……。
殺すか。
こんなに無防備にブッチャーに近づいちゃって。
こいつ、知らないんだ。
ブッチャーの舌が伸びるってこと――。
ビシュッと音がして、僕の
何が起こったのか分からない、と言った風に目を白黒させているホブゴブリン君。その馬鹿っぽい表情に満足。
間髪を容れず舌に力を込めて、カメレオンさながらに奴を引き付ける。
するとホブゴブリン君が、まるで一本釣りの
そして僕の歯茎むき出しの口が、奴の喉笛に食らいつく形になった。
ブッチャーの咬合力はワニを超えてホホジロザメとためを張る。エイリアンの喉なんて、きりたんぽに齧り付くようなものだ。
ネチャアという音を立てて、何の抵抗もなく喉を食いちぎったのが分かった。
してやったりだ。悲鳴を上げる暇も与えなかった。どうやら僕も、このブッチャーの肉体の使い方に
胸がすく。スーッとした。これでしばらく静かになるだろう。
ビクビクと身体を痙攣させるホブゴブリン君。
見れば、僕の口でつり上げられたまま嬢の背中に射精していたようだ。こういう死に肉薄した状況だと、男は鮭みたいに射精するって、本当だったんだね。
ふふ……それにしてもちょびっとしか出ないな。僕の一回の射精量が牛乳パックに詰まった濃厚な生クリームだとすると、君のはデミタスカップに入った低脂肪乳って感じ。
濃さも、量も、そんなんじゃ駄目だよ。女を酔わせるには弱々しすぎる。
そうだ。これから君のことはデミタス君と呼ぼう。ああ、でももうすぐ死ぬからどうでもいいか。
グッと口に力を入れると、すぐにデミタス君の生き血が喉に流れ込んでくる。
――美味しい。全身が
生暖かくサビ臭い血液が、首の太い
ブッチャーは肉食だ。肉を食うと凄く元気になる。
特に、生きたまま食らうのが一番エクスタシーを感じる。
エイリアン達はその特性を理解しているらしく、普段の僕のご飯はドッグフードのような味のうっすーいカリカリだ。ブッチャーの攻撃性を抑えているのだろう。まったくもって家畜扱い。僕の不満は溜まる一方。
久しぶりの血だ。ゴクゴクと喉を鳴らして飲む。
すると下腹部に沸き立つマグマのごとき性欲が集中していくのが分かった。
その感覚に引き寄せられて視線を下に移すと、頭から血を被った嬢が床にへたり込んで、唖然と僕を見上げていた。
……しまった。ちょっと怒りのせいで彼女の存在を忘れかけていた。
ブッチャーはこうやってカッとなると、何をしでかすか分からないところがある。その肉体をコントロールする僕ですら手に負えない、瞬間的な衝動だ。
怖いだろうに。でも君を食べるつもりはないから、あっちに行ってなさいとも言えない。困った。
僕がデミタス君の血をチューチュー吸いながら考えを巡らせていると、何を思ったのか、はっと息を飲んだ嬢が慌てた様子で僕の灼熱棒を手に取った。
それは僕が生き血にありついているせいで、当社比二倍くらいで熱くなっている。彼女は火傷が怖いのか、子犬のようにペロペロと恐る恐る舌を這わせた。
でも嬢は、やがてそうやって丹念に張り詰めた僕の獣芯を舐め尽くすと、すぐにいつものように喉の奥まで使って
この子、プロ意識すごいな。この状況で続行するのか……脱帽。
そうやって敬意に満ちた視線を嬢に送っていると、彼女は僕を咥え込んだまま潤んだ目になって見上げてきた。
媚びるような、あるいは、ねだるような視線。
そんなに怖かったのか。ごめんね。
ひょっとすると、僕を満足させ続ければ食べられないと思ったのかも知れない。
首から荒々しく生き血をすする僕に、熱い眼差しを送りながら懸命になって口唇奉仕する彼女。そんな背徳的な状況が、僕のリビドーを否応なく高めた。
――もう我慢できない。
腹の底で沸き立っていた欲望を、思いっきり彼女の口にぶちまけた。
ずっと飲ませたかっただけに、喜びもひとしお。腰に留まらず、首筋に至るまで快感が痺れとなって駆け巡る。
血液を飲んだことで濃縮された獣の精が、激流となって吐き出されていった。
彼女はそれを一身に受け止めて飲んだ。監視の目がない中で、一滴も零すまいと、目を閉じてコクコクと必死に
僕が血を飲んで、汚れた血をこの呪われた身体で
そんな機能美みちあふれるシステマチックかつ官能的な構図が、暗く冷たい独房の中で成立していた。
ここは僕が作り上げた小さな失楽園。
僕が血をすする音と、彼女が精を飲む音しか存在しない。
――野獣。
自分を評するのであれば、そのひと言だろう。
犯し、殺し、食らう。
それしかない。
しかもその恐怖を、あらゆる生命体に押し付けられる力が、実際に僕にはある。
世界の手には負えない、正真正銘の怪物だ。
でも僕の精神はまだ人間だ。正常なんだ。だから復讐する権利がある。気が狂ってしまえば、それは復讐ではない。ただの殺戮だ。
僕はいずれ闇に紛れ、
一人一人確実に、かつ迅速に。そして一人残らず。この醜悪な肉体で絶望を与えながら。あえて抵抗させて、それを力で踏み潰す。心躍る瞬間。それを見届けて、僕はこの分厚い肉の中で
そしてそれは僕が満足するまでやめない――。
ふと、僕の脳裏に閃くワードがあった。
ジェヴォーダンの獣。
かつて中世フランスで殺戮を繰り返し、
昔、そんな話を聞いた気がする。
なんだか、凄くテンションの上がる名前だ。
人々を恐怖に
僕もあれになろう。神に変わってクズどもに天罰を下すのだ。
――悪いことをするとジェヴォーダンが来るぞ――
なぜだろう。すごくしっくり来る。
決めたっ!
僕は、ジェヴォーダンと名乗るッ!
ジ ェ ヴ ォ ー ダ ン ‼
素晴らしい響きだ! 今すぐこの嬢にお披露目聞かせたいッ!
これは僕だけの秘密! 彼女になら打ち明けてもいい‼
気が付くと、歓喜の唸り声が独房を恐ろしげに揺らしていた。
高揚感に喉を鳴らしながら視線を落とす。
嬢は夢中になって僕にむしゃぶり付いていた。
僕は言葉を
彼女の言葉も、理解することはできない。
寂しい。
……ところで脳味噌も食べたいんだけど、手伝ってくれないかなぁ。
舌だけだと、首の骨を支えることしかできない。丸みを帯びた頭に齧り付くのは、ちょっと難しそうだ。でもその要求を彼女に伝える手段がなかった。僕は彼女の奉仕に満足するしかない。
こういうときに会話ができないと、やっぱり不便だ。何とかコミュニケーションを取る手段はないものかと、思い悩む。
結局、デミタス君が干上がるまで、僕らは
嬢は、ついには目を回して床に倒れ込んでしまった。あらゆる体液で汚れ切った彼女の満足げな横顔に
嬢が僕のザーメンをたらふく飲んだことはバレないで欲しい。
もし、それが原因で彼女がここから去ってしまったならば、その時は――。
その時こそが、僕が反撃の
獰猛に喉を鳴らした僕は、口の中の