薙ぎ払った。

 

 キン……という小気味よい手応えを残して、リプリーの片脚は飛んだ。

 

 機関砲をあさっての方向に撃ちながら、もんどり打って仰向けに倒れ込むリプリー。

 

 その胴体に、薪割りフォームで振りかぶった分厚い鉄塊を、思いっきり打ち下ろす。

 

 ズガォオオオオンッ‼ という音が轟然と夜空に響いた。

 

 街を揺らした小さな地震と爆音の反響が収まった直後にシンッとした静寂が降りた。

 

 僕の手によって叩き切られたリプリーは、黒い油と赤い血液を流して真っ二つに転がっていた。

 

 パラパラと細かな破片や小石が降り注ぐ中で、周囲の随伴兵は銃撃もおろそかに呆気にとられていた。

 

 断面からパチパチッとスパークが散り、油に引火した。

 

 その炎を背景に、ぼーっと突っ立っているだけとなった兵士達を一人、また一人と始末していった。

 

 八十点――背中の機関砲を奪おうと思ったのに、勢いでぶった切ってしまったから。機関砲があればこれからの殺戮が楽だったのに。

 

 20mm機関砲は僕が単独で扱える最大の砲なんだ。ブローバック方式のドラム給弾で、砲単体で持ち運んで撃てる単純さがイイ。これが25mmになってしまうとチェーン駆動(ドライブ)になるから、エンジンかモーター機構が必要になる。

 

 威力も申し分なく、徹甲(てっこう)弾を使えば軽車両やヘリコプター程度なら蜂の巣にできるし、榴弾(りゅうだん)を使えば敵の集団をミンチにもできる。しかも有効射程は一キロメートル以上にも及ぶ。

 

 これがあれば木造建築なんて紙の家。一瞬で更地が出来上がる。ビバ20mm。

 

 そのかわり、重さと反動から、本来であれば生身で扱うなんて到底不可能だ。

 

 でも僕なら撃てる。

 

 そう、ブッチャーならね。

 

 短く嘆息をついて、歩き出す。

 

 珍しく潜入中の僕に指令が飛んできたのは、その時だった。

 

 ――戻れ。防衛しろ。

 

 なに? 防衛? どこを?

 

 一瞬だけ混乱に陥(おちい)ったけど、すぐに弾かれたように走った。

 

 聞くまでもない。エイリアン本隊だ。

 

 まさか反撃を受けているっていうのか?

 

 信じられない。重装機械化歩兵がまだいるのか?

 

 いつもなら放っておくところだけど、今回はまずい――。

 

 本隊にはアビゲイルがいる。

 

 彼女は脆弱(ぜいじゃく)な人間だ。もし機関砲なんて向けられたら、掠(かす)っただけでミンチになってしまう。

 

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