結局、外で肉を焼きながらお話。食べながらお話。食後に近くに生えていた松の葉っぱで
彼女のことが、ちょっと理解できない……。
「――じゃあ、その嬢っていう人とは、その……ご奉仕……を通じて分かり合えている気がすると」
『間違いない』
「そ、そう……」
僕の力強い頷きに、返答に
特に彼女は嬢の事について、あれやこれやと聞いてくる。どうせ一緒に逃げるつもりだからと、僕は彼女のことに関しては、ほぼオープンにすることにした。
そもそも隠すほど知っていることがないし、アビゲイルが彼女について何か情報を持っているかも、という期待もあった。
「――ごめんなさい。身体の特徴だけだと、私の知っているエイリアンの種族とはどれも一致しないわ。似ているのは悪魔族だけど、悪魔族はエイリアン達の中でも強靱な種族だから。そういう仕事はしないと思う」
がっくし。
「それに口から蜘蛛を出すなんて、聞いたことがないわね……」
『あの蜘蛛は街に消えた。アビゲイルの言う通りだった。ありがとう』
そういえば、彼女にその後の
「そう……」
僕の話に、アビゲイルは少し目を細めて考え込んだ。
その横顔に少し疲れが見える。
四日ほど強行軍だったから、僕が抱えて走ったとはいえ、間違いなく疲れているはずだ。
『そろそろ寝た方が良い』
そして僕をお話地獄から解放してください。
「――んん、ふぁ……そうね」
「不寝番はどうしましょっか」
『僕がやる。君は一晩中寝てていい』
「え、でも……ジェヴォーダンは眠らないの?」
『僕は眠らない。たまに、すこしだけぼーっとしていればいいんだ』
「ぼーっと……」
ははーっと感心した顔になってから、アビゲイルは薄いブランケットに
「おやすみなさい、ジェヴォーダン……」
洞穴の中はランタンが灯っていた。僕がそれを消してあげれば、あとは天井の割れ目から薄い月光が落ちてくるだけとなった。途端に、冷たい夜気がその光線を伝い落ちてくるようにも感じられた。
これは……簡易的な寝具がいるな。
アビゲイルを横にしてあげたいし、たぶんあの布だけだと寒い。そう思って彼女に視線を向ければ、彼女はやはりというか、少し震えているようだった。
暗くなると、地面で筆談作戦が使えない……っ!
仕方なく僕は彼女の横に移動し、肩を叩いた。寒くないかと。
「――ちょっと、寒いかな……」
ですよね。地べたの上で、岩に寄りかかってるんだもん。
その場で胡座をかいて、アビゲイルをその上に乗せた。
「――うわっ……ふ、普段から暖かいのね……ありがとう」
普段から? ……ああ、セックスの時は興奮しているから身体が熱いと。まぁ、それもあるけど、僕の基礎体温は高いんだ。デブだからかな。
「ね、ねぇ――」
アビゲイルがおずおずと僕を見上げてきた。
「背中に、当たって……」
当然というか、移動中は禁欲生活だったからギンギンだ……あ、そうだ。
僕はエプロンをずらして自分の逸物をアビゲイルの背中に直接当てた。
――ユタンポ――
「ええ……」
暖かいでしょ。自慢の灼熱棒なんだ。君の金髪が当たって、こそばゆいのがちょっと気持ちいい。
「その……暖かいけど……」
アビゲイルは気になって仕方ないようだ。気持ちは分かるけど、これが一番温かいよ。我ながら惚れ惚れするような変態的発想だけど。
そわそわとアビゲイル。
「――えっと、ん……する?」
する。
と、言いたいところだけど駄目だ。君にはしっかり休んでもらって、明日からまた頑張ってもらわないと。
「そ、そう……」
もじもじ恥ずかしそうに俯いたアビゲイル。
あれ、これって女に恥をかかせたことになる……?
しばらくはそうして落ち着かない様子だったけど、疲れていたのだろう、彼女はすぐに動かなくなった。
しっかりと休んで欲しい。風邪なんてとんでもない。
なにせ、今や僕の命運は彼女にかかっている。
この二人だけの自由時間という幸運は二度と無いと考えるべきだ。ここで結果が出せないと、この先が相当厳しくなる。アビゲイルにはタイムリミットがあるからだ。ずーっとブッチャーの供物のままでいられる女は、いない。
僕と君自身を助ける、最初で最後のチャンスだ。
君は気付いているのだろうか?
君が善意混じりに解放しようとしている獣は、やがて世界の大敵となる底知れない怪物だということを。
僕は腕の中の静かな寝息を聞きながら、洞窟に溜まった闇を睨み付ける仕事に戻った。
「――何でこんなにレトロな見た目なのかしら」
アビゲイルが制御端末を分解しながら、首をかしげて言った。
「ジェヴォーダンも、そう思わない?」
『分かる。古くさい』
「……そうよね!」
一瞬の間があって、アビゲイルが相づちを打った。
彼女、ちょいちょい僕の反応を見てる。
アビゲイルが僕を元人間だと思っているのは間違いないだろう。うっかり文字だって書いてしまった。言い逃れ不可能なレベルで人間の文字。今のだって人間として生活した経験がないと答えられない質問だ。
まぁ、今さらか。
制御端末はすごく古い携帯電話の形をしている。固定電話の子機を、ダンベルと同じくらいの大きさに拡大したやつだ。ただし、スピーカーの代わりにディスプレイがあって、持ち手にはボタンが、わしゃわしゃーっとたくさん付いている。マイク部分は同様にあるようだ。
「んんー……中の構造は分かったけど」
分かったんだ……マジですごいな、この子。
分解を始めたのが今朝。そして今は昼過ぎだ。つまり、たったの半日。
「もう少し詳細に部品を調べたい……こうなると〈
なるほど?
『なにそれ?』
「魔石照合装置は……その前にまず、エイリアンのテクノロジーなんだけど、彼らの特殊な効果を発揮する道具は、大抵なにかしらの結晶―― 〈魔石〉をそのコアに使っているの」
ほうほう。
「魔石はエイリアン達が使う魔法を結晶化したもので、ある特定の効果だけを、誰でも発現させられるようにした道具。こう言うのを私達は〈魔法具〉って呼んでるわ」
ふむふむ。
「魔石照合装置は、人間側がその魔石の中身を解析するために開発した装置ね」
なーるほど。
『魔石照合装置って、どこにあるの?』
「……ジェヴォーダンなら気が付いていたと思うけど、ここに来る途中の山腹に人間の前線拠点があったわよね」
ありました。
遠目に見てカモフラージュされていたけど、たぶん、〈エコーチーム〉の秘密前線拠点だと思う。前回来た時にはなかったから、最近出来たんだ。
コクコクと頷いた僕に、アビゲイルが言う。
「そこを落とせる? 私を連れて行って欲しいの」
……んぇ? いいの?
拠点があることには気付いていたし、たぶん襲えばアビゲイルの作業に役に立つものが手に入るとも思ったけど、絶対に君が反対すると思ったから黙っていたんだけど。
『いいの? 皆殺しだよ?』
それ以外はない。
対峙した連中は老若男女構わず
「構わないわ」
ぴしゃりと言い切ったアビゲイル。
「……あそこはね、ジェヴォーダン。たぶんエコーチームという諜報部の息がかかった工兵隊の秘密前線拠点なの」
まったくもって同意見です。
「私、もうアースピントにはこっぴどくやられているから。諜報部の息がかかった彼らがどうなろうと、もう知らない。……それに、なにがあっても私達が優先よ。私達が生き残るためには多少の犠牲はやむを得ないわ。あなたの装置をそこで調べましょう」
シビアだ。
先日、僕に慈悲深い言葉をかけていた人物とは思えない。
彼女、ちょっと二面性ないかな? これがエリート……。
僕はアビゲイルを連れてすぐに出発した。
日没前には、狙うエコーチームの拠点近くに潜伏できそうだ。